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エルフの宿屋

疫病が世界的に大変なことになってますね。

今こそチート能力が欲しい。


前回のあらすじ。

二つ名持ちは伊達じゃない。



 夕暮れ、エルフたちの住むこの森には静謐な空気が流れている。

 魔力の灯りが照らす道を歩き、ベルムートたちはエルゴンの案内でエルフの里の宿屋へと向かっていた。


「花が光ってる?」


 灯りを見たアンリが呟いた。


「それは花の形をした木彫りの灯りですな」


 エルゴンが答えた。


「へー! 花の木彫りなんだ! 本物かと思った!」


 アンリが感心した。


「私もそういう種類の植物かと思ってたわ」


 エミリアも同意した。


「ほんと大した腕よね」


 ローズも称賛した。


 光る花の木彫りは完全に周囲の景色に溶け込んでおり、まったく違和感がない。

 近くで見ると木彫りだとわかるが、生きていると錯覚するほどとても精巧にできている。


「そう言って頂けると作った者たちも喜ぶでしょうな」


 エルゴンが嬉しそうに笑みを浮かべた。


 花が幻想的に光る道は趣きがある。


「どうやって光ってるんだ?」


 ニムリが質問した。


「灯りの魔導具を取り付けておるのじゃ」


 エルゴンが答えた。


「なるほどなー」


 ニムリは、自分ならどうするか考えを練り始めた。


「こういう風に光る本物の花もどこかにありそうだなー」


 ケンジが予想を口にした。


「探せばどこかにあるかもしれませんね」


 ウェンティートが微笑んだ。


(まあ、光る魔樹なら私の自室にあるがな)


 ベルムートは魔王城の自室を思い浮かべた。


 しばらくすると、エルフたちの住居が見えた。


「おおー! ここがエルフの家かー!」


 ケンジが興奮して声を上げた。


「皆木で出来てるね。彫刻がすごくきれい!」


 アンリが楽しそうに言った。


「確かにな。強度はどうなんだ?」


 ニムリが尋ねた。


「建材には、この森の魔力に馴染ませた木材を使用しておるから、見た目より頑丈じゃよ」


 エルゴンが答えた。


「そうなのか」


 ニムリはいい刺激になるようでエルフの家を観察していた。


「あまり井戸が使われていないみたいね」


 エミリアが呟いた。


「基本的には皆水を生み出す魔導具を使っておる。井戸は予備みたいなもんじゃな」


「なるほどね」


 エルゴンの答えに、エミリアは納得した。


 各家庭で夕食の準備をしているらしく、食欲をそそるいい匂いが辺りに漂っている。


 匂いにつられてキョロキョロとケンジとアンリが物珍しげに見回す。

 ローズはアンリに付き合っていろいろと説明している。


 エミリアとニムリも自分たちとは違うエルフの生活様式を興味深く見ている。


 ウェンティートは久しぶりにエルフの里に来たものの、以前と特に大きな変化もないので自然体だ。


 ベルムートはエルフの里の森が訓練施設としてきちんと機能しているかを視ていた。


「ここがお主らの泊まる宿じゃ」


 宿屋の前でエルゴンが言った。

 

「私もこの宿に世話になってるわよ」


 ローズが告げた。


「やった! お母さんと一緒だ!」


 アンリが喜んだ。


「ウェンティートはエルディアの家かの?」


 エルゴンが尋ねた。


「いえ、今回は連れがいるのでやめておきます」


「ほほう……」


 ウェンティートの答えを聞いたエルゴンが面白そうな顔をした。


「まあ、とやかくは言うまいよ。幸せにな」


 エルゴンが意味深な笑みを浮かべた。


「? はい」


 ウェンティートは首を傾げながら頷いた。


「え!? いや、ちょっと違うんですけど!?」


 何か勘違いされている事に気づいたケンジが慌てた。


「ほっほっほっほ、みなまで言わなくてもよい。では、わしはこれで失礼するぞ」


「お爺ちゃん案内ありがとう!」


 アンリがお礼を述べると皆お礼を述べた。


「ちょっ!」


 ひとり慌てるケンジの制止の声も届かず、エルゴンは去って行った。


 ケンジは頭を抱えた。


「どうかしましたか?」


 不思議そうな顔でウェンティートがケンジに声を掛けた。


「……まあいいか」


 ケンジは開き直った。


「ただいま戻ったわよ」


 ローズが宿屋に入って声を上げた。


「あら、おかえり」


 エルフの女将が出迎えた。


「こんばんは!」


 アンリに続いて皆挨拶した。


「こんばんは。あなた達が今日エルフの里に来た人たちね」


「ああ」


 エルフの女将の問いに、ベルムートが頷いた。


「部屋は足りますか?」


 エミリアがエルフの女将に尋ねた。


「団体が来ることもあるから部屋数はあるわ。今は利用する人も少ないし、あなた達の分の部屋くらい用意できるわ」


 エルフの女将が答えた。


「そうですか」


 エミリアは頷いた。


「部屋の準備は終わってるから、部屋割が決まったら教えてね」


 エルフの女将は厨房に下がった。


「私は個室にさせてもらう」


 ベルムートが言った。


「私も個室かしらね」


「あたしも個室かな」


 エミリアとニムリが続いて発言した。


「わたしお母さんと一緒がいい!」


「そうね。久しぶりに一緒に寝るのもいいわね」


「うん!」


 アンリはローズに抱きついて甘えた。


「私はケンジと相部屋で」


 ウェンティートが言った。


「え!? 流石にそれは……」


 ケンジが動揺しながら反対した。


「ケンジは弱いのですから、私が側にいないと。ここは帝国ではないのですから」


 ウェンティートが毅然とした態度で述べた。


「だからって、男女が同じ部屋はないでしょ」


 ケンジはなおも抵抗した。


「野営では男女が同じ場所で寝るのも珍しくありません」


 ウェンティートが帝国軍での行動を引き合いに出した。


「いや、ここ野営地じゃないし」


 ケンジがつっこんだ。


「そうですね。なので、今のうちに慣れておきましょう」


 ウェンティートがさらりと受け流して提案した。


「……もういいよそれで」


 結局ケンジが折れて、ウェンティートとケンジは相部屋になった。


 ベルムートたちは部屋割をエルフの女将に伝えて、支払いも済ませた。

 鍵を受け取り部屋を案内された。


「夕食できてるわよ。食べる?」


「ああ」


「わかったわ」


 エルフの女将に促され、ベルムートたちは食堂で席に着いた。


 出てきたのは、ソーセージと野菜のポトフとパンだった。

 一口食べて、出汁の染みたソーセージと野菜の旨味が口に広がった。


「訓練はいつまで続けるのかしら?」


 ローズが話を切り出した。


「スタンピードまでには帝国に戻りたいですね」


 ウェンティートが発言した。


「なら私たちもそうしよう」


 ベルムートが便乗した。

 それにアンリたちも同意した。


「わかったわ」


 ローズは頷いた。


「ここには鍛えるにはもってこいの場所がたくさんあるから楽しみにしてなさい」


 ローズが笑顔で言った。


「木しかないけど、そんなにいろんな場所があるの?」


 アンリが疑問を投げかけた。


「ああ。ここは巨木で出来た要塞兼訓練施設だからな」


 ベルムートが告げた。


「私も子供の頃に世話になりました」


 ウェンティートが言った。


「そうなんだ。僕のイメージするエルフとは違うなー」


 ケンジは興味深く聞いた。


「そうだ。この里のエルフたちにも協力してもらおうかしら」


 ローズは良い事を思い付いたとばかりに早速考えを纏めた。


 それからベルムートたちは食事と会話を楽しんだ。


「しっかり休んで明日からの訓練に備えとくのよ」


「はーい!」


 食後、ローズは他のエルフたちに話を通しに出掛けた。


 他の皆が部屋に向かう中、ベルムートは宿を出てある場所へと向かっていた。


 そこはエルフの里で最も神聖な場所。


「だいぶ育ったな」


 そこには城に比肩するほどのとても大きな木があった。

 この木は普通の木とは違って癒やしの魔力が宿っている。

 そのため、聖樹と呼ばれている。

 樹齢は200年ほど。

 周りの木よりも大きく育っているが、周りの木よりも樹齢は若い。

 体がすこぶる大きな子どもといったところだ。

 葉は瑞々しく、幹は太く、木全体が英気に満ちている。


 側には墓がひとつある。

 今とは別の聖樹があった場所だ。


「久しぶりだなリリィ」


 そこへ、ベルムートは花を供えた。


「あれからもう200年か。つい昨日のことのようにお前を失ったあの日のことを思い出すよ」


 ベルムートはしばらく目を閉じていた。


「ここにおりましたか」


 ベルムートに声が掛かった。


「どうした?」


 ベルムートは振り返った。

 声を掛けてきたのはエルゴンだった。


「実はお主にお聞きしておきたいことがありましてな」


「なんだ?」


「なぜ人間と行動を共にしているので?」


 エルゴンは緊張した面持ちで尋ねた。


「成り行きだな」


「ほう?」


「安心しろ。お前が心配しているような事は起こっていない」


「なら、よかったですじゃ」


 エルゴンはほっと緊張を解いた。


「ではなぜ魔王城の外に出られているのですかな?」


「魔王の命令でな。勇者を探しているんだ」


「勇者……?」


 エルゴンは首を傾げた。


「正確には強者だな。魔王が遊び相手を欲しているんだ」


「それは大変ですな」


 エルゴンは苦笑した。


「ああ、まったくだ」


 ベルムートはやれやれといった態度で同意した。


「あの子たちが勇者なので?」


「それはまだわからないな」


「なるほど」


 エルゴンは納得した。


「マグノリアはいないのか?」


 ベルムートが尋ねた。


「ええ。ほとんど里の外に出ておりますじゃ。たまに帰って来ますがの」


「そうか」


「いい加減あの子も許してくれておりますじゃろう」


「……だといいがな」


 ベルムートは自嘲した。



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