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紫ゴブリンの分析

前回のあらすじ。

っべーわ。まじっべーわ。なんか人間いたわー。

ボスが戦えってよ。

マジで? ダルいわー。

メンドイしチャチャっと終わらせるっしょ。

とりまそうすっか。


っべーわ。マジつえーわこの人間。

もう逃げてよくね?

でもそしたらボスに怒られるっしょ。

それはマジ勘弁だわー。……ちょっ! っべーよ!

どしたどした?

後ろ後ろ!

ん? ……っべーよ! っべーよ! あの変なやつら追ってきてんじゃんよ!

マジないわー。ていうかもうこの人間にあいつら押し付けて俺らバイバイでよくね?

っべーわ。おまえマジ神。

だしょ? んじゃ、ボスの言う通りとりま逃げるっしょ。



「ゴブリン?」


 狼型の魔物がいなくなった後、新たに現れた5体の紫色のゴブリンを見てアンリは首を傾げた。


「ゴブリンって普通は緑色だよね?」


「そうだな」


「なんで紫色なの?」


「さあな。茄子でも食べたんじゃないか?」


「そっか!」


「そんなわけないでしょ!」


 ベルムートの適当な返しを真に受けたアンリに、エミリアが突っ込んだ。


「まあ、色はさておき、さっきの魔物たちが逃げ出したのはおそらく、あれのせいだろう」


 先程の狼型の魔物の行動と紫色のゴブリンが現れたタイミングから、ベルムートはそう結論付けた。


(魔王が喜びそうな禍々しい雰囲気だな)


 紫色のゴブリンを見たベルムートは苦笑した。


「2人とも気を付けて」


 ひとり緊張した面持ちのエミリアが、ベルムートとアンリに忠告してきた。


「何か知っているのか?」


「ええ。以前戦ったことがあるのだけれど、あれに触れた人や剣が溶かされたわ」


「え!?」


 アンリは驚いてエミリアの方を振り向いた。


「ほう……そうなのか」


 ベルムートは珍しい能力を持つ紫ゴブリンに対して興味が湧いた。


「どうやって倒したんだ?」


「魔法で全身を消し飛ばして倒したわ」


「魔法が有効ということか?」


「ええ」


「なるほどな。なら、倒す分には問題ないな」


 ベルムートは魔法が通用するなら紫ゴブリンを倒すのは容易だと判断した。


「どうするの?」


 エミリアがベルムートに尋ねた。


「そうだな……私が相手をしよう」


「あなたひとりで?」


「ああ。それが一番安全だろう」


「……そうね」


 ベルムートの発言を聞いて一瞬考えたエミリアだったがすぐに頷いた。


「私もやる!」


 威勢よくアンリが声を上げた。


「剣が融かされるなら、アンリには紫ゴブリンの相手は無理だと思うぞ」


「えー……」


 ベルムートの言葉を聞いて、アンリは不貞腐れた。


「アンリは攻撃魔法は使えるの?」


「使えないけど……」


 エミリアに尋ねられたアンリは言い淀んだ。


「なら、私たちはベルムートの邪魔にならないようにしていましょう。それに、他の魔物が襲ってきても対処できるようにしておくことは悪いことではないわ」


「……わかった」


 エミリアの説得により、アンリはしぶしぶ引き下がった。


 そうこうしている内に、ベルムートたちに向かって5体の紫ゴブリンが迫ってきた。


「『地手アースハンド』」


 ベルムートは魔法を唱えた。

 紫ゴブリンたちはそれほど動きが速くなかったので、地面から伸びてきた無数の土の手によって、あっさりと5体の紫ゴブリンは拘束された。


「思っていたよりもあっけないな」


 ベルムートは拍子抜けした。


「このまま紫ゴブリンたちを消し飛ばすのは容易だが、せっかく捕まえたことだし、何が弱点なのか少し試してみるか……」


 ベルムートは紫ゴブリンの弱点となる属性を探るための方法を考え始めた。


「よし、まずはこれだ。『火球ファイヤーボール』」


 ベルムートが放った火の球が1体の紫ゴブリンに直撃し、ついでに飛び火してまわりの草木も一緒に燃え盛った。


「やりすぎたか」


 思っていたよりも威力が高かったようで、ベルムートは少々困り顔になった。


(これでも手加減した方なんだが……)


「私の隊にいる子の『火大球ファイアキャノンボール』よりも威力が高そうね」


 エミリアが呆れたような感心したような声で言葉を漏らした。


「ちょっと師匠! 火が広がっちゃうよ!」


 アンリが焦ったようにベルムートに訴えてきた。


「ああ、わかってる。『水球ウォーターボール』」


 アンリにひとつ返事をしたベルムートは、火を消すために水魔法を使った。

 水の球が燃える木の幹に激突する。


 メコォッ!


 その衝撃で水の球が弾けて飛び散り、飛び散った水が周りの火に降り注ぎ鎮火した。

 先ほど水の球が当たった木の幹は大きく凹んでいる。


「とんでもないわね」


 凹んだ木の幹を見たエミリアが若干引いた。


 『火球ファイヤーボール』が直撃した紫ゴブリンは跡形もなく消し飛んでいた。

 草木の焦げ跡があるだけで、紫ゴブリンの死体は残っていない。


「ん? ゴブリンなどの普通の魔物は炭化するんだが……おかしいな」


 ベルムートは残り4体になった紫ゴブリンを見た。

 拘束から逃れようともがいているが、仲間がやられたことを気にしているそぶりはない。


「なんだか不気味ね」


「うん」


 その様子を見ていたエミリアとアンリの表情が曇る。


「『水球ウォーターボール』」


 ベルムートは1体の紫ゴブリンに向かって、先ほどと同じ魔法を今度は攻撃目的で放ち、直撃させた。


「お?」


 ベルムートは予想外な出来事に思わず声を漏らした。

 水の球は木の幹を凹ませるほどの威力はあるはずなのに、紫ゴブリンはびくともしていなかったのだ。

 ベルムートは試しにもう1発水の球を同じ紫ゴブリンに当ててみたが、結果は変わらなかった。


「どうやら水魔法が効かないみたいだな」


 水魔法が効かない、近接攻撃をすれば溶かされる、まさにあの狼型の魔物たちにとって紫ゴブリンは天敵といえる存在だった。


「あの魔物たちが逃げた理由がこれで明確になったな」


 ベルムートは疑問が解けたことに満足した。


「おかしいわね。私が戦ったときには『氷球アイスボール』で紫ゴブリンを倒したのだけれど」


 ベルムートがひとつの結論にたどり着いた時に、エミリアがそう言葉を漏らした。

 『氷球アイスボール』は水属性なので、水魔法が効かないはずの紫ゴブリンを倒せるのはおかしいことになる。


「そうなのか? なら試してみるか。『氷球アイスボール』」


 ベルムートが魔法を唱えると、手から放たれた氷の球が紫ゴブリンにぶつかり、紫ゴブリンの胴体が吹き飛んだ。


「水はダメだが、氷ならいいのか……なぜだろうな?」


 ベルムートは首を傾げた。

 今の攻撃で土の手による拘束が解かれた紫ゴブリンは腰から上と下に分離していたが、それぞれ生きているようでまだ動いていた。


「うわぁ……気持ち悪い」


「そうね」


 アンリとエミリアは嫌そうな顔をして言った。


「次はもう少しちゃんと見ておくか」


 ベルムートがそう呟いて、もう1発『氷球アイスボール』を放ってみると、分離した紫ゴブリンの下半身は氷の球が激突した後粉々に飛び散り、蒸発するように消えていった。


「なるほど……そういうことか」


 ベルムートは納得の表情を浮かべた。

 氷の球が一時的に紫ゴブリンの体の表面を凍らせたことで攻撃が通ったようだ。

 それとベルムートはもうひとつの現象を見つけていた。


「どうやら紫ゴブリンは死ぬと体が霧散するようだな」


 紫ゴブリンの死体が残らなかったのもそのためのようだ。


「そういえば、私たちが戦った時も死体は残らなかったわね」


 エミリアも自分たちが紫ゴブリンを倒したときの状況を思い出して話した。


「まだ動いてるな」


 上半身だけになった紫ゴブリンにベルムートが視線を移すと、上半身だけになった紫ゴブリンは腕だけで移動していた。

 まだ死んでいないようだ。

 そして、上半身だけになった紫ゴブリンは地面を這って、近くで拘束されている紫ゴブリンの足に取りついた。


「いったい何をするつもりだ?」


 ベルムートが疑問の声を上げると、上半身だけになった紫ゴブリンの体が溶けだした。


「仲間の拘束を解こうとしてるのかしら?」


「いや、どうやら違うようだ。あれは……」


 エミリアが推論を述べたが、ベルムートはそれを否定した。

 上半身だけになった紫ゴブリンが原型を留めないほど崩れていくにつれて、取りつかれている方の紫ゴブリンの体が少しずつ大きくなっていっている。


「手負いの仲間を吸収している……」


 ベルムートは呟いた。

 傷を負った紫ゴブリンが自らの体を仲間に差し出していると言った方が正確かもしれない。


 仲間の体をすべて吸収し終わった紫ゴブリンの体は、先ほどの上半身だけになった紫ゴブリンの体積の分だけ大きくなっていた。


 そして力を増した紫ゴブリンによって、拘束していた土の手が溶かされていく。


 よく見ると、パワーアップした紫ゴブリンほどではないが、他の2体を拘束している土の手も徐々に溶かされているようだった。


「ふーむ……土魔法に少し耐性があるようだな」


 そう呟きながらも、ベルムートは拾った石を試しに紫ゴブリンに投げてみた。

 石が紫ゴブリンに触れた瞬間、その石はジュウウっと音を立てて跡形もなく溶けた。

 紫ゴブリンは傷ひとつ付いていない。


 次にベルムートは魔力付与エンチャントした石ころを投げてみた。

 多少溶かされたものの、今度は紫ゴブリンの体を貫通して小さな穴が開いた。


「なるほどな。どうやら紫ゴブリンは魔力によるダメージなら通るようだな」


 先程の結果から、ベルムートは紫ゴブリンがダメージを受ける仕組みを導きだした。


「『風刃ウインドカッター』」


 ベルムートは風の刃を生み出して、1体の紫ゴブリンの頭を切り飛ばした。


「さっきから思っていたんだが、血が出ないな」


「言われてみればそうね」


 ベルムートの素朴な疑問にエミリアも同意した。


「どうやらこの紫ゴブリンはたちは、ただの魔物って訳じゃないみたいだな。というか生き物かどうかすらあやしい」


 先ほど風の刃で首を切り飛ばした紫ゴブリンを見つめながらベルムートは言った。

 頭は霧散してしまったが、胴体だけになっても紫ゴブリンは拘束から逃れようともがいている。


「頭と胴体を切り離しただけではダメか」


 紫ゴブリンのしぶとさにベルムートは嘆息した。


「『雷撃サンダー』」


 ベルムートが放った雷が紫ゴブリンに直撃し、放電した光が紫ゴブリンの全身を包み込んだ。


「うわっ!?」


「眩し!」


 アンリとエミリアは眩しさに目を細めて目を手で庇う。

 そして、全身を駆け巡る雷に耐えきれずに紫ゴブリンは蒸発した。


「やはり雷魔法は威力が高いな。いや、相性がよかったのか?」


 少し判断しづらいが、雷魔法も有効なようだとベルムートは考えた。


「あと2体か。『光球ライトボール』」


 高速で直進する光の球が土の手を貫き、1体の紫ゴブリンに触れると、その部分が音もなく抉れた。

 高密度のエネルギーによって土の手と紫ゴブリンの体が破壊されたのだ。


「光魔法も有効なようだが、費用対効果が悪いな」


 ベルムートはそう結論付けた。


 この攻撃によって土の手の拘束から逃れた紫ゴブリンは、先ほど大きくなった紫ゴブリンと融合した。


「これで残りは1体だけになったな」


 融合したことで、さらに大きく力を増した大紫ゴブリンは自力で土の手を溶かしきり、ついに拘束を解いた。


「グギャギャ!」


 一声上げると、大紫ゴブリンはベルムートを睨みつけながら突進してきた。


「『地手アースハンド』」


 無数の土の手が、再び大紫ゴブリンを拘束するべく迫る。


「グギャギャ!」


 だが、そのすべてが大紫ゴブリンに触れただけで融かされた。


「なっ!?」


「えっ!?」


 エミリアとアンリが驚きの声を漏らした。


「なかなかやるな」


 『地手アースハンド』はオークキングを拘束するほどの力を持っているが、どうやらこの大紫ゴブリンには通用しないらしい。


「ならば、これはどうだ? 『闇球ダークボール』」


 ベルムートが魔法を唱えると、漆黒の球が現れた。

 漆黒の球は、歩くよりも遅いスピードでふらふらとランダムに動きながら大紫ゴブリンの方へと向かった。

 当然大紫ゴブリンはこの漆黒の球が当たらないように横に移動した。


「グギャギャギャギャ!」


 ノロくて当たりそうもない攻撃を横目に大紫ゴブリンが嘲笑う。


「『引力グラヴィテイション』」


「グギャ!?」


 しかし、ベルムートが発動させた魔法により、大紫ゴブリンは突然横からの強烈な見えない力にその巨体を引っ張られて無様に地面に倒れた。


「グギャギャ!? グギャ!?」


 大紫ゴブリンがわけがわからず困惑している間にも、倒れた体はズルズルと顔を地面に擦りつけながら引きずられていく。

 そして、不安定な軌道で動いている漆黒の球の目の前まで連れてこられた大紫ゴブリンは、その顔を驚愕に歪め、漆黒の球がぶつかった次の瞬間には、悲鳴を上げる間もなく漆黒の球ごと大紫ゴブリンの全身が爆ぜて消滅した。


「うわぁ!?」


「な、何が起こったの!?」


「ふーむ……」


 ベルムートたちは三者三様の驚きを示した。


 『闇球ダークボール』は触れた相手の魔力に反応して爆発する魔法だ。

 しかし、いくらベルムートが魔法を行使したとはいえ、あそこまでの破壊力はない。


「おそらく、ここまでの威力を発揮したのは、紫ゴブリンの体が魔力で出来ていたからだろうな。そう考えると、これまでのことにいろいろと辻褄が合う」


 ベルムートは今まで得られた結果からそう結論付けた。


「ただそうなると、剣を主体とした近接戦闘を得意とするアンリとエミリアには分が悪い。いや、魔法使い以外の者にとっては相性最悪の敵と言えるだろうな」


 ベルムートは、魔法しか効かない以上紫ゴブリンが脅威になると考えた。


「……なるほどな。どうりで冒険者たちが苦戦するわけだ」


 考えがまとまったベルムートが言葉を漏らした。

 魔力で出来た体に剣で挑むというのは、魔法を剣で切り裂くのと同じことだ。

 弱い魔法であればそれでも通用するかもしれないが、紫ゴブリンは剣や肉体を融かすほどの凶悪な力を持っている。

 物理攻撃で挑むというのは自殺行為だ。

 もっとも、対策がないわけではないが……。


「これで紫ゴブリンは片付いたな。先に進むとしよう」


 ベルムートはアンリとエミリアに声をかけた。


「わかった」


「ええ」


 アンリとエミリアが頷いた。


(まずは、今から会いに行く予定の()()()にこの件について聞くのが先決だ)


 ベルムートたちは森の奥目指してまた歩き始めた。



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