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王都防衛戦 前編

ああ、9月中に投稿できなかった……無念……。


前回のあらすじ。

ベルムートが二迅の炎嵐をこてんぱんにのした。



 時は少し遡り、ベルムートたちがちょうどルリアと戦っていた頃。

 王宮の廊下を、引き締まった体に騎士服を身に纏っている40歳くらいの厳つい顔をした男が、ブーツをツカツカと鳴らしながら足早に歩いていた。

 男の名はレジナルド。

 王都の騎士団のみならず、ブライゾル王国すべての騎士団を総括している総団長だ。


 レジナルドは、焦りから今にも駆け出して行きたいのを王宮の中だからと抑えて早足に止めているが、醸し出す雰囲気は刺々しく、ただでさえ厳つい顔の眉間にシワを寄せてさらに恐ろしい形相になっている。


「ひっ!」


 そんなレジナルドに廊下でばったり出くわしてしまった者たちは皆、レジナルドの様子に驚き気圧され道を空ける。


 そのおかげで、レジナルドは比較的スムーズに謁見の間の扉の前へと着くことができた。


「こ、これは総団長!」


 謁見の間の扉の前に立つ2人の門番の騎士がレジナルドに敬礼をしてきた。

 謁見の間を守る門番なのでそれなりに強いはずだが、レジナルドのただならぬ雰囲気にあてられて顔色が悪い。


「緊急事態だ! 王と謁見したい!」


「はっ! すぐに確認いたします!」


 レジナルドが言うと、それを受けた門番の1人が扉に顔を近づけて何やら小声で話し始めた。

 扉には小指ほどの小さな穴が空いており、扉の向こうに立っている兵士と連絡を取ることが出来るのだ。

 つまり、門番は謁見の間の内側と外側に2人ずつの計4人がいるということだ。

 謁見の間の内側の門番は口が堅く特に信頼のおける騎士が立つことを許される名誉職となっている。

 ちなみに報酬もかなり良い。


 そして、通常ならば王への謁見には予め申し込みを済ませて予定を組んでもらわなければならないのだが、レジナルドの騎士団総団長としての権限により王の都合さえよければいつでも謁見が可能であった。

 さらに緊急事態であることを告げれば、謁見の優先順位を繰り上げてもらえる。


「王への謁見の許可が下りました! 扉を開けます!」


 それを示すように、到着してから数分もしないうちにすぐに王の許可が下りて、門番が扉を開けた。


「ご苦労」


 一言門番に告げて、レジナルドは謁見の間へと入っていった。


 謁見の間には内側の門番2人と王以外に1人、きれいなローブを着た細身の60歳くらいのおじいさんがいた。

 彼の名はロデリック。

 白髪に白眉、白鬚の老練の王宮魔法使い長官だ。

 騎士団とは別に王宮に勤めている魔法使いがおり、ロデリックはその王宮魔法使いたちのまとめ役だ。

 王宮の魔法使いは、主に魔法の研究と研鑽に日々努めている。

 王宮魔法使いたちには、国から研究のための補助金が与えられ、さらに王宮に集められた魔法の知識の閲覧の権限があるため、魔法使いたちにはかなり人気がある。

 しかし、王宮に勤めるには高難易度の試験による狭き門を突破する必要があるため、ほとんどの魔法使いたちは振るい落とされる。

 最終的に残った者たちは必然的に優秀な人材が多く、戦っても強い。


「邪魔してすまない」


 レジナルドは、ちょうど王とロデリックが話していたところに割り込んでしまったようだと察して謝った。

 ロデリックがこの場にいたのは大方、魔法研究に使う予算の話でもしていたのだろうとレジナルドはあたりをつけた。


「いや、構わんよ。ところで、わしはお暇したほうがよいかな?」


 遠回しに、この場に残って話を聞いても良いかとロデリックは尋ねているようだ。


「その様子だと、まだご存じないようですな。ぜひとも王と一緒にロデリック殿にも耳に入れてもらいたい」


 立ち上がり、出ていく素振りをするロデリックを、レジナルドが引き留めた。


「ほう、そうか。では聞かせてもらおうかのう」


 立ち去ろうと腰を上げていたロデリックは再び腰を下ろした。


「ええ、お願いします」


 そのロデリックの横で、王の前に跪くレジナルド。


 王は、毛髪が若干少ない茶髪に王冠を被り豪奢な服を着た40歳くらいの男性で、名前はライアン・エスカッシャン・ブライゾルという。

 ライアン王は、ただ玉座に座っているだけだというのに、人の上に立つ者としての威厳を醸し出している。


「公務中の所、大変申し訳ありません。どうしても至急王にお伝えしたいことがあって参った次第です。どうかご容赦願いたい」


「そうかしこまらなくてよい。何があったかすぐに申せ」


 これまでレジナルドが緊急だと言って謁見の間まで来ることなど一度もなかったので、ただならぬことが起こったのだろうと王は判断していた。


「はっ! では、ご報告致します」


 先ほどよりは多少態度を軟化させたレジナルドが一度唾を飲み込み、口を開く。


「畑外周の西門に向かって、紫ゴブリンの大群が押し寄せてきています」


「数は?」


 王がレジナルドに尋ねた。


「およそ1万はいると思われます」


「なっ……!?」


「1万じゃと!?」


 さすがの王もこれには絶句した。

 ロデリックも驚愕している。


「一体どこからそんな数の紫ゴブリンが現れたんだ!?」


「分かりません」


 レジナルドの返答を聞き、王は頭を抱えた。


「まだ壁は破られてはいないな?」


「はい。紫ゴブリンが西門に到着するまで、まだ時間はあります」


「そうか」


 それを聞いて王は少し安心した。


「早急に対処するために、王に報告に伺った次第です」


「紫ゴブリンには魔法しか効かないのじゃろう? 騎士団だけで対処できるのかのう?」


「もちろん大丈夫だと言いたいところですが、正直なところ厳しいでしょうね……」


 ロデリックの質問にレジナルドは苦々しい表情で答える。


「ならば王宮魔法使いも手を貸そう」


「よろしいのですか?」


 ロデリックからの思わぬ提案に、レジナルドが驚き聞き返した。


「実はな、さっきまで紫ゴブリンの事で王と相談しておったんじゃよ」


「そうなのですか?」


 ロデリックの発言を聞いて、レジナルドが王を見た。


「ああ、本当だ。エリックとアレックスから紫ゴブリンに注意するようにと言われて、対策を練っていたところだったのだが……少し遅かったようだ」


 ライアン王が嘆息する。


「なるほど。ですが、王宮魔法使いたちが紫ゴブリンの討伐を引き受けてくれるでしょうか?」


 レジナルドが思案気に問いかけると、ロデリックが口を開いた。


「なあに、暇そうなやつらならわんさかいるじゃろうて」


 そんなことはなく、もちろん王宮魔法使いたちは忙しい。

 しかし、それは自分たちの研究や研鑽に没頭しているだけであるため、そんな王宮魔法使いたちをロデリックは無理やり引っ張ってくるつもりのようだ。


「まあ、どのみちここで、紫ゴブリンどもを食い止めねば、研究どころではなかろうて」


「確かに」


 ロデリックの話を聞いてレジナルドは苦笑した。


「話はまとまったようだな。では、レジナルド、ロデリックの両名に命じる! すぐに紫ゴブリンの討伐隊を編成し、これを討伐せよ!」


「はっ! 至急騎士たちを集めます!」


「了解じゃ」


 王命を受けた2人は頷いて、紫ゴブリンの討伐の準備のために謁見の間を退出した。


「して、これからどうするのじゃ?」


 ロデリックがレジナルドに聞いた。


「私は騎士たちを騎士団本部の広場に集めておきます」


「うむ、わかった。後でわしも向かう」


「わかりました。では私はこれで失礼します」


「うむ」


 レジナルドが足早に去っていく。


「さてと、わしも馬鹿どもを呼んでくるかのう」


 ロデリックは、どうやって連れてこようかニタニタ考えながら王宮魔法使いを呼びに向かった。



 ◇ ◇ ◇



 ジェイクたちの隊は今、緊急召集を受けて騎士団本部前の広場に集まっていた。


「ブライアンの隊もいる。ノーレン隊は……エミリア様が見当たらないな」


 ジェイクは先日任務で一緒になった知り合いの姿を探した。

 ジェイクたちの隊は先日、ブライアンの隊とエミリ……ノーレン隊の面々と都市サルドの騎士たちと共に盗賊の討伐をして王都に帰ってきたところだった。


「というより、ノーレン隊にはノーレンを含めて4人しかここにいないようだ。それに、よく見るとノーレンの顔が引き攣っているような……心を強く持てよ」


 人数が少ない理由は分からないながらもジェイクはノーレンに同情した。


 この広場はとても広大で、普段は騎士たちの訓練場として使われているが、今は多くの騎士たちが整列していて地面は僅かしか見えない。

 ざっと3000人はいるだろうか。

 王都中の騎士が集められているようだ。

 中には王宮魔法使いの姿も見える。


「な、なんか王宮魔法使いの連中、目が虚ろだったり絶望したような顔をしている者が大半を占めているが……どうしたんだ?」


 ジェイクは顔を引き攣らせた。


「それに、これだけの人を集めていったい何をするつもりなんだ……?」


 ジェイクは言い知れぬ不安を感じた。


 そうこうしていると、レジナルド総団長が広場に置かれた壇の上に立って話し始めた。


「諸君、よくぞ集まってくれた! これから諸君には西門付近に現れた紫ゴブリンの討伐を行ってもらう! 紫ゴブリンの数は推定1万だ!」


 説明を受けた騎士と魔法使いたちがどよめく。


「い、1万だって!?」


「む、無理だろそんな数!」


「いったいどこから湧いて出やがったんだ!?」


「あ、これ死んだな俺」


「しっかりしろ! 骨は拾ってやる!」


「いや、紫ゴブリンにやられたら骨も残らないから……」


 そんな中ジェイクは、盗賊討伐の際に現れた紫ゴブリンのことを思い出していた。


「あの時、俺は何もできなかった……」


 魔法しか通用しない魔物がいることを認識したジェイクは、改めて魔法の重要性を理解した。


「しかし、これから魔法を習おうかと思っていた矢先に、紫ゴブリンの相手をしなくてはならないとはついてないな……」


 ジェイクは溜め息をついた。


「静まれ!」


 レジナルドがピシャリと言うと、それまでざわついていた人々が口を閉ざした。

 ジェイクも意識をレジナルドの方に向けた。


「皆知っていると思うが、紫ゴブリンには魔法しか効かない」


 レジナルドの言葉を受けて、魔法が使えないと思しき騎士たちが顔を歪ませる。


「だが、何も魔法を使えない者に無駄死にしろと言っているわけではない。魔法が使えない者は武器を提出してくれ。回収した武器は魔術師に魔法陣を描いてもらう。これでやつらとも戦えるようになるはずだ」


「「「「おおおー!」」」」


 レジナルドの話を聞いた騎士たちから歓声が上がった。

 ジェイクも思わず声を上げてしまった。


「それなら、魔法が使えない俺みたいなやつでも、紫ゴブリンと戦える!」


 ジェイクは気分が高揚するのを感じた。


「では、次に王宮魔法使い長官のロデリック殿に話をしてもらう」


 レジナルドが壇から下りるのと入れ替わりにロデリックが壇に上った。


「今のレジナルドの話にあったように、魔術が使える王宮魔法使いは騎士たちの武器に魔法陣を描いていくんじゃぞ。それと、優先順位は下がるが、魔法を使える者でも武器に魔法陣を描いて欲しいのであれば武器を提出してくれて構わんぞ。あ、そうそう、ついでに武器庫に置いてあるやつにも魔法陣を描いておくんじゃぞ。まあ、それまで魔力が持つかはわからんがな。わっはっはっはっはっ!」


 ロデリックが呵々大笑した。


(あ……ただでさえ虚ろだった王宮魔法使いたちの目が死んで腐った魚のようになってしまった……。同情を禁じ得ないが、あなた方の助力がなければ俺は戦えない……。すまん、あきらめてくたばってくれ)


 ジェイクはそっと視線をそらした。


「魔術が使えない王宮魔法使いは直ちに出発じゃ。準備は速やかに終わらせるんじゃぞ!」


 それを最後に、ロデリックは壇上から下りた。


 王宮魔法使いたちからは、お通夜のような暗い雰囲気が漂っている。


 再び壇上にレジナルドが上がった。


「では、これからの動きについてだが、まず武器の回収はすぐそこの騎士団本部の武器庫周辺で行う。どれが誰の武器か分かるように木札を配るつもりだ。武器に魔法陣を付与している間に必要な物を各自で揃えて置くように。すぐに出発が可能な隊は、準備が済み次第、王宮魔法使いと共に西門に向かってくれ。それでは、各自行動を開始せよ!」


「「「「「了解!」」」」」


 そう締めくくって壇上を下りるレジナルドに、皆大きく声を上げた。


 それからすぐに、集まっていた皆は各自行動に移った。


 騎士たちは隊の中で話し合って必要な物を洗い出し、準備する担当を振り分けている。

 王宮魔法使いたちは足取り重く、武器庫に向かう者と出発する者とでバラバラに別れた。


 それからしばらくして武器に魔法陣を描いてもらい、準備が整ったジェイクたちは畑外周の西門に向かって出発した。



宰相や大臣はいますが、彼らはそれぞれ王宮の自室で働いています。

彼らが謁見の間にいるのはごく稀で、格式ばった儀礼の時だけです。

これは王が優秀であるのと同時に、役割分担が明確だからこのようになっているという設定で、史実の要素はあまり参考にしていないので変かもしれませんが、勘弁してください。



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