カリスマ
翌日、いやな気持のまま登校した。
道中の馬上では、ジルバルド様がいつも通りに振る舞っていれば大丈夫と慰められて。
いつも通り、正門前で彼の白馬から降ろしてもらい、帰宅するジルバルド様の背を見送るとそこへ。
たくさんの人々に囲まれた、アオイさんがやってきた。
いつもの様に挨拶をするだけだ、と心を揮って挨拶をする。
「おはようございます、聖女アオイ様。」
すると、わざとらしく肩を震わせてわたくしを見やり、小さく挨拶を返してくれた。
周りの人もそこそこに挨拶を返してくれるが。同級生たちだけはわたくしを睨んでフンと無視をした。
何とも、挨拶もしないとは幼稚なことだと飽きれてしまう。
クラスにつくと、お友達が駆け寄ってきて昨日のことが噂になっているのだと聞かされた。
わたくしがアオイさんをいじめていると。
もちろんお友達はそのようなことはないと、否定してまわってくれたというが、興味をもっていやらしい目でみられることも多くなったのは事実だ。
「はあ、なんでこんなことになるのかしら。」
「ルルちゃんは何もしてないよおー、私は信じてる!だってとっても優しい子だって知ってるもん!」
そういって、伯爵令嬢が昨日のように抱きしめてくる。それをみて他のお友達もとっかえひっかえわたくしを抱きしめてかわいがる。たまに小動物のような扱いなのでは?と彼女らを疑うが、このように心から親しくできるお友達がいて幸せだと思っている。
「おい、ルル嬢がぼさぼさになってるぞ。ははは!」
と隣の席にすわるディルバルド様が笑ってきた。
お友達にもみくちゃにされて、自慢のツインテールが左右で高さが違う。
さっと、彼はやってきてわたくしの髪をほどいてきれいに直してくれた。
意外と女性の髪を扱うのが上手なのである。幼少から付き合いのある私達は、みんなディルバルド様に髪型を結ってもらったりと遊んだ経験があるので、これもいつもの光景なのだ。
その光景を驚きと憎しみを込めて人の輪の隙間から見るアオイさんと、なぜだか目が合ってしまった。
目が笑ってない、淀んだ瞳で何とも恐ろしく、すぐに目線をはずしてしまった。
次に見たときは人々と楽しく会話を楽しむ彼女がそこにはいた。
そして一日が終わり、また聖女さま~!とやってきた人々に取り囲まれたアオイさんを横目に私は帰宅の準備をしていた。
ふと、顔をあげると、なんの感情もよみとれないアオイさんが目の前にたっていた。
「ねえ、ルルさん、私あなたともっとお話しして打ち解けたいと思うの。これから少しご一緒できないかしら?」
周りにいた聖女を慕う人々は、おおとかお優しいとかなどといい感動している。
アオイさんがわたくしと仲良くしたい?なぜ・・・と訝しかって驚いているとどこからか、
「聖女様がお優しい心で話しがしたいと申しているのだが、なぜルル様はそのように睨んだまま無言なのです?!」
と苛立った声でわたくしを非難しだす同級生がいた。
少々驚いてしまって、言葉もでなかっただけなのだし、目つきが悪いのは仕方ないじゃないか。
「すみません、急にお声をかけていただいたものですから驚いてしまったのです。」
そう、愁傷に言ったつもりなのに、周りからはイラつきの声が聞こえてくる。
「みなさん、わたしのためにそんなにお怒りにならないでください、ね?私はルル様と話しがしたいのです、申し訳ないのですがみなさんは先にお帰りになって?」
そうコテリと首をかしげれば、その可愛さに魅了されたように人々は頬をそめてぽつぽつと帰りはじめた。最後まで残っていた同級生たちは、わたくしにアオイさんをいじめたら許さないぞとかなんとか捨て台詞をはいてどかどかと帰って行った。
「ねえ?ルル様、あなたもしかして転生者?」
そう、夕闇迫る教室で彼女は驚くことをいいだした。
その秘密は、過去わたくしに従事してくれた侍女にしか話していない。
アオイさんの淀んだ目からは、恐ろしい憎しみが透けて見える。
「い、いいえ?一体、アオイ様は何をおっしゃっているの・・・」
バン!と机をたたくおとに、ビックリして涙がでてくる。怖い。
「嘘よ!ここにきてからちっともイベントが起こらないの。ねえ?あなたが何かシナリオを狂わせたではなくて?」
シナリオ?イベント?わからない言葉だ。
ただ、ここに転生したことには間違いない。
「アオイ様のおっしゃるイベント?というものは何なのです・・・」
彼女は、いつもの可憐なしぐさから一転。何もかも面倒という風にはあとため息をつき、
「私とディルバルド様が結ばれるためのイベントよ!?何?あなたがディルバルド様を惑わしてるのではなくて?同じ人狙いなの??だめよ、あなたの役割は悪役令嬢なんだから!」
そう捲し立てる。
まただ、悪役令嬢って、何。役割ってなに。
「私とディルバルド様は数々の困難を乗り越え、私との真実の愛を見つけるの!そして二人は結ばれる!」
アオイさんは恍惚の表情で、一人思いにふけっている。その様子はおかしくも恐ろしかった。
意味の分からない状況に、わたくしは震えるばかりで声もだせない。
「ねえ?ルル様、もっと本気で私をいじめてくれないとだめよ?今までのように無理やりあなたを悪役にするのではイベントが進まないようだし、私が困っちゃうのよ、ね?ちゃんと役割を果たして!でないと・・・」
彼女がわたくしの肩を痛いほどにつかんで、私の目を覗き込んでくる。
恐ろしい、怖い!
何がそんなにアオイさんを追い立てているのか?そこまでイベント?ディルバルド様に執着をする訳はいったい何なのだ。
ふっと、アオイさんが私の肩から手を放して少し離れる。
わたくしは冷や汗を流しながら、そのすきに教室から逃げ出した。
遠くになった教室から、アオイさんのまだ話が終わってない!という叫びを聞いた。




