いじわる
あなたが悪役公爵令嬢ルルね・・・
頭でリフレインする謎の言葉。
悪・・・あく?!何なのだ一体。
彼女の突飛な行動に、教壇の先生も呆然としていたが、
「あ、アオイさん。その方は学級委員長のルルさんですよ。今日の放課後にでも学園を案内してもらいなさい。・・・ルルさん、お願いしますね?」
先生はそう、わたくしに頼むと彼女をあいている席へ誘導し、授業を始めた。
一時、廊下にでて行き、口論していたディルバルド様達ももどってきて、いつもの通り座学がはじまるのだった。
授業中、そっと彼女の様子を伺うとディルバルド様を熱い視線で見ている。
クラスメイトは、この可愛らしい容姿の彼女に違和感を持っていなどころか、好意を込めて見つめるものが多かった。おもに男の子たちですが。
昼放課となり、いつものように友人たちとランチを食べに行こうと廊下にでたところで、ディルバルド様たちがこちらに小走りでやってきた。
「ルル嬢、今日は私達もご一緒してよろしいかな?よろしいね?さ、行きましょう。」
なぜか慌てた様子でわたくしたちを追い立て、校舎となりの噴水広場へとやってきた。
結婚してから、公爵家を出て城に住むようになったわたくしはとっても自由に過ごさせてもらっている。
毎日、手弁当を持ってきているのだ。前世で女学生のころも自分で作っていたから、あの頃より裕福な環境になり、憧れた素敵な弁当を作るのが日課となっている。
もちろんじいさん、ジルバルド様の分も作って置いてくる。前世で子供たちにも弁当は作っていたが、キャラクター弁当やそのような華やかさよりボリュームに重きを置いていたのだ。なにせ息子が3人だったので・・・それはさておき。
そうして、わたくしが毎日持参する弁当をお友達が見るや、可愛い!と大好評。
みんな家から各々華やかな弁当をもってくるようになっていた。もちろん彼女たちは各家庭専属シェフが作った弁当だが。
タコやカニ、お花を模したウインナーや甘い卵焼き、小さな肉団子やらおにぎり、サンドイッチ。
可愛くすればするほど、それをみたお友達が大喜びするのだ。彼女たちもかわいいものがすきな15歳という少女にすぎないのだ、とよく思う。
本日飛び入り参加となった、ディルバルド様はウィルに購買で軽食を頼むと、わたくしたちの輪にはいってため息をついた。
「ディルバルド様?一体どうしたのです?いつもなら食堂で山盛りメニューをご注文なさっているでしょう?食欲がないなど、体調がわるいのですか?」
わたくしたちは、幼少より学園で彼と関わってきて知っている。
彼らはその整った容姿に似合わず、大食らいなのだ。午後から彼らは騎士の訓練がある、というのもあるのだが、本当によく食べる。年ごろの男ならそれくら食べるだろう!とじいさんは言うのだけれど。
「ええと、聖女様が・・・」
「?アオイ様がどうかなさったのです?」
お友達と顔を合わせて、わたくしたちは訝しがる。
「聖女様、アオイさんなのだが、どうやら・・・いえ、女性に対してこんな・・・」
そういってディルバルド様は口をもごもごさせて赤面した。
一体何があったのだろうと思って問いただそうと口を開くと、噴水の反対側からなんとも甘ったるい甘える声が聞こえてきた。それを聞いて、一瞬ディルバルド様はビクリと肩を揺らしたのを見た。
「もう~お二人ともどこへ行ってしまわれたのかと思いましたよ!(プンプン☆)わたしといっしょに食堂に行きましょうよ~」
ウィルが購買から帰ってきたようだが、何故かアオイさんが彼の腕に自分の腕を絡めてしなだれかかっている。どうやらディルバルド様とウィルに用事があるようだが。
わたくしたちの輪の後ろで怯えるディルバルド様に、ウィルは口だけ動かして「すみません」と言っているようだった。
「ああ!!ルル・・・さん!どうりで何も起きないと思ったら、こんなところに・・・なんで?!食堂で取り巻きといつもならランチを食べてるところでしょう?」
なんだか、口の悪い子だなあ。取り巻きって誰のことかしら、まさかお友達のことなのかしら、とみんなで顔を合わせる。
小さいころからの付き合いのある、高位爵位の令嬢、最近は色々な方に声をかけているせいか、そうでもない爵位の令嬢や、豪商の娘さんなど、昔のようにおべっかだけの付き合いの人達じゃない、今世でできた大切なお友達だ。
「ええ、この間からわたくしお弁当を作って持ってきてますの。お天気の良い日は大抵ここでみなさんと昼食をとっていますわ。」
「え?!公爵家のお嬢様なのに自分で作ってるの~?やあだ!」
家格によっては、お嬢様は料理などしない、、、世界のようで、こうやって料理をするわたくしに何度も家の者はやめるように進言してきた。手をケガするとかなんとか。
そこで、婚約中だったジルバルド様に仲裁にはいってもらい、ルル嬢の手作りが食べられるなんて嬉しいに決まっているだろう!!!と熱弁を父や母にしまくってもらい両親には折れてもらったのだ。
それはもう熱く熱く語って、さらにカステラなどこの世で一番素敵でうまい!と大褒めしたのだ。恥ずかしい。
前世の記憶のせいか、料理もふつうにやれた。もちろん料理長ほどのメニューは作ったこともないが。
侮蔑のまなざしでいた、アオイさんはウィルの腕から離れると、わたくしの弁当を覗き込んだ。
「!!・・・・・・。ええ?ちょっとまって。すごい家事スキルだね!あ、あはは。」
先ほどから、わたくしに対して少し態度が悪いことにお友達が怒りをあらわにしだした。
「ルル様は毎日料理を作っていらっしゃるの、菓子の腕も確かなの。」
「そうよ、先ほどから思っていましたけれど、いくら聖女様でも少々そのような振る舞いはよろしくないと思いますの。」
お友達が意を決して聖女様にモノ申しあげたが、あまりアオイさんは気に留めることもなく、なんとなくバツの悪そうな顔をしてわたくしを見つめた。
?なんだか叱られた子供のようだ。と思っていたが、キッとまた睨まれて。
ツンとすましてわたくしたちの輪から離れて行った。
「なんでイベント通りじゃないのよ・・・あいつもまさか・・・」
そんなつぶやきをしながら校舎のほうへふらふらと歩いて行ってしまった。
「何だったのでしょうね?ディルバルド様とウィルさんに用事があるのかと思ったのに、ルル様に意地悪を言うために来たのかしら?」
「・・・ちょっと怖かったね~。祈りの聖女様なんだか想像していた方とずいぶん・・・ねえ?」
お友達の言う通り、朝楽しみにしていた気分が降下してしまった。
その後ろでディルバルド様達は、ほっと一息ついていたのだった。