表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/102

王都防衛戦 後編

前回のあらすじ。

騎士たちは紫ゴブリンに徐々に追い詰められていった。

 


 最初に異変に気付いたのはジェイクだった。


「なんだ?」


 ジェイクが目の前のでかい紫ゴブリンをようやく切り伏せて視界が広がると、辺りにいたはずの紫ゴブリンの数が一気に少なくなっていたのだ。


 ジェイクが周囲に視線を巡らせると、大小様々な紫ゴブリンたちが壁の向こうへと逃げているところだった。


 ジェイクは訝しみながらも追撃はせず、油断なく武器を構えた。


「ようやく終わったか……」


「はぅ~つかれましたぁ~……」


 すべての紫ゴブリンが壁の向こうへと消えたのを見届けると、ブライアンとリンダがその場にへたり込んだ。


「ふぅ……」


 ジェイクも武器を収めてその場に腰を下ろした。


 地上で戦っていた他の騎士たちにも安堵の表情が浮かんでいる。


 しかし、どうにも嫌な予感が収まらないジェイクは、ここから早く立ち去りたかった。


「さて……いつまでもこんなところにいてもしょうがない。さっさと撤収作業に入るか」


「お、そうだな」


「は、はいぃ」


 ジェイクがそう言うと、ブライアンとリンダが返事をした。


 疲労した体に鞭を打って、ジェイクたちは立ち上がった。


 壁の上ではまだ魔法使いたちが壁の向こうに魔法を放っていた。


 その様子を見た騎士たちは、最後の追い込みだろうと考えていた。


 だが、少し様子がおかしいことにジェイクは気づいた。

 ジェイクの目から見た魔法使いたちの姿は、どこか今まで以上に必死さがあるように見受けられた。


 すると、1人の魔法使いが慌てて壁の上から階段を下りてきているのがジェイクの目に映った。


「どうしたんだ?」


 ブライアンが、突っ立ったまま動かないジェイクを訝しんで声をかけた。


「あ、ああ。あれって――」


 ジェイクがブライアンに答えようと口を開くよりも早く、壁の上から階段を下りてこちらに向かって走っていた魔法使いの大声が聞こえてきた。


「お前達! 今すぐここから離れるんじゃ!」


 その声の主は王宮魔法使い長官のロデリックだった。

 ロデリックが地上の騎士たちに向かって声を荒げて叫んでいる。


「あ、ああ……ああ、あああぁ……」


 顔を強張らせたリンダが意味の分からない言葉を発しながら、恐る恐る壁の上を指差した。


「「あ……?」」


 リンダにつられてジェイクとブライアンが壁を見上げると、壁の向こうから巨大な顔がこちらを覗き込んでいた。


 ジェイクとブライアンは、ぽかんと口を開けて固まった。


 あまりにも非現実的な光景を目にして、ジェイクは頭が真っ白になって何も考えられなくなった。


 地上にいた騎士たちも気づいたようで、皆一様に顔を青ざめさせて、不気味な静けさが辺りに漂った。


 そして、一瞬間を開けて、絶叫が響き渡った。


「う、うわあああぁぁぁぁあぁああぁ!」


「ひ、ひぃいいぃいいいぃいいいぃい!」


「は……はは……」


「も、もうおしまいなんだぁ……! うわぁぁん!」


「くそったれがぁ!」


 腰を抜かす者、恐慌状態に陥り逃げだす者、呆然とその場に立ち尽くす者、泣き出す者、紫ゴブリンを睨みつける者と反応は様々だ。


「あれは、紫ゴブリン……なのか?」


 しばらくして、ジェイクは麻痺していた思考がようやく動き始め、改めてこちらを見下ろす巨大な顔を観察した。

 巨大な顔は、どう見ても紫ゴブリンのものだった。


「まだでかくなるのか!?」


 しかも、もうすでに巨大といっていい大きさの紫ゴブリンは、さらに大きくなり続けていた。


「「「「「『大火球ファイアキャノンボール』!」」」」」


「「「「「『強風刃ストロングウィンドカッター』!」」」」」


「「「「「『礫岩コングロメレーテーズスロー』!」」」」」


「「「「「『雷撃サンダー』!」」」」」


 壁の上では魔法使いたちが威力を重視した魔法をいくつも放ち、何とか巨大紫ゴブリンを撃退しようとしている。


 もちろん、ジェイクたちもただ黙って紫ゴブリンが大きくなるのを見ていたわけではない。


「うらぁ!」


「くらいやがれ!」


 ジェイクたち地上にいる騎士たちの内、戦う意思のある者は魔法陣の付与された武器を巨大紫ゴブリン目掛けて投げつけていた。


「狼狽えるな! ただ的がでかくなっただけだ! あの木偶でくの坊に騎士の力を見せつけてやれ!」


 レジナルドが声を張り上げる。


 確かに巨大紫ゴブリンは大きくなるだけで特に動きは見せていない。


「俺はやるぞ!」


「ああ!」


「化け物め! くらえ!」


 次第に落ち着きを取り戻した騎士たちが、攻撃に加わっていった。

 しかし、巨大紫ゴブリンにどれだけ攻撃を与えても、たいした効果はないようだった。


「くそっ! 効いてないのか!?」


 最終的に、超巨大紫ゴブリンは、腰の高さが壁の高さと同じくらいになるまで大きくなった。


「あんなデカいのどうすればいいんだ!?」


「もう終わりだぁ! ここで死ぬんだ俺たちは!」


「俺の人生短かったな……」


 悲観して諦めている者も多い。

 皆、武器も魔力も底をついていた。


 すると、これまで動きを見せなかった超巨大紫ゴブリンが一歩踏み出した。

 音もなく、あっという間に壁が融かされた。


 皆が見ている前で、あっけなく壁が突破されてしまった。



 ◇ ◇ ◇



 レジナルドは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


 超巨大紫ゴブリンの真正面の壁の上にいた魔法使いたちは叫び声を上げる暇さえ与えられずに、跡形もなく融かされた。


「「「「「うわぁぁあああ!」」」」」


 融かされた場所におらず、かろうじて生き延びていた壁の上の魔法使いたちは、仲間の死を目の当たりにして壁の上にある通路を走って、紫ゴブリンから左右に遠ざかった。


 壁は融かされたが、それは一部であり、残っている壁が崩れる様子はない。


 しかし、どうしようもない絶望感が魔法使いや騎士たちを襲う。


「いったいあれはなんなんだ!?」


 レジナルドが絶叫した。

 レジナルドはいまだかつてないほどの、得体のしれない恐怖にその身を晒されていた。

 しかし、さすがは総団長。

 恐怖に押し潰されそうになりながらも、まだかろうじて冷静さを保って耐えていた。


 超巨大ゴブリンがさらに一歩を踏み出す。


「危ない! 全員、ただちにやつの進路上から逃げろ!」


 レジナルドの指示を受けて、騎士たちは全力で走りだす。

 しかし、超巨大紫ゴブリンの一歩はかなり大きい。

 少し走った程度では紫ゴブリンの足の範囲からは逃れられない。

 逃げ遅れた騎士たちが絶望に染まった表情で超巨大紫ゴブリンに踏まれた。


「くそっ! もはや撤退するしかないか……」


 レジナルドが悔しそうに奥歯を噛み締める。


「レジナルド殿!」


 ロデリックがレジナルドに近づいて声をかけてきた。


「ロデリック殿!」


 レジナルドも名前を呼んだ。


「レジナルド殿。私はこれより急ぎ王都へ向かう。ここはお主に任せてもよいか?」


「ああ、わかった。このことは、一刻も早く王に報告せねばならんからな。しかし、あれはどうしたものか……」


 レジナルドは超巨大紫ゴブリンを見た。


「すでに、あれはわしらの手に負える代物ではなくなってしまっておる。これ以上被害が出ないように、王宮魔法使いや騎士たちを退避させるしかなかろうて」


「……確かにそうだな。しかし、わざわざロデリック殿が王都へ向かわずとも早馬を出せば済むことでは?」


「こうなった以上、王に頼んでを使うしかなかろう」


「……なるほど。それでロデリック殿が王都へと向かわれるのだな?」


「そうじゃ」


 ロデリックが頷いた。


「嫌な役目を押し付けてしまってすまんな」


「いや、それが私の役目だろう」


 ロデリックが謝ると、レジナルドは気にしてないという風に答えた。


「では、行って来るとしようかの」


「くれぐれもよろしく頼む」


「わかっておる」


 ロデリックの言葉にレジナルドが返すと、ロデリックが任せておけとばかりに笑った。

 しかし、すぐに真剣な表情に戻ったロデリックは馬に乗り、全速力で王都へと向かった。


「戦闘は一旦中止だ! やつから離れて生き延びることを優先しろ! 各隊の隊長は隊員を落ち着かせてまとめあげろ!」


 ロデリックを見送る間もなくレジナルドは部下たちに指示を出した。


「「「「「了解!」」」」」


 レジナルドの指示を聞いて、比較的まともな状態の騎士たちが動き出すが、恐慌状態に陥っている騎士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っているため収拾がつかない。

 すでに超巨大紫ゴブリンの進路上には人がいないのがせめてもの救いだった。


 ゆっくりとした足取りで、歩みを進める超巨大紫ゴブリン。

 幸い後方の拠点にしているテントは、道を外れて畑のない平地に張っていたため踏まれずに済んだ。

 超巨大紫ゴブリンは畑を踏みながら、道なりに真っすぐ王都を目指しているようだ。


 騎士たちが超巨大紫ゴブリンに踏まれた場所には、何も残っていなかった。

 肉も骨も血も剣も防具も服も何もかもがない。

 超巨大紫ゴブリンによって完全に溶かされてしまっていた。


「化け物め!」


 レジナルドは超巨大紫ゴブリンの背を睨みつけながら見送ると、振り返って騎士たちに指示を出していった。


 壁を修復しつつ外敵を警戒する者、後方のテントを守る者、ケガ人とそれを手当てする者、戦意を喪失した者をこの場に残し、それ以外の戦える者をすべて連れ出して超巨大紫ゴブリンを追いかけることをレジナルドは決めた。


 使える武器をかき集めて、戦闘に直接参加しない魔法使いに頼み武器に魔法陣を付与してもらう。

 この作業は馬車での移動中にも行ってもらうことになる。


「行くぞ!」


 しばらくして準備が整い、レジナルド率いる一部の騎士たちは馬車に乗りこみ超巨大紫ゴブリンを追いかけるために出発した。



 ◇ ◇ ◇



「そんなに慌ててどうしたロデリック」


 謁見の間へと入ってきたロデリックのただならぬ様子にライアン王は緊張の面持ちになる。


「王よ! 王国魔法を使用してもらいたいのじゃ!」


「いきなりどうした?」


 ロデリックから開口一番に告げられた内容にライアン王は面食らった。


「超巨大化した紫ゴブリンがこの王都に迫っておりますのじゃ!」


「なんだと!?」


 ロデリックの発言に、ライアン王は驚愕の表情を浮かべた。


「他の者たちはどうした!?」


「かなりの被害が出ておるが、今は超巨大化した紫ゴブリンを倒す算段を立てているところじゃ」


「なんと……」


 ロデリックは渋面を浮かべて答えた。

 ライアン王も状況が最悪に近いことを感じ取って顔を歪めた。


「国王様、大変です!」


 ロデリックとライアン王が話していると、謁見の間に伝令の騎士が慌ただしく入ってきた。

 本来であればロデリックと大事な話をしている最中にやってきた者は邪魔になるので追い返すところだが、嫌な予感がしたライアン王はそのまま伝令の騎士に尋ねた。


「どうした!? 何があった!?」


「王都の外に超巨大な化け物が現れました!」


「なに!?」


 ロデリックの話にあった例の超巨大紫ゴブリンのことだろうと当たりをつけたライアン王が冷や汗を浮かべる。

 その超巨大紫ゴブリンが、王都のもうすぐそこまで迫っているのだ。


「王よ! 至急王国魔法の準備をば!」


 ロデリックが叫ぶ。


「そうだな。ただちに準備に取り掛かってくれ!」


「了解じゃ!」


 王の命令を受けて、ロデリックが謁見の間を飛び出していった。


「では、われも行くとしよう」


 ライアン王が謁見の間を出ていく。


 そして、普段は立ち入らない城の一角へとライアン王は向かった。



 ◇ ◇ ◇



「お待ちしておりましたのじゃ」


 ライアン王が部屋に入ると、すでにロデリックがいた。


「早いな」


 ライアン王は少し驚いた。


「超特急で準備を整えましたからの」


 ロデリックは軽く笑みを浮かべた。


 この場所は、城に勤めている者たちでも、ごく少数の限られた者しか知らない。


 窓がなく、日の光が当たらないこの部屋の床には、盾の文様の魔法陣が描かれている。

 その中央にライアン王が立ち、魔法陣の周りを10人の魔法使いが取り囲んでいる。


 ロデリックが拳よりも大きな魔石を魔法陣の指定の場所に設置し、魔法陣を取り囲む魔法使いたちに加わると、ロデリックと10人の魔法使いたちが魔法陣に手をついて魔力を流し込んだ。

 それによって、魔法陣が青く光る。


 ライアン王が針で自身の指を刺し、血を一滴魔法陣に垂らした。

 すると、魔法陣の色が赤く変わり、魔法が発動した。


 城が白く光り輝き、真上に光が立ち上る。

 その光が弾けて、王都を取り囲む壁に光が降り注いだ。

 そして、王都全体を包むように王城を中心とした半球状の光の結界が張られた。


 王国魔法。

 それは、この国独自の魔法で、王族の血にしか反応しない特殊な魔法陣と、膨大な魔力を使用して結界を構築する魔法である。


 もともと小国だったブライゾル王国の切り札となる魔法だ。

 この王都は当時小国だったブライゾル王国の土地のすべてであった。

 小国だった王国を守るべく、結界魔法の魔法陣を構築する上で、王城と壁の位置は計算されて建てられた。

 そのため、後からできた農耕地帯を囲む壁までは結界は届かない。


「今頃、王都は騒ぎになっているだろうな」


 ライアン王は呟いた。


「事が終わったら、きちんと民衆に説明しなければならないだろうな」


 ライアン王は先の苦労を考えた。


 この部屋に窓はないが、城の上空に浮かぶ光の球が目の役割を果たしているので、魔法陣を通して外の状況を把握することが出来る。


「やはりな……」


 ライアン王が魔法陣を通して光の球と視界を共有し、王都の様子を窺うと、予想通り、結界の向こう側に超巨大紫ゴブリンの姿を見つけた王都の人々が悲鳴や叫び声を上げていた。


 王都を囲む結界は白く輝いてはいるが透明なため、中から外の光景を見ることができるのだ。


 幸いにも光の壁は、やってきた超巨大紫ゴブリンの侵入を阻んでいた。

 王都の人々に危害は及んでいないようだ。


 結界を維持しているライアン王たちは、それに安堵した。


 しかし、大きめの魔石も使っているとはいえ、この結界を維持するために膨大な魔力を消費している。

 長くはもたないだろう。


「あと、どれくらい持つと思う?」


「もって1時間じゃろう」


 ライアン王が尋ねると、ロデリックが答えた。


 本来であれば、この魔法陣はもっと大人数で使うものなのだろう。

 現に、この部屋にはまだまだ人が入っても大丈夫なほどの余裕がある。


 今は紫ゴブリンの討伐で人が出払っているため、ここにいる人の数は少ない。

 ここにいる10人の魔法使いたちは、本来は城の護衛のために残った者たちだったが、状況が状況だけに、無理に集まってもらっている。

 そして悪いことに、騎士団の武器に魔法陣を付与していたことで魔力が空っぽになった魔法使いが多いので、これ以上の増員は見込めそうにない。


「1時間か……」


 ライアン王が呟いた。

 その間にあの超巨大紫ゴブリンをなんとかしなければならない。


 超巨大紫ゴブリンが腕を振りかぶり、光の壁を殴りつけた。

 だが、光の壁は、超巨大紫ゴブリンの攻撃を受けてもビクともせず、それどころか王都の中に衝撃すら伝わってこない。


「ひぃ!」


「うわぁあ!」


 しかし、その姿を見た国民は恐怖に身が竦んでいた。


「踏ん張れ!」


「「「「「はい!」」」」」


 ライアン王の額にじんわりと汗が浮かぶ。

 他の者たちの額にもうっすらと汗が浮かんでいる。


 王族にしか使えない大規模結界魔法。

 ライアン王にかかる負担は大きい。


 しかし、ライアン王たちには結界の維持に全力を傾けることしかできない。


「とにかく耐えて、時間を稼ぐしかない……!」


 ライアン王たちは、超巨大紫ゴブリンが諦めて去るか、誰かが倒してくれるか、その一縷の望みにかけるしかなかった。



 ◇ ◇ ◇



 超巨大紫ゴブリンを追いかけていたレジナルド率いる騎士たち。

 その中にジェイクもいた。


 超巨大紫ゴブリンに追いついた一行は驚いた。


「なんだ!? あの光の壁は!?」


「王都を守っているのか!?」


 王都を囲む光の壁が、超巨大紫ゴブリンの侵入を防いでいたのだ。


「どうやらあのデカブツは、光の壁を突破できないようだ! 全員、武器を持て! 今が好機だ! かかれ!」


「「「「「おおおおおお!!」」」」」


 レジナルドが号令をかけると、声を上げて騎士たちが動き出した。


「うらぁ!」


 騎士が、魔法陣の付与された武器を超巨大紫ゴブリンに投擲した。


「『大火球ファイアキャノンボール』!」


 魔法使いが、威力重視の魔法を唱えた。


 どんな攻撃をしても、的が大きいので外すことはない。


 ジェイクは、危険を顧みずに超巨大紫ゴブリンに近づき、魔法陣の付与された剣で超巨大紫ゴブリンの足を切りつけた。


「どらぁ!」


 しかし、ダメージが通っている気はまったくしない。

 それでも、ジェイクは何度も切りつける。


「どらぁ! くっ!」


「隊長~! これをどうぞ~!」


「お、ありがとな!」


 すぐに武器が使い物にならなくなったが、リンダが新しい武器をジェイクのもとへと持ってきてくれた。


 超巨大紫ゴブリンは、何度も光の壁を殴りつけている。


「間近で見ると、迫力がすごいな」


 ジェイクは顔を強張らせた。

 騎士や魔法使いたちは諦めずに攻撃を続けているが、まったく歯が立たない。


「全然効いちゃいない……! くそがっ……!」


 ジェイクが吐き捨てた。


 だんだんと絶望がその場を支配していく。


「あっ……! 光の壁が……!」


 リンダが言葉を漏らした。

 そして、ついに光の壁が消えてしまった。


 障害がなくなり、超巨大紫ゴブリンが、王都に足を踏み入れようとしている。


「ちくしょうがぁ……!」


 ジェイクが叫びながら超巨大紫ゴブリンに向かって剣を降り下ろした。


 ガキィン!


 そして、ジェイクの剣が弾かれた。

 

「なっ!? いったい何が起こった!?」


 ジェイクが叫んだ。

 今まで融かされるだけだった武器がなぜか弾かれて、ジェイクは動揺した。


 周りを見ると、ジェイクだけでなく、他の騎士たちが降り下ろした武器や、投擲した武器が、超巨大紫ゴブリンに当たると弾かれていた。


「え……?」


「どういうことだ……?」


 これには、騎士たちも戸惑っていた。


「あれ……? あのデカブツ、止まってないか……?」


「本当だな……」


 よく見ると、超巨大紫ゴブリンが動かなくなっている。


「うおっ! なんかヒヤッとしたぞ!」


 それから、周辺の気温が一気に下がったような気がしたジェイクが身を震わせた。


「寒っ!」


「へっくしょん!」


 いや、気がしたのではなく、実際に真冬のような寒さが騎士たちを襲っていた。


 軽装の魔法使いや騎士だけでなく、重装備の騎士まで体を抱きしめて歯をガタガタと揺らしている。


 すると、真上から雷が落ちてきて、超巨大紫ゴブリンに直撃した。


 バリバリ! バキャァン!


 そして、超巨大紫ゴブリンは溶けるでも飛び散るでもなく、砕け散った。


「「「「「は……?」」」」」


 騎士たちは、あまりのことで開いた口が塞がらない。


「あぶねっ!」


 超巨大紫ゴブリンの目の前にいたジェイクは、雷が少し掠めたが、若干痺れた程度で済んでいた。


 風に吹かれてキラキラと舞う紫の破片が、どこか神秘的な光景を醸し出している。


 辺りは静寂に包まれた。


 あの超巨大紫ゴブリンが、雷でどうこうなるような存在には皆思えなかったが、最初からいなかったかのように跡形もなく消え去っていた。


「て、天が味方してくれたようだ! わ、我らの勝利だ!」


 レジナルドが戸惑いながらも勝鬨を上げた。


「「「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」」」


 騎士たちから大歓声が沸き起こった。


「ん? なんだあれは?」


「おーい、ジェイクー!」


「ジェイク隊長~!」


「お! ブライアン! リンダ!」


 ふと空を見上げたジェイクは、何かが空を飛んでいくのが見えた気がしたが、近くにきたブライアンとリンダの姿を見つけて喜びを分かち合ううちに、それはすぐに頭の片隅へと追いやられた。



ルフラン面白いですね。

いつか私もダークファンタジー書いてみたいですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ