強力なゴーレム
前回のあらすじ。
扉の先は魔鉄ゴーレムでいっぱいだった。
魔鉄ゴーレムが相手では、普通の魔法は効かない。
物理的に破壊するのはかなり難しいが、何もそんなことをしなくても倒す方法はある。
「『風大球』」
ベルムートは魔法を唱えた。
ベルムートは、自身に迫ってきていた魔鉄ゴーレムを大きな風の球でまとめて吹き飛ばした。
この魔法は、殺傷能力は乏しいが、相手を遠ざけるのに有効だった。
「『引力』」
さらにベルムートは魔法を唱えて、吹き飛ばした魔鉄ゴーレムを一か所に集めた。
発生した重力場によって地面に貼りつけられた魔鉄ゴーレムたちは、立ち上がろうともがいているが、うまく身動きがとれず立ち上がれていない。
「『風大球』」
ベルムートは『引力』の魔法は切らさずに、どんどん魔鉄ゴーレムを吹き飛ばしていった。
その度に、魔鉄ゴーレムが重力場によって地面に貼りつけられていく。
「アンリたちのところに行かせるわけにはいかないのでな」
あらかた魔鉄ゴーレムを集めたところで、ベルムートはまた別の魔法を唱えた。
「『空間隔絶』」
ベルムートは内と外とを隔てる半球状の空間の壁で、自分ごと魔鉄ゴーレムたちを閉じ込めた。
アンリたちは空間の壁の外にいるので、影響はない。
これでもう、魔鉄ゴーレムは広間に溢れていた超高濃度の魔力を取り込むことはできなくなった。
ベルムートが魔鉄ゴーレムと一緒に空間の壁の中にいるのは、魔鉄ゴーレムに直接攻撃するためだ。
「『闇黒渦』」
ベルムートは魔法を唱えた。
真っ黒な闇の渦が、身動きのとれない魔鉄ゴーレムたちの魔力を一気に毟り取った。
空間の壁に隔たれて超高濃度の魔力を吸収することができなくなっていた魔鉄ゴーレムたちは、魔力を一滴残らず搾り取られて、機能を停止した。
「それほどでもなかったな」
ベルムートは少し拍子抜けしつつすべての魔法を解除した。
魔鉄ゴーレムを押さえつけていた重力場と半球状の空間の壁が消えた。
「これで残りはアンリたちと戦っている魔鉄ゴーレムだけか」
そう思い、アンリたちの元へ向かおうとしたとき、ベルムートの背後で音がした。
「む?」
ベルムートが振り向くと、活動を停止したはずの魔鉄ゴーレムたちが再び動き出していた。
「魔石にあった魔力すらも奪って、完全に無力化したはずだが……」
ベルムートが思案している間に、起き上がった魔鉄ゴーレムたちがベルムートに襲い掛かってきた。
ベルムートは魔法を唱えた。
「『防御殻』」
しかし、魔力の障壁は魔鉄ゴーレムの集団に殴られてすぐに破られてしまった。
「攻撃力はかなり高いようだな」
ベルムートは慌てずに次の魔法を唱えた。
「『風大球』」
ベルムートは大きな風の球をぶつけることで、近くにいた魔鉄ゴーレムたちをまとめて吹き飛ばした。
「複数体の魔鉄ゴーレムたちからまとめて魔力を奪ったから倒せなかったのか?」
ベルムートは少々疑問に思うものの、それなら、一体ずつ破壊するだけだと魔法を唱えた。
「『光線』」
ベルムートの手から一直線に伸びた光の筋が、魔鉄ゴーレムを貫いた。
ベルムートは魔力眼を使って魔鉄ゴーレムの魔石の位置をすでに特定していたので、貫通特化の魔法で、魔石を狙い撃ちにした。
胴体に穴を開けられ魔石を破壊された魔鉄ゴーレムは、前のめりに倒れて活動を停止した。
その後も、ベルムートは1体ずつ魔鉄ゴーレムを確実に仕留めていく。
「おかしい……数が減らないな」
そう思ったベルムートが周りをよく見ると、魔石を破壊されて活動を停止したはずの魔鉄ゴーレムが、また動き出していた。
「どういうことだ……? ん?」
今まさに復活しようとしている魔鉄ゴーレムがベルムートの視界に入った。
魔鉄ゴーレムの体内で、魔力が凝縮されている。
「まさか、新たに魔石を生み出しているのか?」
そうベルムートが思ったのと同時に、活動を停止していた魔鉄ゴーレムの体内に魔石が生成されて、再び魔鉄ゴーレムが動き出した。
「どうやら、魔石も作りだせるようだな」
ベルムートは冷静に分析しながらも魔鉄ゴーレムの性能の高さに感心していた。
「超高濃度の魔力があるからこそできる芸当だな」
根こそぎ魔力を奪われたはずの魔鉄ゴーレムたちが活動を再開したのも、この超高濃度の魔力が再び魔鉄ゴーレムに充填されたからだろうとベルムートは考えた。
それとベルムートはもう一つ気づいたことがあった。
魔鉄ゴーレムたちは妙に統制が取れていたのだ。
「どうやら司令塔がいるようだな」
これだけ魔鉄ゴーレムたちが的確に動くのであれば、司令塔は近くにいるはずだとベルムートは考えた。
だが、パッと見では、司令塔がどこにいるかはわからない。
とりあえずベルムートは魔力眼を使って辺りを見ると、他の魔鉄ゴーレムよりも魔力が高いゴーレムが1体だけいることに気付いた。
おそらくこのゴーレムが他のゴーレムに指示を出しているのだろうとベルムートは当たりをつけた。
この司令塔が魔鉄ゴーレムの復活に関してなんらかの操作をしているはずだとベルムートは考えた。
ベルムートはその魔力が高い魔鉄ゴーレムに向けて魔法を放った。
「『光大球』」
大きな光の球が魔力が高い魔鉄ゴーレムに直撃した。
すると、その魔鉄ゴーレムの表面が削れて、本来の姿を現した。
それは、透明なゴーレムだった。
「クリスタルゴーレムか?」
明らかに他と異なるゴーレムだった。
メッキのように魔鉄を纏うことで、魔鉄ゴーレムに紛れていたようだ。
ただベルムートが気になるのは、そのゴーレムは透明なだけでなく、光を反射しているということだ。
「いや、違うなこれは……」
宝石のような輝き……。
いや、その輝きは宝石そのもの。
「ダイヤモンドゴーレムだな」
ベルムートはそう結論づけた。
ダイヤモンドは魔鉄とはまた違った頑丈さがある。
ただゴーレムである以上、魔石を砕けば倒せる。
光がキラキラと反射しているので、見た目では魔石がどこにあるかわからないが、魔力眼で見れば一目瞭然だ。
しかし、魔石は1つだけじゃないようで、頭、胴体、両腕、両足の計6個あった。
「多いな……疑う余地もなく、こいつが司令塔だな」
ベルムートはそう判断した。
「邪魔だ」
ベルムートは向かってくる魔鉄ゴーレムを投げ飛ばして、アンリたちの所へと向かおうとしていた魔鉄ゴーレムにぶつけた。
目の前の魔鉄ゴーレムの相手で手一杯のアンリたちのもとに、これ以上行かせるわけにはいかないとベルムートは考えていた。
ベルムートは魔鉄ゴーレムたちをあしらいつつ、ダイヤモンドゴーレムの相手をする。
「『闇黒渦』」
ベルムートは魔法を唱えた。
真っ黒な闇の渦が、ダイヤモンドゴーレムの魔力を取り込もうと渦巻く。
しかし、ダイヤモンドゴーレムは、自身の体に沿うように空間魔法の障壁を張っており、これを防いでいた。
どうやらダイヤモンドゴーレムは魔法を使うことができるらしい。
少し前にベルムートが『闇黒渦』を使った時も、これのおかげで無事だったようだ。
その時にベルムートが気づかなかったのは、このダイヤモンドゴーレムが他の魔鉄ゴーレムに埋もれていたからだろう。
真っ黒な闇の渦によって、周りの魔鉄ゴーレムは魔力を毟り取られて倒れていくが、なかなかダイヤモンドゴーレムの空間魔法の障壁を破れない。
どうやらダイヤモンドゴーレムも周りの魔力を取りこんでいるらしい。
超高濃度の魔力の影響で、空間魔法の障壁の強度がかなり高く、耐久力もあるようだ。
「『空間隔絶』」
ベルムートは魔法を唱えた。
再びベルムートは内と外とを隔てる半球状の空間の壁で、自分ごとダイヤモンドゴーレムと魔鉄ゴーレムたちを閉じ込めた。
少し前に『闇黒渦』を使った時は、発動している時間が短かったので、ダイヤモンドゴーレムを倒すには至らなかったようだと考えたベルムートは、今回は長く魔法を発動し続けるつもりだった。
「さあ、いつまでもつかな?」
ベルムートはダイヤモンドゴーレムの障壁と魔力を徐々に削っていった。
すると、ダイヤモンドゴーレムの拳が光り出した。
「あれは属性付与か」
属性付与は魔力付与の上位互換だ。
魔力付与が物体に魔力を纏わせるだけなのに対して、属性付与はさらに物体に属性の能力を宿すことが出来る。
ダイヤモンドゴーレムが拳に属性付与したのは、おそらく光属性だろうとベルムートは当たりをつけた。
ダイヤモンドゴーレムは、光る拳で真っ黒な闇の渦を殴りつけて、打ち消した。
どうやらダイヤモンドゴーレムは光魔法で真っ黒な闇の渦を相殺したようだ。
「超高濃度の魔力の影響で、攻撃力も高まっているみたいだな」
魔法を打ち消されてしまったベルムートは、次の手を考えた。
「魔石の位置はわかっている。1つずつ破壊していくか」
ベルムートはそう考えると魔法を唱えた。
「『光線』」
ベルムートの手から一直線に伸びた光の筋が、ダイヤモンドゴーレムが張っている空間魔法の障壁を貫通した。
しかし、光の線がダイヤモンドゴーレムの魔石を貫くことはなかった。
ダイヤモンドゴーレムに触れた光の線が分散し、魔石の位置から逸れたからだ。
分散した光の線は、ダイヤモンドゴーレムの中で反射してさらに細かくなっていく。
そして、反射した細かな光の線は内側からダイヤモンドゴーレムの空間魔法の障壁を貫き、周辺の魔鉄ゴーレムをも貫いた。
結果として、多くの魔鉄ゴーレムを行動不能にできたが、ダイヤモンドゴーレム自体は特にダメージは負っていない。
「光魔法対策が徹底されているな」
ベルムートはダイヤモンドゴーレムの性能の高さに舌を巻いた。
そして、ベルムートが壊れた魔鉄ゴーレムに視線を向けると、壊れた魔鉄ゴーレムは周りにある魔鉄を取りこんで自己修復していた。
ベルムートは、修復の終わっていない魔鉄ゴーレムを掴み、空間魔法の障壁をダイヤモンドゴーレムが張り直す前に、ダイヤモンドゴーレムに向かって掴んでいた魔鉄ゴーレムを投げつけた。
ダイヤモンドゴーレムに魔鉄ゴーレムがぶつかり、魔鉄ゴーレムが砕けた。
ダイヤモンドゴーレムは衝撃に耐え、体にはほんの少しだけヒビが入った。
ダイヤモンドゴーレムは魔鉄ゴーレムよりも硬いようだ。
6つの魔石を内蔵し、超高濃度の魔力で魔力付与されているだけあって、相当硬い。
そしてすぐに、ダイヤモンドゴーレムの傷が再生され始めた。
すぐに再生が終わり、ダイヤモンドゴーレムは、もとの傷ひとつない綺麗な宝石の輝きを放っている。
ヒビを入れた程度ではすぐに直されてしまうようだ。
「これは、一気に決めるしかないな」
ベルムートはダイヤモンドゴーレムを一撃で倒すべく、魔力を練った。
「砕け散れ。『空間断裂』」
ベルムートは魔法を唱えた。
すると、ダイヤモンドゴーレムの体の表面にピシピシと音を立ててヒビが入っていき、そのヒビがだんだんと広がって、あれだけ頑丈だったダイヤモンドゴーレムの全身に無数の亀裂が入った。
そして、大きな破砕音を響かせてダイヤモンドゴーレムが砕け散った。
ベルムートは広間に影響が出ないように、魔法の効果範囲を最小限に絞るのに苦労したが、なんとかダイヤモンドゴーレムを倒すことができた。
「なかなかに面倒な相手だったな」
ベルムートは一息ついた。
ダイヤモンドゴーレムを倒したことで、ベルムートの周りの魔鉄ゴーレムはすべて残骸となって沈黙している。
「さて、魔鉄を回収するとしよう」
ベルムートは魔鉄ゴーレムの残骸を『空間倉庫』に仕舞っていった。
ベルムートがアンリたちの方を見てみると、アンリたちは3人で協力して戦っているようだった。
「やああああ!」
まず、アンリが魔力眼で魔石の位置を特定し、目印としてその箇所にバツ印の傷をつける。
「うらぁ!」
「はぁっ!」
そして、ニムリが魔鉄ゴーレムを引きつけている間に、本命のエミリアが魔鉄ゴーレムの魔石を貫くという流れのようだ。
「『闇波』!」
跳躍して魔鉄ゴーレムに接近したアンリが手を翳して魔法を唱えた。
黒い水たまりが発生し、魔鉄ゴーレムの上から降り掛かった。
黒い水たまりは魔鉄ゴーレムの魔力を奪い、防御力を下げた。
そしてそのまま魔鉄ゴーレムの体を伝って黒い水たまりは滴り落ちていき、魔鉄ゴーレムの魔力を広範囲に奪っていくことで、魔鉄ゴーレムの戦闘力を一時的に削った。
「はぁあっ!」
「うらぁ!」
魔力を散らして魔鉄ゴーレムの強度を下げたところで、エミリアとニムリが攻撃を畳みかける。
それでも魔鉄ゴーレムは硬く、それほど深い傷は与えられない。
しかし、攻撃を繰り返していくことで、徐々に魔鉄ゴーレムの体が削られて、体積を小さくしていく。
「はぁあっ!」
そしてついに、エミリアが魔鉄ゴーレムの魔石を貫いた。
魔鉄ゴーレムが活動を停止して、その場に崩れ落ちる。
どうやらアンリたちだけで魔鉄ゴーレムを倒したようだ。
「やるな」
正直、ここまでやるとは思っていなかっただけに、ベルムートは素直に感心してしまった。
「ん?」
ふと、魔力を感じたベルムートがダイヤモンドゴーレムの方を見てみると、ボロボロのダイヤモンドゴーレムが広間にある超高濃度の魔力を一気に吸収していた。
「まだ動くのか。いったい何をするつもりなんだ?」
ベルムートは首を捻った。
あれだけ広間に溢れていた魔力がどんどん無くなっていく。
ダイヤモンドゴーレムは周りにある魔力をすべて取り込むつもりのようだ。
「そんなに魔力を吸収しても、扱いきれないだろう」
ベルムートが思っていた通り、ダイヤモンドゴーレムの体内で内包している魔力が暴れ狂っていた。
「いや、これは……まさかわざとか!?」
ダイヤモンドゴーレムの狙いに気づいたベルムートは焦りを浮かべた。
「いかん!」
ベルムートが声を上げた次の瞬間。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
ダイヤモンドゴーレムが爆散した。




