二重魔方陣
皆さんお久しぶりです。
投稿期間が開いてしまいすみません。
改稿作業にかなり手間取っていました。
前回のあらすじ。
宿を確保し、冒険者ギルドを訪れた。
マイケルの先導で帝城へ行く道すがら、ベルムートは通りに面した店を眺めていた。
魔導具、武器防具、薬、食堂、酒場、宿屋、食糧品、雑貨、馬や馬車の販売またはレンタルなど、冒険者を対象にしたと思われる店が軒を連ねており、どこも人でごった返していた。
アンリはキョロキョロと辺りを見回し、物珍しさに顔を輝かせた。
エミリアも視線を巡らせて人の多さに目を見張っていた。
ニムリは特に武器関係に目を向けて、品質を見定めていた。
「あれは……」
その中で、気になる物を見つけたベルムートは武器屋に立ち寄り、ひとつの武器を手に取った。
「二重魔方陣か」
その武器は剣身に少し幅のある剣で、剣身の表と裏に別々の魔方陣が刻まれていた。
「お客さん、お目が高い」
武器屋の店主が笑みを浮かべてベルムートに話しかけた。
急に武器屋に立ち寄ったベルムートにつられてアンリたちもやってきた。
マイケルはベルムートたちの邪魔にならないよう少し離れた所で静かに立っている。
「その剣がどうかしたのか?」
ニムリがベルムートに尋ねた。
「この剣は2つの魔法を同時に発動できるようになっているんだ」
「へぇー」
ベルムートが答えると、ニムリは興味を示した。
「それってすごいの?」
「ああ」
アンリが尋ねると、ベルムートは頷いた。
普通に別々の魔方陣を剣身の裏表に描いた場合には、魔力を流した際にお互いの魔方陣が反発し、魔法の効果が弱くなるか、魔法がまともに発動しなくなる。
しかし、この武器に施されている二重魔方陣には、剣身の裏表の魔方陣がパズルのように組合わさることで、2つの異なる魔方陣を同時に発動させることができるような作りになっていた。
これは剣だけでなく、鎧や日用品など幅広く応用が可能だろうとベルムートは考え、この二重魔方陣の考案者に内心で称賛の拍手を送った。
「少し使ってみてもいいか?」
「ええ、どうぞ」
ベルムートが尋ねると、店主は快く許可を出した。
ベルムートたちは店主の案内で、店の裏手にある試し切りのできる場所へと移動した。
「いくぞ」
ベルムートは剣に魔力を流して、魔法を発動させた。
すると、剣の柄から剣先に向かって剣身を炎が包み、剣先から風と共に炎が噴き出した。
「うわっ!」
「おお!」
「すごいわね」
それを見たアンリは驚き、ニムリは興奮し、エミリアは感心した。
「なるほどな」
ベルムートは魔法を止めてひとり頷いた。
「いかがですか?」
店主がベルムートに尋ねた。
「悪くない。ただ、欠点もあるな」
ベルムートが気づいたこの二重魔方陣の欠点とは、燃費の問題だ。
1つの魔方陣を使った時の魔力消費量を1倍とした場合、この二重魔方陣を使うと魔力消費量が2.5倍になっていることをベルムートは自身の魔力の消耗具合から導き出していた。
これは、剣身の裏表の魔方陣を同時に発動させる際に、2つの魔方陣を繋ぐための魔力の流れが生じ、その分ロスが発生しているからだった。
「よ、よくわかりましたね」
ベルムートの返答に、店主は驚きの表情を浮かべた。
「ただ、その欠点を補って余りあるほど有用なのは確かだな」
ベルムートは笑みを浮かべて感心していた。
「そうね……」
ベルムートの話を聞いていたエミリアは王国と帝国の技術力の差に唸った。
「この剣を買わせてもらおう」
「ありがとうございます」
ベルムートは二重魔方陣の剣を買った。
「後であたしにも触らせてくれ」
「いいぞ」
ニムリの頼みを、ベルムートは快諾した。
「よっしゃ!」
ニムリは喜びの声を上げた。
「ずるい! わたしも!」
「ああ、わかった」
頬を膨らませるアンリに、ベルムートは苦笑しつつ頷いた。
「やった!」
アンリは嬉しそうに笑った。
「アンリはあたしの後だからな」
「うん!」
ニムリの言葉にアンリは頷いた。
「寄り道してすまない」
ひと通り満足したベルムートはマイケルに謝った。
「いえいえ。私も勉強になりました」
マイケルは特に気にしていないようで、首を横に振った。
武器屋を後にしたベルムートたちは、帝城へと歩き出した。
少し経つと、帝城が見えてきた。
帝城は分厚い城壁で囲まれており、その上にはバリスタが置かれていた。
質実剛健さを体現した作りの帝城のその周囲には4つの塔が聳え立っていた。
東西南北に1つずつ建てられたその塔の高さは、帝都を囲む外壁よりなお高い。
「あの塔は?」
「あれは監視塔ですよ。空と帝都と外壁の向こうを見るためのものです」
ベルムートが質問すると、マイケルが答えた。
そして、帝城の門が見えた。
「案内はここまでですね」
マイケルが言った。
「そうか」
ベルムートたちは立ち止まった。
「宿までの帰り道はわかりますか?」
「ああ。道は覚えている」
マイケルが聞くと、ベルムートは頷いた。
「わかりました。では、私はこれで」
「ああ、世話になった」
「ありがとう!」
「ありがとうだぜ!」
「ありがとう」
「また何かありましたら声をかけてください」
ベルムートたちのお礼の言葉を聞きマイケルは馬に乗って去っていった。
マイケルと別れたベルムートたちは帝城まで向かった。
帝城の門には全身甲冑の門番がいた。
顔は見えるようになっている。
甲冑には魔方陣が刻まれていた。
「少し話を聞きたいのだが」
ベルムートは門番に話しかけた。
「なんだ?」
門番は訝しげにベルムートに尋ねた。
「勇者について聞きたい」
ベルムートの言葉を聞いた瞬間、門番の顔つきが険しくなり、門番は武器を構えた。
「貴様ら……どこでその話を聞いた?」
門番は低い声でベルムートたちに問いかけた。
門番の反応から、勇者について何か心当たりがあるようだとベルムートは感づいた。
「そのことについて話をしたい。城に入れてもらえないか?」
「ふざけるな!」
ベルムートが話すと、門番が声を荒げた。
「やはり入れてもらえないか」
「当然でしょ。然るべき手続きを踏まないと」
ベルムートの対応と発言に、エミリアが呆れた表情を浮かべた。
「何をしてるんだ?」
するとそこへ、横から声をかける者が現れた。
「バルトルト様!」
門番が過剰に反応し、構えを解いて緊張の面持ちでその男に敬礼をした。
「説明してくれ」
「はっ! この者たちが勇者について聞きたいなどとおかしなことを言ってきたので、問い詰めていたところです!」
「ほう……」
門番の報告を受けたバルトルトの目付きが鋭くなった。
「まあ、いい。そこのお前ら、暇なら付き合ってくれよ」
「バルトルト様!?」
ベルムートたちに話しかけたバルトルトに対して、門番が驚きの声を上げた。
「なあに、ちょっと暇潰しに付き合ってもらうだけだ」
「いや、しかし……」
バルトルトの言葉を聞くも、門番は渋った。
「大丈夫だ。俺に任せておけ。それとも俺のことが信用できないのか?」
「いえ……」
バルトルトの発言に、顔色を悪くした門番は押し黙った。
「で、どうする?」
バルトルトはベルムートたちの方を向いて尋ねた。
「どうする?」
「相手の思惑が読めないわね」
ベルムートが尋ねると、エミリアが答えた。
「あんまり悪い人には見えないけど」
「まあな」
アンリの発言に、ニムリは頷いた。
「なんなら、あんたらの知りたいことを教えてやってもいいぜ」
バルトルトはあっけらかんとそう言った。
「私はあの男の話に乗った方がいいと思っている。何か情報を得られるかもしれないしな」
「そうね。相手にどんな思惑があったとしても、こっちにも得るものはあるはずだものね」
「うん」
「だな」
ベルムートたちの意見がまとまった。
「わかった」
ベルムートはバルトルトの方を向いて頷いた。
「そうこなくっちゃな」
バルトルトはニヤリと笑みを浮かべた。




