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紫ゴブリンの殲滅

前回のあらすじ。

冒1「紫ゴブリンがあんなに……!」

冒2「もうダメだぁ……おしまいだぁ」

ザ「頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって!やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ!そこで諦めんな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る!畑の壁だって頑張ってるんだから!」



 王都の農耕地帯を囲う壁の周りには、もとから地面が紫だったかと錯覚するほどの無数の紫ゴブリンがひしめいていた。

 壁の上から冒険者と思しき者たちが魔法で紫ゴブリンたちを攻撃しているが、焼け石に水といった様子だ。


「ふーむ……大変そうだな」


 必死の形相で魔法を唱える魔法使いたちを見ながらベルムートは呟いた。


「うわぁ……」


「なんなのこの数は……!?」


 あまりの紫ゴブリンの多さに、アンリとエミリアは呆然と立ち尽くしている。


「あれがお前の言っていた紫色のゴブリンか?」


「ああ」


 ルリアが聞いてきたので、ベルムートはそれを肯定した。


「見た目はゴブリンに見えるが、あれはゴブリンじゃないな」


「やはりな」


 ルリアが断定する。

 半ば予想していたことなのでベルムートに驚きはない。


「であれば、なんだと思う?」


「わからん。たぶん茄子じゃないか?」


「やっぱり!」


「絶対違うわよ!」


 納得するアンリに、エミリアが突っ込んだ。


「まあ茄子かどうかはどうでもいいんだが……ゴブリンの姿である以上、我の目の届く範囲で好き勝手されるのは見過ごせないな」


 ルリアは少し悪い笑みを浮かべてそう言った。

 とはいえ、ルリアは見た目子どもなので、あまり悪そうな笑みには見えない。

 せいぜいがちょっとした悪戯を企んでいる程度の表情だ。


「出でよ! 雷の槍騎士!」


 ルリアの掛け声と共に紫ゴブリンの大群の真上に現れた10人の黄色いゴブリンが、急降下して紫ゴブリンの大群に突っ込んだ。


 バリバリ!


 黄色いゴブリンが、手に持つ槍から激しく音を轟かせながら強烈な雷を放つと、着地点にいた紫ゴブリンがまとめて弾け飛んだ。


 ルリアの特殊能力ユニークスキルである『軍団創造』によって召喚された雷ゴブリンは、背丈は人間の大人と同じくらいあり、手足が長くひょろ長い印象で、手には槍を持っている。


 『軍団創造』は、魔力と想像力があれば、強力な軍団を召喚できるかなり反則的な特殊能力ユニークスキルだ。

 しかし、ルリアはゴブリンに誇りとこだわりを持っているので、ゴブリンの軍団しか創造しない、というかルリア自身が強いイメージを持っているゴブリンでなければまともに召喚すらできない。

 『軍団創造』は、使用者の想像力によって軍団の強さが左右されるのだが、その点に関してはルリアはもう既に超克しており、なんら問題はない。

 むしろ、強すぎるくらいだ。


「ナァーハッハッハッ! いいぞ! 紫のやつらがゴミのようだ!」


 現に今も、10人の雷ゴブリンが紫ゴブリンの大群の中を冒険者たちの魔法が来る場所を避けながら高速で縦横無尽に駆け巡り、次々に紫ゴブリンを駆逐していっている。


「ルリアちゃん、本当に手加減してたんだ……」


「私、あんな理不尽なのと戦ってたのね……」


 雷ゴブリンたちによってもはや紫ゴブリンの屠殺場と化した戦場を見たアンリとエミリアが呟いた。


「これだけしか召喚しないのか? もっと数に物を言わせた戦法をとると思っていたんだが」


 先ほどアンリとエミリアと戦ったとはいえ、ルリアはまだまだ魔力に余裕があるはずだたまベルムートは考えていた。

 不測の事態に備えて温存するとしても、雷ゴブリンであればあと100体くらいは何の問題もなくルリアは召喚できるだろう。


「何を言う。すぐに片づけてしまうのはもったいないじゃないか。これだけの数がいるんだ、少しは楽しまないと損だろう?」


 ルリアは喜々として語った。


「なるほどな」


 ベルムートは納得はしたが同意したわけではない。

 紫ゴブリンの分析は終わっているので、ベルムートとしては無駄なことはせずちゃちゃっと倒してもらいたいと思っている。


 すると、ルリアのプレッシャーに反応して一部の紫ゴブリンたちが振り返ってこちらに視線を向けてきた。

 それをきっかけに、ベルムートたちの存在に気付く紫ゴブリンたちが徐々に増えていき、一斉にこちらに向かって迫ってきた。


「――ろ!」


 壁の上から誰かが叫んでいる。


(ん……? どこかで見たことがあるような気がするが、遠くてよくわからないな。まあ、いいか)


 とりあえず今はそのことは置いておいて、ベルムートは目の前に迫る紫ゴブリンたちを殲滅するべく魔法を唱えた。


「『火高波ファイアハイウェイブ』」


 突如地面から噴き出るように出現した火の波は広範囲に広がっていき、ベルムートたちに近づいて来ていた紫ゴブリンたちを容赦なく呑み込んでいった。


「くそっ! 先を越された!」


 それを見たルリアは悔しがっていた。


「目の前が火の海になった!?」


「先が何も見えないんだけど!?」


 アンリとエミリアは視界が真っ赤に染まってちょっとしたパニックに陥っていた。


 火の波が無くなった後には、あれだけいた紫ゴブリンたちは跡形もなく消え去り、地面は焼け焦げ、ところどころ結晶化していた。


「ふーむ……少しやりすぎたか?」


「全然少しじゃないわよ……」


 ベルムートの言葉に反応して、エミリアがこの惨状を見て疲れたように言った。


「すごい! 紫ゴブリンがいなくなってる! それに地面がなんかすごいことになってる!」


 アンリは大きく目を見開いて驚いていた。


「ナァーハッハッハッ! 私も負けてられないな!」


 やる気を出したルリアは、雷ゴブリンたちの速さをさらに上げて、紫ゴブリンを瞬く間に倒していった。


 こうして、ベルムートとルリアによって、ベルムートたちの前から壁までの紫ゴブリンはすべて排除され、元の地面を取り戻した。

 ……まあ、若干焦げたりしているのはご愛敬ということにしてもらいたい。


「おーい! そこのお前ら!」


 壁の方から誰かが声を上げながらベルムートたちのところに向かって駆けてきている。

 さっき壁の上で叫んでいた冒険者のようだ。


「おっ! あんたはこの間の! ベルムートとアンリじゃねぇか!」


 ベルムートたちの目の前までやってきた冒険者と思しき男は、ベルムートとアンリを見つけるやいなや驚きながらも声をかけてきた。


「んー……? 誰だお前は?」


 見覚えがある気はするが、思い出せなかったベルムートは男に聞いてみた。


「かーっ! 覚えてないか? ほら、冒険者ギルドで盗賊に会ったって話をしてただろう?」


 そこまで言われてようやくベルムートは思い出した。


「ああ、あの時の」


(確か、王都の冒険者ギルドで親切にいろいろと教えてくれた冒険者だな)


「しかし、一度会っただけなのによく顔と名前を憶えていたな」


「人の顔と名前を覚えるのは得意なんだよ」


 冒険者の男は得意気に鼻を擦った。


「そっちの……2人は初めましてだな。俺はザックっていうんだ。よろしくな」


 そう言ってザックはルリアとエミリアに挨拶した。

 ザックはルリアの緑色の肌が少し気になるようで、若干言葉に詰まった。


「うむ。我はルリアだ」


「エミリアよ。こちらこそよろしく」


 ルリアは大仰に頷き、エミリアはにこやかに挨拶仕返した。


「それで、何か用か?」


「ああ、あんたたちに紫ゴブリンを倒してくれた礼を言おうと思ってな。助かったぜ」


 ベルムートが尋ねると、ザックが礼を言ってきた。


「礼には及ばない」


「やっぱりさっきのはあんたたちがやったのか」


 ベルムートの言葉を聞いて、ザックはしてやったりといった顔をした。


(どうやらカマをかけられたようだが……まあ、別に知られて困るようなことではないので別にかまわないんだが)


 ベルムートは特に気にしていなかった。


「騎士団は来ていないんですか?」


「ああ、一応連絡は入れたんだが、まだ来てないな」


 エミリアが尋ねると、ザックが答えた。


「そうですか……。いったい騎士団は何をしているの?」


 それを聞いたエミリアは、一言発した後に首を傾げた。


 するとそこへ、


「あ~あ、せっかくここまで来たってのに紫ゴブリンもういないじゃんか!」


「私たちの獲物だったのにねー!」


 なんかわざとらしい大きな声で会話をしながらがベルムートたちに近づいてくる2人の男女の姿が見えた。



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