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VS ゴブリンプリンセス 前編

前回のあらすじ。

魔王軍幹部 の ゴブリンプリンセス が 勝負 を しかけてきた!



 突然ベルムートたちの目の前に現れた水ゴブリンは、アンリと同じくらいの背丈の一般的なゴブリンの姿をしていたが、青みがかった透明な体と、同じく手に持っている透明な棍棒が、普通のゴブリンではないことを物語っていた。


 だが、そんな水ゴブリンを気にする余裕がまったくないほどアンリとエミリアは冷や汗を流して焦っていた。


 それは、先ほど自分の立場を語った階段の上の彼女からひしひしと感じるプレッシャーが本物の魔王軍幹部だと、敵わない相手だとアンリとエミリアの本能が警鐘を鳴らしていたからだった。


 ベルムートはそんな身動きのできない2人を見て、彼女に提案することにした。


「威圧を抑えてくれないか? この2人が委縮してしまってまともに戦えそうにない」


 ベルムートの発言を受けた彼女は、階下のアンリとエミリアの様子を見て、ひとつ頷いた。


「おっと、それはすまない」


 彼女がそう言うと、今までアンリとエミリアの肩に重くのしかかっていたプレッシャーが嘘のように消え去った。


「あ……」


「……ふう」


 しかし、予想外の出来事にアンリは少し放心しており、エミリアは額に浮かんだ脂汗を拭っていた。


 それから、一呼吸置いたエミリアがきつい表情でベルムートを睨んできた。


「ちょっと! あなたの知り合いが魔王軍幹部だなんて聞いてないのだけれど!」


「聞かれなかったからな」


「それさっきも聞いたわよ! もう!」


 ベルムートが端的に述べると、エミリアは苛立ったように言葉を発した。

 かなり機嫌が悪いエミリアだが、プレッシャーから解放されて少し余裕が出てきたようだ。


(しかし、あいつにちょっと話を聞くだけのはずが、めんどくさいことになったな。まあ、今のところあっちはこちらを殺すつもりはないみたいだし、この機会を逆に有効利用するのも手か)


 ベルムートは思案してから口を開いた。


「ちょうどいい。アンリとエミリアの2人でやつの相手をしたらどうだ?」


「え!? 師匠は戦わないの!?」


 プレッシャーの影響から復活したアンリが目を丸くした。


「相手は魔王軍幹部なのよ!?」


 エミリアは信じられないといった表情でベルムートを見つめてきた。


「私たちが勝てるわけないでしょ!?」


「師匠も一緒に戦おうよ!」


 彼女と戦うことに対してエミリアは消極的のようだ。

 アンリは、ベルムートが戦わないことに驚いてはいるが、彼女と戦うこと自体には割と積極的なようだ。


「しかし、私が戦うと、この建物が崩落してしまうかもしれないぞ」


 ベルムートが言っていることは本当のことだ。

 ベルムートと彼女が本気で戦えば、この基地が壊れるのは確実だろう。


「ううぅ~……」


「そ、それは……」


 その光景を思い浮かべたのかアンリとエミリアの顔が青くなった。


「なあに、向こうも本気ではないようだし、2人ならなんとかなるだろう」


「何言ってるのよ! 無理に決まってるじゃない!」


 ベルムートが軽い口調で告げると、エミリアが叫んだ。


「やってみなければわからないだろう」


「無理よ!」


 ベルムートの言葉を聞いてもなおエミリアは首を横に振る。

 そこへ彼女が声をかけてきた。


「なんだ? 仲間割れか?」


「いや、お前の相手をするのはこの2人に任せようと思ってな」


「ちょっと!」


「まかせて!」


 ベルムートが彼女に答えると、慌てるエミリアとは対照的にアンリは胸を張って了承した。


「ほう……別に我は何人でかかってこようが構わないが、その2人に任せていいのか?」


「私が戦うと、この建物を跡形もなく壊してしまいそうだからな」


「ナァーハッハッハッ! なかなか面白いことを言うな貴様」


 彼女の発言に対してベルムートが返答すると、心底おかしいという風に彼女は笑った。


「なら、貴様は戦いの余波で巻き添えをくらわんように、そこでおとなしくしていることだ」


 言い方は傲慢だが、彼女はベルムートを気遣うようなことを言った。

 根は優しいようだ。


(とはいえ、力があるのも事実だ)


 ベルムートは少し考えを巡らせた。


「お前たちにはこれを渡しておこう」


 念のためベルムートは魔王軍特性回復薬を2人にいくつか渡した。


「ありがとう師匠!」


 アンリは嬉しそうに回復薬を受け取った。


「……何これ?」


「回復薬だ」


「え!? 回復薬って、1本で豪邸が建つくらいのものすごく高価なやつでしょ!? それがこんなに……」


「値段は知らんが持っておけ」


「え!? あなた値段知らないの!?」


「ああ、支給品だからな」


「支給品って……」


「なんだ、いらないのか?」


「い、いるわよ! ありがたくもらっておくわ!」


 エミリアは震える手で回復薬を受け取った。


「まあ、回復薬は気休めだ。さすがに、お前たちが危なくなったら助けに入るさ」


「なら、思いっきり動けるね!」


 アンリはやる気十分だ。


「やっぱり納得いかないわ……なんで私があんな化け物と戦わなきゃいけないのよ……」


「この戦いが終わったら、渡した回復薬はすべて譲ろう」


「え!? 本当に!?」


「ああ」


「しょ、しょうがないわね! 戦うわよ! 戦えばいいんでしょ! もう!」


 エミリアは恨みがましい目でベルムートを見てきた。


「行くよエミリア!」


「はあ……仕方ないわね……」


 喜々として鋼鉄の剣を構えるアンリを横目に、エミリアはしぶしぶ細剣を構えて水ゴブリンに対峙した。


「話はまとまったようだな。では、始めるとしようか!」


 彼女のその言葉を合図に、これまでずっと静観していた水ゴブリンが動き出した。



 ◇ ◇ ◇



「『身体強化ストリングゼンボディ』!」


 アンリは、すかさず魔法を唱えて水ゴブリンに切りかかって行った。


「やあああ!」


 アンリの方が圧倒的に水ゴブリンよりも動きが速く、水ゴブリンに何もさせる暇を与えずに、アンリの振り抜いた剣が水ゴブリンの体を切り裂いた。


 ズバシャアン!


 水ゴブリンは体を通る剣によって水しぶきを上げ、剣を受けた場所が大きく抉れた。


「まずは1体!」


 そう言って他の水ゴブリンに狙いを定めようとしたアンリだったが、さきほど切りつけたはずの水ゴブリンが何事もなかったかのようにすぐに元の姿形へと戻るのをアンリは目撃した。


「うわ! 戻った!」


 驚くアンリに対して、もう1体の水ゴブリンが透明な棍棒を振り回してきた。

 まともにくらえば最低でも打撲は確実だろう。


「当たらないよ!」


 しかし、いくら気を取られていたとはいえ水ゴブリンとアンリの身体能力の差は歴然で、容易くその攻撃をアンリは躱した。

 

「やあ!」


 ズバッシャアン!


 お返しにアンリが切り返すと水ゴブリンは棍棒で防御するような構えをとったが、棍棒も水で出来ていたのでそのまま剣で貫かれ体と共に水しぶきになって飛び散った。

 そしてまた、その水ゴブリンも何事もなかったかのように棍棒と共に元の姿形へと戻った。


「これじゃきりがないよ!」


 アンリは2体の水ゴブリンを見やって、不満をぶつけた。


 一方のエミリアもアンリと似たような状況に陥っていた。

 そして、いつの間にかアンリとエミリアそれぞれが水ゴブリンを2体ずつ相手取る形になっていた。

 つまり、2対1の戦いだ。


「はぁっ!」


 エミリアが水ゴブリンに対して細剣を走らせた。


 ズバシャン!


 細剣が水ゴブリンを切り裂いて、水飛沫が舞った。

 だが少し経つと、傷を受けたのが嘘のように、水ゴブリンはもとの姿へと戻った。


「見た目通り、普通のゴブリンじゃないわね」


 何か弱点になる箇所がないかと水ゴブリンの体のいたるところに攻撃をして弱点を探っていたエミリアだったが、特に収穫は得られなかった。

 しかし、エミリアはこの水ゴブリンを倒す手段をひとつ思いついていた。


「そっちがそう来るなら、こっちにも考えがあるわ」


 そう言うとエミリアは棍棒で殴りかかってくる水ゴブリンの攻撃を躱しざまに相手の体に深々と細剣を突き刺して魔法を使った。


「『氷結フリーズ』!」


 細剣から放たれた氷魔法によって水ゴブリンの体が内部から凍らされ、全身がカチコチに固まり水ゴブリンの動きが完全に止まった。


「はぁあっ! ふん!」


 そしてエミリアは水ゴブリンの体に突き刺さっている細剣を引き抜いた動作を利用して体を捻り、その勢いのまま放った蹴りで凍った水ゴブリンを粉々に砕いた。


「……よし!」


 エミリアは散らばった氷の破片を観察し、水ゴブリンが復活する様子がないのを確認した。


「これならいけるわ!」


 エミリアは残りの3体の水ゴブリンもすべて氷魔法で凍らせて砕いて倒した。


「ナァーハッハッハッ! やるではないか!」


 水ゴブリンをすべて倒されたにも関わらず、嬉しそうに彼女は声を上げた。


「すごいよエミリア!」


 アンリは、喜びを露わにしてエミリアに飛びついた。


「魔王軍幹部だって聞いてたから身構えてたけど……思ってたほどたいしたことなかったわね」


 エミリアは肩透かしをくらったような感覚だった。


「さあ、試練はクリアしたわよ?」


「試練をクリアした? 我の課す試練がこれで終わりなわけがないだろう」


「……まあ、そうよね」


 エミリアは苦笑した。


「でも、この調子なら何が来てもいける気がするわね」


「うん!」


 エミリアは拳を握り笑みを浮かべ、アンリは元気よく返事をした。


「果たしてそう上手くいくかな? 出でよ! 火の砲撃騎士!」


 彼女の掛け声と共に4体の赤いゴブリンが下段の階段上に横一列に並んで現れた。

 赤い火ゴブリンは、水ゴブリンと同じぐらいの体躯だが、火ゴブリンの方が体に対して首が太く顔がでかい。


「赤いゴブリン?」


「何をしてくるのかしら?」


 新たに現れた火ゴブリンに視線を向けたアンリとエミリア目掛けて、4体の火ゴブリンはパカッと開けた口から一斉に火の球を吐き出した。


「そんなの私でも避けられるよ!」


「この程度なら掠りもしないわ」


 アンリとエミリアは火の球に臆することなく、4発とも躱して階段に接近していった。


「ナァーハッハッハッ! まだいくぞ! 出でよ! 岩の重騎士!」


 彼女の掛け声と共に4体の茶色いゴブリンが階段の手前に出現した。


「うわっ! おっきい!」


「道を塞がれたわね」


 茶色いゴブリンは、火ゴブリンを倒そうと走っていたアンリとエミリアの行く手を阻んだ。


 茶色い岩ゴブリンの背は人間の大人より少し高く、横幅は人間の大人2人分もあり、腕も足も太く筋骨隆々の逞しい体を連想させる姿だが、全身岩で出来ている。


「正面からの突破は難しそうね……」


 そう呟いて火の球を躱しながら考え込むエミリアだったが、階段の前に陣取る岩ゴブリン達の両端が空いていることに気付いた。


「端からならいけそうね……よし! アンリ! 少しの間あの茶色いゴブリンを引き付けておいて!」


「わかった!」


 アンリに指示を出したエミリアは、岩ゴブリンの後ろから絶え間なく降り注ぐ火ゴブリンの火の球をくぐり抜け、岩ゴブリンの脇を抜けて横から階段をのぼろうとした。

 しかしその時、


「そこは通さんよ。出でよ! 風の弓騎士!」


 彼女の掛け声により、火ゴブリンの上の段に4体の緑のゴブリンが現れた。

 普通のゴブリンよりも透き通った緑の風ゴブリンは、水ゴブリンと同じような体躯だが、風ゴブリンの方が腕が引き締まっており、長髪が揺れている。


 そして、その風ゴブリンたちは風の矢をつがえ、脇から階段を上ろうとしていたエミリアに向かって一斉に風の矢を解き放った。


「ちょっと! 危ないわね!」


 エミリアは悪態を吐きながらも、特殊能力ユニークスキル怜悧れいり倍旧ばいきゅう』を使って思考を加速させ間一髪それらを躱した。

 だが、風の矢が纏っていた風の力の余波でエミリアは吹き飛ばされ階段から遠ざかった。


「うわっ! っと」


 なんとか無事に着地したエミリアの所へ、今度は岩ゴブリンがエミリアに向かって拳を振り下ろしてきた。


「まずい!」


 ズガァン!


 岩ゴブリンの拳が地面を打ち、大きな音を立てて床にヒビが入った。


「危なかったわ……」


 大きく飛び退いて床を転がり、どうにか先ほどの攻撃を避けることが出来たエミリアだったが、さらに上から火ゴブリンによる火の球が迫ってきていた。


「ちょっとは休ませてよ!」


 エミリアが息つく暇もなく続く攻撃を躱しながらアンリの方を見ると、アンリは岩ゴブリンに接近して火ゴブリンの射線に入らないようにしながらどうにか突破口を開こうとしていた。


「やあああ!」


「その手があったわね」


 エミリアもアンリと同じように岩ゴブリンを盾にしつつ、岩ゴブリンの膝に向かって氷の球を放った。


「『氷球アイスボール』!」


 岩ゴブリンの膝に氷の球が直撃した。

 ダメージは与えたものの一撃で破壊できるほど岩ゴブリンはやわではないようだ。

 ただ、岩ゴブリンの膝を破壊することはできなかったが、動きを鈍らせることはできた。


「アンリの方も手伝わないと。それにしても、この茶色いゴブリン頑丈ね」


 エミリアは、アンリの方を気にしつつ、目の前の岩ゴブリンをどう倒すか思案を巡らせた。


「少しずつ削るしかないわね」


 考えを纏めたエミリアは、動き出した。


「やあああ!」


 アンリの方では、アンリが魔力付与エンチャントした鋼鉄の剣で岩ゴブリンに切りかかっていた。

 かなりの硬度を持つはずの岩ゴブリンの体には、既に無数の切り傷が付いている。


「はっ!」


 反撃に岩ゴブリンが拳を振るうが、アンリには当たらない。

 一撃が重い岩ゴブリンだが、速さで勝るアンリに翻弄されていた。


「ここで前に! くっ! また行けなかった!」


 しかしそんなアンリも、何度か岩ゴブリンを踏み台にして飛び越えて階段まで行こうと試しては、身動きの取れない空中で火ゴブリンによる火の球の攻撃を受け、ことごとく失敗していた。


「はっ! っと、まだまだ!」


 そして今、アンリは、ここに来る前にあった狼型の魔物との戦いの経験により、複数の相手に囲まれたときの対処法が少しだけ身についており、3体の岩ゴブリンを相手に大立ち回りを見せていた。


「やああああ!」


 そればかりか、アンリは、単調な岩ゴブリンの動きにも慣れつつあり、次第に岩ゴブリンたちを押し始めていた。


「アンリ! 膝を狙いなさい!」


「わかった!」


「『氷球アイスボール』!」


 そこへエミリアの魔法による援護も加わっている。

 エミリアは1体の岩ゴブリンの相手をしながらも、アンリが相手をしている3体の岩ゴブリンの膝にちょくちょく『氷球アイスボール』を当てて援護していた。


「やああああ!」


 エミリアに言われた通り、アンリは、これまでの攻撃で既にかなり傷ついていた岩ゴブリンの膝へと剣を走らせた。

 片方の膝を断ち切られた岩ゴブリンは、自重を支えきれずにズウゥンと重い音を立てて倒れた。


「あと2体!」


 アンリは迫る岩ゴブリンの拳を躱して、その岩ゴブリンの懐に潜り込んだ。


「やああああ!」


 そして、アンリが振り抜いた剣が岩ゴブリンの体重の乗った片方の膝に大きく弧を描いて吸い込まれた。

 一拍おいて、また1体、岩ゴブリンがズウゥンと重い音を立てて倒れた。


「あと1体! うわぁ!?」


 気づくと、両手を前に出した岩ゴブリンが今まさにアンリ目掛けて掴み掛かってきているところだった。

 避けようとするアンリだったが、足が動かない。


「なんで!? って、足が!?」


 見ると、アンリに膝を壊されて倒れた岩ゴブリンが、アンリの片足を掴んでいた。


「剣じゃダメだ! ええいっ!」


 焦ったアンリは足の拘束を解くのを諦めて咄嗟に剣を手離し、自身の両手を前に突き出して、岩ゴブリンの両手を受け止めることを選択した。


「やあああああああ!」


 アンリと岩ゴブリンの大きさも重さも違う手がぶつかった。


 ズシイイイイイイン!


 アンリの腕や肩に激突の衝撃が走り、魔法で身体能力を上げているはずなのに骨と筋肉がみしみしと悲鳴をあげた。


「ぐ……うう……」


 しかし、アンリは痛みに耐えて、体重差や体格差がある中、岩ゴブリンに押されながらも何とか踏ん張って岩ゴブリンの突撃を止めた。


「アンリ! くっ、邪魔よ!」


 アンリを助けに行きたいエミリアだったが、2体の岩ゴブリンが倒れ視界が広くなったことにより、火ゴブリンの火の球や風ゴブリンの風の矢といった遠距離からの攻撃が今までよりもエミリアの所まで届くようになってしまった。

 そのせいで、エミリアは、目の前の岩ゴブリンを相手にしながらの絶え間ない遠距離攻撃を躱すのに必死で、中々アンリのもとまで近づけないでいた。


「ぐぅ……」


 上から押さえつけられる力に徐々に抗えなくなってきたアンリの膝が曲がっていく。

 このままではアンリがぺしゃんこになるだろうと思ったベルムートが助けに入ろうとしたその時、


「う……ううう……うあああああああああああああああ!」


 突如叫んだアンリの体から魔力が迸り銀色の炎が揺らめいた。

 そして、岩ゴブリンの体が持ち上がった。


「あれは……」


 ベルムートが呟いた。

 以前アンリがベルムートの弟子になるための試験で使った力であることにベルムートは気づいた。


「やああああああああああああああああ!」


 アンリは、浮いた岩ゴブリンを気合で思いっきり後ろに投げ飛ばした。


 ズドガシャアアァアアアァアアン!


 地面に叩きつけられた岩ゴブリンは、大きな地響きを立てて床にいくつもの亀裂をつくり、その衝撃で岩ゴブリンの体のいたるところが砕けて動かなくなった。


「ハァ……ハァ……」


 銀色の炎は鳴りを潜め、アンリは肩で息をしている。

 しかし、まだ終わっていない。

 火ゴブリンによる火の球がアンリに迫っていた。


「アンリ! 避けて!」


「うぅ……」


 エミリアが呼びかけるも、アンリは岩ゴブリンに足を捕まれており、先ほどのダメージも重なって動けないでいる。


「『氷球アイスボール』!」


 ボシュウウウ!


 アンリに激突する寸前だった火の球は、エミリアが放った氷の球によりなんとか相殺することができた。


「アンリ!」


 そして、アンリのもとまでどうにかたどり着いたエミリアは、回復薬を取りだし、中の液体をアンリに振りかけ、アンリのケガを癒した。


「ありがとう、エミリア」


「火事場の馬鹿力ってやつね。すごかったわよアンリ」


 火の球を防ぎケガを癒してくれたことへのお礼を述べたアンリに対して、エミリアはアンリの健闘を褒め称えた。


「はいこれ、拾っておいたわよ」


「ありがとう!」


 エミリアが拾ってくれた剣を受け取ったアンリは、剣に魔力付与エンチャントをかけ直した。


「やあああ!」


 そして、アンリは自身の足を掴んでいた岩ゴブリンの手を切り飛ばした。


「これで動ける!」


「まだ戦えるかしら?」


「うん! 大丈夫!」


「なら、火の球と風の矢は私がなんとかするから、アンリは最後の茶色いゴブリンを倒してもらえる?」


「わかった!」


 体勢を立て直したアンリは、エミリアと協力して最後の1体となった岩ゴブリンのもとまで駆けた。


「やああああ!」


 そしてアンリは、最後の岩ゴブリンの膝を破壊して沈黙させた。


「後は、あの赤いゴブリンと薄い緑のゴブリンね。行くわよアンリ!」


「うん!」


 そして、エミリアとアンリは、火ゴブリンと風ゴブリンを倒すべく階段を駆け上がった。



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