ベルムート VS ニ迅の炎嵐
今までで一番書き直しまくりました……。
前回のあらすじ。
双子に絡まれた。
「よし! 勝ったぞ!」
「やったね、イグ兄!」
アンリとエミリアに勝ったイグニスとウィンディは喜び合った。
「けどあの2人、思ってたよりも歯応えがなかったな」
「そうだねイグ兄、なんか拍子抜けだったよね」
喜んだのも束の間、つまらなそうにイグニスとウィンディはそう言った。
まあ、イグニスとウィンディは無傷だったからそう思ってしまうのは無理もない。
「ほら、回復薬だ」
ベルムートは、手ひどくやられて息が荒く服も体もボロボロのエミリアのところに行って回復薬をドバドバかけていった。
「何!? 傷が治っていくだと!?」
「イグ兄見ちゃダメ!」
「ぐはっ! 目がぁ!」
エミリアが回復する様子を見ていたイグニスが、ウィンディに目潰しをされて悶絶している。
「やべっ!」
それを見たザックは慌てて壁の方を向いた。
「何をしているんだあいつらは?」
ベルムートはイグニスとウィンディの意味不明な行動を見て呟いた。
「ねえ、びしょびしょになったんだけど……」
「気にするな。すぐに乾く」
「いや、そうじゃなくて、もう少し配慮して欲しかったんだけど……」
エミリアはベルムートにジト目を向けた。
「ん? 何をだ?」
「いえ、もういいわ……」
まったく察する様子のないベルムートを見て、エミリアはがっくりと項垂れ溜め息をついた。
回復薬を浴びてどうにか歩けるまでに回復したエミリアだったが、服はボロボロのままであり、かつ液体の回復薬を浴びたせいで体に服が張り付き美しい体の線が浮き彫りになっている。
エミリアの姿はとても男には見せられない有り様になっていた。
そんなエミリアを見てもまったく動じず気を遣う様子のないベルムートに対して、エミリアはなんともいえない微妙な表情を浮かべた。
「アンリにも回復薬をかけないとな」
「え」
ベルムートの発言を聞いたエミリアは唖然とした。
そんなエミリアの様子に気づくことなくベルムートはアンリのところまで行き、アンリにも回復薬をドバドバかけた。
「がぼ、がぼぼぼぼ! ちょ、ちょっと師匠! かけすぎ!」
アンリはエミリアよりもやけどが目立ち、見た目はボロボロだったが、ダメージで言えばエミリアよりも少なかったようで、傷が治ってから少しして立ち上がった。
「ううぅ~びしょびしょだよ~……」
火傷の跡もすっかりなくなり、アンリはしょげた顔で自身の体の水気を手で払っている。
だが、ボロボロの服の隙間から水の滴るアンリの健康的で未成熟な体が覗いている。
「お~……! やっと視界が戻ってきた! ん? なんかあいつらすごいびしょ濡れになってないか?」
「はっ!? イグ兄! まだ目を開けちゃダメ!」
「ちょっ! ウィンディ! それ杖! やめてくれ! 失明するから! わかった! わかったから! 目閉じるから! だからやめ――ぬぐぉ!」
またイグニスとウィンディが騒ぎ出した。
そして、イグニスは顔を抑えて悶絶し、ウィンディは一仕事やとりとげた顔で満足そうに額をぬぐった。
ザックはまだこちらに背を向けて壁の方を向いている。
ベルムートは『空間倉庫』の中を確認した。
「ふーむ……回復薬がもう残り少ないな」
さすがに使いすぎたようで、ベルムートの手持ちの回復薬の在庫が心許なくなっていた。
そのうち補充しなくてはならないだろう。
「おい、さっさとあいつら乾かしてやれよ」
呆れたようにルリアがベルムートに促した。
「ルリアちゃん! いい子!」
ルリアが気づかってくれたことが嬉しくてアンリはルリアに抱きついた。
「ちょ! やめろ! くっつくな! 我まで濡れるだろうが!」
ルリアはアンリの拘束から脱出しようともがくが、ルリアは非力なのでアンリを振りほどけない。
「なんで我がこんなめに……」
「ご、ごめん」
濡れて落ち込むルリアに、我に返ったアンリが謝った。
「はやく、魔法で乾かしてくれ……」
気落ちしたルリアがベルムートに言った。
「あ、ああ、そうだな。『温風』」
ルリアを気の毒に思いながらベルムートは魔法を唱えて、濡れていたルリアとアンリとエミリアを乾かした。
「ひどい目に遭った……」
「よかった乾いて」
「ふうー……ようやく乾いたわね」
ルリアとアンリとエミリアがそれぞれ言葉を漏らした。
「それにしても、完敗だったわね……」
エミリアは先程の戦いを思い出して悔しそうな表情をしている。
「うん。何もできなかった……」
アンリは、悔しいというよりも、自分が不甲斐ないといった様子で俯いている。
ベルムートは先ほどのアンリとエミリア、イグニスとウィンディの戦いを振り返った。
出鼻をくじかれ、態勢を立て直す暇を与えてもらえず、何もできないままアンリとエミリアは敗北した。
アンリは対人戦が不慣れで、エミリアはルリアとの戦闘の影響で万全の体調ではなかったとはいえ、イグニスとウィンディとの差は歴然だった。
“二迅の炎嵐”――Bランクで二つ名持ちは伊達ではないようだ。
「まあ、負けてしまったものは仕方ない。これから強くなっていけばいい」
ベルムートがアンリとエミリアに話しかけると、2人は無言で頷いた。
今はまだ精神的に堪えているようだが、じきに気持ちを切り替えるだろう。
「もう振り返っても大丈夫そうか?」
ザックが尋ねた。
「ええ」
エミリアが答えると、ベルムートたちに背を向けて壁の方を見ていたザックがベルムートたちの方を向いた。
「あー……残念だったな嬢ちゃんたち。まあ、気にするこたぁねぇよ」
ザックは落ち込むアンリとエミリアに優しく声をかけた。
「なかなかおもしろかったぞ」
「えー……」
「もう……」
ルリアが励ますように笑顔で言うが、アンリとエミリアは苦笑している。
強者であるルリアに余興扱いされていい気分になるはずもない。
どう見ても逆効果だった。
「ちょっと疲れたわね……」
「うん……」
エミリアとアンリはよっぽど疲れていたようで、木の影に倒れ込むようにして草の地面に横になった。
「さて、あんたにはいくつか聞きたいことがあるんだが……」
「なんだ?」
ザックが改まってベルムートに話しかけてきた。
「とりあえず、さっきの薬はどっから出したんだ?」
「この袋からだが?」
そう言ってベルムートはザックに袋の中を見せる。
袋の中には回復薬と食料が入っていた。
「なんだ俺の見間違いだったか……なぜか何もないところからあんたが薬を出したように錯覚しちまったぜ……ん? あんた、袋なんて持ってたか?」
「最初から持っていたぞ?」
「そ、そうだったか? ま、まあ、現にここにあるしな……」
ザックは首を傾げている。
本当はベルムートがさっき使った回復薬は『空間倉庫』から出していたのだが、ザックたちが驚いていたのを見たベルムートが、余計な詮索をされないようにこっそり『空間倉庫』から袋を出して偽装しておいたのだ。
「もう目開けていいか?」
「あっ! もういいよ!」
「ふぅー……ひどい目にあったぜ……」
ウィンディが許可を出すと、イグニスが目を開けた。
「あっ! おいあんた! さっきの薬、まだ持ってるか!?」
イグニスがベルムートに話しかけてきた。
「ああ、持ってるぞ。数は少ないがな」
「え? どうしたのイグ兄?」
「さっきの薬、傷をあっという間に治しただろ?」
「そういえばそうだったね」
「きっとすごい薬に違いない!」
「! 確かに!」
「だから、その薬をいくつか譲ってもらおうと思ってな」
「なるほどね! さすがイグ兄!」
ウィンディがイグニスを褒め称えた。
「というわけで、その薬をいくつか俺たちに譲ってくれないか?」
「お願い!」
イグニスとウィンディがベルムートに詰め寄ってきた。
「ふーむ……」
ベルムートは考え込んだ。
城に戻ればすぐに補充できるとはいえ、ベルムートの手持ちの回復薬は残り少ない。
それに、ベルムートがイグニスとウィンディに回復薬を渡す義理もない。
(いや……なんなら、勇者についての情報を得るための対価にするか……?)
「金ならあるぞ!」
「私たち、結構稼いでるんだから!」
ベルムートが悩んでいると、イグニスとアンディが買い取りを申し入れてきた。
「金か……」
あって困るものではないが、現状ベルムートは十分な金を持っている。
「よし! じゃあ、あんたと戦う! 俺達が勝ったら回復薬を譲ってくれ!」
「あ! それいい考えだよイグ兄!」
ベルムートがあまりお金に興味がないことを見て取ったイグニスが勝負を提案してきて、ウィンディがそれに乗っかった。
(それ、私に何のメリットもないんだが? ……いや、ちょっと戦うだけで諦めてくれるなら楽でいいかもしれないな)
ベルムートは結論を出した。
「わかった。その提案に乗ろう」
「「やった!」」
ベルムートが頷くと、イグニスとウィンディ喜びの声を上げた。
「ただし、負けたら回復薬は諦めてもらう」
「ああ!」
「OK!」
ベルムートの発言を聞いたイグニスとウィンディが即答した。
どうやら、イグニスとウィンディはベルムートに勝つ気満々のようだ。
(あまり気乗りしないが、白黒つけたらそれで片付くのだからこれでいいだろう。……というか、もはや手柄とか関係なくなってないか? こいつら、実は戦いたいだけじゃないのか?)
ベルムートはイグニスとウィンディに対して疑惑を持った。
アンリとエミリアはいつの間にか木影でぐっすりと眠ってしまっていた。
これだけ騒いでいるのに起きないほど、アンリとエミリアは相当疲労が溜まっていたようだ。
「そうと決まれば、さっそく俺と1対1で勝負だ!」
イグニスが威勢よく言った。
だが、ベルムートはこれに意見した。
「いや、せめて1対2で頼む」
「何!?」
ベルムートの発言を聞いてイグニスが声を上げるが、イグニスはすぐに考え直したようで落ち着く。
「いや、そうだな……それくらいのハンデがないとな」
「確かに……そうしないと勝負にならないもんね」
イグニスとウィンディは2人でうんうん頷いている。
「あんたが組む相手は誰だ? ザックさんか? それともそこのお嬢ちゃんか?」
「さすがにお嬢ちゃんは戦えないでしょ」
「そうだな。ならザックさんか」
どうやらこの2人は、ベルムートが誰かと組んでイグニス1人と戦う、と思っているらしい。
「勘違いしているようだが、私が1人でお前達2人を相手にすると言ったんだ」
「「え!?」」
ベルムートが発言すると、イグニスとウィンディは驚きのままベルムートの顔を凝視した。
「おいおい1対2とか正気かあんた!?」
ザックが慌ててベルムートに声をかけてきた。
「ああ」
(この条件で私が勝てば、イグニスとウィンディも文句なく引き下がってくれるだろう)
ベルムートは打算的にそう考えた。
「ケガじゃ済まないぞ!?」
「どうだろうな……やれるだけやるつもりだ」
(死なないようにちゃんと手加減できるだろうか?)
ザックとベルムートがそれぞれ方向性の違う心配をした。
「マジかよ……しょうがねぇな」
ザックは頭をかいた。
「言っとくけど、俺たちはそんなに甘くないぜ!」
「後悔しても知らないよ!」
「ああ、問題ない」
イグニスとウィンディの言葉に、ベルムートは頷いて返した。
こうして、ベルムート対イグニスとウィンディのペアの勝負が決まった。
「さて……あやつらはどこまで食いつけるかな?」
ルリアは口角を上げてイグニスとウィンディを見ていた。
ベルムートとイグニスとウィンディは、お互いに所定の位置についた。
ルールは、ベルムートかイグニス・ウィンディペアが降参するか、戦闘不能になれば終了だ。
審判はザックだ。
「始め!」
ザックの合図で勝負が開始された。
「『辻風』!」
ウィンディが杖を構えて魔法を唱えた。
ウィンディの持つ杖の先端に埋め込まれていた魔石が輝き、ベルムートの足元から上空へ向けて風が吹き上がる。
「『下降風』」
ベルムートは即座に魔法を唱え、下降する風を生み出し、ウィンディの魔法を打ち消した。
「やるわね!」
ウィンディが不敵に笑った。
一度見ている上に、この程度の魔法ならベルムートにとって対処は容易い。
ただ、ベルムートの起こした下向きの風はまだ消えておらず、地面にぶつかりベルムートを中心にして周りに風が吹いた。
「うおっと!」
「っとと、私の風より強い?」
軽く驚きつつもイグニスとウィンディは吹き付けてくる風に負けないように踏ん張った。
「『風球』」
風に耐えるため一瞬2人の動きが止まったところでベルムートが魔法を唱えると、ベルムートの手から発射された空気の球が追い風に乗り、速さを上げてウィンディの胴体に直撃した。
「きゃああ!」
ウィンディは悲鳴を上げて、風に流されながら後ろに吹っ飛んだ。
「ウィンディ!」
ウィンディに向かってイグニスは声をかけた。
だがイグニスはすぐにキッとベルムートに視線を戻した。
風は既に止んでいる。
「『大火球』!」
イグニスが杖を構えて魔法を唱えると、イグニスの持つ杖の先端に埋め込まれていた魔石が輝き、大きな火の球がベルムート目掛けて発射された。
「『水渦』」
ベルムートは魔法を唱え、手から水の渦を生み出し、大きな火の球を削り散らした。
「てやあああああ!」
大きな火の球と水の渦が消え去ると同時に、杖を振りかぶるイグニスが飛び出してきた。
大きな火の球の後ろに隠れてついて来ていたらしい。
「『防御殻』」
ガキィン!
イグニスによって振り下ろされた杖はベルムートの張った障壁に弾かれ、イグニスは大きくのけ反った。
「なっ!?」
当たったと思った攻撃がまったく通用せず、イグニスが驚きの表情を浮かべた。
「『水球』」
ベルムートは障壁を解除し魔法を唱え、がら空きになったイグニスの胴体目掛けて水の球を撃ち出した。
「ぐあはっ!」
水の球が直撃し、イグニスを弾き飛ばした。
「うりゃあ!」
イグニスと入れ替わるようにして、『疾風』の魔法を使い風の勢いを利用して加速していたウィンディが杖を前に突き出してベルムートに突撃してきた。
「ふん」
ベルムートはその突き出された杖を無造作に掴んだ。
「うそ!?」
ウィンディが目を見開いて驚く。
「そら!」
そのまま突撃の勢いを殺さず、ベルムートは杖ごとウィンディを振り回して力任せにぶん投げた。
「きゃああああ!?」
ウィンディは宙を舞い、イグニスのところまで吹っ飛んだ。
(最後まで杖を手離さずにいたのは意地だったのだろうか? だとしたら、ウィンディはなかなか根性があるな)
ベルムートは感心した。
「ウィンディ、大丈夫か!?」
「いったー……なんであれが通用しないの!?」
「大丈夫そうだな」
心配そうに声をかけたイグニスだったが、ウィンディが大丈夫そうだと分かってイグニスはほっとした。
「あいつちょっと普通じゃないな」
「そうだねイグ兄」
今までの攻撃が通用せず、イグニスは愚痴っぽく話し、ウィンディはそれに同意した。
「こうなったら、あれで一気に決めるか」
「それしかないよね」
このままじゃ埒が明かないと思ったイグニスとウィンディは勝負に出ることにした。
立ち上がって、イグニスとウィンディは魔力を溜め始めた。
「いくぞ! ウィンディ!」
「OKイグ兄! 全力全開!」
十分に魔力を溜め終わった2人は杖を構えた。
「『火螺旋』!」
「『強風渦』!」
2人の持つ杖にある魔石が一際強い輝きを放ち、炎の渦と風の渦が解き放たれた。
その火と風の渦は、まるでもともとひとつであったかのように、自然に重なり合い、混ざり合い、より大きな渦となっていき、やがて完全にひとつとなった。
「「『炎嵐』!」」
そして、2つの属性が組み合わさったことで混合魔法となり、魔法が昇華されて威力が跳ね上がった。
火と風がひとまとまりとなり、岩をも融かし吹き飛ばす炎の嵐となってベルムートに襲い掛かってくる。
「やるな」
ベルムートの視界をすべて埋め尽くすかの如く迫る炎の嵐。
当たればさすがのベルムートでも焼き吹き飛ばされるだろう。
しかし、いくら息の合った2人とは言え、ひとつの魔法を2人で使っている以上どうしても綻びが出る。
ベルムートはその綻び……魔力の薄い部分を魔力眼で見つけ神経を研ぎ澄ましてそこ目掛けて魔法を放った。
「『大光球』」
人ひとり分の大きな光の球が、炎の嵐の真ん中を貫通した。
ベルムートが手加減したので、大きな光の球はイグニスとウィンディの元にたどり着く前に消えた。
しかし、炎の嵐の中に、人ひとりが通れるほどの道となった穴が空けられた。
「『防御殻』」
その穴が塞がる前にベルムートは全身を覆うように魔力の障壁を張り、炎の空洞を駆け抜けていった。
何枚かの魔法障壁が砕け散る。
そして、ベルムートはぶわっと炎の嵐をかき分けて、イグニスとウィンディの目の前に現れた。
「なっ!」
「どうして!?」
イグニスとウィンディはギョッとした。
「隙有りだな」
ベルムートは杖を構えているイグニスとウィンディの手首を掴んだ。
「『静電気』」
突然のことで反応できない2人をよそに、ベルムートは魔法を唱えた。
「「あばばばばばばばばば!」」
微弱(?)な電流がイグニスとウィンディの全身を駆け巡り、イグニスとウィンディはガクッと体の力が抜けて倒れた。
どうやら気絶したらしい。
イグニスとウィンディが倒れたことで、炎の嵐がやんだ。
炎の嵐が晴れた後には無傷のベルムートだけが立っていた。
「そ、そこまで! 勝者ベルムート!」
それを見て、ザックが宣言した。
まあ、その宣言を聞いているのはベルムートとルリアしかいないが。
「何枚か魔法障壁を持っていかれたが、炎の嵐を突破する際のダメージはないようだな」
ベルムートは素早く自分の体を確認した後、サッと屈んでイグニスとウィンディの状態を確認した。
「脈はあるな。外傷もほとんどない」
イグニスとウィンディは気絶しているだけで、命に別状はないようだ。
「ふー……。なんとか殺さずに無力化できたようだな。危ない危ない」
ベルムートは手加減がうまくいったことを喜んだ。
「すげぇな、まさかあの2人を倒しちまうなんてな……」
固唾を飲んで見守っていたザックが、ベルムートに近づいてきて健闘を称えてくれた。
(ついでにこのまま『能力鑑定』の魔法で2人のことを調べてみるか)
ベルムートはイグニスとウィンディの体に触れて魔法を使った。
(魔力量は2人ともアンリの2倍くらいあるな。適性属性はイグニスが火、ウィンディが風か。2人とも適性属性は1つだけのようだな。2人とも特殊能力は持っていないか)
ベルムートは一通りイグニスとウィンディについて調べ終えた。
(まあ、アンリとエミリアを倒したとはいえ、この程度なら魔王の前に連れて行くほどではないな)
伸びしろのあるアンリはともかく、イグニスとウィンディはベルムートの求める強さに届いていないようだった。
「ふーむ……それで、この後どうする?」
とりあえずベルムートは、ザックとルリアに問いかけてみた。
この場では今、4人も眠ってしまっている。
「どうするって言われてもなぁ……こいつらが目を覚まさないことにはどうしようもねぇな」
「こやつらが起きるまで待つしかないだろう」
「やはりそうか……」
ザックとルリアの返答を半ば予想していたベルムートも同じ意見だった。
「まあ、急いでいるわけでもない。少し待つくらいは問題ないだろう」
ベルムートはここで4人が起きるまで待つことにした。
「そういえば、魔物が壁の内側にまで入ってきていると言っていたな?」
ベルムートはザックに尋ねた。
「ああ、あそこの紫ゴブリンの空けた壁の穴から魔物が入ってきてるんだ」
ベルムートが見ると、ザックの言う通り、確かにところどころ壁に穴が空いていた。
そこから、ベルムートが視線を上げると遠くに妙なものが見えた。
「あれはなんだ?」
「ん? どれだ? ……へ?」
ベルムートの示す先を見たザックが素っ頓狂な声を上げた。
ベルムートの目線の先には、王都に向かって歩いている巨大な紫ゴブリンがいた。
紫ゴブリンの腰の位置と壁の高さが同じくらいだ。
とてつもなくデカい。
森でベルムートたちが戦った紫ゴブリンの比じゃない大きさだ。
あの紫ゴブリンにしてみれば、王都なんて庭くらいの大きさにしか感じないだろう。
「な、ななななんだありゃあ!?」
サックが慌てている。
「デカいな」
ルリアも気付いて目を見張った。
「あそこまで大きくなるのか」
「暢気に言ってる場合か!」
ベルムートが感想を述べると、ザックがつっこんできた。
あのままだと巨大紫ゴブリンによって王都がめちゃくちゃに破壊されてしまうだろう。
「仕方ない、倒してくるか」
ベルムートが呟いた。
「本気か!?」
ベルムートの呟きを聞きつけたザックが声を上げた。
「ああ」
ベルムートが頷くと、ザックが信じられないものを見たと言いたげな目をベルムートに向けた。
(王都で将来的に勇者が生まれるかもしれないしな)
ベルムートとしても勇者を探すのに支障が出るのは避けたかった。
「あんなデカブツいったいどうやって倒すってんだ!?」
「まあ、なんとかするさ」
ザックが声を荒げるが、ベルムートは気楽に受け答えた。
「心配しなくても、こいつはあの巨大紫ゴブリンよりもよっぽど恐ろしいから大丈夫だ」
「ルリア、その説明はどうかと思うぞ?」
「事実だ。問題あるまい」
ベルムートが抗議するも、ルリアはどこ吹く風といった態度だ。
「はあー……わかった」
ベルムートとルリアのやり取りを見たザックは諦めたように溜め息をついた。
「それと、そろそろ他の冒険者がどうなってるか見に行きたいんだが……こいつら放っておけねぇよなぁ……」
ザックは、眠っている4人を見回した。
「それなら、私がついでに冒険者たちの様子も見て来よう。何かあればすぐに戻ってくる」
「そうしてくれると助かるぜ」
ベルムートの提案にザックは感謝した。
「では行ってくる」
(アンリとエミリアをこの場に残していくのは不安だが、ルリアがいるから大丈夫だろう。ついでにザックもいるしな)
ベルムートはちらりとアンリとエミリアに視線を向けた。
「おう、こいつらのことは任せとけ!」
ザックが胸を叩いた。
「やりすぎるなよ」
ルリアがベルムートに釘を刺さしてきた。
「わかってる」
「本当か?」
「なんだその疑いの眼差しは? さっきもちゃんと手加減できていただろう?」
「あれで手加減してたのか……?」
ルリアはなんともいえない表情になった。
「まあ今更か……後始末はちゃんとしろよ?」
「……ああ、わかっている」
ベルムートは釈然としない表情を浮かべたが、すぐに真剣なものへと切り替えた。
「『飛行』」
そして、魔法を唱えたベルムートはひとり、巨大紫ゴブリンに向かって飛び立った。
次回はまた別の人視点です。




