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帝都の冒険者ギルド

前回のあらすじ。

帝都についたベルムートたちは、マイケルに宿まで案内してもらうことになった。



 ベルムートたちがマイケルに案内してもらった宿は、建てられてからそれなりに年数が経っているようだった。

 つまり、ここしばらくは建て替えられたことがないということだ。

 もちろんベルムートたちが泊まっている間に建て替えられる可能性はゼロではないが、ここならば帝都に滞在している間は宿を変える心配はそれほどしなくてもいいだろうと思われた。


「いい匂いがする!」


「うまそうな匂いだ!」


 アンリとニムリが声を上げた。


 厩舎もあるし、食堂から外までいい匂いが漂ってきている。

 食事にも期待できそうだ。


「よさそうね」


「ああ」


 エミリアの言葉に、ベルムートは頷いた。


 ベルムートたちが出した条件にぴったりと当てはまる宿だった。


「希望に沿ったようでなによりです」


 マイケルが笑顔で言った。


 ベルムートたちは宿に入って、受付のおばちゃんに部屋が空いていることを確認して受付を済ませた。


「私は冒険者ギルドに行ってみようと思うんだが、おまえたちはどうだ?」


「わたしも行く!」


「あたしも行くぜ!」


 アンリとニムリはベルムートについてくるようだ。


「エミリアはどうする?」


 エミリアは帝都で任務があるが、ベルムートたちはそれに関わらないことになっているため、エミリアとは別行動になるかもしれないと思ったベルムートは念のためエミリアに尋ねた。


「私も行くわ。何か情報を得られるかもしれないし」


「わかった」


 エミリアはベルムートたちと行動を共にするようだ。

 これで、ベルムートたちは帝都の冒険者ギルドに行くことが決まった。


 ベルムートたちが宿を出ると、まだマイケルがいた。


(ちょうどいい、また案内を頼むとしよう)


 ベルムートはマイケルに話しかけることにした。


「冒険者ギルドまで案内してくれないか?」


「かまいませんよ」


「助かる。料金はいくらだ?」


「いえ、お代は結構です」


「ん? なぜだ?」


「サービスです。今後ともご贔屓にということで」


「なるほど」


 マイケルの提案を、ベルムートは受け入れることにした。


 冒険者ギルドまでは近いということで、ベルムートたちは馬を預けて徒歩で行くことにした。

 馬を連れているのはマイケルだけだ。

 ベルムートたちの荷物はほとんど『空間倉庫アイテムボックス』に入れてあるので、手荷物はそれほどない。

 すぐに出発することになった。


 それほど時間もかからずに、ベルムートたちはマイケルの案内で冒険者ギルドについた。


 冒険者ギルドの建物は比較的新しいようで、魔法陣による補強がなされていた。

 建物の大きさはブライゾル王国の王都の冒険者ギルドよりも横に大きく、開けっぱなしの両開きの扉の入口が3つある。


 その内の1つをベルムートたちが覗くと冒険者ギルドの中は人でごったがえしていた。


「なんだこの多さは?」


「こんなにたくさんの冒険者が!?」


「人がすごいいっぱいだ!」


「やっぱこの時期はこうなるかー」


 ベルムートとエミリアとアンリが驚く中、ニムリだけ何かわかっているようだった。


「冒険者が多いのはスタンピードがあるからですよ」


 そんなベルムートたちを見て、マイケルが声を掛けてきた。


「スタンピード?」


「ふーむ?」


 アンリは首を傾げている。

 ベルムートも聞き覚えがない。


「なるほど、そういうことね」


 エミリアは納得したようだ。


 ベルムートとアンリはまだ分かっていない。


「スタンピードとは何だ?」


「なんだ知らなかったのか?」


 ニムリがベルムートを見て不思議そうに言った。


「スタンピードってのは、魔物の繁殖期に縄張りを追われた魔物が帝都に押し寄せてくることを指すんだ」


 ニムリが説明してくれた。


「なるほど、それでこんなに冒険者が集まっているのか」


 ベルムートは納得した。


「あなたがたもそれが目当てでは?」


 マイケルがベルムートたちに尋ねてきた。


「いや、私たちは勇者を探しているんだ」


「勇者ですか?」


「ああ。何か知らないか?」


「そうですね……確度があまり高くない情報ですが、それでもよろしければお教えしてもいいですよ。さすがにこれは、それなりの料金をいただきますが」


 ベルムートはダメ元で聞いてみたが、マイケルは勇者について何か知っているらしい。

 マイケルの宿選びは的確だったので、情報も期待できそうだなとベルムートは思った。


「わかった」


 ベルムートはマイケルにお金を払って情報を聞くことにした。


「では、少し寄って下さい」


 ベルムートはマイケルに手招きされた。

 あまり人には聞かれたくないようだ。

 ベルムートはマイケルに顔を近づけた。

 小声でマイケルが話す。


「少し前に帝城に勇者が現れたという噂を聞きました。ですが、表舞台には出てきていません。今のところはあくまで噂の範疇です。しかし、噂の出所がどうやら帝城で働いている者のようで、無視はできないかと」


「そうか。情報感謝する」


 ベルムートはマイケルにお礼を述べた。


(あくまで噂と言ったが、可能性が少しでもあるなら行って確かめてみる必要があるな)


 ベルムートは思案気な顔をした。


「まあ、まずは冒険者ギルドからだ」


 ベルムートは思考を切り替えた。


「中に入ってみるか」


「私も行く」


 アンリはベルムートについてくるようだ。


「この人の塊に飛びこむのか……」


「ここで待っていてもいいんだぞ?」


「いや! あたしも行く! 仲間外れは嫌だからな!」


 ニムリもベルムートたちと一緒にくるようだ。


「はぐれないようにしないとね」


「そうだな」


 アンリとニムリは手を握ってお互いに離れないようにするようだ。


「そうね……情報を得るためだし、仕方ないわね」


 エミリアはため息をついた。

 エミリアも結論を出したようだ。


 ベルムートたちは冒険者ギルドの中に入った。


 ベルムートがギルドの中を見回すと、柱や壁、天井にも魔法陣が描いてあった。

 ギルドの建物は内側も魔法陣による補強がなされているようだ。


「慌てないで! ギルド職員の誘導に従ってください!」


 ギルド職員が大声で冒険者に呼びかけている。

 人の流れを制御しているようだ。


「あぶぅ!」


「へぶぅ!」


 アンリとニムリはむぎゅっと顔と体を潰されながらもベルムートについてきている。


 ベルムートたちはギルド職員の誘導に従い、人をかき分けて依頼の紙が貼ってあるボードまで来た。


「ぷはぁ! わっ! 依頼がいっぱいだ!」


「ふぃー……おっ! ホントだ! こんなに依頼があるのは初めて見たぜ!」


「ほとんどスタンピードを警戒している商人からの護衛依頼みたいね」


 人混みをなんとか抜けたアンリとニムリが驚き、エミリアが冷静に依頼内容を読み解いている。


「ん?」


 一通り依頼に目を通していたベルムートは、低ランクの依頼がまったくないことに気づいた。

 よく見ると常時依頼でさえランク制限が設けられていた。


 その事について、ベルムートはちょうど近くにいたギルド職員に尋ねた。


「あーそれはですね、よく低ランク冒険者や新人とベテランの諍いが問題になってたんで、建物を分けたんですよ。隣の建物がそうです。ここがCランク以上の冒険者用のギルドで、隣のはDランク以下の冒険者用のギルドで私たちは初心者ギルドって呼んでます。低ランクの依頼は初心者ギルドに集められてます。まあ碌な依頼がないので、低ランクの冒険者はランクが上がるまでは地方で腕を磨く方が多いですね」


「なるほど」


 ベルムートは頷いた。


(ランクで建物を分けているのか。しかし、ランクを分けてもここまで混雑しているとはな……分けていなければどうなっていたか)


 ベルムートはその状況をあまり考えたくはなかった。


 特に受けたい依頼もなかったので、ベルムートたちはギルドの外に出た。

 ベルムートが隣の建物に目を向けると、初心者ギルドがあった。

 あまり目立たずこじんまりとしている。

 言われなければ気づかない。

 しかし、スタンピードが近いからか、それなりに人が集まっているようだ。


「思っていたより、人がいるな」


「小遣い稼ぎの町の人もいるんですよ。スタンピードではいろいろな細かい仕事もありますからね」


「なるほど」


 マイケルの言葉に、ベルムートは頷いた。


「ん? もう案内は十分だが?」


 マイケルはベルムートたちが出てくるのを待っていたようだ。

 あまりにも自然に話しかけられたので、ついベルムートは返答してしまったが、頼んだ仕事はもう済んでいたので、マイケルがここにいる理由がベルムートにはわからなかった。


「帝城まで行かれるのでしょう? 案内しますよ」


「そういうことか……」


 マイケルの言葉を聞いて、ベルムートは理解した。


(私の考えを読まれていたか。商人は侮れないな)


 ベルムートは感心すると共に、警戒を強めた。


「私は帝城まで行くつもりだが、おまえたちはどうする?」


「私も行く! お城見てみたい!」


「あたしも気になるな」


 アンリとニムリはベルムートについてくるようだ。


「私も手掛かりがないし、一緒に行くわ」


「わかった」


 エミリアもベルムートたちについてくるようだ。


「帝城まで案内してくれ」


「かしこまりました」


 ベルムートが頼むと、マイケルは恭しくお辞儀をした。


「料金は?」


「さっきの情報料込みということで」


 ベルムートが聞くと、マイケルはにこやかに告げた。


(つまり、サービスということか。そつがないのに、欲のないやつだ)


 ベルムートはマイケルの振る舞いに呆れたが、悪い気はしなかった。

 そして、ベルムートたちはマイケルに帝城まで案内してもらうことになった。



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