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ゴブリンプリンセスとの対話

遅くなったのは、決して執筆せずに他の人の作品をガン読みしていたからじゃありません!

ええ、決して!



前回のあらすじ。

ア・エ「ベルえも~ん。魔力がなくて力が出ないよ~」

ベ「もう、しょうがないな~アンリとエミリアは~。そんなときはこれ! タララタッタラー。ま~ほう~すい~」

ア・エ「なぁに~それ~?」

ベ「これは魔法水といって、飲むとたちまち魔力が回復するんだよ!」

ア・エ「すご~い! ゴクゴクゴク! ぷは~これで元気百倍だね!」


エ「きゃあ! もう魔力が……」

ア「よくもやったな! 許さないぞ白ゴブリン! だぁ~く、ぼぉーーーる!」

白「サヨナラ!」

ワザマエ! 白ゴブリンはしめやかに爆発四散!

エ「やったわねアンリ! 白ゴブリンを倒したわ!」

ア・エ「あっ! でもまだ後ろに何かいる! と思ったら死んでる!」

ベ「もう、詰めが甘いんだからアンリとエミリアは~」

ア・エ「ありがとうベルえもん! とりあえず回復薬と魔力水頂戴!」


 

 ベルムートの放った10発の『光球ライトボール』によって2体の黒ゴブリンはそれぞれ5つの風穴を空けて倒れた。


「ナ、ナァーハッハッハッ! し、試練は合格だ!」


 彼女の宣言によって今度こそ本当に戦闘が終了した。


「ぐあああああああああ!!」


 すると、突然エミリアが叫び出し、頭を抱えて蹲った。


「ど、どうしたのエミリア!? しっかりして!」


 アンリは困惑しながらエミリアに近づき呼びかける。

 エミリアは特殊能力ユニークスキルと『身体強化ストリングゼンボディ』を併用しながらかなりの無理をして戦っていたので、その反動で激しい頭痛と吐き気に苛まれていた。

 アンリもかなり疲労しているが意識はハッキリとしている。


「し、師匠! なんとかならないの!?」


 苦しむエミリアを見ていられずアンリはベルムートに助けを求める。

 回復薬は傷を治すことはできるが、体力的または精神的疲労までは回復しない。

 こういう場合は魔法を使った方がいいだろう。

 回復魔法なら回復薬と違って傷を治すだけではなく、若干だが疲労を回復することも出来る。


「わかった。とりあえず試してみよう。『大回復グレートヒール』」


 ベルムートはエミリアに向かって手をかざし魔法を唱えた。

 青い顔で大量の汗を流しながら苦痛に歪んでいたエミリアの表情が少し和らいだ。


「エミリア!」


「ハァ……ハァ……大丈夫よアンリ……ベルムートもありがとう……」


 息も絶え絶えといった様子のエミリアだが、なんとか持ち直したようだ。


「おーい。どうしたんだー? いつまで我を待たせるつもりだー?」


 上から彼女の声が降ってくる。


 アンリは辛うじて歩けるようだが、エミリアは歩けそうにない。

 

(仕方ない、私が階段の一番上まで2人を連れて行ってやるとしよう)


 ベルムートはそう決めた。


「今行く。もう少し待っていろ」


 彼女にそう告げて、ベルムートはアンリとエミリアを抱き寄せた。


「ちょ、ちょっと師匠!」


「……」


 何の断りもなく急に抱え上げられてアンリは抗議した。

 エミリアはぐったりとして為されるがままだ。


「『飛行フライ』」


 そんなことは気にせずにベルムートは2人を抱えたまま魔法を唱えた。

 すると風が吹き、ベルムートたちの体が空中に浮いた。


「え……」


 アンリが目を点にして声を漏らしている間にもぐんぐんと上昇していき、そのまま階段の頂上まで辿りついたところでベルムートは魔法を解除して抱えていた2人を降ろした。


「来たぞ」


 ベルムートは彼女に声をかけた。

 ベルムートの目の前にいる彼女は見た目10歳ほどでアンリよりも背が低い。

 その彼女の大きさに合わせて尚且つ威厳を保てるように作られた特注の玉座に彼女は腰かけている。

 しかし、彼女の側に立っている、人間の大人の2倍の大きさはあるゴブリンキングとの対比で、本来の大きさよりもさらに彼女が小さく見えた。


「うむ。よく来――」


「うわぁ! かわいい!」


 彼女が何事か言う前に、突然アンリが彼女に抱き着いた。


「や、やーめーろー! はーなーせー!」


 頬ずりするアンリを、彼女は嫌そうに一生懸命押しのけようとしているが、まったく引き剥がせていない。

 さっきの召喚されたゴブリンとは違い、彼女本人の力は大したことないのでアンリにされるがままの状態だ。

 威厳も何もあったものじゃない。

 そんなアンリと彼女の様子を、側にいるゴブリンキングは羨ましそうに見ている。


「……遠いから小さく見えるのかと思ってたけど、本当に小さいのね」


「ああ」


 エミリアが感想を呟き、ベルムートがそれに返事をした。

 エミリアは成り行きを見守る姿勢のようだ。

 エミリアは動くのもきついのだろう。


「……本当にこの子が魔王軍幹部なの?」


「そうだ。さっきまで戦っていただろう?」


「それはそうだけど……信じられないわね」


 エミリアは、先ほどの激闘を繰り広げた大きな力を持つゴブリンと、目の前の小さな少女が結びつかずに困惑していた。


「見てないでなんとかしろ!」


 キレた彼女の命令を受けて、側にいたゴブリンキングがアンリの両脇を抱えて持ち上げ、彼女から引きはがした。


「あー……」


 アンリは名残惜しそうなままゴブリンキングに連れていかれた。

 ゴブリンキングは、そのままアンリをベルムートのところまで持ってきて降ろすと、また元の立ち位置に戻っていった。


「ふー……」


 アンリから解放された彼女が一息吐いた。


「では、約束通り話を聞いてもらおうか」


「うむ、話を聞い――」


 ベルムートが仕切り直すように話しかけて、彼女がそれに応じようとした時、「ぐー」と誰かのお腹の鳴る音が聞こえた。

 今の時間は、昼を少し過ぎた頃だろうから、お腹が空いたのだろう。

 周りを見ると、お腹に手を当てて恥ずかしそうにしているアンリにみんなの視線が集中していた。


「はあ……その前に食事にしよう」


「ああ」


「そうね」


「うん!」


 どこか気が抜けたように言う彼女にみんな頷いた。


「出でよ! 闇の影騎士!」


 彼女が宣言すると彼女のすぐそばに黒いゴブリンが姿を現した。

 黒ゴブリンは水ゴブリンよりも小柄で素早く、武器は短剣を装備している。

 さっきの戦闘の際、彼女の宣言がないのに黒ゴブリンが現れたのは、あらかじめ見張りとして召喚されていたからだったのだが、ベルムートが倒してしまったので新たに呼び出したようだ。


「「!」」


 唐突な黒ゴブリンの登場にアンリとエミリアは身構えた。

 さっきは不意打ちされたし、今は戦闘ができるような状態ではないので警戒しているようだ。


「食事を用意しろ」


 彼女が黒ゴブリンに告げると、黒ゴブリンは影に溶けるようにその場からいなくなった。


 すると、彼女は玉座から立ち上がった。


「この場所の片づけと修復を頼んだ」


 彼女が側に侍るゴブリンキング2人に命じると、ゴブリンキング2人はさっそく作業に取り掛かるため階段を下りていった。


「付いて来い」


 彼女はベルムートたちにそう言うと、玉座の後ろにある隠し扉のようなものを開けて入っていった。


 ベルムートたちもエミリアを支えながら彼女の後に続いて扉に入ると、中はこの建物に入った時と同じような造りで、天井、床、壁を緑の石に囲まれた廊下になっており、壁にかけられた普通の松明の明かりが照らしていた。


「かわいいなー」


 小声でそう言うアンリは、小さな足で前を歩く彼女を見て笑顔になっている。

 エミリアの体を支えていなければ今すぐにでも彼女に飛びつきそうなほどアンリのテンションが上がっている。


「……えーっと……あなたの名前は何ていうのかしら?」


 そんなアンリから視線を逸らしてエミリアが遠慮がちに彼女に尋ねた。


「うん? ああ、まだ名乗っていなかったな」


 そう言って彼女は立ち止まりこちらに振り返った。


「教えてしんぜよう! よく聞くがいい! 我こそが! あまねくゴブリンを束ねる偉大なる存在! ゴブリンプリンセスのルリアだ!」


 ルリアがドヤ顔で名乗りを上げた。


「え……」


「かわいい!」


 エミリアはルリアの勢いに押されて呆気にとられており、アンリはキラキラとした眼差しをルリアに送っている。


「ナァーハッハッハッ!」


 名乗りを上げて満足したのかルリアは笑顔を浮かべて再び前を向き歩きだした。


 途中階段を下りたりしたが、ほどなくして食堂まで辿りついた。

 食堂も天井、壁、床に緑の石を使っているようだが、机や椅子は普通に木で出来ている。

 何人もが同時に囲んで食事ができるような大きな机があり、その上座にルリアが腰かけた。

 ルリアの座っている椅子はこれまた特注で、机に合わせて足が長く、背の低いルリアでも座る位置まで上れるように出来ていた。


「突っ立っていないで、座ったらどうだ?」


「ああ」


 机の高さもベルムートたちにとっては特に問題はなく、椅子の大きさもルリアの椅子とは違って普通だったので、ルリアに促されてベルムートたちも席に座った。

 席に着くとすぐにコック帽を被った緑のゴブリンによって食事が運ばれてきた。

 森の奥とは思えないほど豪華な食事だ。


「え? コックさん?」


 清潔そうな身なりで料理人の格好をしたゴブリンを見てアンリは首を傾げた。


「そうだぞ。こいつは普通のゴブリンなんだが、料理に興味があったみたいでな。修行を積んで今ではここの料理長を務めている」


 アンリの質問にルリアが答えた。


「料理長のディックです。よろしくお願いします」


「よろしくお願いし……え? あなたも話せるの?」


「はい」


 ディックに挨拶されて挨拶仕返そうとしたアンリが疑問の声を上げ、それにディックが返事をした。


「この城に住んでいるゴブリンは他の場所にいるゴブリンと違って皆知能が高いからな。言葉を解せるのは当たり前だ」


「そうなんだ」


 ルリアが自慢気に話すとアンリが相槌をうった。


「では、ごゆるりとお楽しみください」


 ディックは一礼して食堂から出ていった。


「さて、改めて自己紹介といこうか。我はこの城の主で魔王軍幹部の1人、ルリアだ」


「えーと……私はアンリ」


「エミリア・ストロングウィルドよ」


「ベルムートだ」


 ベルムートたちがお互いに自己紹介をすると、ピクッとルリアの眉が動いた。


「お前……もしかして本物のベルムートか?」


「そうだ」


「見た目変わりすぎだろ!」


「いや、色を変えただけで、ほとんど変わってないんだが……」


「色を変えたらもう別人じゃないか!」


「そういえば、さっき私のことを黒くて禍禍しくて怖いとか言っていたな?」


「なっ!?」


 ルリアの血の気がサーッと失せた。


「え、えーと……それはだな……」


 動揺したルリアは、視線を彷徨わせた後、アンリとエミリアの方を向いた。


「ま、まあとりあえず食事でもしながらゆっくり話を聞こうじゃないか」


 そう言ってルリアは食事に手をつけた。


(逃げたな。まあ、いいか。私も食べるとしよう)


 ベルムートは料理に手を付けた。


「うまいな」


「おいしい!」


「え? ちょっとアンリ? ベルムート?」


「なんだ? 食べないのか?」


「エミリアが食べないなら、わたしがその分も食べる!」


「い、いえ、食べるわよ」


 一応少し警戒していたエミリアだったが、ベルムートとアンリが遠慮なく料理を頬張るのを見て、あきらめたように食べ始めた。


「これは……!」


 エミリアは料理を一口食べて思わず頬が緩んでしまっていた。


「いくらでも食べられるよ!」


 アンリも同じような顔をしている。


 それもそのはず、ルリアは数多くのゴブリンたちをまとめあげて部下とし、彼らを労働力として農業や畜産を行って魔王軍の食料の確保をほとんど一手に引き受けているので、自分のところに良質な食材を集めることなど容易にできるのだ。


「で、わざわざお前が我のところに直接出向いてまで聞きたいことっていうのは何なんだ?」


 ルリアは少し緊張した面持ちでベルムートに尋ねた。


「ああ、それなんだが、紫のゴブリンを知っているか?」


「ん? 紫のゴブリン? なんだそれは?」


 ベルムートが聞くと、ルリアがキョトンとして聞き返してきた。


「最近このあたりで問題になっている魔物だ。ここに来る前に遭遇した」


「そうなのか……詳しく聞かせてくれ」


 ベルムートはルリアに紫ゴブリンのことを一通り話した。


「……なるほど。それで我のところまできたのか」


「そうだ」


「残念ながら我は紫のゴブリンとやらのことは何も知らない。我の部下は緑のゴブリンしかいないからな」


「そうか。この周辺で見かけたこともないのか?」


「結界の中の見回りぐらいしかしていないからな。結界の外のことは知らん」


「ふーむ……」


 ゴブリンについてはルリアが一番詳しいのだが、特に情報は持っていないようだ。

 逆にそれが紫ゴブリンの怪しさを増長させている。


「だが、その紫のゴブリンのことは気になるな」


 ルリアは真面目な顔で言った。


「なら、実際に外に出て直接見てみるか?」


「……そうだな。久しぶりに我も外に出てみるか。ゴブリンプリンセスとして、その紫のゴブリンは見過ごせん」


 ベルムートの言葉に、少し考えた後ルリアは頷いた。


「それにしても………その2人はなんだ? 手加減していたとはいえ、我の召喚したゴブリンたちをことごとく退け、さらには白の勇者騎士まで倒してしまうとは思わなかったぞ」


「ああ、それについては私も驚いたな」


 勝てる可能性はあったが、勝率はかなり低かった。

 それなのに、白ゴブリンを倒してしまうとはベルムートも思わなかった。

 といっても、白ゴブリンは魔法を使わず近接攻撃しかしていなかったので、本来の強さではなかったが。


 それと、ここに来る前にベルムートが教えていた魔法を、アンリがある程度使えるようになっていたのにもベルムートは驚かされていた。


「しかし、お前も少しばかりやりすぎだったように思うが?」


「すぐに降参すると思っていたんだが、我の召喚したゴブリンをものともせずに戦ってるのを見ていたら、だんだん楽しくなってきてついな」


 ベルムートが咎めるように聞くと、ばつが悪そうにルリアが答えた。


「それに、召喚するゴブリンの数を制限したり、召喚したゴブリンはその場からあんまり動かないようにしたり、死なないようにちゃんと手加減して、なるべくあの2人が回復する時間を設けたりしたんだから別にいいだろう?」


 ベルムートの顔色を窺うようにルリアは話した。


「まあ、そうだな。お前のおかげでアンリとエミリアは強くなったことだし、一応礼を言っておく」


「ふふん」


 ベルムートの言葉を聞いたルリアは、無い胸を張った。


 その後も料理に舌鼓を打ち、食事が終わるとルリアを連れてベルムートたちは外に出た。



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