坑道のゴーレム
ご無沙汰してます。
しばらく更新してなくてすみません。
大雑把に話の展開を考えていたので、細かいところが全然詰めれておらず執筆作業が滞ったのが原因です。
決して、進撃〇巨人の考察が捗りすぎたとかいうわけではありません。
前回のあらすじ。
ドワーフの少女ニムリと共に坑道に入ることになった。
坑道に入ると、魔力灯が灯っていたので、薄暗くはあるが視界はそこまで悪くなかった。
坑道は大人が3人すれ違える程度の広さがあり、天井はツルハシを振り上げてもぶつからないくらいの高さがある。
ベルムートたちが中を進んで行くと、どうやら一定間隔に建てられている木枠で坑道の天井を支えており、その木枠ごとに魔力灯が設置されていた。
しかも、木枠にはしっかりと魔法陣を用いての強化まで行われていた。
崩落事故を防ぐためとはいえ、少し大げさなほどの念の入れようだった。
ただ、坑道に入ってから、ベルムートは何か少し違和感を感じていた。
ベルムートがその違和感の正体を探りつつ進んでいると、奥からゴーレムが1体姿を現した。
石で出来たゴーレムのようだ。
人型で、高さは2mほどあり、天井に頭が付きそうだ。
「あたしが行く」
一言告げてニムリがゴーレムに向かって飛び出して行った。
近づいてくるニムリに気づき拳を振り下ろすゴーレムだったが、その緩慢な動作ではニムリには当たらない。
そして、距離を詰めたニムリがジャンプしてゴーレムの胴体目掛けて拳を振り抜いた。
「うらぁ!」
ズガァン!
小柄な体躯に似合わない強烈なパンチがゴーレムの胴体を半ばまで砕いた。
衝撃に押されてゴーレムが後ろに傾く。
ズシィン!
ゴーレムが背中から倒れたと同時に、ニムリがゴーレムの胴体に飛び乗るようにして拳を放った。
「うらぁ!」
ズガァン! パキン!
ニムリの拳が再度ゴーレムの胴体を直撃し、完全に砕いた。
すると、何かが割れる音と共に上半身と下半身に分かれたゴーレムの動きが止まり、ただの石の塊と化した。
「いっちょあがり!」
ニムリはゴーレムを倒して満足げな表情をした。
ベルムートたちはニムリの元まで近寄った。
「すごい!」
「ドワーフの力が強いのは知っていたけど、これほどとはね」
アンリとエミリアが、ニムリを称賛する。
「まあな。といってもこのガントレットのおかげでもあるけどな」
褒められて満更でもなさそうなニムリが、手に填めたガントレットを示した。
「そうなの?」
「このガントレットの表面はミスリルでコーティングされてるからな」
「なるほどね」
ニムリの返答にエミリアは納得した。
「その身長で拳闘士は不利じゃないか? 武器は使わないのか?」
ベルムートがニムリに質問した。
ニムリはアンリよりも身長が低く小柄なので、リーチの短さを補うには何かしら武器を持った方がいいとベルムートは思ったのだ。
「まあ、ちょっとあってな。拳の方が都合がいいんだ」
ニムリは濁しつつも、武器を使うことは考えていないようだった。
「そうか」
ニムリが拳で戦うのには何か事情がありそうだと察したベルムートは話を打ち切った。
「そのゴーレムを調べたいんだが、少しいいか?」
「いいぞ」
ベルムートはニムリの了承を得てからゴーレムの残骸を調べ始めた。
ベルムートがゴーレムを調べると、砕かれた胴体のところに魔石の破片も混じっていた。
「どうやらゴーレムは魔石を動力にして動いているようだな」
「そうみたいだな。ゴーレムの胴体に埋まってる魔石を砕けばゴーレムは動かなくなるし」
ベルムートが呟くと、近くにいたニムリが答えた。
先程の戦闘から鑑みて、ゴーレムは直接操作ではなく、自立行動をとっているようだとベルムートは理解した。
(直接操作ではないということは、近くにゴーレムを作った者はいないということだろう。だが、いったい何のために坑道にゴーレムを作ったんだ?)
ベルムートは首を傾げた。
「ふーむ……今分かることはこのくらいか。もう十分だ。先に行くとしよう」
「わかった。行くぞ2人とも。採掘地点はまだ先だ」
ベルムートが調べ終わると、雑談しながら敵が来ないか警戒していたアンリとエミリアにニムリが声をかけて、ベルムートたちは再び歩きだした。
さらに進んでいくと、今度はゴーレムが2体現れた。
「今度はわたしが行くね」
「待ちなさい。1体ずつ相手をしましょう」
「わかった」
今度はアンリとエミリアがゴーレムの相手をすることになった。
アンリが先に動き出し、前の方にいるゴーレムに向かって行った。
「『闇波』!」
アンリが魔法を唱えると、波打つ闇の水たまりが、2体の内前にいるゴーレムの足元に発生した。
その黒い水たまりに片足をつっこんだゴーレムは、足の力が抜けたようにつんのめって、前のめりに転んだ。
ゴーレムは魔力で動いているため、片足だけとはいえ自身を制御する魔力を阻害されて踏ん張りが利かなくなったのだ。
ゴーレムは片足に力が入らず立てないようで、四つん這いの状態だ。
ゴーレムの片足が浸かった時点で黒い水たまりは消えてしまっていたが、完全にゴーレムの片足の機能を奪ったようだ。
「『氷球』!」
エミリアが魔法を唱えると、氷の球がアンリの横を通りすぎ、四つん這いのゴーレムを素通りして奥の方にいたもう1体のゴーレムに当たった。
「効いてないわね」
しかし、氷の球はほんの少しゴーレムの体を削った程度で、たいして効果はないようだった。
そして、そのゴーレムは意に介した様子もなく、アンリたちの方に迫ってきて、倒れているゴーレムを跨いで来ようとした。
その瞬間、
「『大氷球』!」
タイミングを見計らったようにエミリアが魔法を放った。
坑道を塞ぐほどの巨大な氷の球が、片足を上げた状態で不安定な体勢のゴーレムに直撃した。
ガシャァン!
手足が砕けて胴体が削れたゴーレムが後ろに倒れた。
先ほどの氷の球とは段違いの威力だ。
すると、エミリアが戦っていた間に剣に魔力付与を済ませたアンリが、四つん這いのまま起き上がれずにいるゴーレムに接近して剣を振り下ろした。
「やあああ!」
ゴーレムの胴体が真っ二つになり、魔石も切り裂いた。
ゴーレムは糸が切れたようにふっと全身の力を失くして倒れた。
続いてエミリアも細剣に魔力付与をして、砕けた手足を再構成しようとしていたゴーレムに駆け寄り、細剣を突き刺した。
「はぁあっ!」
エミリアの細剣は、ゴーレムの胴体の中心に抵抗なくスッとひと刺し貫き、それによって魔石が砕かれたゴーレムは機能を停止した。
「倒したよ!」
アンリが笑顔で告げる。
「ふぅ、終わったわね」
エミリアは『大氷球』を使ったせいで若干疲れているようだが、新しく習得した魔法に手ごたえを感じて満足そうだ。
「驚いた、剣で真っ二つだなんて。それにエミリアも、そんな細い剣でよくゴーレムを貫けたな」
ニムリが目を丸くしながら2人を褒める。
アンリの剣によって真っ二つになったゴーレムは断面が綺麗に平らで、エミリアが貫いたゴーレムには致命傷とは思えないほど綺麗な細い穴が空いている。
「ああそれはな、剣に魔力を纏わせる魔力付与によって剣の威力を底上げしているんだ」
ベルムートはニムリに説明した。
「へぇーそんなのがあるのか」
ニムリは魔力付与に興味を持ったようだ。
「そんなに気になるのなら教えても構わないが」
「いいのか!?」
ベルムートの提案を聞いたニムリは、勢い込んでベルムートに迫った。
「ああ」
(ちょうどよく的もあることだしな)
ベルムートはゴーレムをまったく脅威に感じていなかった。
「あ、でも、あたしはガントレットだし、その魔力付与? が使えるようになっても意味ないよな?」
自分の役には立たないのではとニムリは落ち込んだ。
「いや、どんなものでも大丈夫だ。極端なことをいえば木の棒でさえも強力な武器にできるからな」
「本当か!?」
「ああ」
ベルムートが言うと、ニムリは勢いを取り戻した。
「ならさっそく教えてくれ!」
「わかった」
こうしてベルムートはニムリに魔力付与に教えることになった。
2時間後。
「うらぁあ!」
ニムリの拳がゴーレムの胴体にめり込み、一撃でゴーレムの魔石を破壊した。
「すごいよニムリ!」
「今のはよかったわね」
アンリとエミリアがニムリを褒める。
あれから、ニムリはアンリたちと交互に戦闘を行いつつ、魔力付与の練習をしていた。
ニムリは魔力眼が使えないので習得には苦労するかとベルムートは思っていたが、ニムリは鍛冶で父親が魔力を練りながら剣を打っていたのを見ていたことで、なんとなく魔力を使う感覚は掴んでいたようで、案外素直に魔力付与をものにしていった。
そして、ニムリは何体かゴーレムを相手にするうちにコツを掴んだのか、戦闘中でも大雑把にだが魔力を拳に纏わせることができるようになっていた。
「ふぃー……疲れた……」
ただまだ扱いきれておらず、大変魔力効率が悪いため、ニムリはすぐに魔力切れになってバテていた。
普通であれば、剣で何度も切りつければ刃こぼれしてしまうため、ゴーレムはやっかいな相手なのだろうが、剣に魔力付与しているアンリとエミリアには何の問題もない。
ニムリも力が強く体力もあるので、3人でローテーションで戦闘を行っている今の状況であれば全く問題なかった。
もはやただの動く的と化したゴーレムを3人でさくさくと片づけて順調に進み、採掘地点に着くと皆でツルハシを持って採掘を行った。
「そんなのありかよ!」
その際、ベルムートが『空間倉庫』からツルハシを取りだしたり、採掘した鉱石を仕舞うと、ニムリは驚きとともに感心していた。
そして、一通り坑道内を巡ったベルムートたちは、昼休憩を取ることにした。
「いやぁ! いいもん教えてもらったぜ!」
ニムリが上機嫌に言った。
魔力付与を使えるようになったことがよっぽど嬉しいらしい。
「そういえば、あんたは戦わなくてよかったのか?」
サンドイッチを頬張りつつ、ニムリがベルムートに聞いてきた。
ベルムートがこれまで一度も戦わずに、3人に魔法のアドバイスをしつつ坑道とゴーレムを調べることに専念していたことをニムリは気にしていたようだ。
「ああ。というより、私だけ戦わずにいてすまないな」
「いや、それはいいんだ。もともと戦うのは好きだし、すげぇ魔法も教えてもらったしな」
ベルムートが謝ると、その必要はないとでもいうようにニムリは笑みを浮かべて言った。
どうやらニムリは純粋にベルムートが戦っていないことで不満に思ってないかを聞いてきただけのようだった。
それから皆で軽く雑談をかわして昼休憩が終わった。
「この後の予定だが、少し調べたい場所がある。ついてきてくれ」
それだけ告げてベルムートは魔力眼を使いながら、歩きだした。
顔を見合わせながらもアンリたちもベルムートに付いて来た。
「どこに行くの?」
エミリアが聞いてきた。
「まだわからない」
ベルムートがそう答えると、エミリアは訝し気な顔をした。
ベルムートはこの坑道を調べている内に、坑道内の魔力の流れが不自然なことに気付いた。
坑道内の魔力はその場に漂うのではなく、坑道の中へと流れており、それはある特定の場所へと集められているようだった。
それを辿っていけば、おそらくそこに何かあるはずだとベルムートは考えていた。
「ここか」
「「「?」」」
ベルムートが立ち止まると、3人とも不思議そうな顔をして立ち止まった。
一見するとなんの変哲もないごつごつした岩の坑道だが……。
「『地裂』」
ベルムートが魔法を唱えると、地面が裂けて穴が空いた。
「やはりな」
ベルムートが穴を覗くと空間が広がっていた。
「これは!?」
「なんだこりゃ!?」
「え? 何この穴?」
驚くエミリアとニムリ。
アンリはよくわかっていないようだ。
「どうやらこの坑道とは別に、地下に新たに坑道が掘られていたようだな」
ベルムートは穴から見える下の様子を見てそう考えた。
この地面には、坑道には不釣り合いなほどの魔法防壁が敷かれていたのだが、それをベルムートは魔法で強引にこじ開けたのだった。
(地面に違和感を感じないように偽装されていたが、地面へと流れ込む魔力の流れまではごまかせなかったようだな)
ベルムートはそう分析した。
「この坑道に地下があることは知ってたか?」
「いや、今初めて知った」
ベルムートが尋ねるとニムリは首を横に振った。
(ということは、少なくともこの都市でこの地下坑道については公には知られていないと言うことになるな)
ベルムートはそう考えた。
「なんで地下に坑道が?」
ニムリが首を傾げて考え込んだ。
「この下には何があるの?」
アンリが誰にともなく質問した。
「わからないわ。でももしかすると、ゴーレムがこの坑道に現れた原因はこの地下の坑道にあるかもしれないわね」
「おそらくな」
エミリアの発言にベルムートは頷いた。
「そうか。その可能性はあるな」
ニムリも頷いた。
ニムリは真剣な顔で地下を見つめている。
「とにかく調べてみるか」
「そうね」
「そうだな」
「わかった」
ベルムートたちは地面の穴に降りて調べることにした。




