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帝城にて

今回は視点が変わります。


前回のあらすじ。

魔鉄ゴーレムとダイヤモンドゴーレムとベルムートたちは戦った。



「例の実験はどうなっている?」


 メイガルド魔導帝国の帝城の皇帝の執務室で、皇帝アルゴス・メイガルドが問いかけた。


「順調です。選定も済んでいます」


 答えたのは序列3位の魔導騎士ゴルグレーヤだ。

 ゴルグレーヤは全身鎧を着て腕を組んでおり、フルフェイスの兜によって表情を窺い知ることはできないが、言葉にはやるべきことをしっかりと行っているという確たる意志が窺えた。


「それは素晴らしい。ぜひとも、結果を聞かせてほしい」


 帝国で最も優れた魔導士である序列1位のギュンターが、好奇心を隠そうともせずに言った。


 魔導士でありながら、魔道具製作にも力を入れているギュンターも実験結果が気になるようだ。


「わかりました」


 ゴルグレーヤが頷いた。


 この場には3人しかいない。

 当然ながら、この部屋は防諜がしっかりとなされており、誰かに話を聞かれる心配はない。


「様々な金属で魔金属化を試したところ、やはり鉄が一番効率が良いと結論付けました」


「ほう? それはなぜだ?」


 ゴルグレーヤの報告を聞いて、アルゴスが尋ねた。


「まず、自国内の鉄鉱山の数が多いこと。強度が高いにもかかわらず、他の魔金属と比べて魔鉄は加工が容易であることが理由に上げられます」


「なるほど」


 ゴルグレーヤの返答を聞いて、アルゴスが頷いた。


「しかし、他の金属でも十分な成果はあったのだろう?」


 ギュンターが質問した。


「もちろん、時間や手間暇を惜しめば魔鉄に比べてより強力な物になる魔金属もありますが、量産化するにあたっては魔鉄の方が費用対効果が高いでしょう」


「確かに、数が揃わなければ意味がないか」


 ゴルグレーヤの説明を聞いて、ギュンターも納得したようだ。


「そうか。では、そのていで進めてくれ」


「承りました」


 アルゴスの指示に、ゴルグレーヤが頷いた。


 これからゴルグレーヤは魔鉄の量産化に向けて動き出すことになる。


「なら、私は個人的に手間暇かけて強力な魔金属でも作ってみようか」


 ギュンターが何気なく呟いた。


「であれば、後で他の魔金属の実験結果をまとめてご報告しましょうか?」


「おお、それはありがたい!」


 ゴルグレーヤの提案を聞いたギュンターは、結構いい歳して子どものように喜んだ。


「では、量産化に当たって鉄鉱山の場所を押さえておきたいのですが」


 ゴルグレーヤは、アルゴスに向き直って尋ねた。


「わかった。手配しよう」


「ありがとうございます」


 アルゴスの承諾を得て、ゴルグレーヤは一礼した。


「魔鉄の量産化は、今年のスタンピードまでに間に合いそうか?」


 アルゴスはゴルグレーヤに尋ねた。


「それは難しいかと。例年通り、冒険者に依頼をすることが必要でしょう」


「そうか……それは少し残念だな」


 ゴルグレーヤの返答を聞いて、アルゴスは少しだけ肩を落とした。


 帝国では、スタンピードによる被害は毎年大きな問題になっているので、アルゴスはそれを軽減したいと考えていた。


 領土の拡大が上手くいかないのもスタンピードが影響しているので、長年帝国全体の悩みの種となっている。


 そこで、魔鉄を使った武具や魔道具にアルゴスは光明を見出したのだが、そう事が上手く運ぶわけではないと知って、落胆してしまった。


「仕方ない。それにしても、鉱山の地下とはなかなか考えたな」


 気分を切り替えるようにアルゴスが言った。


 魔金属を作るための実験場は、鉱山の地下を掘り進めて鉱物を集めつつ、魔力が溜まりやすいように魔力の流れを誘導するような構造の施設として造られていた。


 それにより、わざわざ他の場所から金属を運ぶ必要がなくなり、その分の労力が省かれたことになる。


 勝手に魔力が施設に溜まってくるので、自動的に魔金属化が進み、いちいち人員を割く必要もない。


 さらに、集めた鉱物はゴーレムにして施設に配置し、溜まってきた魔力を取り込んで魔力が金属に馴染むのを促している。


「木を隠すなら森の中、と言いますからな」


 ギュンターが同意するように言った。


 鉱山の地下に施設を造ったのは、機密保持の観点からみても、地下への入口さえ隠蔽してしまえば機密性が高く侵入しにくいうえに管理もしやすい。


 それに、今回は念を入れてゴーレムによる警備兼目くらましも使っている。


 ここまですれば、多少坑道内の魔力の流れが不自然でも、気付かれることはないだろう。


 とはいえ、本格的に地下施設が稼働することになれば、大々的に公表して国主体のきちんとした事業にするつもりだ。


 通常の坑道に置いてあるゴーレムは引き上げて、ゴーレムによる警備は地下坑道に集中させる。


 そして、今は散り散りになっている鉱夫たちを集め、採掘範囲を指定した上で元の鉱山として活動が再開されることになる。


「それと、実験の過程で宝石にも魔力付与エンチャントができることがわかったのは僥倖だったな」


「はい」


 アルゴスの言葉に、ゴルグレーヤは頷いた。


「私もあれには驚かされた」


 ギュンターがしみじみと言葉を漏らした。


 今まで宝石は身を飾るだけの物だという認識があったが、武器や魔道具にも使えるとあってはその価値が大きく変わる。


「あのダイヤモンドゴーレムは素晴らしい出来栄えだった。宝石を使った芸術品として見ても一級品だろう。ダイヤモンドを融通した甲斐があったな」


「そうですな」


 アルゴスの発言に、ギュンターも同意した。


 実際にゴルグレーヤは魔法陣を込めた魔石を使うことで、光を反射して輝く見た目も美しいダイヤモンドゴーレムを実用化させたのだ。


「その節はありがとうございました」


 ゴルグレーヤは感謝の言葉を口にした。


「性能面は言うことないが、いささか費用がかかりすぎるのが問題ではあるがな」


「はい」


 アルゴスからの懸念に、ゴルグレーヤも頷いた。

 ゴルグレーヤもその点は気にしていたようだ。


「そういえば、勇者殿から聞いたのですが、人工的にダイヤモンドを造る方法があるらしいとのことです」


「何!? 本当か!?」


 ギュンターの発言に、アルゴスが勢いよく食いついた。


「はい」


 ギュンターはそんなアルゴスの様子には動じずに肯定した。


「それは興味深いですな」


 ゴルグレーヤまでもが、話に耳を傾ける姿勢を取った。


「いったいどうやって人工的にダイヤモンドを作るんだ?」


 アルゴスがギュンターに尋ねた。


「勇者殿の話によると、炭素を高温高圧で固めると言っていました」


「炭素? なんだそれは?」


「物質を構成する大元の一つだと言っていましたが、主に炭だそうです」


「炭? そんなものからダイヤモンドができるのか?」


 ギュンターからの話を聞いて、アルゴスは怪訝そうな表情を浮かべた。


「勇者殿の話によると、そうですな」


「なんだバカバカしい。信じられんな」


 期待して損したといった風にアルゴスが言った。


「もちろん鵜呑みにはできませんが、試してみる価値はあるかと」


 しかし、意外にもギュンターは食い下がった。


「ん? どうしてそう思うんだ?」


 これにはアルゴスも不思議そうに尋ねた。


「もし本当にダイヤモンドを人工的に作りだせるなら、大幅な戦力の増強を見込めます」


「確かに」


 ギュンターの発言を受けて、アルゴスにも理解が及んだ。


 もし、人工的にダイヤモンドを作れたならば、ダイヤモンドゴーレムを量産できる可能性もある。


「駄目ならダメでいいのですが、成功すればダイヤモンドを調達する費用をかなり抑えることができるでしょう。なんせ炭ですからね。それに、失敗してもリスクはありません」


「それもそうだな」


 アルゴスはしばし考え込んだ。

 やがて、考えがまとまったアルゴスは口を開いた。


「わかった。許可しよう。ギュンターの主導で進めてくれ」


 もとより期待していないが、やっても損はないとアルゴスは判断した。


「ありがとうございます」


 ギュンターは嬉しそうに一礼した。

 ギュンターにとって、新しい試みは歓迎すべきことだった。


「吾輩も手伝わせてもらおう」


 ゴルグレーヤも話に乗ってきた。


「それは心強いですな」


 これにギュンターは笑顔で承諾した。

 ダイヤモンドゴーレムを作りだしたゴルグレーヤが加わるのであれば、研究も捗るだろうとギュンターは期待したのだ。


「では、今後の――む!?」


 話の途中でゴルグレーヤが急に鋭い声を発した。


「どうした?」


 様子が変わったゴルグレーヤにアルゴスが尋ねた。


「実験場に配置していたダイヤモンドゴーレムが消滅しました」


「なんだと!?」


「何!?」


 ゴルグレーヤの言葉を受けて、声を荒げるアルゴスとギュンター。


 ゴルグレーヤはダイヤモンドゴーレムとの繋がりがあり、それによって消滅を感知したのだ。

 それについては、アルゴスとギュンターも知っていることだった。


「ギュンターでも手こずるようなダイヤモンドゴーレムが消滅しただと?」


 アルゴスは信じられないといった面持ちでゴルグレーヤを見つめた。


「侵入者がいたのか?」


「おそらくは」


 ゴルグレーヤの返答に、ギュンターは険しい表情を浮かべる。


「どうしてダイヤモンドゴーレムは消滅したんだ?」


「詳しい状況はわかりませんが、ダイヤモンドゴーレムは自爆したようです」


「自爆……」


 ゴルグレーヤから話を聞いて、ギュンターは考え込む。


 ダイヤモンドゴーレムには自身が修復不能なまでのダメージを負った際に、存在を秘匿するために、施設ごと自爆するような魔法陣が予めダイヤモンドゴーレムの体内の魔石に刻んであった。


 つまり、侵入者はダイヤモンドゴーレムを追い詰めるほどの手練れだということだ。


「どこの施設だ?」


 実験場がある鉱山はいくつかあり、いずれもダイヤモンドゴーレムが1体置いてある。

 そのすべてをゴルグレーヤは把握し管理していた。


「ドルディグの鉱山です」


「他の場所は問題ないな?」


「今のところは」


 ゴルグレーヤの答えを聞いて、ギュンターは少しだけ胸を撫で下ろした。


 施設には、帝国の関与や他にも施設があることを臭わせるものは何もないため、他の施設が襲撃される心配はない。


「問題は、狙って見つけたのか、たまたま見つけたのかということですな」


「自爆に巻きこまれたのであれば、もはや生きてはいないだろうが、念の為に調べておかなくてはならないな」


「侵入者が、地下坑道の存在を周囲に触れ回ったかもしれませんしな」


「そうだな」


 ギュンターとアルゴスが互いに頷く。


 ダイヤモンドゴーレムが自爆したということは、規模はわからないが目立つはずだ。


 もうすでに、ドルディグにいる人々に施設のことが知れ渡っているかもしれない。


 ドルディグの鉱山もどうなっているかわからない。


 状況がわからないため、調査は必要だ。


「調査はゴルグレーヤに任せる」


「承りました」


「アレの完成までもうすぐなのだ。なるべく早く戻って来い」


「はい」


 ゴルグレーヤは頷き、部屋を出た。


「ギュンターはスタンピードに対応するための準備を進めておいてくれ。人工的にダイヤモンドを作る研究は手が空いたときにでもすればよい」


「わかりました」


 ギュンターは頷き、部屋を出た。


「スタンピードまでに勇者も使い物になるといいが……」


 アルゴスは一人呟き、自分の仕事を片づけ始めた。



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