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王都への帰還

ベルムート視点に戻ります。


前回のあらすじ。

わけがわからないまま王都は救われた。



 ルリアとザックにアンリたちの子守を任せたベルムートが魔法で空を飛び、壁を越えて上空から見下ろすと、冒険者たちが紫ゴブリンやその他の魔物と戦っていた。

 冒険者たちはパーティーごとに散開して、魔法使いは紫ゴブリンを、魔法が使えない者はその他の魔物の相手をしている。

 壁の上にいた魔法使いたちの援護射撃もあるので、冒険者たちは危なげなく紫ゴブリンやその他の魔物たちを処理していた。


 この分なら、ベルムートがわざわざ手出しする必要はないだろう。

 じきに、ここにいる冒険者たちだけですべて倒してしまうはずだ。


 魔力切れを起こしている者もいるが、紫ゴブリンの数が大幅に減ったことで、休み休み戦うことが出来ている。


 ベルムートはその場を後にして、超巨大紫ゴブリンへと向かった。


 すると、突然城から光が立ち上り、王都全体を覆うほどの大規模な結界が張られた。


 超巨大紫ゴブリンはその結界に阻まれて、王都に侵入することができないでいる。


「どうやらこの国には隠し玉があったようだな。しかし、それを使ったということは、この国は結構追い詰められているのか?」


 ベルムートは状況を見極めようと目を凝らした。

 超巨大紫ゴブリンの後方には、超巨大紫ゴブリンを追ってきた騎士団と思われる集団が馬車に乗ってやってくるのがベルムートには見えた。


「まあ、何かしら超巨大紫ゴブリンに対抗する手段があるようだし、もう少し様子を見るとしよう」


 ベルムートは上空で待機することにした。



 ◇ ◇ ◇



 ……あれからしばらく経ったが、騎士団が一向に超巨大紫ゴブリンを倒す気配がしないことにベルムートは困惑した。

 騎士団は魔法や魔法陣の付与された武器を使って超巨大紫ゴブリンに攻撃しているようだが、威力が弱すぎてまったく通用していない。


「もしかしたら、あの光の結界は最後の悪あがきだったのか? いや、さすがにそれはないか……」


 そうベルムートは思うものの、現状騎士団には超巨大紫ゴブリンを倒しうるまともな攻撃手段がないように思えるのも事実だった。


「いや、実は大がかりな魔法の準備をしていて、騎士団の攻撃と結界で時間稼ぎをしているだけかもしれない」


 ベルムートはそう考えた。

 だが、そうこうしている内に、光の壁が消えてしまった。


「さすがにもう手を出すか」


 このまま待っていても事態が好転するとは思えなかったベルムートは、超巨大紫ゴブリンを片づけるために介入することにした。


「『封殺氷凍フリーズソリッドコンファインメント』」


 ベルムートが魔法を唱えると、空間の膜が超巨大紫ゴブリンを包み込んで動きを止め、空間の内側にいる超巨大紫ゴブリンが瞬時に凍った。

 『封殺氷凍フリーズソリッドコンファインメント』は水属性と闇属性の混合魔法で、乱戦の中でも特定の相手を倒すためにベルムートが開発した魔法だ。


「これなら、周りにいる騎士たちにも被害は及んでいないだろう」


 ベルムートが魔法を解くと、超巨大紫ゴブリンは凍ったままだったが、閉じ込めていた冷気が周りに広がって騎士たちが寒そうにしていた。


「おそらくこれで超巨大紫ゴブリンは死んだはずだが……念のためにもう一つ魔法を使っておくとしようか」


 ベルムートはダメ押しの攻撃を仕掛けた。


「『稲妻ライトニング』」


 ベルムートが魔法を唱えると、稲妻が超巨大紫ゴブリンの脳天に落ちて、凍っていた超巨大紫ゴブリンを粉々に砕いた。

 衝撃で紫ゴブリンだったものがバラバラに散らばり、上空にいるベルムートの方までいくつか欠片が飛んできたので、ベルムートは破片を躱しつつもその内のひとつを掴んだ。

 ベルムートが掴んだのは、手の平より少し大きめの紫ゴブリンの欠片で、欠片は完全に凍っている。

 ベルムートはそれを『空間倉庫アイテムボックス』に仕舞った。


 下の方では呆然としていた騎士団が、誰かの掛け声を皮切りに喜んでいる姿がベルムートには見えた。


「王都が無茶苦茶にならずにすんで良かった。クレイグの屋敷でシェリーが私たちの帰りを待っているからな」


 ベルムートは馬のシェリーの安全を確保できてほっとしていた。


「さて、アンリたちはもう起きただろうか?」


 用も済んだので、ベルムートはルリアたちの元へと戻ることにした。



 ◇ ◇ ◇



 ベルムートが壁の付近まで戻ってくると冒険者たちの戦いもある程度終わっていた。

 紫ゴブリンは全滅したようだ。

 壁の内側に入ってきたその他の魔物は、広範囲に散らばったようなので、すべてを駆逐するにはもう少し時間がかかるだろう。


 ベルムートは壁を越えて、ルリアたちのところに降り立った。


「意外と時間が掛かったな」


「少し様子を見ていたからな」


 ルリアに声を掛けられたので、ベルムートは答えた。

 ベルムートが飛び立ってから1時間くらいしか経っていないが、ルリアにしてみればあの程度の相手にベルムートが1時間もかけるようには見えなかったのだろう。


「そうか」


 ベルムートの返答を聞いたルリアは特に考えることもなく納得した。


「いきなり空を飛ぶとか、とんでもないなあんた」


 次にザックがベルムートに声を掛けてきた。


「空を飛ぶくらいなら、出来るやつは多いぞ」


「いやいやいや、普通飛べないからな?」


 ベルムートの言うことを、ザックは首と手を左右にブンブンと振って否定した。


(結構簡単に飛べるんだがな)


 ベルムートは首を傾げた。


「それで、あのデカいやつはどうなったんだ?」


「倒したぞ」


「そ、そうか。遠目で見ていたんだが、一瞬で消えちまったからよくわからなかったぜ」


 ベルムートが簡潔に答えると、若干引き攣った表情でザックが言った。


「冒険者たちはどうだった?」


「特に問題はなかったな」


「ならよかったぜ」


 ベルムートの返答を聞いて、ザックはほっとした表情をした。


 ザックとの会話も一段落したベルムートは、ルリアに近づき、ザックに見えないように『空間倉庫アイテムボックス』から取り出した紫ゴブリンの欠片をルリアに渡した。


「なんだこれは?」


「さっきの超巨大紫ゴブリンの一部だ。この欠片の魔力残滓を追跡すれば、紫ゴブリンの元凶を突き止めることができるはずだ」


「なるほどな。なら、これを使って周辺を調べておくとしよう。出でよ! 闇の影騎士!」


 ルリアが宣言すると、どこからともなく黒ゴブリンが現れた。


「なっ!」


 それを見たザックが驚いて武器を構えた。


 それには頓着せず、ルリアが黒ゴブリンに紫ゴブリンの欠片を渡すと、黒ゴブリンはその欠片を懐に仕舞ってその場からいなくなった。


「え? あれ? 消えた?」


 ザックは目をごしごしと擦っている。


「我はこれから森の周辺を探ってみようと思う。まだあの紫色の残党がいるかもしれんからな」


 ザックの様子などまったく気にせず、ルリアはベルムートに話し掛けてくる。


(確かにその可能性はあるが、今のところ森にいる灰色の鳥の眷属からの報告はないな)


 ベルムートはルリアのやる事に納得しつつも、付近に紫ゴブリンがいないことも分かっていた。

 しかし、ルリアがそう言うのであれば、灰色の鳥の眷属による探索は切り上げて、森の方はルリアに任せてしまってもいいだろうとベルムートは思った。


「その後はどうするんだ?」


「森を見てまわったら一旦帰る。本格的な調査をするために人手を集める必要があるからな」


「そうか。私たちは王都に戻るから、お前とはここで別れることになるな」


「そうだな」


 ベルムートの発言に、ルリアは頷いた。


 そこでベルムートは、別れる前に一応ルリアに勇者について聞いておくことにした。


「ああそうだ、勇者について何か知らないか?」


「勇者? 知ってることは、別にお前と対して変わらないな」


「そうか」


 予想出来ていた返答だったので、ベルムートは特に落胆することもなかった。


 ベルムートはアンリとエミリアを揺すって起こした。


「起きろ」


「んん……」


「ふわぁ~……」


 エミリアはむくりと起き上がり、アンリはあくびをして目をこする。


「そろそろ王都に戻るぞ」


「わかったわ」


「うん、わかった」


 ベルムートが声を掛けると、若干寝ぼけまなこではあるが、エミリアとアンリは返事をして立ち上がった。


「我は森へと帰る。久々に外に出てよかった。意外と楽しめたぞ」


「え? 帰っちゃうの?」


「うむ」


 ルリアが帰ることを伝えると、アンリは寂しそうにルリアを見つめた。


「我は上に立つ者としてやることがあるからな」


「ううぅ~……わかった」


 ルリアにそう言われてしまえば、アンリはしぶしぶ納得せざるを得ない。


「さらばだ」


「ああ」


「お気をつけて」


「またね!」


 ルリアが別れの挨拶をすると、ベルムートに続いてエミリアとアンリが声を上げた。

 ルリアは森の中へと入っていき、すぐに姿が見えなくなった。


「ひとりで行かせて良かったのか?」


 心配そうにザックがベルムートに聞いてきた。


「ああ、問題ない」


「あんたがそう言うなら大丈夫なんだろうが、少し心配だぜ」


(会って間もないやつの心配をするとは、気のいいやつだな)


 ベルムートはザックの人の良さを感じた。


 当然、ザックはルリアの見た目が低年齢の少女にしか見えなかったから心配しているのであって、ベルムートの認識とは若干ズレていた。


「それで、この2人はどうする?」


 ベルムートは、まだ気絶しているイグニスとウィンディを指しながらザックに尋ねた。


「置いて行くわけにはいかないが、起きたら面倒だしな……しょうがない、このまま俺が担いでいくぜ」


 そう言ってザックは、2人を荷物のように肩に担いだ。

 それなりに力はあるようだ。


「それじゃ戻るとするか」


「ああ」


 ザックの言葉にベルムートは頷いた。

 そのままザックは2人を運び、ベルムートとエミリアとアンリはその後に続いた。

 壁に近づくと、壁の上にいる冒険者がザックに気付いたので門を開けてもらい、壁の向こうへと行く。


 壁の向こうは、戦闘によって地面は穴ぼこだらけで、ところどころに魔物の死体が転がっており、融けた武器が落ちていた。


「うわぁ……地面がボコボコだよ……」


「これは、ひどいわね……」


 アンリとエミリアが呟いた。


 冒険者は、魔物の剥ぎ取りをしていたり、腰を下ろして休んでいたり、残り少ない魔物を追いかけていたりしていた。


「ちょっと待っててくれ」


 そう言うと、ザックは冒険者たちに話を聞きに行った。


 しばらくして、冒険者と話していたザックが腕を組んで思案気にしながらベルムートのもとまで戻ってきた。


「少し頼みたいことがあるんだが」


「どうした?」


「魔物が入ってこないように、今のうちに壁の穴を塞ぎたいんだが、土魔法を使える魔法使いが皆魔力切れを起こしていてな……」


「それなら、私がやってやろう」


「いいのか?」


「ああ。この壁の穴を全部塞ぐだけだろ?」


「そうだ」


「それなら簡単だ」


「それじゃあ、お願いするぜ」


「ああ」


 ザックの頼みを引き受けたベルムートは、壁に近寄り魔法を唱えた。


「『岩壁ロックウォール』」


 魔法が発動すると、地面からせり上がった岩によって、一瞬ですべての壁の穴が塞がった。

 ベルムートは魔法で大きな岩の壁を地面に作りだし、穴の形に合うように岩の壁の上部を整えて、パズルのように下からはめ込んだのだ。


 ベルムートが振り返ると、呆気にとられる冒険者たちの姿が目に映った。


「あんたいったい何者なんだ?」


「ただの冒険者だ」


 ザックの質問にベルムートが答えると、「いやいやいやいや!」と周りの冒険者が息の合った動きを見せた。


「……まあ、深くは聞かないでおくぜ。あんた、おっかないからな」


(いや、私に怖いところなんて全然ないんだが……)


 ベルムートは困惑した。


 それから、ザックの計らいでベルムートたちは王都まで一緒に馬車に乗せてもらうことになった。


 魔物の残党を狩る者をこの場に置いて、ベルムートたちと他の冒険者たちは王都に戻った。


 冒険者ギルドの前で馬車は止まり、ベルムートたちと冒険者たちは馬車から降りた。


「今回はあんたらがいてくれて助かったぜ。俺たちだけじゃ、あの紫ゴブリンの群れを倒すどころか最悪全滅してたぜ」


「そうか」


 ベルムートは振りかかる火の粉を払っただけなので、特に助けたという感覚はない。


「んじゃ、俺はギルドに報告に行ってくるぜ」


「ああ」


 ベルムートたちにそう言うと、ザックはいまだに目を覚まさないイグニスとウィンディを担いで冒険者ギルドに入っていった。


「さて、私たちは屋敷に向かうとするか」


「そうね」


「うん、わかった」


 ベルムートの言葉にエミリアとアンリが頷いた。

 ベルムートたちは歩いてエミリアの屋敷に戻った。



 ◇ ◇ ◇



「何が起こったんだ?」


「わ、わかりませんのじゃ」


 ライアン王はロデリックや他の魔法使いたちと顔を見合わせた。


「とりあえず危機は去ったということか?」


「確認して参りますのじゃ」


 ロデリックが魔法陣の部屋を出ていった。


 ライアン王はまだ気を緩めてはいないが、ひとまず安堵の息を吐いた。

 ロデリックはいなくなったが、ここにいる者たちだけでも、もう少しだけなら再び結界を張ることができる。


 ドサッ、ドサドサドサ……。

 すると、周辺から何かが倒れるような物音がした。


「どうした?」


「安心するのはまだ早いですよ父上」


 ライアン王が音のした方を振り返ると、ライアン王の良く知る男がいた。


「ど、どうしてお前がここに――」


 男はおもむろに剣を抜いたか思うと、ライアン王に剣を突き刺した。


「ぐふっ!」


 剣が深々と突き刺さり、ライアン王の体を貫いた。


「あなたにはいなくなってもらいます」


「がはっ……な、なぜ……だ……?」


「理由はあなたが一番よくご存じのはずでは? 父上」


「な……に……を、言っ……てい……る……?」


 ライアン王は男の言っていることの意味が分からず困惑した。


「ふん!」


 それを見た男が苛立ったように剣を引き抜くと、ライアン王はドサッと倒れて地面にドクドクと血を流し、それと同時に魔法陣の輝きもだんだん弱弱しくなり、やがて動かなくなると魔法陣も完全に光を失った。


 男は剣を鞘に納めると、周りにいた仮面の騎士たちを見た。


 先ほど聞こえていた物音は、魔法使いたちが倒れた音で、不意を打たれた魔法使いたちは、仮面の騎士たちによってすでに全員昏倒している。

 ライアン王と違って、命までは取られていない。


「さらばだ。父上」


 男はライアン王が事切れたのを確認すると、魔法陣の部屋を出ていった。

 その後を仮面の騎士たちが続いて魔法陣の部屋を出て行き、廊下の窓際にいた白い鳥が飛び立った。



 ◇ ◇ ◇



「どうやら超巨大紫ゴブリンは消滅したようですぞ。一安心です……な……?」


 しばらくして戻ってきたロデリックは、胸をなでおろしながら魔法陣の部屋へと入ってきた。

 そして、ロデリックは倒れている魔法使いたちとライアン王を見つけて、愕然とした。


「こ、これはどういうことじゃ!? お、王よ! 返事をしてくだされ!」


 ロデリックは、死体となったライアン王を発見し、そのことを王城の要職についている者たちに報告したことで、王城内は騒然となった。



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