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出立

かなり期間が空いてしまってすみません。

ラクリモサに抗っていたら遅れました。



「なんとか間に合ったな」


 ベルムートはダイヤモンドゴーレムが爆発する直前に『空間隔絶スペイシャルアイソレーション』を発動することで、間一髪アンリたちごと半球状の空間の壁で覆うことができていた。


 凄まじい爆発だったが、空間の壁を破壊するほどの威力はなかったようで、ベルムートたちには爆発の影響はない。


 辺りは完全な暗闇と静寂に包まれている。


 ベルムートは暗くても『暗視ナイトヴィジョン』を使って視界を確保できているが、念のため『光源ライトソース』を使って明かりを確保することにした。


「一体何が……?」


 ベルムートが光の球で辺りを照らすと、エミリアが戸惑いの声を上げながら視線を巡らせた。


「あれ? 師匠?」


 アンリは近くにいたベルムートを見つけて首を傾げている。


「どうなってるんだ……?」


 周りの状況を見たニムリは困惑していた。


 空間の壁の周りは、出口も見えないほど瓦礫に埋もれていた。


 広間は完全に崩れてしまっているようだ。


 もしかしたら地下坑道全体が崩れてしまっているのかもしれない。


 広間の床にあった魔法陣は完全に消失している。

 天井や壁は瓦礫のせいで確認できないが、同じように魔法陣は消失しているだろうとベルムートは考えていた。


 無事なのは空間の壁の中だけだ。


 ただ瓦礫に埋もれているので、空間の壁にかなりの重量が圧し掛かっている。

 魔力的には数時間なら問題ないが、早くここから地上へと出た方がいいだろうとベルムートは判断した。


「とりあえずここを出るぞ」


 ベルムートは皆に声をかけた。


「どうやって? まさか地上までの道を掘るの?」


 エミリアは嫌そうな表情をしながら言った。


 地上までの距離を想像したのだろう。


 ここは地下深くなので、地上に出るには結構掘り進めなければならない。


 ベルムートの魔法を使えば可能だろうが、その方法だと時間がかかるし、掘っている途中でさらなる崩落の危険性があるため、安全は保障できない。


 だが、幸い別の方法でも地上に出られそうだとベルムートは考えていた。


「いや、それは面倒だ。別の方法にしよう」


「できないわけではないのね……それで、別の方法って?」


 ベルムートが否定すると、微妙な顔をしながらエミリアが尋ねた。


「説明するよりも、実際にやった方が早い」


 こうして空間の壁を維持したままだと魔力を消費するので、ベルムートはすぐさま行動に移すことにした。


「……大丈夫なのよね?」


「ああ」


 疑いの眼差しで見つめてくるエミリアに対して、ベルムートは頷いた。


「行くぞ」


「え? 行くって?」


「どこに行くんだ?」


 ベルムートが声を掛けると、アンリとニムリが首を傾げた。


「地上に戻るんだ。『転移テレポーテーション』」


 ベルムートが魔法を唱えた次の瞬間、景色が変わり、ベルムートたちの目の前には馬のシェリーがいた。

 周りには他の馬たちもいる。

 ベルムートたちが目の前に現れたことに驚いて、シェリーがビクッ!と体を大きく震わせた。


「「「え?」」」


 夕暮れ時の宿の厩舎で、アンリたちはポカンと口を開けて呆けた。


「あ! シェリーだ! あれ? でも、さっきまで地下にいたよね?」


 アンリはシェリーがいることに気付いて驚きながらも笑みを浮かべたが、すぐに疑問に思ったようで首を傾げていた。


「な、なにが起こったんだ!?」


 ニムリは驚き戸惑っている。


「まさか……転移魔法!? なんて非常識な!? 魔力がいくらあってもできないわよ!?」


 エミリアは驚きと呆れを滲ませながら叫んだ。


 転移魔法は、自分の魔力の残滓を目印にして転移する魔法だ。


 馬のシェリーはベルムートが自身の魔力を使って召喚した眷属であるため、転移のポイントに設定できた。


 魔王城には魔力を肩代わりしてくれる転移用の魔法陣がベルムートに与えられた執務室に設置してあるので、ベルムートがどこにいてもたいした負担もなくいつでも執務室まで転移可能だが、何の準備もなく転移魔法を使うと、距離に応じて凄まじく魔力を消費してしまうので、ベルムートといえどあまり多用はできない。


 今回はごく短い距離だったので、ベルムートは自力での転移が可能だった。


 それでも、ベルムートは自身を含めて4人も転移させたので、戦闘でも魔力を消耗していたこともあり、ベルムートは自身の持つ魔力をほとんど使いきってしまっていた。


「いつまで固まっているんだ? ギルドに行くぞ」


「あ、うん!」


「お、おう」


「え、ええ」


 ベルムートの言葉に、アンリたちはようやく動き出した。


「まったく……つくづく得体がしれないわね、ベルムートは。それで、地下坑道のことはギルドに報告するの?」


 ぼやきながらエミリアがベルムートに尋ねてきた。


「一応報告しないとな。まあ、多少はぼかすがな」


 すべてを話すつもりはないが、ある程度の情報は伝えておいた方がいいだろうとベルムートは判断した。

 ベルムートは自身の魔法のことや、地下坑道の崩落に巻きこまれたことは伏せておくつもりだった。

 どうやって脱出したのか聞かれても困るからだ。


「わかったわ」


 ベルムートの意図を読み取りエミリアが頷いた。


 幸いにも転移してきたことは宿にいる人達には気づかれなかったようで、ベルムートたちは人目につかないように宿の厩舎を離れて、冒険者ギルドに向かった。


「おかえりなさい……」


 ベルムートたちが冒険者ギルドに着くと、受付嬢のクラーラが声をかけてきた。


「ただいま!」


 アンリが元気よく返事をした。

 クラーラが笑みを浮かべる。


「鉱石の買い取りを頼む」


「わかりました……こちらへどうぞ……」


 ベルムートが用件を伝えると、クラーラはギルドの倉庫まで案内してくれた。


「おう、帰ってきたか」


 ベルムートたちが倉庫に入ると、相変わらず暇そうにしていたデリンがベルムートたちに気づいて声をかけてきた。


「おじさん!」


「お! ニムリも一緒だったのか」


 デリンとニムリが気安い様子で話している。


「なんだ? 知り合いか?」


「実はな、ドリンは俺の弟なんだ。ニムリは俺の姪ってことになるな」


「そうなのか」


 言われてみると、デリンとドリンは見た目や性格が似ている気がしなくもないとベルムートは思った。


「わたしは戻りますね……」


「おう」


 ドリンに一声かけてクラーラは倉庫を出ていった。


「それで、採掘した鉱石はどこに出せばいい?」


「おう、そうだな。そこに出してくれ」


「わかった」


 ベルムートは『空間倉庫アイテムボックス』に仕舞ってあった鉄鉱石を取りだして、倉庫に置いた。


 魔鉄は売らずに持っておく。


「おお! 量が多いな!」


 デリンはベルムートたちが採掘した鉄鉱石の量を見て嬉しそうに声を上げた。


「全部買い取ってもらえるか?」


「需要はあるから大丈夫だ。むしろ、足りないくらいだ」


 ベルムートが聞くと、デリンが笑顔で了承し、デリンは大きな量りに鉄鉱石を載せて重さを量り始めた。


 鉄鉱石ごとの鉄の含有量に差があり、正確に査定するのが難しいので、重さで値段を統一しているようだ。


 すぐに量り終わって、デリンが結果を伝えてきた。


「鉄鉱石が50kgだから、小銀貨4枚と銅貨5枚だな」


「安いな」


 思わずベルムートは呟いた。

 ベルムートたちは結構な量の鉄鉱石を採掘したのだが、あまり報酬は高くなかった。

 これなら、魔物を討伐した方がいい稼ぎになるだろう。

 どうりで冒険者がこの依頼を受けないわけだとベルムートは納得した。


 普通の冒険者はベルムートと違って『空間倉庫アイテムボックス』を持っていないので、重くてかさばる鉄鉱石を一度にそんなに多く採掘できないはずだし、もっと安い値段だったに違いない。

 おまけに、採掘に邪魔なゴーレムまでいたのだから、より面倒だっただろう。

 パーティで山分けすれば、雀の涙ほどしか収入が得られない。

 受けるだけ損だ。


「お、結構稼げたな!」


 しかし、デリンが告げた値段を聞いて、ニムリが嬉しそうに声を上げた。

 今までも採掘依頼を受けていたニムリにとってはそれなりの金額だったようだ。

 まあ、ゴーレム退治が中心だったニムリでは、採掘でこの金額を稼ぐことはできなかったのだろう。


「ゴーレムの魔石の買い取りも頼む」


「わかった」


 ベルムートは『空間倉庫アイテムボックス』からゴーレムの魔石を取りだして、デリンに渡した。


 魔鉄ゴーレムの魔石は売らずに取っておく。


「ゴーレムの魔石が30個だからゴーレムの討伐数も30体とみなすぞ。それで、ゴーレムの討伐報酬が金貨6枚と、魔石の買い取り額が金貨15枚だ。合計で金貨21枚だな」


「そんなに!?」


 デリンの告げた値段を聞いて、アンリが声を上げた。


「やったぜ!」


 ニムリは嬉しそうだ。


「まあまあね」


 エミリアは冷静に呟いた。


 金額は大きいが、皆で4等分するので、実際はそこまで高いわけではないが、いい稼ぎにはなった。


 ベルムートはデリンからお金を受け取り、皆でお金を分けた。


 一人、金貨5枚と小金貨2枚と銀貨6枚と銅貨1枚で、余りの銅貨1枚はベルムートが受け取ることになった。


「ところで、聞きたいことがあるんだが」


 買い取りが終わると、デリンが口を開いた。


「なんだ?」


「鉱山で大きな音がしたが、何かあったのか?」


「ああ、坑道が崩落したんだ」


「そうなのか!?」


 ベルムートが答えると、デリンが驚いた。


 ベルムートは転移してすぐに、一応灰色の鳥の眷属に鉱山を見に行ってもらっていたのだが、地上付近の坑道まで崩落していたようで、領主の騎士たちが慌てていたのが分かっている。


「巻きこまれずにすんでよかったな」


「いや……まあな」


 正直に話すと説明がややこしくなるので、ベルムートは言葉を濁した。


「これでゴーレムも現れなくなるだろう」


「なるほど! ゴーレムは崩落に巻きこまれたってことか! しかし、どうして坑道が崩落したんだ?」


「何か、大きな爆発があったようだ」


「爆発? 誰か確認に向かわせるか」


「そうした方がいいだろう。それと、地下坑道を見つけた」


「本当か?」


「ああ。坑道が崩落したから道は辿れないとは思うがな」


「そうか。それも調べないとな」


 ベルムートの話を聞いて、デリンは今後の動きを考え始めた。


(あ、鉱山の入口から帰らなかったが、大丈夫だろうか? 鉱山にいた領主の騎士に不審に思われているかもしれない。まあ、気にしても仕方ないか)


 ベルムートは考えることをやめた。


「では、これで失礼する」


「おう。情報ありがとな」


 ベルムートたちはギルドを出て、ニムリの実家の鍛冶屋に向かった。


「おお! 無事に帰ったか!」


 ベルムートたちが鍛冶屋に入ると、ドリンが嬉しそうに言葉を発した。


「鉱山の方で大きな音がしたから、何かあったのかと心配したぞ!」


 ドリンが若干安堵しつつ言った。


「その音はたぶん、坑道が崩落した音だな」


「何!? そうなのか!?」


 ベルムートの発言を聞いて、慌ててドリンがニムリを見た。


「心配すんな! ピンピンしてるっての!」


 ニムリは不敵に笑って言った。


「ゴーレムはみんなぺしゃんこだけどな!」


「本当か!?」


「ああ。もうゴーレムが鉱山に出てくることもないだろう」


 おそらく、地下坑道がなくなったことで、もうゴーレムを生み出すことはできないはずだとベルムートは考えていた。


(まあ、直接ゴーレムの作製者が現れれば、またゴーレムが生まれる可能性はあるが)


 そこまではベルムートは関知しない。


「あたしたちにかかれば、ちょちょいのちょいだったぜ」


 ニムリが鼻を高くして言った。


「おう、そうか。あんたたちありがとう。世話になったな」


 ベルムートとニムリの話を聞いて、ドリンがお礼を言った。


「えへへ」


 アンリは照れている。


「私たちも世話になったわ」


 エミリアは言葉を返した。


「ふふん」


 それらを見て、ニムリは得意気な顔をしている。


「これで、ここでの用も済んだな」


「ええそうね」


 ベルムートの言葉に、エミリアが頷いた。


「どっか行くのか?」


「ええ、帝都に行くわ」


 ニムリの質問に、エミリアが答えた。


「え? 魔法を教えてくれる約束は?」


 ニムリがベルムートの方を向いて言ってきた。


(そういえばそんな約束していたな。どうするか。もう少しこの都市に留まるか?)


 ベルムートは考えを巡らせた。


「あ、そうだ! いいこと思いついたぜ!」


 すると、ニムリが何か思いついたようで声を上げた。


「やっぱ魔法は教えてくれなくていいぞ!」


「いいのか?」


「おう!」


 ベルムートが聞くと、ニムリは笑顔で言い切った。


(ニムリが何を考えているのかわからないが、これで本当にこの都市でやることはなくなったな)


 ベルムートはそう判断した。


「そうと決まればさっさとしないとな!」


 それだけ言って、ニムリはそそくさと自分の部屋に戻って行った。


「おい! ニムリ! ったくあいつは……」


 ドリンがニムリを呼び止めたが、ニムリには聞こえていないようでそのままいなくなり、ドリンが呆れていた。


「では、私たちはこれで失礼する」


「おう」


 ベルムートの言葉に、ドリンは一つ頷いた。


「武器直してくれてありがとう! おかげでゴーレムを倒せた!」


「私からも、ありがとうございます」


「ははは! そいつは良かった」


 アンリとエミリアのお礼を聞いて、ドリンは快活に笑った。


 ベルムートたちが鍛冶屋を出ると、すでに日が暮れていた。


「宿に行くか」


「うん」


「そうね」


 ベルムートの言葉に、アンリとエミリアが頷いた。


「なんだか疲れたよ」


「そうね。今日は疲れたわ」


 アンリとエミリアが歩きながら言葉を漏らした。


 アンリとエミリアは、坑道を歩き回って激しい戦闘もこなしたので、相当疲れたようだ。


 ベルムートはそれほど疲れてはいなかったが、魔力を大分消耗してしまったので少し休みたいと考えていた。


 ベルムートたちは宿に戻って夕食を食べた後、すぐに眠りについた。




 次の日。


 ベルムートたちは宿で朝食を食べ終わると、宿を引き上げ厩舎から馬を連れ出して帝都に向かう準備を整えた。


「なんでおまえがここにいるんだ?」


 すると、ベルムートたちがこの都市を出ようとしたところで、ニムリが道の途中で待ち伏せていた。


「あたしも連れて行ってくれよ!」


 どうやらニムリはベルムートたちについてくる気のようだ。


(昨日の思いつきとやらはこれのことか)


 ベルムートは悟った。


「理由は?」


 ベルムートがニムリに尋ねた。


「魔法を教わりたいし、何より面白そうだからな!」


「なるほど。目的がはっきりしているな」


 ベルムートはニムリの素直な言葉に、理解を示した。


「どうする?」


 ベルムートは、アンリとエミリアに聞いた。


「私は賛成!」


「いいんじゃない? 支障はないでしょうし」 


「2人がそう言うのならいいか」


 相談を終えたベルムートはニムリに向き直った。


「別に構わないぞ」


「決まりだな!」


「やった!」


 ベルムートが許可を出すと、ニムリとアンリが喜んだ。


「ニムリは馬に乗れるか?」


「いいや! 乗せてくれ!」


 ベルムートはニムリを自分の馬に乗せた。


「こらぁー! ニムリー!」


 すると、ドリンが声を上げながらベルムートたちの方に駆けてくるのが見えた。


「やべ!」


 ニムリが焦った声を出した。


 どうやらニムリはドリンに黙って出てきたらしい。


「早く行こうぜ!」


「それはどうかと思うぞ」


 ドリンには武器の修理で世話になったので、さすがのベルムートでも不義理はできなかった。


「持っていけ! 餞別だ!」


 すると、側まで来たドリンが手に持っていた皮袋をニムリに投げてきた。


「おっと!」


 ドリンが投げた皮袋をニムリは受け止めた。


 皮袋の中からチャリチャリ音が鳴っている。


 ニムリが皮袋を開けて中を確認すると、中にはお金が入っていた。


 どうやらドリンはニムリを引き止めるわけではなく、送り出すためにここまでやって来たようだ。


「たまには帰って来いよ!」


「わかったよ親父! これありがとな!」


 二ムリは笑顔で皮袋を掲げてドリンに見せた。


「世話になった」


「おう! ニムリをよろしくな!」


 ベルムートが挨拶すると、ドリンが快活に笑いながらベルムートたちに言った。


「よかったな」


「ったく、親父はいちいち大げさなんだよ……」


 ベルムートが声を掛けると、ニムリは恥ずかしそうにしつつも嬉しそうに返事をした。


 新たにニムリを加えたベルムートたちは、都市ドルディグを出て帝都へと向かった。



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