戸惑う2人
お久しぶりです。
月の世界でオラクルに抗っていたので遅くなりました。
前回のあらすじ。
ベルムートたちはエルフの里へ行くために帝都を出て森へ入った。
エルフの里を訪れるために森を歩いていたケンジとウェンティートは、蜂型の魔物である体長1mほどのエレクトリックホーネット3体に襲われていた。
耳障りな翅の音をたてて飛びながら2体のエレクトリックホーネットがトゲの生えた尻を前に突き出し、ケンジとウェンティート目掛けてトゲを射出した。
「うわぁっ!?」
これまで何度か魔物に遭遇していたケンジだったが、大きな蜂に驚き、さらに矢の如き速さで脇を掠めたトゲに命の危険を嫌が上にも感じたケンジは、腰が抜けて地面にへたりこんだ。
「ふっ! てや!」
ウェンティートは冷静に自身に迫るトゲは躱しつつ、自身の体を半分ほど覆える大盾を構えてケンジに迫るトゲの進路上へと躍り出た。
魔力の流れた大盾が煌めき、大盾に当たったトゲは多少の丸みを帯びている大盾の表面を滑るようにあらぬ方向へと飛んでいった。
次々にトゲが射出されるが、ウェンティートは動じることなく大盾で全てのトゲを防ぎ切った。
トゲの射出が一旦止んだ所へ、今までお尻のトゲに電気を纏わせることに集中していた3体目のエレクトリックホーネットが帯電したお尻のトゲを突き刺すようにウェンティートに体当たりを仕掛けてきた。
トゲの射出からケンジを守るためにその場から動けなかったウェンティートは、今から躱すのは間に合わなと判断し、エレクトリックホーネットの体当たりに合わせて大盾を真っ向からぶつけた。
「てや!」
大盾と電気を纏ったトゲが激突し、バチバチと放電して辺りがビカビカと照らされた。
「ひぃっ!」
腰を抜かしているケンジは、当たっていないが弾ける電気に恐怖心を煽られ情けない悲鳴をあげた。
魔力が流れて煌めく大盾は、放電を後ろへと通さぬよう電気を四方八方へと分散させている。
ウェンティートはケンジを一瞥してケガがないことを確認した後、すぐさまエレクトリックホーネットへと視線を戻した。
「『風撃』!」
ウェンティートが魔法を唱えると、大盾から出た風の衝撃波がエレクトリックホーネットを弾き跳ばした。
ウェンティートは大盾を持つ手に多少の電気による痺れを感じ少し顔を顰めたが、まだまだ十分戦えることを確かめ臨戦態勢を継続した。
再びトゲをお尻から射出しだした2体のエレクトリックホーネットの攻撃をウェンティートが大盾で防ぐ。
先程弾き跳ばされたエレクトリックホーネットはよろよろと飛び2体のエレクトリックホーネットの元へと合流して再度お尻に電気を溜め始めた。
「少し分が悪いですか……」
今まではケンジは戦えずとも逃げるくらいはできていたが、その場にへたり込んで動けない現状では、ケンジを守りつつ魔力を温存したまま3体のエレクトリックホーネット倒すのは厳しいとウェンティートは感じていた。
「仕方ないですね」
道中の危険が増すが、ウェンティートは全力を出す覚悟を決めた。その時、同時に3人の影がエレクトリックホーネットを背後から襲った。
「やあ!」
「はあっ!」
「おらぁ!」
ウェンティートに意識を集中させていた3体のエレクトリックホーネットたちは、背後からの不意打ちに対応できず、1体は首を切り飛ばされ、もう1体は胴体を貫かれ、最後の1体は地面に叩きつけられ、エレクトリックホーネットは3体とも絶命した。
「やった!」
「ちゃんと倒せたみたいね」
「楽勝だったな」
アンリ、エミリア、ニムリは不意打ちを成功させて沸き立った。
「え?」
「す、すごい……」
呆気に取られるウェンティートとケンジの前に、アンリ、エミリア、ニムリの3人の少女が近づいてきた。
「大丈夫?」
「あ、はい……助力感謝します」
アンリに尋ねられたウェンティートは戸惑いながら答えた。
「あなた、大丈夫? 立てる?」
「え、えーと、その……足に力が入らなくて……」
「わかったわ。手を貸して上げるわ」
「す、すみません……」
ケンジは恐縮そうにエミリアの手を取り、エミリアはケンジを引っ張って立たせた。
「軟弱なやつだなぁ。そんなんじゃすぐに魔物に食われるぞ?」
ニムリはケンジに対して呆れたように言葉を発した。
「ははは……」
何も言えないケンジは苦笑いした。
そこへ、ベルムートも現れた。
「この周辺にはもうさっきのような魔物はいないようだ」
ベルムートは、蜂型の魔物に襲われていた2人のことは飛び出して行ったアンリたちに任せて、念の為他に魔物がいないか周辺を探っていた。
「なら安心だね」
アンリは笑顔で頷いた。
「え、えーと……助けて頂きありがとうございます。私の名はウェンティート。こっちの男性はケンジです」
「ど、どうもケンジです……助けていただきありがとうございます」
さらに人が現れたことにウェンティートとケンジは困惑したが、とりあえずお礼と自己紹介をした。
「どういたしまして! わたしはアンリ!」
「エミリアよ」
「ニムリだ!」
「ベルムートだ」
アンリに続いてベルムートたちも自己紹介をした。
「2人はどうしてこんなところへ?」
「私たちはケンジを鍛えるためにエルフの里へと向かうところだったのです」
「そうなんだ!? 実はわたしたちも鍛えるためにエルフの里に行くところだったんだよ!」
「あなたたちもですか? あそこはあまり余所者を歓迎するような場所ではありませんが……」
アンリと話したウェンティートは怪訝な顔をした。
「その点は心配ない。知り合いがいるからな」
「そうなんですか?」
「ああ」
ベルムートの答えを聞いてもまだウェンティートは怪訝そうな顔つきだったが、それ以上は口を閉ざした。
「ところで提案があるんだが、行き先も同じようだし、エルフの里まで一緒に行かないか?」
「え?」
「それはいい考えだね!」
ベルムートの提案にウェンティートは戸惑い、アンリは賛成した。
「あの、誘っていただくのは構わないんですけど、迷惑ではないですか?」
「いや、そんなことはない。実はこのまま進んで本当にエルフの里へたどり着けるか不安を感じていたところだったんだ。道案内をしてもらえると非常に助かる」
「はぁ……そうなんですか……」
ウェンティートはなんとも言えない顔で気の抜けた返事をした。
「確かに道案内ならできますが、足手まといになりますよ?」
「うっ」
ウェンティートの発言を受けて、ケンジが呻いた。
「大丈夫だ。すでに足手まといならいる」
「ちょっと! それ誰のこと!? もしかしてわたしじゃないよね!?」
「なんだ自覚があるじゃないか」
「もう!」
ベルムートの軽口に、アンリは頬を膨らませた。
「そんなに気にするなって。ベルムートにしたらあたしら皆足手まといみたいなもんだ」
「まあ、そうね。だからあなたたちも気にしなくていいわよ」
「「は、はぁ……」」
ニムリは笑いながらアンリを慰め、エミリアは苦笑し、ウェンティートとケンジは戸惑いを浮かべた。
「わかりました。私たちにとっても悪い話ではないので、ご一緒させてもらいます。ケンジもいいですか?」
「僕も構わないよ」
ウェンティートはベルムートの提案を受け入れ、ケンジも頷いた。
「決まりだな。よろしく頼む」
「はい」
「よろしくお願いします」
ウェンティートは返事をし、ケンジは頭を下げた。
「よろしく!」
「よろしくな!」
「よろしくね」
アンリたちも快くウェンティートとケンジを迎えた。




