怒り
祈りの儀式の時間が刻一刻とせまり、わたくしもアオイ様の着替えを手伝う。
パチリ、と空色の美しい蝶を模した髪飾りをつけてやり、部屋付きの侍女たちが衣装のリボンをふんわりと結ぶ。
先ほどのイスカルの衣装と比べ、とても彼女に似合っていると満足できる。
彼女の可愛らしい容姿に合うよう、ふんわりとしたスカートは妖精の羽を何枚も重ねたようになっており、空色のグラデーションによって飛んで行ってしまいそうなほど軽やかだ。
春の花々をモチーフにした柔らかいレースを袖口に、ピンクゴールドのブレスレットは彼女の髪色とおそろいだ。
編み上げのブーツはリボンで締めて。
どこまでも甘い幼さの残るアオイ様にとっても似合っていた。
「・・・・!すごい、かわいいっです。」
わたくしも侍女たちも、その可愛らしさにほれぼれとする。
さすが、用意したのが可愛いものが大好きな王妃様だ。常々息子しか生まれなかったのを嘆いておいでだったから、ここぞと張り切って用意したのだろう。
お気持ちはわかりますわ~。
支度が終わり、別室で控えていたディルバルド様やってきて、その可憐なアオイ様の姿にくぎ付けになっている。
とことこと、アオイ様は彼に寄って淑女らしくスカートをつまんでお辞儀をするとお礼を述べた。
「ディルバルド様、本日はなんとお礼を言ったらよいのか、、、あれほど非礼と無作法な私を見捨てずお気にかけてくださってありがとうございます。」
彼女は少し涙目でディルバルド様を見上げ、またお辞儀をした。
「っ・・・いや、もう過去のことはいい。あなたの立場もまだ理解が追いついてはいないのだが、気の毒に思う。私にできることなら協力をこれからもしてあげたいと、おもっているから、、、そんなに泣かないで?」
涙をぽろぽろとしだしたアオイ様を見て慌てて侍女が駆け寄って、拭いて化粧を直す。
「さ、少し遅くなってしまったが、またこれからのことはおいおい話し合いをしよう。聖女様、お手を。」
そういって、ディルバルド様がアオイ様をエスコートして儀式の間にむかう。
わたくしは、入口で彼らと別れ、そっと自分の席へ戻った。
じいさんとエリク殿下は、何事かあったのかとわたくしが席を長く外した理由を聞きたがったが、本当のことはエリク殿下の前で言える訳もなく。困ったと思っていると、聖女様が入場される案内が高らかに告げられた。
そっと、エリク殿下の様子を伺うと、真っ黒な瞳がギラギラと輝いて、アオイ様がやってくるのを今かと待ちわびているようだ。
彼の色をまとったアオイ様を思い描いているのだろうか。彼女への執着の闇が深そうだ、と背筋が冷えた。
そして、エリク殿下の瞳に映った彼女は彼の思い通りではなかった。
わたくしは見てしまった。エリク殿下の恐ろしいほどに怒りを。
自身の送った衣装ではないことかと思いきや、その怒りは聖女をエスコートして入場したディルバルド様にむかっている。
アオイ様とディルバルド様は、時々見つめ合って、ふっと笑いあい仲睦まじくもみえる。
入口で別れた後に、何かあったのかしら。
この場にいる、どんな人にも彼らが惹かれ合っている初々しさを肌で感じたことだろう。
アオイ様を連れて、祭壇にいる神殿長の前に歩いて行き、ディルバルド様は王族の席へと離れていく。
神殿長による、この国での祝福が聖女に捧げられた。
聖女アオイは宣言をする。
「いつ、いかなるときも、二人は分かち合い、女神となりて、世界の均衡を保つ・・・」
アオイ様は、世界を創造したという女神を称える歌を歌う。
彼女のソプラノの美しい讃美歌に神殿内の空気が澄み渡る。
歌い終えた彼女は、そっとそのまなこを開き、国王様を見据えた。
美しい金色に瞳が光溢れ、彼女を聖女だと示す。
国王様はその神々しさに飲まれまいと、無言で頷く。
聖女は王族、貴族、諸侯、神殿の人々、ゆっくりと全員を見渡したのち、再び王族の席へ視線をもどし、わたくし達、いや、エリク殿下をその黄金の瞳で射抜き、何かをつぶやいたようにみえた。
ほう、、、と、ため息をもらしていたエリク殿下の顔色が急に怒りに彩られた。
なに?なに?!なにが起こったの?と心配をするも、二人ともこの場で何かを起こすことはしなかった。
再び、エリク殿下をみると、何も感情が読めない顔で聖女を見下ろしていた。
聖女は、再び瞳を閉じると、もとのアオイ様の新緑のようなエメラルドグリーンの瞳にもどっていた。




