訓練前の実力査定
前回のあらすじ。
アンリのお母さんと出会った。
「さて、わしはお主らの泊まる宿の手配でもしてくるとしようかの」
「助かる」
エルゴンにベルムートが礼を述べた。
それに続いてアンリたちもお礼を述べた。
エルゴンは笑顔でその場を後にした。
「それじゃ始めるわよ」
一頻りアンリをかまい終えたローズが場を仕切り告げた。
「やるのはそこの5人でいいのよね?」
ローズはベルムート以外の5人を見てベルムートに確認した。
「ああ」
ベルムートは頷いた。
「それじゃ訓練をする前に、まずは各々の力量を見るために模擬戦でもしてもらおうかしら」
「ローズさんとですか?」
エミリアがローズに尋ねた。
「いや私は混ざらないわよ。あなたたち5人でやってもらうわ」
「組分けはどのようにしますか?」
「総当たりでやってもらうから、決めるのは順番ね」
「えっと……それって僕もやらないと駄目なんですかね?」
ケンジがおずおずと発言した。
「当たり前でしよ。これは強さを見るための戦いだからね」
「ですよねー……」
ローズから言われてケンジは「あはは」と乾いた笑い声をこぼした。
「総当たりかぁ……」
ケンジはがっくりと肩を落とした。
ウェンティートはそんなケンジを気の毒そうに見つつもフォローの言葉が出てこなかった。
「魔法の使用は有りですか?」
気を取り直してウェンティートがローズに尋ねた。
「とりあえず魔法はなしでやってもらおうかしら」
「わかりました」
「ああそうそう、回復魔法使いはこちらで用意しておくから多少のケガなら気にしないでね」
ローズは笑みを浮かべた。
ほとんどの者が加減を強いる必要がないことに安堵する中、約1名の男子は盛大に顔を引き攣らせた。
「武器はこれを使いなさい」
ローズは『空間鞄』から様々な木製の武器を取り出した。
「ローズさんも収納する魔法使えるんですね」
ケンジが興味津々に聞いた。
「まあね。冒険には何かと便利だから覚えたのよ」
ローズは笑って答えた。
アンリたち5人はローズが用意した木製の武器からそれぞれの得物を選んだ。
アンリとケンジは木剣。
エミリアは木の細剣。
ニムリは木のグローブ。
ウェンティートは木の大盾を手にした。
各々軽く準備運動や素振りをしてから総当たりの模擬戦が行われた。
結果、ウェンティートが全勝。
エミリアが3勝1敗。
ニムリが2勝2敗。
アンリが1勝3敗。
ケンジは全敗だった。
ウェンティートは盾捌きがかなり上手く、隙がなかった。
守りを崩そうと無理に攻めてくる相手を返り討ちにして勝利を収めた。
エミリアはウェンティートには敗れたものの、剣筋の鋭さは以前よりも増しており、まだまだアンリたちには負けない強さを示した。
ニムリは足技も使うようになり、なかなか善戦していたものの、まだまだ荒削りなため隙が多々見受けられた。
今後の訓練次第ではより強くなることが大いに期待できるだろう。
アンリはケンジ以外には負けてしまったが、フェイントなどの戦いの駆け引きを取り入れ始めており、順調に強くなってきていた。
ケンジはいいところなしで、皆にボコボコにされた。
一番回復魔法のお世話になっていた。
「あなたたち思ってたより筋がいいわね。一人以外は」
ローズは総評してそう言った。
「ケンジは戦う以前の問題ね」
「自覚はあります。今まで戦いとは無縁の生活してたので……」
ローズの言葉にケンジは肩を落として答えた。
「せめて魔法が使えたらなぁ……」
ケンジが呟いた。
「魔法使えないの?」
「はい……」
ローズの質問にケンジは頷いた。
「確かケンジの体質だと普通にやった場合は魔法が発動しないんだったな」
ベルムートが言った。
「魔法使えるようになりたいか?」
「そりゃあ使えるようになりたいですけど……」
ベルムートに聞かれたケンジは答えつつ俯いた。
「なら、私が使えるようにしてやろう」
「え!? 本当ですか!?」
ケンジは顔を上げてベルムートを見た。
「ああ、ちょうどいい暇つぶ……研究内容だからな」
「今、暇つぶしっていいましたよね?」
ジト目でケンジはベルムートを見た。
「まあ、別にいいんですけど。魔法が使えるようになるなら」
「そうだな。過程はどうあれ最終的に魔法が使えるようになれば問題ないな」
「だ、大丈夫なんですよね!? ひどいことしませんよね!?」
「ああ」
「本当かな!?」
疑り深いケンジを宥めつつベルムートは構想を練った。
「お次は魔法を使った戦いを見るわよ」
ローズが告げた。
「また総当たりですか?」
エミリアが尋ねた。
「いや、今度は私が一人ひとり相手をするわ」
そう言ってローズは木剣を手にした。
「ただしケンジは見学ね」
「アッハイ」
ローズに言われてケンジはおとなしく座った。
総当たりの結果を鑑みて、最初の模擬戦はアンリからになった。
ローズとアンリが木剣を構える。
「始め!」
ローズが声を上げた。
「『身体強化』!」
開幕アンリは速攻で魔法を唱えてローズに突撃した。
魔法を使ったアンリは先ほどまでとは比べられないほどに速く力強い。
「おお!?」
ローズはアンリの強さに純粋に驚きつつ防いだ。
「驚いた。まさか『身体強化』を使えるとはね」
ローズは愉しそうな笑みを浮かべた。
アンリが魔法を使ってもなおローズは余裕でアンリの攻撃を捌いている。
「なら私も使っておこうかしらね。『身体強化』!」
「え!?」
ただでさえアンリとローズには力量差のあったところを、さらに魔法まで使用したことで差が大きく広がった。
アンリは動揺し、剣先がブレる。
「しっかりしなさい!」
ローズが叱咤しながらその隙を逃さず木剣を打ち込んだ。
「ぐっ!」
アンリの体が大きく吹き飛ぶ。
地面に倒れたアンリはすぐに立ち上がった。
ローズが手加減したためアンリに目立った外傷はない。
とはいえアンリはそれなりのダメージを負った。
手荒い指摘を受けて動揺から立て直したアンリは、ローズになんとか喰らいつこうと必死に木剣を振るうもまったく歯が立たない。
結果アンリは疲労困憊で倒れ、ローズは涼しい顔で木剣の構えを解いた。
「アンリは戦いの経験が全然足りてないわね。それと勝負の最中に集中を切らしたらダメよ」
ローズはアンリに指摘した。
「はぁ……はぁ……ハイ……」
地面に寝転ぶアンリは息を切らしながらも頷いた。
「さあどんどん行くよ」
その後、他の3人もローズに歯が立たないまま疲労困憊で倒れた。
ニムリとの戦いでは、ニムリが『身体強化』を使い猛攻を仕掛けるもすべてローズに躱し受け流された。
そして、ニムリはローズにリーチの短さに加えて間合い管理が覚束ないことを指摘された。
エミリアとの戦いでは、エミリアの氷魔法はローズの火魔法で相殺され、エミリアが特殊能力『怜悧倍旧』と『身体強化』を併用し、なんとか粘るもローズには届かなかった。
そして、エミリアはローズに剣筋は鋭いが力で押し切られると弱いものの咄嗟の対応力は高いと評価を受け、必殺に賭け過ぎていて遊びがないことを指摘された。
ウェンティートとの戦いでは、ウェンティートが守りを固めるところにローズが攻撃を加え、それをウェンティートが風魔法で迎撃する形になった。しかし、ウェンティートは自身の反応速度を上回る攻撃にさらされたことで守りに徹し攻撃する余裕は失われた。
そして、ウェンティートはローズに守りは堅く、体力もあることを認められたが、人を護るのには余裕が足りないことを指摘され、動的な防御が必要だと指導された。
「だいたいわかったわ」
ローズが呟き辺りを見回した。
疲れて禄に動けない4人と引き攣った顔で心配そうに4人を見るケンジ、そしてまったく動じていないベルムートがいた。
「今日はこれくらいにしておくわ」
魔力も気力も体力もまだまだ十分あるローズはやはり涼しい顔で告げてアンリたちの持っていた武器を回収した。
「明日からが本番よ。楽しみね」
ローズはニカッと笑った。
ベルムート以外の5人は引き攣った笑みを浮かべた。




