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ドワーフの少女ニムリ

前回のあらすじ。

剣が直った。



「ニムリ! お前また行くつもりか!?」


 ドワーフの少女の姿を見たドリンが叫んだ。


 ドワーフの少女のニムリは橙色の髪と目をしており、髪型はショートカットで釣り目がちで、全体的に溌剌とした印象を受ける。

 身長は130cmほどでアンリよりも低いが、ドワーフとしては平均的な高さだ。

 そして、革の鎧を着て、両手にはガントレットが填められており、大きめの布袋を肩にかけて背負っている。

 これからどこかに出かけるような装いだ。


「うっさい親父!」


「なんだと!」


 ベルムートたちのことなどそっちのけで2人は親子喧嘩を始めた。


「え? え?」


「なんか始まったわね……」


 それを見てアンリはおろおろしており、エミリアはため息を吐いた。


「もう用件は済んだのだし、2人のことは放っておいて店を出るか」


「そうね」


「うん」


 ベルムートの意見にエミリアとアンリも同意した。


「待った!」


 ベルムートたちが帰ろうとしたところ、ニムリから声がかかったことでベルムートたちは足を止めて振り返った。


「あんたら冒険者か?」


「ああそうだが?」


「ランクは?」


「全員Cランクだ」


「C!? マジで!?」


「本当だ」


 ベルムートはニムリに冒険者プレートを見せた。


「うん」


「ええ」


 続けてアンリとエミリアも冒険者プレートをニムリに見せた。


「ベルムートCランク……アンリCランク……エミリアCランク……マジじゃん!」


 ニムリが驚いて声を上げるが、その声は心なしか嬉しそうに弾んでいた。


「あんたらCランクだったのか。もっと上かと思ってたぜ」


 対してドリンは予想を裏切られたといった表情をしていた。

 きっとベルムートたちがミスリルの剣を持っていて腕もそれなりだったからだろう。


 少々かい被りすぎだとアンリとエミリアは思ったが、褒められた気がしたようで満更でもなさそうな顔をしている。


 実際は、アンリとエミリアはまだBランクほどの腕前はないはずだ。

 ベルムートは実力が突出しすぎていて測定不能だ。


「あたしはDランクのニムリだ」


 そう言ってニムリが冒険者プレートをベルムートたちに見せてくれる。


「あんたら腕が立つならさ、あたしに協力してくれよ」


「おい! やめろニムリ!」


「うっさい親父! 黙ってて!」


「客に迷惑をかけるやつがあるか!」


 ニムリとドリンは睨み合う。

 とりあえず、これ以上2人の言い争いが激しくなる前にベルムートは話に割り込んだ。


「協力してほしいこととはなんだ?」


「! ああ、この都市には鉱山があるんだけど、その坑道に出るゴーレムをあたしと一緒に倒してほしいんだ」


 ベルムートが尋ねると、ニムリが早口でまくし立ててきた。


「それならちょうどよかったね。わたしたちも坑道に行くところだったんだよ」


「本当か!?」


 アンリの発言を聞いて、ニムリは喜びを露にした顔をバッとベルムートに向けた。


「ああ」


 ベルムートは首を縦に振った。


「よっしゃ! とりあえずここじゃなんだから話は外に出てからな」


「おい待て!」


 言うだけ言ったニムリは、ドリンの制止する声を無視して店を出て行った。


「まだ協力するとは言っていないのだが……」


 ベルムートは困惑した。


「ったく……」


 ドリンは頭を掻いて困ったような顔をした。


「お前さんたち。あいつは危なっかしいやつだが、ニムリのこと見てやってくれ」


 そう言って、ドリンがベルムートたちに頭を下げてきた。

 親として娘が心配なのだろう。

 だからこそ、娘と言い争ってまで引き止めていたのだとベルムートは推測できた。


「仕方ないな」


「そうね」


「そうだね」


 ベルムートとエミリアとアンリは嘆息した。


「ここまでされたら断れないな」


「そうか!」


 ベルムートの言葉を聞いて、顔を上げたドリンさんは嬉しそうだった。


「ではな」


 ベルムートは出口に向かった。


「ありがとうドリンさん!」


「何かあったらまた来いよ」


「うん!」


 アンリは剣を直してもらったお礼を言って、ドリンに手を振った。




 ベルムートたちがドリンに挨拶をして店を出るとニムリが待っていた。


「よし、すぐに鉱山に行くか。あ、そうだ。あんたらは準備できてんの?」


(すいぶんとせっかちだな。いや、早くこの場から離れたいだけかもしれないな)


 ベルムートはそう考えた。


「問題ない」


 ベルムートたちは剣を受け取ったらそのまま鉱山に向かう予定だったので、準備はすでに済ませてあった。


「見たところ荷物は持ってないよな?」


「魔法で仕舞ってるんだ」


「へぇー! そうなのか! よくわからんけど!」


 ベルムートが答えると、ニムリはなぜか感心した。


「大丈夫かしら……」


 エミリアはニムリの様子を見て、不安に駆られたようだった。


「そんじゃ行くか」


 ニムリの号令で、ベルムートたちは鉱山への道を歩き始めた。


 馬車がすれ違えるような幅の広い道が一直線に山へと伸びている。

 おそらく鉱石を大量に運ぶためだろう。


「ゴーレムを倒すと言っていたが、ニムリは倒せるのか?」


「もちろん」


 ベルムートが尋ねると、ニムリは頷いた。


 ニムリの強さはわからないが、Dランクでも倒せるということは、坑道に出るゴーレムはそれほど強くないのかもしれないとベルムートは思った。


「なんでゴーレム退治なんてしてるのかしら?」


「鉱山を解放しないと、この都市の鍛冶屋が潰れちまうからな」


「そういうことね。なんだ、父親思いのいい娘じゃない」


「そ、そんなんじゃない!」


 エミリアがからかうようにそう言うと、質問に答えたニムリは顔を赤くしながら手を振って否定した。


「わたしも手伝うから! ドリンさんのためにも一緒にがんばろうね!」


「お、おう。……ってそうじゃないっつってんだろ!?」


 アンリの言葉を受けて、つい頷いてしまったニムリは釈然としない表情をした。


「ニムリは坑道によく潜っているのか?」


「そうだな」


「普段はどうしてるんだ? 一人で潜ってるのか?」


「1人の時もあれば、他の冒険者に声をかけて組むこともある。ただ、実入りが悪いからほとんど人は集まらないな」


 ベルムートが尋ねると、ニムリが答えた。

 

(ニムリが1人で潜っても大丈夫なら、それほど危険な場所ではなさそうだな)


 ベルムートはそう判断した。


「あんたらはなんで坑道に行こうと思ったんだ?」


「急にゴーレムが現れるなんて不自然だからな。一度見てみようと思ってな」


「やっぱり変だよな」


 ベルムートが質問に答えると、ニムリは同意を示した。


「親父のような鍛冶師や鉱山に勤めているやつらで何度か領主に掛け合ったらしいけど、まともに取り合ってくれないって愚痴ってたよ。この都市の危機だってのに領主様は何考えてんのかね」


 ニムリは苛立ったように言葉を吐いた。


(ゴーレムが坑道に現れるようになった件に関して、領主になんらかの関わりがあるのだろうか?)


 ベルムートは首を傾げた。


「なんで私たちを誘ったんだ?」


 ベルムートはニムリに尋ねた。

 これはベルムートが最初から気になっていたことだった。


「自分より腕が立つっていうなら同行してもらいたいだろ? 今のこの都市にはCランクから上はあまりいないからな。それに悪いやつらじゃなそうだと思ったし」


 そう言って、ニムリは笑った。


「なるほどな」


 ベルムートは納得した。


 その後、アンリとエミリアとニムリは雑談を始めた。


 道は採掘で出た余分な石を加工してある程度平らに整備されているらしく、ここまで歩いてきたがベルムートたちは皆あまり疲れを感じていない。


 鉱山近くの傾斜にも宿屋や酒場、鍛冶屋や住居などがあり、馬車に配慮された緩やかな坂道を上って行くと、鉱山の中腹にある坑道の入口が見えてきた。


 坑道の入口の手前には馬車がすれ違えるほどの大きな鉄の門があり、周りは高さ3mほどの頑丈な鉄柵で囲ってあった。

 さらに鉄の門と鉄柵には魔法陣が刻まれおり、耐久性が強化されているようだった。


 鉄の門の前には、鉱山を管理している領主の騎士と思われる見張りが立っていた。


「何か用か?」


 ベルムートたちが近づくと見張りの騎士に尋ねられた。


「ああ」


 ニムリが担いでいた袋を下ろして袋の中を漁った。


「あ、やべ! 許可証もらってくんの忘れた!」


 目当ての物が入っていなかったらしく、ニムリは慌てた。


「許可証なら持ってるぞ」


「マジで!? よかった、時間を無駄にするところだった」


 ベルムートが告げると、ニムリはほっとした様子で袋を肩に担ぎ直した。


「中に入りたいのだが、これで通してもらえるか?」


 ベルムートは冒険者ギルドで発行してもらった鉱山への立ち入り許可証を見張りの騎士に見せた。


 見張りの騎士はその許可証に目を通した。


「確認した。入っていいぞ」


 そう言って見張りの騎士が鉄の門ではなく、その脇にある人が出入りするための別の扉を開けた。


「え、そっち?」


 それを見て、大きな鉄の門を潜ると思っていたアンリはちょっと残念そうにしていた。


 扉を抜けると、鉱石を運び入れる倉庫や馬車の停留所のような施設があるが、人の気配があまりしない。


 坑道の周りの森は多少切り開いてはいるが、魔物の侵入を阻むために森との境は鉄柵で囲ってある。


「人がいないな」


「まあな。仕事にあぶれた連中はだいだい他の都市や鉱山に行ったよ」


「なるほどな」


(仕事がなければ、人も寄りつかなくなるということか)


 ニムリの話を聞いて、ベルムートはこの都市の現状をある程度理解した。


 ベルムートたちは、坑道の入口と思われるぽっかりと穴が空いている場所まで来た。


「道案内は私がやる」


「案内が必要なの?」


 ニムリの発言を聞いたアンリが尋ねた。


「坑道は一本道ってわけじゃないし、多少入り組んでるからな」


「案内してくれるのは助かるが、本当に任せてもいいのか?」


「ゴーレムが出てからずっと坑道の中を歩きまわってたから道は覚えているし、地図と道の途中に目印も作ってあるからまず迷うことはないな」


 ベルムートが疑問を呈すると、ニムリが淡々と答えた。


(ニムリは何度もこの坑道に潜っているようだな。それなら彼女の指示に従った方がよさそうだ)


 ベルムートはそう判断した。


「ゴーレムの見た目は?」


 エミリアがニムリに質問した。


「人型だな。だいたい2mくらいあったと思う」


「ゴーレムの強さは?」


「正直、あまり強くはないし動きもおそい。けど、油断はしない方がいいな」


「剣は効く?」


「脆いところを狙えば効くだろうけど、おすすめはしないな」


「わかったわ。ありがとう」


 知りたいことを聞き終えたエミリアはニムリにお礼を述べた。


「他に聞きたいことは?」


 ニムリがベルムートたちを見回して聞いてきた。

 ベルムートはアンリとエミリアの顔を見た。


「特にはない」


 ベルムートは代表して口を開いた。


「わかった。てなわけで、改めてよろしく」


「ああ」


「よろしくね」


「よろしくお願いするわ」


 それから、粉塵を吸い込まないように布を口に巻いて準備を整えたベルムートたちは、ニムリを先頭にして坑道に入っていった。



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