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親子の内緒の依頼

筆が速い人が羨ましいです。


前回のあらすじ。

王国の要職たちは大混乱に陥った。



 翌朝。

 休暇が終わり、エミリアは王都の様子を見つつ騎士団詰所に向かっていた。


「思っていたより混乱はないみたいね」


 多少怯えている人もいるが、概ね皆何事もなかったかのように日常通り過ごしているようで、エミリアは安心した。

 しかし、エミリアには王都の人々が内心どう思っているかまではわからない。

 生活を維持するためには働かなければならないので、いつも通りにみえる人々でも多少の無理はしているのかもしれない。


 騎士団詰所に着いたエミリアは中へと入る。


「あ! エミリア様!」


 エミリアが騎士団詰所に入ると声がした。

 声の主はソニアで、サラとノーレンと一緒にエミリアの元まで駆け寄ってくる。


「無事だったんですね!」


「心配したんだからな!」


「いやー無事で何よりです」


 ほっとして喜んではいるが、3人ともかなり疲れた顔をしていた。


「3人ともひどい顔してるけど……どうしたの?」


「どうしたもこうしたもないですよ!」


 エミリアが尋ねると、ソニアが突然叫びだした。


「え、えっと……?」


 普段と様子の違うソニアの姿に、エミリアは呆気に取られた。


「昨日、王都周辺で紫ゴブリンの大群が出てですね。それを騎士団で討伐することになったんですけど……それがかなり大変だったんですよ」


「そうだったのね……」


 ノーレンの説明によって、なんとなくエミリアは察した。

 エミリアも紫ゴブリンの大群を見ていたので、ノーレンたちの苦労ぶりが容易に想像できた。


「私たちの隊は4人しか集まらなくって、ものすごく肩身が狭かっんですよ!?」


「え!? 4人だけ!?」


 ソニアの言ったことがあまりにも信じられず、エミリアが声を上げた。


「そう4人ですよ!? そりぁもう死にもの狂いで戦いましたよ……。戦う前からもうだめかと思ってたんですけど、他の隊と連携したり、途中で交代したりして……おかげで、なんとか生き延びられました」


 ソニアが遠い目をして語った。


「私なんて、途中からは矢と短剣が紫ゴブリンに効かなくなって、戦力外通告受けたりしたんだけど、なんとかなって良かった」


 サラは達観した目で語った。


「そ、そう」


 そんな2人に対して、エミリアはただ相槌をうつしかなかった。


「えーと……ここには3人しかいないみたいだけど、あとの1人は?」


 話を切り替えるように、エミリアはノーレンに話しかけた。


「ミシェルですよ」


「そうなのね。それで、他の皆は?」


「今はミシェルと一緒に森の調査に出かけています」


 エミリアが尋ねると、ノーレンが答えた。


 ちょうどエミリアたちが話をしているところで、ミシェル、モニカ、リタ、メリッサ、シンディ、グレンダが騎士団詰所に入ってきた。


「あ! 帰ってきた!」


 ソニアが声を上げた。


「ただいま帰りました。あ、エミリア様おはようござます!」


 ミシェルがエミリアに挨拶した。


「おはようございます」


「おはよう。エミリア様」


「おはようございます!」


「おはようございますっす」


「おはようさん!」


 他の皆も続いてエミリアに挨拶をした。


「お、おはよう。あなたたち大丈夫?」


「一応大丈夫ですよ」


 エミリアが心配そうに尋ねると、ミシェルが答えた。

 少し疲れてはいるようだが、ミシェルにはまだ元気があるように見えた。

 しかし、他の5人はどことなく眠そうで、シンディとグレンダにいたっては欠伸をしていた。


「ミシェルはともかく、なんであなたたちはだれているのよ!? そんなに働いてないでしょ!?」


「そう言われても、めちゃくちゃねむいっす」


「そうなのよね」


「んーなんか調子が出ないんだよなー」


「体を動かすのも億劫ですしね」


「私も同じ」


 ソニアが怒るが、シンディ、モニカ、グレンダ、メリッサ、リタは調子が悪そうだ。


「しっかりしてよね!」


「私たちと違って紫ゴブリンと戦ってないんだからさ」


 ソニアとサラが5人を非難する。


「悪いとは思っているぞ」


「だけど、どうしようもないんですよね」


「っす」


「ええ」


「そう」


 グレンダとメリッサが、5人の気持ちを代弁するように言葉を漏らすと、シンディとモニカとリタが頷いた。


「はぁ……まあいいわ。それで、調査の方はどうだったの?」


「特に何もありませんでしたね。むしろ、紫ゴブリンのおかげでいつもより魔物が少なくなって安全になった気がします」


 ソニアが質問に、ミシェルが答えた。


「どこの森を調査したの?」


「西門の方です」


 エミリアが尋ねると、ミシェルが答えた。


「南門の方の森は?」


「南ですか?」


 エミリアが聞くと、ミシェルが首を傾げた。


「私は昨日、南の森に行っていたんだけど、帰ってきたら南門に紫ゴブリンがたくさんいたのよ」


「「「「「「「「「ええ!?」」」」」」」」」


 エミリアの話を聞いて皆驚いた。

 どうやら知らなかったようだ。


「それで、どうなったんですか?」


「幸い紫ゴブリンは冒険者が倒してくれたわ。今はもう大丈夫なはずよ」


 ミシェルの質問にエミリアが答えて、それを聞いた皆は安堵した。


「一応それも含めて、総団長に報告しに行ってきますね」


「お願いね」


 ミシェルは総団長に報告に向かった。

 直接総団長に報告に行くということは、ミシェルたちの行った調査は総団長から直接依頼されたものだったようだ。


 エミリアはその場にいる隊の皆と少し話をしたが、戦いのすぐ後に徹夜をしたと言っているソニアとノーレンとサラは精神的にも体力的にも疲労困憊で、とてもじゃないがこのまま仕事を続けさせるわけにはいかない状態だった。


「ソニアとノーレンとサラはもう帰った方がいいわ。あとは私たちでなんとかするから」


「……はい」


「そうですね……お言葉に甘えさせてもらいます」


「さすがに、そろそろ限界がきたか……」


 エミリアに説得されて、ソニア、ノーレン、サラには家に帰っていった。


 その後、ミシェルも家に帰して、エミリアと他の5人は見回りや書類仕事をこなした。



 ◇ ◇ ◇



 それから一週間が経過し、王都周辺の森の調査が粗方終わり、とりあえずの安全が確認されたため、国は危機が去ったことを国民に布告した。

 元通りとまではいかないまでも、これで王都は落ち着きを取り戻していくだろう。


 仕事を終えて屋敷に戻ってきたエミリアは、久し振りに父クレイグの姿を見かけた。


「お父様?」


 エミリアが訝しげにクレイグに声を掛けた。

 クレイグはやつれた顔をしており覇気がない。


「おおエミリア、ちょうどいいところにいた。少し話があるから、今から私の部屋に来なさい」


「はい、わかりました」


 エミリアはクレイグの後に続いてクレイグの執務室に入り、お互い向かいあって座った。


「そんなに私は酷い顔をしているか?」


 クレイグはエミリアに尋ねた。


「はい……」


 エミリアはためらいがちに答えた。


「そうか、いろいろとあってな。今は目を瞑ってくれ」


「わかりました」


 心配ではあったが、クレイグの言葉にとりあえずエミリアは頷くことにした。


「お前を呼んだのは他でもない。実はお前に頼みたいことがあるんだ」


 クレイグは神妙な顔で話し始めた。


「これはまだ公になっていないことなのだが……王が何者かによって暗殺された」


「なっ!?」


 クレイグからの思いもよらない発言によってエミリアは絶句した。


「ほ、本当なのですか!?」


「ああ」


 エミリアが確認すると、クレイグは肯定した。

 クレイグの真剣な様子から、どうやら冗談ではないらしいということがエミリアには伝わった。


「それだけではなく、第2王子アレックス様も消息不明だ」


「そんな……」


 クレイグから告げられる内容にエミリアはさらにショックを受けた。

 王が暗殺され、第2王子が行方不明などこの国の一大事だ。


「私がお前に頼みたいことというのは、第2王子アレックス様の捜索だ」


「え……」


 言葉がでないエミリアをよそに、クレイグは話を続ける。


「自国内の調査はすでに進めているが、まだ見つからなくてな。そこで、もしかしたらアレックス様は他国にいるのではないかと私は思ったんだ。それで、エミリアには他国を調査してもらいたい。もしアレックス様を見つけたら、まず私の元まで連れ戻してきてほしい」


 クレイグは真剣な眼差しでエミリアに頼んだ。

 ややあってからエミリアは口を開いた。


「だいたい話は分かりましたけど……私じゃなくてもいいのではないですか? それこそ、正式に騎士団に捜索してもらえばいいのですから。お父様ならその権限があるはずでしょう?」


 エミリアの発言を受けたクレイグは少し迷った後、口を開いた。


「そうだな……話しておいた方がいいか……。実は、アレックス様には王を殺した疑いが掛かっているんだ」


「え? アレックス様は被害者ではないのですか?」


「わからない。生きているのか死んでいるのか。どんな事情があって姿をくらましたのか。まったく何もわかっていない。だがおそらく、アレックス様は王の死に関わっていると思われる」


「それを確かめるためにアレックス様を見つけ出せということですか?」


「そうだ」


「そんな重要な役目をなぜ私に?」


「今、それなりに自由に動けて十分な実力を持っている中で、私が信頼できるのは娘であるお前しかいないからな」


「そ、そうですか」


 クレイグに褒められて、エミリアは照れた。

 しかし、すぐに真剣な表情に戻ってエミリアはクレイグに質問を投げかけた。


「この話は他に誰に?」


「国の要職に就いている者たちは概ね把握しているが、他国にいるかもしれないと話したのはお前だけだ」


 エミリアは少し悩むそぶりを見せた後、口を開いた。


「私の隊を連れて行くことはできませんか?」


「無理だ」


「どうしてですか?」


「先日、紫ゴブリンとの戦いで多くの騎士が死んだため、人手が足りない。抜けた穴を埋めるために彼女たちには残ってもらいたい。今は安全だとは言っても、いつまた紫ゴブリンがやってくるかわからない以上守りは固めておきたいからな」


 クレイグの説明を聞いて、確かにとエミリアは頷いて返す。


「それに、あまり大勢で押しかけると他国にこの国の問題を勘付かれるかもしれない。まあ、もしかしたらすでに知られてしまっているかもしれないがな」


 そう言ってクレイグは肩をすくめた。

 この国の問題が他国に筒抜けというのは、エミリアとしてもあまり考えたくはない。


「つまり、私ひとりで他国に赴くということですか?」


「そうだ」


「そうなると私は長期的に隊を離れることになります。その間、私が抜けることで隊の皆に迷惑がかかると思うと心苦しいのですが……」


 ただでさえ、紫ゴブリンが王都周辺に現れたときにエミリアは現場にいなかったことで、隊の皆には苦労をかけたのだ。

 わがままではあるが、何かしらの保証が欲しいとエミリアは思った。


 そんなエミリアの考えを見透かしたように、クレイグは苦笑しつつ話し出した。


「心配しなくても、お前の隊には私が目を掛けておく。それに、お前の功績が認められれば女性騎士の騎士団内での地位も向上するだろうし、アレックス様が見つからなくても、他国を見て回ることはお前にとって良い経験になるだろう」


 クレイグが見ていてくれるのなら隊は安心だとエミリアは胸をなでおろした。

 それに、クレイグの言う通りエミリアとしても悪い話ではない。

 むしろ、メリットは大きいと言えるだろう。


「危険を承知で頼む。まあ、娘に言うセリフではないがな……やってくれるか?」


 道中どんな危険があるかもわからないし、第2王子アレックスは生死不明で敵か味方かもわからない。

 しかし、誰かがやらなければならないのならば、こうして頼んできた父の気持ちも汲んで自分がやろうとエミリアは決意した。


「わかりました。引き受けます」


「そうか。ありがとう」


 エミリアの返事を聞いて、クレイグが笑みを浮かべた。


「今は公にはするつもりはないが、王が死に、アレックス様が行方知れずになったことは直に民衆にも知られることになるだろう。できれば、その前になんとしても見つけ出してほしい」


「はい、わかりました。それで、私はどのような用向きで隊を離れることになるのですか?」


「表向きは、他国の情勢の調査として送り出すつもりだ」


「なるほど」


 エミリアは頷いた後、何かを考えるような仕草をしながら口を開いた。


「お父様、提案があるのですが。騎士ではなく冒険者として行動するというのはどうでしょうか?」


「ん? 別に構わないが、なぜだ?」


「やはり、私ひとりだと悪目立ちしてしまうので、他の冒険者とパーティを組もうと思ったんです。詳しい事情を説明しなければいいですよね?」


「まあ……そうだな。だが、いったい誰とパーティを組むんだ?」


「お父様もよく知っている方たちですよ」


「ん? ……なるほど、そうか。彼らならば問題ないだろう。私としても安心だ」


「では、さっそく頼んでみます」


「もし断られたら、代わりの者を手配しよう。改めて考えてみても、さすがにお前をひとりで送り出すのはやはり不安だ」


「ありがとうございます。でも、たぶんその心配はいらない気がします」


「実は私もそんな気がしている」


 意見が一致したことで、エミリアとクレイグは笑い合った。


「では、失礼します」


「ああ」


 クレイグに一言告げて、エミリアは執務室を出た。



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