実験場
ちまちま書いていました。
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前回のあらすじ。
地下坑道で扉を見つけた。
「開けるぞ。全員注意しておけ」
ベルムートはアンリたちに声をかけた。
何が起こるかわからないので、警戒を促しておいた方がいいだろうとベルムートは考えたのだ。
「わかった」
「わかったわ」
「おう」
アンリたちは、ベルムートの言葉を聞き、気を引き締めたようだ。
それを確認したベルムートは扉を開けようと力を込めた。
「む……開かないな」
しかし、ベルムートはそれなりに力を込めたが、扉はビクともしなかった。
どうやら鍵が掛かっているらしい。
しかし、ベルムートが見たところ鍵穴のような物は見当たらなかった。
ベルムートが見逃しているだけなのか、はたまたこの扉を開けるには何か特別な方法が必要なのか。
ベルムートは後者だと考えていた。
(どんな方法で扉を開けるのかわからないが、その方法を探るのも手間がかかるな。たかが扉を開けるためだけに、わざわざそんなことをするのは面倒だ)
ベルムートは早々に考えることを放棄した。
「仕方ない、無理やり開けるか。『地裂』」
ベルムートは扉に手をついて魔法を唱えた。
ベルムートは土属性の魔法で扉に干渉して無理やり引き裂くつもりのようだ。
ズ……ガァン!
「ん? ダメだったか」
しかし、発動した魔法によって扉に衝撃が迸ったものの、扉は壊れなかった。
その際、ベルムートには、魔法の威力が少し減衰されているような感覚があった。
扉が破壊されないようになんらかの対策が施されていたようだ。
強固な地盤をも砕く魔法を受けても壊れないということは、この扉は相当頑丈に作られているらしい。
ただ、微かに扉に亀裂が入っているので、もっと強い魔法を使えば扉を壊せそうではある。
しかし、これ以上の威力の土魔法を使うと、地下坑道が崩落する危険があるので、別の属性の魔法を使った方がよさそうだとベルムートは考えた。
「なら、これはどうだ? 『聖光爆』」
ベルムートは魔法を唱えた。
扉に手をついていたベルムートの手から光が弾けて、辺りが眩い光に包まれた。
「うわっ!?」
「うっ!?」
「うおっ!?」
あまりの眩しさにアンリたちは目を瞑った。
やがて光が収まると、瞼を開けたアンリたちは目を見張った。
「「「え?」」」
扉の大部分が綺麗に消し飛び、扉に大穴が空いていた。
「開いたな」
ベルムートはまるで動じることなく扉が開いた……というより扉を破壊して中に入れるようになったことに満足していた。
「すごい!」
「すげぇ! 扉にでっけえ穴が空いちまってるぞ!」
「あれだけ頑丈そうな扉だったのに……」
アンリとニムリが騒ぎ、エミリアは絶句していた。
「扉を無理矢理こじ開けた時にわかったが、扉にはかなりの強化が施されていたらしいな。おまけに、何か結界のようなものまで張られていたようだ」
ベルムートはそう分析していた。
しかし、それらすべてをまるっと無視して、ベルムートの使った光魔法の貫通力により、扉を破壊することが出来たようだ。
「師匠すごい!」
「よくわかんねぇけどすげぇ!」
「ほんとでたらめよね……」
アンリとニムリは興奮し、エミリアは呆れていた。
「これで入れるようになったな。中に入ってみるぞ」
「うん!」
「おう!」
「……ええ」
ベルムートは、アンリたちに声を掛けてから、『光源』の光の球で照らしつつ扉を抜けて中に入った。
そこは円形の広い空間になっていた。
「うわぁ……」
「これは……?」
「なんだこれ……?」
続いて入ってきたアンリたちは広間を見て驚いていた。
床と天井は鉄で出来ており、いくつもの魔法陣が刻まれていた。
立ったまま動かない人型のゴーレムが壁一面に並べられており、そのゴーレムたちは今までベルムートたちが坑道で出会ったゴーレムと違って金属の光沢があった。
ベルムートが魔力眼で見てみると、この広間は上の坑道と比べて、魔力の濃度が10倍ほどになっていた。
扉の強化にこの超高濃度の魔力を使っていたからこそ、あそこまで頑丈だったのだろうとベルムートは考えた。
「魔力がこの広間に溜まっているな。どうやらここが最深部のようだ」
ベルムートはそう判断した。
その魔力が、壁に並ぶゴーレムたちに流し込まれている。
ベルムートは壁に並ぶゴーレムに近づいた。
「これは……魔鉄だな」
壁に並ぶゴーレムを観察したベルムートが呟いた。
ゴーレムは全身魔鉄で出来ており、そのゴーレムたちの周辺の床や天井や壁の鉄までもが、ところどころ魔鉄へと変化していた。
「本当だな! これは魔鉄じゃないか!」
ニムリは鍛冶師の娘なだけあって、希少な魔鉄がこれだけたくさんあることに興奮しているようだ。
「どうしてこんなところに魔鉄が?」
「それはわからないが、どうやらここは、鉄を魔鉄化するための施設のようだ」
ベルムートはエミリアの呟きに答えるように言った。
おそらく、この魔鉄ゴーレムも、もともとは鉄で出来ていたのだろうとベルムートは推測した。
本来、魔鉄などの魔金属は、長い年月を経て自然に魔力によって金属そのものが変質したものである。
しかし、ベルムートが魔法陣から読み取った情報によると、ここでは短期間で人工的に魔鉄を作ろうとしていたようだった。
そして、実際に成功している。
「魔鉄を作って、どうするつもりなのかしら?」
「さあな。だがまあ、おおよその見当はつく。売って資金にしたり、魔道具作成の材料にしたり、武器の材料にしたりと、考えられる可能性はいろいろあるな」
エミリアの質問に、ベルムートは答えた。
「師匠、魔鉄って何?」
アンリがベルムートに聞いてきた。
「魔鉄は鉱物の一種だな。魔鉄のような魔金属は魔力浸透率が高く、魔力を多く蓄積することが可能だ」
「え? あ、う、うん? そ、そうなんだ」
ベルムートは説明してみたものの、アンリはよくわかっていなさそうだった。
「魔鉄は魔力が馴染みやすいってことだ」
「なるほど!」
ベルムートがかなり大雑把に言うと、アンリは納得の表情を浮かべた。
「ん?」
会話を終えて、ベルムートが魔鉄ゴーレムを観察しながら壁の魔法陣に触れると、パリッと音がした。
それから、天井や床の魔法陣が光り出したかと思えば、壁の魔鉄ゴーレムたちが一斉に動き出した。
「え?」
「何?」
「なんだ?」
アンリたちは突然動き出した魔鉄ゴーレムたちを見て、何が起こっているのかわからず、状況を見ている。
魔鉄ゴーレムたちが、壁からゆっくりと前に出てくる。
どうやら起こしてしまったようだ。
先ほどベルムートが壁の魔法陣に触れたのが原因だろう。
今までのことを考えると、魔鉄ゴーレムは侵入者であるベルムートたちを排除するために動き出したのだと思われた。
ただ相手は魔鉄ゴーレムだ。
ここに来るまでにベルムートたちが戦った岩でできたゴーレムとはわけが違う。
しかも数が多い。
アンリたちには荷が重いだろうとベルムートは考えた。
「お前達は逃げた方がいい」
ベルムートはアンリたちに向かってそう言った。
この魔鉄ゴーレムたちは自分一人で片づけた方が無難だろうとベルムートは考えていた。
「師匠はどうするの?」
アンリがベルムートに聞いてきた。
「魔鉄は使い道が多くて使い勝手の良い材料だからな。手に入れておきたい」
「戦うってこと?」
「そうだ」
「なら、わたしも戦うよ!」
ベルムートの言葉を聞いたアンリが声を上げた。
「ここまできて引き下がれないわ。私も戦うわ」
「あたしも戦うぞ!」
エミリアとニムリも声を上げた。
「そうか。そこまでいうなら、好きにしろ」
正直、アンリたちは足手まといにしかならないとベルムートは思っていたが、不思議と嫌な感情は湧かなかった
むしろ、何事も経験だろうと、ある程度アンリたちをフォローしながら動くことをベルムートは考えていた。
ベルムートが動き出した魔鉄ゴーレムを魔力眼で見てみると、周りの超高濃度の魔力を使って魔力付与されているようだった。
「気を付けろ。やつら、自身の体に魔力付与しているぞ。今まで戦ったゴーレムの比じゃないほどの硬さになっているはずだ」
「わかった! 気を付ける!」
「それは厄介ね……わかったわ」
「マジか。それはやばそうだな」
ベルムートの発言を受けて、アンリは元気よく返事をし、エミリアは魔鉄ゴーレムを倒す算段を考えながら細剣を抜き、ニムリは言葉とは裏腹にニヤリと笑みを浮かべて拳を構えた。
「アンリ、これを使え」
「わかった!」
ベルムートはアンリにミスリルの剣を渡した。
鋼鉄の剣では魔鉄ゴーレムを傷つける事すら難しいが、ミスリルの剣ならなんとか通用するはずだとベルムートは考えていた。
「よし!」
アンリはミスリルの剣を構えた。
「多いわね……」
エミリアが呟いた。
魔鉄ゴーレムは全部で100体くらいはいた。
「こいつら全部を相手にするのはさすがにきつそうだ」
ニムリは冷や汗を浮かべつつも闘争心を燃やしていた。
(正直、アンリ達では魔鉄ゴーレム1体だけでも相手にするのは厳しいだろう。私が大部分を相手にして戦う必要があるな)
ベルムートはそう判断した。
「私がやつらを潰す。それまで、お前達は自分の身を守っておけ」
「わかった!」
「くっ、仕方ないわね」
「なんとかしのいでみせるぜ!」
アンリ達がそれぞれ返事をする。
各々、自分の手に余ることは理解しているようだ。
すると、すべての魔鉄ゴーレムが起動完了したところで、ベルムートたちに襲い掛かってきた。
「「『身体強化』!」」
アンリとエミリアが魔法を唱えた。
「うらぁ!」
ニムリは魔力付与したガントレットで、近づいてきた魔鉄ゴーレムを殴った。
「いっつー! かってぇな!」
ニムリは殴った拳の痛みに悪態を吐いた。
ニムリは魔鉄ゴーレムを後ろに押し返すことはできたが、ミスリルでコーティングされたガントレットで攻撃したにも関わらず、魔鉄ゴーレムには傷すらついていない。
「『氷大球』!」
エミリアが魔法を唱えた。
大きな氷の球が魔鉄ゴーレムに直撃して、氷の球が砕けた。
しかし、魔鉄ゴーレムは、衝撃でほんの少し体をのけぞらせた程度で、まるで効いてない。
「くっ!」
エミリアは魔法では足止めにしかならないと分かり顔を顰めた。
「やああああああ!」
続いてミスリル純正の剣に魔力付与を済ませたアンリが魔鉄ゴーレムに切りかかった。
ほとんど刃は通らなかったが、なんとか傷をつけることはできたようだ。
魔鉄の強度は魔力に依存する。
超高濃度の魔力を使って魔力付与しているだけあって、魔鉄ゴーレムは恐ろしく頑丈になっているようだ。
(やはり、魔力の差はいかんともしがたいな)
ベルムートは嘆息した。
魔鉄よりもミスリルの方が素材としては上位のはずなのに、傷をつけるのも難しいようだ。
アンリたちから攻撃を受けた魔鉄ゴーレムは、特に意に介した様子もなく、アンリたちに接近していった。
そして、魔鉄ゴーレムはアンリたちに殴りかかった。
「よっと!」
「はっ!」
「おっと!」
魔鉄ゴーレムの動き自体はそこまで速くはないが、今までのゴーレムと比べると機敏だ。
「うわぁ!」
「ふっ!」
「危ね!」
魔鉄ゴーレムの体積が大きいので、複数体に囲まれると、どうしても逃げ場が狭まってしまうため、アンリたちは躱すのも一苦労といった様子だ。
「あ、危なかった!」
「くっ!」
「きついな!」
アンリたちはどうにか反応して攻撃を受け流したり、素早い身のこなしで避けてはいるが、疲労が溜まり、徐々に動きが悪くなっていっている。
対して魔鉄ゴーレムは疲労などしないため、動きが鈍くなることはない。
結果として、
「ぐはぁ!」
「ぐうっ!」
「ぐあぁ!」
アンリたちは魔鉄ゴーレムに殴り飛ばされた。
「ううぅ……」
「ぐっ……かなり効いたわね……」
「とんだ馬鹿力だな……」
アンリたちはかなりのダメージを受けて、痛みに呻く。
しかし、アンリたちの戦う意思は折れていない。
「ふう……このままじゃダメね」
立ち上がったエミリアは、すぐさま特殊能力『怜悧倍旧』を使って思考を加速させた。
さらに、ミスリル合金の細剣に魔力付与まで済ませた。
今までは長期戦になると考えて温存していたが、なりふり構わず持てる力を使うことにしたようだ。
「はぁあっ!」
一点に集中したエミリアの3連撃が、魔鉄ゴーレムに突き刺さった。
その箇所には、小さいながらも傷がついていた。
「これで……押しきる! はぁああああっ!」
エミリアは執拗に同じ個所に連撃をかましていく。
ごくごく小さな穴だが、少しずつ穴が深くなっていく。
しかし、エミリアには魔鉄ゴーレムの魔石の正確な位置が分かっているわけではない。
この穴の先に魔石がなければ、また別の穴を空けることになる。
魔石の位置を探りながらなので、おそろしく効率が悪い戦い方だ。
しかし、エミリアが今打てる手はこれしかなかった。
「まだまだぁ! うらぁ! いっつー!」
ニムリは拳の痛みに耐えながら、比較的脆そうな股関節に集中して魔鉄ゴーレムを殴りつけている。
そのかいあって、魔鉄ゴーレムの股関節にヒビが入っていたが、破壊するにはもっと殴らなければならないだろう。
それまでニムリの拳と体力が持つかどうかといったところだ。
「まだ動ける! やあああああ!」
アンリは攻撃を繰り返して、魔鉄ゴーレムに傷を増やしていくが、まだ浅い。
表面だけ傷がついても、魔石を砕かなければ、魔鉄ゴーレムは活動を停止しない。
しかし、アンリにはエミリアのような技量はないため、魔鉄ゴーレムの攻撃を避けながら一度つけた傷に再度攻撃を当てることができないようだ。
「『光球』!」
アンリが魔法を唱えた。
光の球は魔鉄ゴーレムに当たったが、魔力量に差がありすぎて、弾かれた。
「『闇球』!」
続けてアンリは魔法を唱えた。
魔鉄ゴーレムに闇の球が当たり、少しだけ魔力を散らすことができた。
「やあああ!」
そこへアンリが剣で切りかかった。
魔力が散ったことで、その箇所だけ多少柔らかくなっているようで、より深く剣が刺さった。
しかし、不規則な軌道で闇の球が動くので、アンリは狙ったところに闇の球を当てられない。
きちんと狙うなら魔鉄ゴーレムに接近しなければならないが、それをするならミスリルの剣で切りつけた方がましだ。
ベルムートが思っていた通り、アンリたちはかなり苦戦しているようだった。




