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第一章 奴隷のニニギ 出会い

その日は大妖精生活初の倦怠感から始まった。


大妖精となってからは新鮮な体験ばかりだったがこの倦怠感は覚えが有る。二日酔いだ…


忘れたかった感覚ほど忘れることができなかったようだ。


ベッドの冷たさが心地よい。


クッションの無いガチガチな鋼色のベッドでまだ覚醒しきらない頭を抱え、立ち上がった所でこれまた丸く細長いベッドの柱に掴まり…ん?


おかしい。


何かおかしい。


記憶を辿たどってみよう。


ヒスイの森を出てリーゼとルティと別れ、飛翔ダイブで旅に出立。


体から溢れ出る魔力と疲れもせず睡眠も必要の無い体で当ても無く飛び続けた。


どこまでも広がる空、流れる雲、高速道路よりも早く流れて行く眼下の景色。


そして___体に走った衝撃。衝撃………?


そこから記憶が無い。


そして今は____周りを見渡して見ると、薄暗い闇の中に先ほどまで寝転がっていた真新しい鋼色の床が有り、床から俺の頭ほどもある鉄の棒が等間隔で生えているのが見える。その棒を下から目で追って行くと天井はドームの様に丸みを帯びている。どこだここ?

さらに周囲を見渡すが、その小さな肩に掛けていた銀と金のさくらんぼの様な木の実も周囲には見当たらない。唯一の財産と言えるものだったのに。


一通り頭の中で考えを巡らせると、前世の物で一つ見覚えが有った。鉄で出来た、鳥籠とりかご?その内側?


鉄の棒の外をキョロキョロと見渡すと、周囲には巨大な木の板が隙間無く並べられて…いや、これは木箱の内側か?その木の板に僅かに有る隙間から少し光が差し込んでおり、ここが真っ暗にならずに済んでいるのはその光のおかげだと分かる。箱がガタガタと少し揺れているのも、その板と光を眺めている時にようやく気が付いた。


◇◆◇


つまり、ピリムの閉じ込められた鳥籠が木箱の中に納められているのだと結論付けるまでにそれほどの時間はかからず、同時にこの状況への絶望感が込み上げて来た!


「……だ、出せ〜!!出せ出せだせだせ!!どこだよここ!!」


分不相応に太い鉄の棒に両手でしがみ付きながら、何とか鉄の棒が外れないかと揺さぶってみるが、びくともしない。また、ここには魔力が存在せず、ピリムの内に蓄えられていた魔力もほとんど全てが失われてしまっているのを感じる。倦怠感はこの魔力切れから?思えば、聖域では一度も魔力切れなんて起きた事も無いし分からないけども。


そこで、少し遠くから弱々しい男の声が響いて来るのが聞こえた。


『だ…誰かいるんですか?…?やっぱりいない……????』


クエスチョンマークがたくさん付きそうな、今にも消え入る様な声で男の声がまた響いて来る。


「だ、だれって……俺だよ!俺!」 自分で言ってて、誰だよ!怪しいな!とも思う。ワ◯オじゃねーよ。


『え…?やっぱりどこから??しかもキンキン頭に響く…??????』


男の声はどんどんと自信を失っているようで、ガサゴソどんどんかちゃかちゃと周囲を探す物音に掻き消されそうだ。


「ここだよ!どっかの木箱の中だ!助けてくれ!!閉じ込められたんだよ!!俺は何もしてないんだよ〜〜!!」


『え?木箱の中!??そりゃ大変だ!』


そういってあいやしばらく、音が一際大きく近くで聞こえるようになって来た。声の主が必死に探してくれているのだろう、おとなしく救助を待つ事にした。この状況では恨み言の一つも言いたくなるけども。


「くぅ…なんで俺がこんな目に…悪いことはしてないのに……」


『頑張って下さい!すぐ助けます!!……この箱か!!』


ピリムの入った木箱は積み上げられた物の中でもずいぶんと下の方に有ったのだろうか、音がさらに近づき光が強く差し込み始め__そして、丸いドームのような天井の上に見える、木箱の蓋が開いた。内側から見上げるその光景は山での夜間遭難中に捜索ヘリを見つけた様な救世主感が有る。遭難したことないけど。


『……やっぱり、だれもいない?三尾狐ドラニフォックスにでも化かされたのか??』

「違うって!!え〜っっと、箱はこれで合ってるけど!!鉄のカゴ!その箱のカゴの中だよー!!」

『え…?えええ!?あっ、本当だ___って、妖精……さま!!?』


鳥籠が持ち上がり、眩しい光と共に鉄の棒の先に見えてくる人。それは大巨人__いや、俺が小さいからこれぐらいが通常の人間サイズなのだろうか。まだ年若い大巨人?の青年が中のピリムを見つめていた。

青年はどうにか籠は落とさずに済んだようだが、次の瞬間、急に目を閉じ臭い物でも持つように精いっぱいに自分の体から籠を離して遠くに押しやっていた。


「ちょっと!一体どうしたんだよ!魔力で目でもやられたのか!!?俺が目に沁みたならごめん!!」

『………!』


恐る恐る、という感じで青年が目を開けるが、見たくない現実は変わっていなかったようで、こちらに隠す様に少し顔をそむけ渋い顔をした。顔を隠してもその紫の生気オーラがだだ漏れで表情まで想像が付く。

そのままの体勢で、意を決したように話を切り出してくる青年。


『よ、妖精さま、私は貴方に話しかけて良い様な身分では有りません!』

「なんだ、そんなの気にすんなよ!……というか、他に話したくない理由があるだろ?」


生気オーラに黒が混じったのを見て、すかさず問い詰めるピリム。


『……申し訳ありません。本当は故郷の母に止められています。妖精さまは恐ろしい存在で、悪戯いたずらで手足をがれたり、気まぐれに魂を抜かれたり、目を合わせると異形の物に変えられたり…す、すいません!!』

「いやそんなことは無……あるな、やりそうだな!めっちゃやりそうだな!俺はやらないけど!!!…そんなことよりもここは一体何なんだ?俺はどうなったの??答えないと…なんかぐぞ。抜くぞ。」


冗談のつもりだったのだが、青年にはたっぷりと恐怖を植え付けたようだ。

目と口をつぐもうとしていた青年は覚悟を決め、話しかけてくる。


『ここは……馬車の中です。しかし、妖精さまはこんな神秘的なお姿、頭に直接響くこの声…あぁまことに素晴らしい!美しくそれでいて…』


青年の恐怖が混ざったお世辞の最中にもピリムは周囲を見渡し、RPGで見たことの有るような馬車のほろとそこから透ける少し薄暗い日の明かりに照らされて、足元に散乱した武器、木箱、防具、木箱、何かの鎖、鉄の箱……を目に捉えていた。ここの広さは軽トラックの荷台ぐらいはありそうだ。

先ほどからの揺れも合わせて、ここが”荷馬車の荷台”というのはまず間違い無いだろう。足元の武器や木箱は必死に俺を探した為に散らばっているのか?


「そんなもん見りゃわかるよ!誰の馬車でどこに向かってんのってこと!」

『…これは奴隷商人デホバの馬車です。南の領主が代替わりした為開催される”奴隷剣闘士御前試合”の為、隷属郷れいぞくきょうアフラバーグを昨日出発し、戦都せんとバルトフェルトに向かっています。』


うーん、理路整然と情報を出されたが、不穏な単語しか頭に残らないじゃないか!!!


「…ここは奴隷商人の馬車…くそぅ。それに”どれいけんとうしごぜんじあい”だって?それなに?」

『はい、選び抜かれた奴隷たちで競われる剣での殺し合いです。この戦乱の世の新しい領主の就任を血で彩る為に行われる儀式…と言われています。』


物騒の極みじゃねーか!しかもこの世界って戦乱の世だったのかよ!


「そっか。……んであんたみたいなのが選ばれし奴隷?全くそう見えないけども??」


実際、青年は全く強そうには見えなかった。というか、ひょろっとした体型に短めの黒い髪。理系の優しそうな坊ちゃんって感じだ。剣闘士奴隷という言葉とは大きくかけ離れている。ユニクロ着てそう。


『いや、私は違うんです。私は……奴隷の中でも知識奴隷と言われる部類です。今回の御前試合において奴隷や贈答品の管理、金勘定や相談事を旦那さまに任されています。そしてこの馬車は…御前試合における武器と贈答品を積み込んでおり、管理の為に一人だけ一緒に乗り込んでいました。何かあれば私の首が飛びますから…』


ここまで聞いて考えたくも無い可能性だけが残る。


「……つまり俺は”贈答品の一部”…奴隷以下ってか?」

『そう…かもしれません。妖精さまは贈答品の目録に入っておらず、旦那さまには一言も話を伺っておりませんでした。…領主様を驚かそうと思ってこっそりと積荷の下に潜ませておいたのか、あるいは…いやまさかそんな…』


何かを考え始めた青年は一人ごちているようだ。

とにかく、こちらも外に出ないと何が起こるかが分からない。


「なーなー、とにかくここから出してくれない?」

『!!それは出来ません。妖精さまは旦那さまの持ち物で御座いますから…』

「ふーん、じゃあいいや。その代わりにあんたの話を聞かせてよ。」

『……それぐらいでしたら。向こうに着くまでの1日だけで宜しければ…』


交渉成立だ。出してくれるわけが無いならとにかく情報を仕入れよう。


「じゃ、それでいいや。あんた、名前は?」

『ニニギと申します』

「そうか、俺は…ピリム!よろしくな。」


こうして、後にアークランドの歴史に名を残すニニギとピリムは出会った。

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