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新しい魔法の練習

ちょっとリアルの事情と、巨人を駆逐するのに忙しかったので遅れましたすみません。


前回のあらすじ。

帝国の貨幣と、坑道の情報を手に入れた。



 ギルドで用事を済ませたベルムートたちは昼食を取るために食堂に入った。

 食堂は昼時にもかかわらず人はまばらで空席が目立つ。

 しかし、出された料理はちゃんとしたものだった。

 人が少なくなっても食糧のあてはあるらしい。


「ねえ師匠、この後何かすることある?」


「いやないな」


 アンリに尋ねられたベルムートは悩むことなく答えた。

 ベルムート単体なら別だが、剣の修理が終わるまではアンリとエミリアは坑道に行くことも魔物を倒しに行くこともできないので、取れる行動が制限されていた。


「それなら魔法教えて」


「そうね。せっかくだから剣が直るまでの間、魔法を教えてくれないかしら?」


 アンリとエミリアがベルムートにお願いしてきた。


「確かにすることもないし、魔法を教えてもいいな」


「やった!」


「ありがとう」


 ベルムートの言葉を聞いたアンリとエミリアが喜びを示した。


 昼食を終えたベルムートたちはさっそく都市を出て、人のいない森の中へと入った。

 ベルムートは森の中を眷属に先行させて、魔物があまりおらず木が密集していない広場になっているような場所に誘導してもらった。


「さて、では何の魔法を教えようか」


「わたしは闇魔法がいいな」


「私は氷魔法を教えて欲しいわね」


 ベルムートが呟くと、アンリとエミリアが意見を述べた。


「アンリは今何の魔法が使えるんだったか?」


「えーと……『身体強化ストリングゼンボディ』、魔力眼、魔力付与エンチャント、『光源ライトソース』、『閃光フラッシュ』、『暗視ナイトヴィジョン』、『光球ライトボール』、『幻影ファントム』、『闇球ダークボール』……これで全部かな?」


 もちろん完全にものにしたわけではないが、アンリはどの魔法も発動自体は概ねできるようになっていた。


(ある程度の魔法は使えているようだし、これならアンリの希望通り闇魔法を教えてもいいだろう)


 ベルムートはそう判断した。


「わかった。アンリは闇魔法だな」


「うん!」


 アンリが元気よく返事をした。


「エミリアは今何の魔法が使えるんだ?」


「そうね……『氷球アイスボール』と……条件付きで『氷結フリーズ』と『身体強化ストリングゼンボディ』と魔力眼と魔力付与エンチャントかしら」


 エミリアはまだ熟練度が足りないので、発動が怪しい魔法もあった。


(となると、唯一普通に扱えている『氷球アイスボール』を軸に考えてみるか。エミリアの希望でもあるしな)


 ベルムートは考えを固めた。


「わかった。エミリアは氷魔法だな」


「ええ。お願いするわね」


 これで、ベルムートがアンリとエミリアに教える魔法の方針が決まった。


「まずは、アンリから教えていこう。エミリアは魔力を使いすぎない程度に今使える魔法を練習しててくれ」


「うん」


「わかったわ」


 アンリがその場に残り、エミリアは少し離れたところで自己練習を始めた。


「何の魔法を教えてくれるの?」


「『闇波ダークウェーブ』を教えようと思う」


「『闇波ダークウェーブ』?」


「『闇波ダークウェーブ』は広範囲に闇の波が押し寄せて、波に触れた相手の魔力を削る魔法だ。『闇球ダークボール』と違って狙いがぶれることはないが、魔力消費量が多く、波が進む速度がかなり遅いのが欠点だな。しかし、坑道のような狭くて逃げ場のないところでなら問題ないだろう。強いて言うなら味方を巻き込まないように気を付けるといったところか」


 ベルムートは対ゴーレム戦を想定してこの魔法をアンリに教えておくことにした。

 ゴーレムは魔力で動く人形なので、物理的な攻撃よりも魔力を削る攻撃の方が有効だろうとベルムートは判断したのだ。


「よくわかんないけど、強そう!」


 アンリは笑顔で言った。


「いや、そんなにわかりにくくはなかったはずだが……」


 ベルムートは困惑した。


「ま、まあ、とりあえず的を用意しようか。『土人形クレイゴーレム』」


 ベルムートが魔法を唱えると、地面の土が盛り上がって大人くらいの大きさの人型になった。

 ベルムートは魔法の練習用の的として、粘土で出来た柔らかめの人型のゴーレムを作ったのだ。

 やろうと思えば魔物の姿にもできる。

 普通はこのゴーレムを動かして攻撃したり物を運ばせたり作業をさせたり雑用をさせたりするのだが、今回はただの的なので棒立ちだ。


「うわっ! なんか出た!」


 アンリは突然沸いて出たゴーレムに驚いていた。


「まずはこれを的にして私が手本を見せる。いくぞ。『闇波ダークウェーブ』」


 ベルムートが魔法を唱えると、地面から放たれた闇の波がゆっくりとゴーレムに向かって押し寄せた。


「すっごい遅いね……」


 アンリがちょっと微妙そうな顔でその闇の波を眺めている。

 闇の波は普通の人がのんびりと歩く速度と同じくらいの速さで進んでいる。


 じわじわと距離を詰めていく闇の波がゴーレムの足先に触れると、ゴーレムの足が一気に崩れてゴーレムは前のめりに転倒した。

 さらに転倒したその地面には闇の波が広がっており、全身を闇の波に浸かったゴーレムは、瞬く間に崩れ去って影も形も見当たらなくなった。


「え……?」


 一部始終を見ていたアンリはポカンとしていた。

 あまりにも呆気なくゴーレムが倒されて信じられないといった様子だ。


「と、こんな感じだ」


「すごい……!」


 ベルムートが魔法を消して話しかけると、興奮した様子のアンリが声を上げた。

 どうやらアンリにとってこの魔法は魅力的であったらしい。


「しばらく練習してみろ。的はいくつか用意しておく。『土人形クレイゴーレム』」


「わかった!」


 ベルムートがゴーレムを数体作って促すと、アンリは喜々として練習を始めた。


 次にベルムートはエミリアの元に向かった。


 エミリアは魔力眼と『身体強化ストリングゼンボディ』の練習をしていた。


「そっちは終わったのね」


「ああ。それで、エミリアには『氷大球アイスキャノンボール』を教えようと思う」


「随分と威力の高い魔法を教えてくれるのね? 私にできるかしら」


 ベルムートが教えようと思っている魔法を知ったエミリアは、少し不安そうな顔をした。


「まあ、やってみて出来なければ他の魔法を教えよう」


「わかったわ」


 ベルムートが気楽にそう言うと、ベルムートの気遣いを感じたエミリアは不安を拭い去った。


「まずは手本を見せよう。その前に的を作っておかないとな。『土人形クレイゴーレム』」


 ベルムートが魔法を唱えると、先ほどと同じように地面が盛り上がり、粘土でできた人型のゴーレムになった。


「あなたって本当になんでもできるわよね……」


 それを見てエミリアは呆れていた。


「まあな。ではいくぞ。『氷大球アイスキャノンボール』」


 魔法を唱えたベルムートの手から1mを越える巨大な氷の球が出現し、まっすぐゴーレムに向かって放たれた。


 狙い違わず巨大な氷の球がゴーレムに直撃し、一瞬も持ちこたえることなくゴーレムの全身がバラバラに飛び散った。

 そのまま巨大な氷の球は直進して木にぶつかり、砕け散りながらも木がメキメキと音を立てて折れた。


「これは……」


 その光景を目にしたエミリアは息を呑んだ。


「と、こんな感じだ」


 ベルムートはエミリアに合わせて多少威力は抑えたので、この程度の威力しかでなかったが、巨大な氷の球にもう少し魔力を込めれば、あと数本木を薙ぎ倒しながら進んだことだろう。


「リタが『火大球ファイアキャノンボール』を使っていたからある程度どうなるか予想はしていたけど……まさかここまで威力があるなんて……」


「『氷球アイスボール』よりも魔力の消費量は多いがな。とはいえ『土人形クレイゴーレム』だと脆すぎて的にならないな……」


 少し考えてからベルムートは別の魔法を唱えた。


「『鉄人形アイアンゴーレム』」


 地面が盛り上がり、鉄でできた人形が作られた。


「『氷大球アイスキャノンボール』」


 そして、その鉄のゴーレムに向かってベルムートは巨大な氷の球を放った。

 巨大な氷の球が鉄のゴーレムに直撃する。

 しかし、今回は巨大な氷の球が砕け散り、鉄のゴーレムは体の表面が凹んだものの、ところどころに傷がつく程度で済んでいた。


「よし」


 その結果を見てベルムートは満足げに頷いた。


 これなら数発は耐えられるだろう。


「まったくなんなの……?」


 かなりの威力があるはずの『氷大球アイスキャノンボール』を『鉄人形アイアンゴーレム』という魔法で作りだした鉄のゴーレムで防いだという理不尽な光景を見せつけられたエミリアは呆れて物も言えなかった。


 とはいえ、それはそれ、これはこれとして、エミリアは『氷大球アイスキャノンボール』の練習を始めた。


「『氷大球アイスキャノンボール』!」


 エミリアの手から氷の球が形作られていく。


「ぐっ……!」


 小さな氷の球がだんだん大きくなるにつれ、多量の魔力を消費しエミリアの額に玉の汗が浮かぶ。


「あっ……!」


 そして、制御が乱れたところで魔法を放つ前に氷の球は粉々に砕け散った。


 ベルムートが魔法を使った時には、1mを超える巨大な氷の球が一瞬で出来上がったの対して、エミリアは『氷球アイスボール』を使ったときのような小さな氷の球から始まり、だんだんと大きくしていくという無駄な労力と時間がかかっていた。

 しかも、氷の球が砕け散ったときには、ベルムートが作った巨大な氷の球の半分の大きさもなかった。


「これは……習得するまでかなり時間がかかるわね……」


 あまりにもあっさりとベルムートが魔法を使っていたので、簡単なのかとエミリアは思っていたが、とんだ思い違いをしていたようだと認識を改めた。


「全然ダメね……。それに、もう魔力がなくなるわね」


 それからエミリアは何度か魔法を使ってみるものの上手くいかず、魔力切れで少し休憩することにした。


「気長にやってみるといい」


 ベルムートは水筒を差し出しながらエミリアに声をかけた。


「ええ、必ずモノにしてみせるわ」


 水筒を受け取ったエミリアがごくごくと水を飲む。

 エミリアは魔力が回復するとまた練習を始めた。


 ベルムートはアンリの元へと向かった。


「うーん……」


 ゴーレムはまだいくつか健在で、アンリは下を見ながら唸っていた。


「どうした?」


 ベルムートはアンリに尋ねた。


「あのね師匠、一応発動はしたんだけど……」


 そう言ってアンリは地面に視線を落とした。


 アンリの視線の先を追うと、ゴーレムの残骸と、地面に黒い水たまりのようなものが出来ていた。


「黒い水たまりができるばっかりで、全然波にならないの……」


 アンリが困ったように言う。


「ふーむ……」


 ベルムートは少し考えた。


「ならまずは、その水たまりを波打たせるところから始めるか」


「わかった」


 ベルムートの提案に、アンリが頷いた。


「その黒い水たまりの水面を上下に揺さぶるようにしてみろ」


「こう……?」


 アンリが魔力を込めると、黒い水たまりが少しだけうにょうにょと動き出した。

 波というよりはスライムに近い。


「ふーむ……まあ、動いてはいるな……」


「うん……」


 ベルムートの言葉に、アンリは微妙な表情で頷く。


「まあ、続けていれば、その不自然な動きもそのうち解消されるだろう」


「わかった」


 ベルムートが励ますと、アンリは頷いて魔力の操作に集中しだした。


 それからベルムートはアンリとエミリアにアドバイスしながらしばらく魔法の練習に付き合い、日が暮れる前に都市に戻った。



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