プロローグ2
前半は説明ですので、読み飛ばして頂いた方がいいかもです。
”俺”は自分が大妖精だと気付いてしまった。
「え、えぇぇえっぇぇぇえ!!!」
本日二度目となる間抜けな叫びを上げ、自分の背に生える羽を右肩越しに凝視する。
え!!?俺が!!?大妖精!!!!?んなバカな。人間から大妖精ってどんなジョブチェンジ??そういえばどこかの迷信で30歳まで女性経験がないと妖精が見えるとか…?え、じゃあ”俺”、前世の記憶ないけど童貞拗らせてたの?英知の童貞だったの?記憶無いのにすごい敗北感!傷つくんですけども!いやいや、そんなワケ…あれか、前世の行いが良かったから大妖精に…そうに決まってる!
いや、そんな事より今からどうするかでしょ!妖精って何するの?何が仕事なの?どうしたらいいの?_____
この時の俺は数十分ほど、テンパって頭を抱えての高速ヘッドバンキングをしていたり、目が泳ぎまくって遠泳をしていたり、地面を叫びながら殴って超人ハ◯ク化したりしていたようだ。(のちにフリアリーゼに聞いて、盛大に悶絶した。)
しかし、目の前に立つ神々しい彼女___ヒスイノカミは全く反応もしない。
表情を崩すどころか、目すら開かず体の前で重ねた手も微動だにしていないのだ。
さぞかし滑稽だろうが、”俺”は自分が人間だと思っていたので動揺しまくっている。というかワケがわからなすぐる。
一通り、暴走と逡巡と焦燥が終わった所を見計らい、ヒスイノカミが話しかけてくる。
『灰色の大妖精よ。私に聞きたい事があるようですね』
先ほどの失態は全てスルーしたくれたようだ。さすが<聖樹>様、器が大きく、懐が深いし、胸がでかい。
そして、その言葉は渡りに船だった。聞きたい事が溢れ返っているのだから。
”俺”は”大妖精”として”<聖樹>ヒスイノカミ”にこれ以上の失礼が無いように、意を決して会話を切り出す。
「…はい。幾つかあります。私は”何者”なのでしょうか?」
『……それは私にも分かり兼ねます。貴方は貴方自身が大妖精であることに戸惑いを感じているようですから。しかし、私から見た姿は、灰色に染まった幼き大妖精です。貴方の目でご覧なさい。』
そういいながらヒスイノカミは少し屈んで”俺”の顔の前に右手を差し出し、綺麗な真円を空中に描く。円を描いた場所にはふよふよと水が浮かんだ。水はさざ波が立つ水面の様にふるふると揺れた後、すぐに平たく広がっていき、その揺れが落ち着いた後には今の”俺”の顔を映し出す水鏡が出来ていた。
俺の顔はやはりというべきか恐ろしく整っている。
年齢は10歳くらいかな?
顔立ちは海外の子役をそのまま小さくした様な感じだ。すっきりとした目鼻立ち、小さく引き締まった口元、バランス良く整った輪郭、その全てがアッシュグレーというべきか灰色のすこし癖っ毛な髪や、黒目がち__いや、灰目がちな瞳と調和し、完璧で完全に完成されている。……まさに『作り物のお人形さんみたい』だ。自分の顔を評価するのにこの言葉が出るのは稀代のナルシストか大妖精だけだろう。とにかく、カッコよすぎて気持ち悪い、言わば、「不気味の森」レベルの男前なのだ。試しに笑ってみると水鏡に映る”そいつ”も笑った為、本当にこれが俺の顔らしい。
そして、試しに鏡越しに見える灰色に透き通った羽を触ろうとすると間違いなく触れる。しかし、自分の意思で動かそうにも羽には全く感覚が無い。どう動かせばいいのかもわからないが、引っ張ると背中の皮が突っ張る感覚も有り、背中側から生えているのも間違いないようだ。
総じて、フリアリーゼと同じ大妖精になってしまっている。
ここで気づいたのだが、体のサイズも変わっているようだ。確かに、俺が覚えている物語の妖精はほとんどが小さかった。落ちている木の葉から目算すると、20センチぐらいしか無いらしい。これで巨大な花や石にも合点がいった。
目の前のヒスイノカミは約60センチってところか。その整った顔も相まって、大きめの西洋人形サイズと言っていいだろう。
もはや、この現実を受け入れるしかないだろうなぁ。
◇◆◇
「そうですか…俺は本当に大妖精に…」
『さあ、大妖精と言えど時間は有限。我が子ではないとは言え、解決しないと前に進めない疑問もあるでしょう?』
その言葉を皮切りに、俺は全ての疑問を聞くことにした。
だが、「人間からの転生者」であると言う事は伝えなかった。俺の知る物語の中では人間に反感を持つ妖精は少なくなかったからだ。目の前の神と言える存在に一瞬で消されても可笑しくない為、用心に用心を重ねる。
まず、この世界の事。
ここは、『アークランド』という世界の『ズィークエンド大陸』の南部の左半分を占める『ヒスイの森』だ。
この世界には魔物や魔法が存在し、俺の知らない言語や文化で成り立つ人間達の王国や、恐ろしい魔物達の王国、亜人達の王国、妖精達の王国などが存在するらしい。
ここ、ヒスイの森にはエルフの小国とこの翡翠族の妖精王国が存在している。
ヒスイノカミにも分からない部分があるが、概ねこうなっているらしい。
人間や魔物の王国は年がら年中、領土戦争をしているが妖精は基本的に不干渉を貫いている。
人間について質問も幾つかしたが好意的でも敵対的でも無いようだ。だが話は濁された。何でも『人づてでなく、自分自身曇り無い目で見ろ』という事だ。
そして、大妖精の事。
大妖精は<聖樹>だけでなく、<聖山>や<聖泉>などの<聖域>の守り神から力を分けられ誕生する。この<聖樹>ヒスイノカミ以外にも<聖山>テンケンや<聖泉>ラブドポープなどが存在するらしく、各々の特色を持った派閥を作る。まぁ、パワースポットに守り神が居て、各々の裁量で生まれさせているという事だ。
性格は争いを好まず、森の奥でエルフの友人として隠居している____が過去の”俺”の認識で有ったが、だいぶ間違っていた。何故なら、エルフに無理やりでも、ついて行き、外の知識と経験を吸収させる。その知識と経験を森に持ち帰り、<聖域>の糧にして聖域の拡張や強化を図るらしい。(ヒスイノカミ曰く、知見の旅というらしい。)
しかし、いかんせん<聖域>外では戦闘力が無く、話す事や脳内に直接響かせる魔法や幻覚を見せる魔法を使う程度しかできない。エルフは護衛らしいがさらに強い者がいれば外に出てお別れということもある。めっちゃドライ、スーパードライ。
ヒスイノカミは常に100体程度を外界で漫遊させているが、数十年に一人が帰って来ればいい方らしい。<聖域>外にはヒスイノカミの力も及ばないので、外で何をしているかはわからないらしい。(ここまで聞いて妖精・エルフセットで森を出た瞬間に人間に捕まって奴隷にさせられてるから帰って来ないんじゃ…とか想像してしまった。)
次に、ヒスイノカミとフリアリーゼの事。
<聖樹>ヒスイノカミは数千年前からこのヒスイの森を収める守り神。フリアリーゼは数百年前に生み出されたヒスイ族55番目の大妖精。旅から戻ったばかりでたまたまヒスイノカミのお付きをしていたらしい。
ヒスイ族はこの森を収める妖精族で有り、大派閥と言えるだろう。能力は水や風の操作と植物全般の育成など。聖域では無敵に近く、反面森を離れると最弱レベル。幻術が少し得意なぐらいらしい。
最後に”俺”の事だ。
まず、この世界では転生は当たり前の概念であると言っておこう。しかし、人から大妖精への転生は例が無く、異世界からの転生も同様だ。”俺”は相当にイレギュラーらしい。
大妖精は魔力を集めて作る。その魔力は元は誰かの大魔法の残渣であったり、聖域の魔力であったり。前者の場合は、何か記憶や特殊な能力を持つ事もあるらしい。
そして、本当は俺の知識を分けて貰おうと保護をしたらしいが、記憶が無いというので困ったそうな。あと、魔法や飛ぶ能力は呼吸みたいなもので忘れるのも本来あり得ない…らしい。
あと、色だ。灰色というのは見た事も聞いた事も無く、力も未知数。一番近い色は<聖黒界>レスティーニアの黒界族という妖精らしいが……
とにかく、全てに於いて異端のはぐれ大妖精というのがヒスイノカミの見解だ。
さて、長い話が終わった。俺には全て新しい知識で、理屈で理解は出来ても体験しないと分からない事も多かった。
最後に一言、ヒスイノカミが言い放つ。
『しばらく、ここで静養なさい。魔法や飛び方を教える大妖精を貴方に付けますので、何か思い出したり、困った事があれば私の元へどうぞ。フリアリーゼには事付けておきます。あぁ、それと我がヒスイの森へ不利益を与えて下さいませんように。心苦しいですが魔力に還す必要が出てしまいます。それさえ守れれば、我らは良き隣人となるでしょう。』
魔法・飛び方の勉強……魅力的な提案だ。魔法を使えるなら、大妖精も悪くないかも知れない。前世の記憶も柵も思い出せないので、そんな簡単に割り切れてしまっているのかな。あるいは、大妖精として考え方も生まれ変わってるのかもしれない。
爆乳の神…でなくヒスイノカミに深く一礼をし終わったところで、後ろの方から隣にフリアリーゼが現れ、畏まった動作で一礼をしていた。大妖精にも綺麗な一礼と言う美徳があるんだなぁ。いや、フリアリーゼが綺麗すぎるだけか。
そして、俺の手を急に握り正面へ立つ。少し口角が上がり、ニコッと笑うと周囲に風が吹き荒れ___
◇◆◇
またもや見た事の無い場所へ移動していた。なんと言うか、ミステリーサークルの中心に村を作ったような…一言で言えば、”妖精の集落”か??しかし、家と言えるようなものは無く、広場に草を器用に編んで作ったベッドや座布団のようなものが乱雑に置かれ、花や綺麗な石(”俺”の頭ぐらいある)をあしらっている。
その広場の中央には、俺の身長の5倍はあろうかという木が生えていた。この木、なんの木、気になる木。
その木は先端に金や銀の実がたわわに実らせ、収穫の時を待っているかのようにきらびやかに主張している。
そして、その木の中腹で、枝に腰掛けた一人の少女が銀の実を頬張りながら俺とフリアリーゼの方に顔を向け、目をぱちくりとした。急いで飲み込もうとむぐむぐと口と喉を動かしているのが見てとれる。
「……ちちちちちち、違うんだから!!」
何が違うんだ。何が。
「…何がですか?エルヴェルティ!!!???」
フリアリーゼが吠えた!というか、叩き付けるような声。表情は一切変わらないから尚更怖い。
「え…え〜っっと……んじゃ!!」
そういうと、大妖精の少女はピューっと逃げ出した。それはもう一目散に。
フリアリーゼは追いかけるか悩んだが、少しため息が出そうな顔をした後に諦めたようだ。
「ふぅ。仕方の無い子ですね。勝手に”知識の実”を食べてしまうとは…」
「さっきの子は誰なんですか?」
「エルヴェルティ。このヒスイの森の最も新しい大妖精です。いたずら好きで、困ったものなんですよ。」
エルヴェルティ。”俺”の考える、「いたずら好きな妖精」らしい姿をした子だったなぁ。
「気をとりなおして、貴方に魔法と飛び方を教えます。休息は必要ですか?」
「いや、早速お願いします。」
「と、その前に…大妖精のルールは………覚えて無いですよね?」
俺の表情で察してくれたようだ。
「ルールは簡単です。世界に過干渉しない。世界の謎を解き明かす。知識と経験を集める。遺物を集める。そして___」
そして?
「治める者を定め、その者の大妖精となります。」
つまり…?
「貴方は、誰か一人の大妖精になり相棒として肌身離さずお支えするようになりますね。例えば、エルフの長の大妖精。例えば、人間の勇者の大妖精。」
なるほど。
「あ、でも基本的に相棒が死ぬまでは離れられないので、よく考えて下さい。エルフの長の大妖精なら200年は軽いですから。それと……」
……200年?ん?なんか嫌な予感が…?
「あと、外で敵対する大妖精の相棒に負けると亜妖精に落ちますので注意して下さい。なので私たちは強力な相棒を探す必要があります。」
亜妖精?
「ゴブリンですね。」
おいおい、相棒探しも命がけじゃねーか。どーすんだこれ。
閲覧ありがとうございました。