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狼型の魔物との戦闘

前回のあらすじ。

3人でぶらっと森に向かった。



 どうやら狼型の魔物たちは群れを形成しているようで、ベルムートがざっと見渡したところ全部で10体の姿が確認できた。


「どうしてこんなところに……? 王都付近にはいないはずなのに……」


 エミリアが疑問の声を上げた。


「ん? どういうことだ?」


「あの魔物は山奥を縄張りにしていて、めったに山から降りてこないはずなのよ」


 ベルムートが聞き返すと、エミリアが答えた。

 ベルムートが視線を上げると、遠くに山が見えることから、ここから山まではかなりの距離があることが分かる。


「確かにここに狼型の魔物がいるのはおかしいな」


 ベルムートはエミリアの話に同意した。


「ワオーーーーーーン!」


 リーダーと思われる狼型の魔物が再び発した遠吠えを合図に、6体の狼型の魔物が飛び出してきた。


「『身体強化ストリングゼンボディ』!」


 アンリは戦闘に備えて魔法を使った。


「バウ! バウ!」


 ベルムートたちに向かってくる6体の狼型の魔物は2体ずつでコンビを組んでいるようで、それぞれのコンビの片割れが大きく開けた口から1発ずつ水の球を発射してきた。


「はっ!」


「ふっ!」


「水属性か」


 計3発の水の球が飛んでくるが、ベルムートたち3人はそれを難なく避けた。


 すると、回避した先で待ち構えていたコンビのもう一方の狼型の魔物たちが、鋭い牙でベルムートたちに噛みつこうとしてきた。


「バウ!」


「速い!」


 エミリアが声を上げた。

 一瞬注意を逸らされたとはいえ、いつの間にか魔物に回り込まれてしまっていたことにエミリアは驚く。


「はっ!」


 だが、エミリアは『怜悧れいり倍旧ばいきゅう』の特殊能力ユニークスキルを使って思考加速を行いなんとか回避した。


(この魔物……『身体強化ストリングゼンボディ』を使ったアンリよりも速い!)


 エミリアの頬を冷たい汗が流れた。


「バウ!」


 アンリは、躱せないと判断して狼型の魔物の攻撃を剣で受けた。


「ぐっ!」


 思った以上の衝撃が剣から伝わり、アンリは後ろに弾かれた。


「バウ!」


「掴まえたぞ」


「バウ!?」


「そら!」


 そしてベルムートは、向かってきた狼型の魔物の頭を掴んでぶん投げた。


「バ……バウ……!?」


 後に続いて攻撃をしようとしていたもう一方の狼型の魔物は呆然とそれを見送ったが、飛んでいった相方がなんとか着地に成功したのを見て、攻撃を中断して相方のもとへと駆け寄っていった。


「バウ……バウ……」


 よほど怖かったのかそれとも着地時の衝撃が足にきたのか、飛んでいった方の狼型の魔物の足はプルプルと震えていた。


 どうやら狼型の魔物はコンビごとに分散して、ベルムートたち一人ひとりに狙いを定めているらしい。

 つまり、2対1の戦いになっているということだ。



 ◇ ◇ ◇



「バウ!」


「バウバウ!」


「この!」


 アンリは先ほどの攻撃で体勢を崩されてから、自分よりも速い相手に翻弄されていた。


「くっ!」


 剣術を習ったとはいえ、自分よりも動きの速い相手を2体同時に相手取るのはいつもと勝手が違ってうまく立ち回れず、アンリは徐々に体に傷をつくっていく。


「バウ!」


「バウバウ!」


「反撃できない……!」


 息の合ったコンビネーションでひっきりなしに攻撃を繰り出してくる狼型の魔物に対してアンリは防戦一方だ。


「バウ!」


 そこへ、狼型の魔物がアンリに突進しながらすれ違いざまに爪での引っかき攻撃を仕掛けてきた。


「避け――きゃっ!」


 アンリはそれを何とか躱そうと足を動かすと、狼型の魔物の水の球によってぬかるんだ土に足を取られて転んだ。


「バウ!?」


「あ、危なかった!」


 結果的に狼型の魔物の攻撃を避けることができたアンリだったが、大きな隙ができてしまった。


「「バウバウ!」」


 当然狼型の魔物がその隙を逃すはずもなく、逃げ場を奪うように今度はコンビで同時にアンリに襲い掛かってくる。


「ヤバい!」


 思わぬ事態に焦るアンリだったが、すぐには立ち上がらずに、片手を目の前に掲げた。


「「バウバウ!」」


「今だ!」


 2体の狼型の魔物が視界に入った瞬間、アンリは掲げた手から魔法を発動させた。


「『閃光フラッシュ』!」


「「キャイン!」」


 アンリの手から発せられた眩い光が、今まさに飛びかかろうとしていた2体の狼型の魔物の目を焼いた。


「やああああ!」


 狼型の魔物たちが一瞬ひるんだ隙をついて、素早く立ち上がったアンリはそのうちの1体を剣で切りつけた。


「キャイン!」


 アンリの剣は見事に命中し、狼型の魔物が悲鳴を上げた。


「ここ、足が取られて動きにくい!」


 アンリは追撃はせずに、ぬかるんだ土のあるその場から離れた。


「バウ!」


「バ、バウ……」


 2体の狼型の魔物もすぐにアンリから距離を取ったが、片方は明らかにケガで動きが鈍っていた。


「バウバウ!」


 ケガをした相方を見て怒ったのか、まだ無傷の狼型の魔物が1体でアンリに向かって攻撃を仕掛けてきた。


「バウ!」


 狼型の魔物の爪の攻撃がアンリに迫る。

 剣を構えたアンリの姿から、この攻撃を剣で受けるかに見えたが、予想に反してアンリは狼型の魔物の爪の攻撃を躱し、逆に剣で迎撃した。


「はっ! やあああ!」


「バ、バウ!?」


 アンリの剣が狼型の魔物の体を掠めて傷をつけた。

 アンリは狼型の魔物の度重なる攻撃にさらされて、ようやく速さに目が慣れてきたようで、狼型の魔物の動きを捉えられるようになっていた。

 

「グ、グルルル」


 狼型の魔物は痛みを堪えて、すぐに相方のもとまで退がった。


「やった!」


 ここにきて、初めてまともに攻撃を当てることができたとアンリは喜んだ。


「「グルルル……」」


 対して、劣勢に立たされたことを察した狼型の魔物たちは悔しそうに唸り声を出してアンリを睨みつけた。



 ◇ ◇ ◇



 一方のエミリアは2対1にも関わらず善戦していた。


「ふっ! はぁっ!」


「バウ!」


 必要最小限の動きでエミリアが狼型の魔物の爪と牙による攻撃を受け流し、エミリアの細剣が狼型の魔物の体を撫でるのをもう一方の狼型の魔物が防ぐ。


 お互いに一歩も譲らない攻撃の応酬。

 しかし、身体能力で劣るエミリアには決定打に欠けた。


「このままでは……」


 苦しい表情で言葉を零すエミリア。

 このままいけば、先に体力が尽きるのはエミリアの方だろう。

 そうなる前に、この拮抗した状況をなんとかしなければならない。


 2体の魔物との攻防を繰り広げながらも打開策を探すエミリアの視線が、ふと地面に向いた。


「水たまり……そうか!」


 何かを思いついたエミリアは、狼型の魔物の攻撃を捌きながら、水たまりに向かった。


「バウ!」


 そして、1体の狼型の魔物が水たまりに足を踏み入れた瞬間、


「かかったわね! 『氷結フリーズ』!」


「キャイン!?」


 エミリアが発動させた魔法によって水たまりが凍り、それに足を取られた狼型の魔物は身動きが取れなくなった。


「バウバウ!」


 動ける方の狼型の魔物は、1体だけになっても果敢にエミリアに攻めてきた。

 しかし、エミリアの腕前であれば、1対1に持ち込んだ時点で狼型の魔物に負ける道理はなかった。


「はぁっ! ふん!」


 エミリアは狼型の魔物の攻撃を細剣で受け流すと、着地の際に無防備になった狼型の魔物を思いっきり蹴り飛ばした。


「キャイン!」


 痛みに悲鳴を上げて地面を転がる狼型の魔物。


「これで分断できたわね」


 それを一瞥したエミリアは、どうにか氷から抜け出そうと必死にもがいている狼型の魔物に近づいていった。


「グルルルル!」


 狼型の魔物は歯をむき出しにしてエミリアを威嚇する。


「悪いけど、仕留めさせてもらうわ!」


 エミリアは身動きのできない狼型の魔物に向かって細剣を振り下ろした。


「ワオーン!」


 すると、そこへエミリアに向かって横から迫った水の球がエミリアの腕に当たり、細剣の軌道が逸れて狼型の魔物から外れた。


「くっ!」


「ワオーン!」


「「「「バウバウ!」」」」


 エミリアが、水の球が来た方向を見ると、不甲斐ない仲間の姿に業を煮やしたのか、リーダーを含め待機していた他の4体の狼型の魔物が水の球を撃ってきていた。



◇ ◇ ◇



「2人ともなかなかやるな」


「「グルルル……」」


 ベルムートが狼型の魔物を1体投げ飛ばしたあと、警戒した2体の狼型の魔物は、ベルムートから一定の距離を保ちながらぐるぐるとベルムートの周りをうろつくばかりで襲って来ないため、ベルムートはのんびりとアンリとエミリアの戦いを観戦していた。


「バウ!」


「くっ!」


 アンリは優勢になりかけたところで、リーダーの狼型の魔物と他4体による水の球の援護射撃が来たことにより、また膠着状態に突入した。


「ワオーン!」


「「「「バウバウ!」」」」


「ふっ! ふっ! はぁっ!」


 エミリアは特にリーダーの狼型の魔物と他4体からの水の球の集中砲火を受けており、氷に足を取られて身動きの取れない狼型の魔物にとどめを刺せないでいる。


「私だけ蚊帳の外か?」


 ベルムートの方にはなぜか1発も飛んでこない。

 おそらく本能的に危険を感じ取っているのだろう。

 もしかしたら、ベルムートの周りをうろついているこの2体の狼型の魔物も本当は逃げだしたいのかもしれない。

 尻尾が垂れ下がっている。


「そろそろ終わらせるか……ん?」


 ベルムートが膠着状態を破ろうとした時、突然狼型の魔物たちの攻撃が止んだ。


「ワオーーーーーーン!」


「「「「「「!」」」」」」


 そして、リーダーらしき狼型の魔物が吠えたかと思うと、戦闘中だった狼型の魔物たちはバッと振り返って、一目散にどっかに散ってしまった。

 ちなみに、氷に足を取られていた狼型の魔物は相方と一緒に氷を掘って脱出していた。


「あれ?」


「どうやら去ったみたいね……」


 狼型の魔物が去ったのを見たアンリとエミリアがベルムートのもとに駆け寄ってきた。


「アンリもベルムートも無事みたいね」


 エミリアが声をかけてきた。


「ああ」


 ベルムートは途中から何もしないで暇だったので無傷だ。


「うん。師匠は当然として、エミリアも無事でよかったよ」


「これくらいはね」


 アンリも皆の無事を喜んでいるようだった。

 エミリアも笑顔で返事をする。


「それにしても、急にどうしたんだろう?」


「わからないわ」


 アンリとエミリアは狼型の魔物の不可解な行動に困惑していた。

 そうこうしていると、ベルムートが放った灰色の鳥の眷属から連絡が来た。


「ん? 何か来るようだぞ」


 ベルムートが声を上げると、アンリとエミリアもベルムートの見ている方向に視線を動かした。


「え?」


「あれは!?」


 先ほど狼型の魔物が振り返った方向から、紫色のゴブリンが5体登場した。



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