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ぶらり3人旅

前回のあらすじ。

女子トーーーク。



 エミリアと試合をした翌朝。

 朝食を済ませた後、使用人に外出することを告げたベルムートはアンリを連れて屋敷を出ようとしていた。


「私もご一緒してもいいかしら?」


 すると、扉の前で待っていたらしい騎士服に鎧姿の格好をしたエミリアがベルムートたちに声をかけてきた。


「え? エミリアさん、仕事はいいんですか?」


「非番だから問題ないわ。というわけで、ついて行ってもいいかしら?」


 アンリが尋ねると、それに答えたエミリアが再度聞いてきた。


「まあ、別に構わないが」

 

 エミリア1人くらい追加で連れて行っても問題にはならないとベルムートは判断した。


「そう、よかったわ」


 エミリアは笑みを浮かべた。


「いいの師匠?」


「話を聞きに行くくらいで、特に何かするわけじゃないからな」


「そうなんだ」


 確認してくるアンリだったが、ベルムートが本当に気にしていないらしいことを察してそれ以上は聞いてこなかった。


「何? 私と一緒じゃ不満なのかしら?」


 ただ、その会話を聞いていたエミリアが腕を組んで怒ったような表情でアンリに尋ねてきた。


「そんなことないです! エミリアさんも一緒で私も嬉しいです!」


 勘違いしたエミリアを宥めるために、アンリは身振り手振りで必死に否定した。


「ふふっ冗談よ。あと、これからはエミリアと呼び捨てでいいわ」


 しかし、それは演技だったようで、アンリの必死さに思わず笑ってエミリアは返した。


「本当ですか!? じゃあ……エミリア」


 ほっとしたのもつかの間、エミリアの申し出を受けたアンリは喜色を浮かべ、少し恥ずかしそうに名前を呼んだ。


「ありがとうアンリ。それと敬語もやめてくれる?」


「わかりま――うん、わかった!」


 エミリアの要望をアンリは受け入れた。


(まだ出会ってから間もないのに、2人とも模擬試合をした影響なのか仲良くなっているな)


 ベルムートはアンリとエミリアが良い関係を築けたことを知り、少しの驚きとともに暖かな気分になった。


 ベルムートたちが3人で屋敷を出ると、すでに出発の準備が整っている1頭の馬が停めてあった。

 その馬にエミリアが近づいて行き、首を撫でる。

 どうやらエミリアの馬らしい。


「さあ、あなたたちも馬を連れてきなさい」


 エミリアが声を上げた。


「この様子だと、さっき断っていたとしてもついてくる気満々だったようだな」


「ええ」


 エミリアの即答に、ベルムートは苦笑した。


「だが、馬は置いていくことになるな」


「え? どうして?」


「実は、これから行くところは王都近くにある森の奥なんだ。だから、馬は連れて行けない」


 せっかく準備万端に用意したエミリアには申し訳ないとベルムートは思ったが、道が整備されておらず木々が生い茂る森の奥に馬は連れて行けない。


「そうだったのね」


 案の定落胆するエミリアだったが、何やら顎に手を当てて思案しだし、しばらくすると顔を上げた。


「それなら、途中まで馬車を出してもらいましょう」


 そう言うと、エミリアは使用人を呼んだ。

 1人の使用人がやってくる。


「馬車の手配をお願い」


「承知しました」


 エミリアの命令を受けて一礼した使用人はさっそく行動を開始した。


「あなたたち、荷物はそれだけ?」


「ああ。私には『空間倉庫アイテムボックス』があるからな」


「『空間倉庫アイテムボックス』?」


「こんな感じだ」


「ええ!?」


 ベルムートが荷物を『空間倉庫アイテムボックス』から取りだして見せると、エミリアが驚いた。


「お前のも預かっておこうか?」


「いいの? なら、お願いしようかしら」


「わかった。その代わりこの事は秘密にしておいてくれ」


「ええ、わかったわ」


 ベルムートは取り出した荷物と一緒にエミリアの荷物を『空間倉庫アイテムボックス』に仕舞った。

 ベルムートがエミリアに『空間倉庫アイテムボックス』について教えたのは、道中エミリアに隠し通すことが不可能であることとエミリアを信頼してのことだった。


 やがて、4人が入れるくらいの少し小さめの馬車を使用人が調達してきた。

 ついこの間ここの使用人たちは模擬戦の観戦にきて仕事をさぼっていたのでベルムートは心配していたが、どうやらここの使用人は有能なようだ。

 御者も使用人がしている。


「さあ、早くあなたたちも乗りなさい」


 エミリアが馬車に乗りこんだ。


「ああ」


(ここはお言葉に甘えるとしよう)


 ベルムートは馬車に乗りこんだ


「わーい!」


 アンリは喜んで馬車に乗りこんだ。


「行ってちょうだい」


「かしこまりました」


 エミリアが号令をかけると、馬車が動き出した。

 ベルムートたちを乗せた馬車は屋敷を出て王都の道を進んでいく。


「さっきの魔法もそうだけど、あなたの魔法はどれも初めて見るわね。いったいどこで覚えたのかしら?」


 出発して早々に、エミリアがベルムートに質問してきた。


「知らないのも当然だ。私自ら開発した魔法だからな」


「じゃあ、あれはあなたのオリジナル魔法ってこと?」


「全部が全部そうというわけではないが、ほぼそういうことになるな」


「すごいわね」


 ベルムートの返答に驚きつつもエミリアは感心していた。


「なんなら、今魔法を教えてやろうか?」


 移動中は暇だし、昨晩魔法を教える約束もしたからちょうどいいとベルムートは思った。


「え、ここで? 危険じゃないの?」


 エミリアが戸惑った様子で聞いてくる。


「たぶん大丈夫だよ」


「心配ない」


「そう、ならお願いするわね」


 しかし、アンリとベルムートの言葉を聞いてエミリアは安心したようだ。


 それから、ベルムートはアンリに教えた魔力眼と『身体強化ストリングゼンボディ』の2つの魔法をエミリアにも教えた。


「……なるほど、その『身体強化ストリングゼンボディ』というのがアンリが私との試合で使っていた魔法なのね」


「うん」


 理解が早いエミリアに、頷くアンリ。


「その魔法が使えるようになれば、かなりの戦闘力の増強になるだろう」


「でも、すぐには使えそうにないわね」


 ベルムートの話を聞いて、エミリア難しそうな顔をした。

 馬車での移動中だと動きに制限がかかるし、魔法を習得するには時間も足りないだろう。


 ベルムートたちが会話をしている間にも馬車は王都を抜けて橋を渡り、穀倉地帯を抜けていく。

 そして、ベルムートたちは壁を越える手前で馬車から降りて、御者にお礼を告げた。

 馬車がもと来た道を引き返して行く。


 ベルムートたちは畑を囲む壁を越えて、ベルムートを先頭にして徒歩で森に入って行った。


 初めの方は、人の出入りがあるようで多少は道と呼べるようなものがあったが、奥に進むにつれて地面に草花が生い茂っており、だんだんと道がなくなっていく。


 殿しんがりのエミリアは辺りを警戒しながら歩き、真ん中にいるアンリはベルムートが通ったあとの草花を鋼鉄の剣で器用に切って歩きやすくしながら進んでいる。

 ベルムートはアンリにミスリルの剣をあげたが、ミスリルの剣だと強すぎてアンリの訓練にならないので、今はミスリルの剣はベルムートが預かり、代わりにアンリには鋼鉄の剣を持たせていた。


 しばらく進むと開けた場所に出たので、少し疲労の色が見え始めたアンリとエミリアのためにベルムートは休憩を取ることにした。

 ベルムートは『空間倉庫アイテムボックス』から取り出した水と食料をアンリとエミリアに渡した。


「それにしても、王都が近くにあるのに森の奥に住んでるなんて、随分と変わった方ね」


「まあな」


 人心地ついたエミリアが口を開き、それにベルムートが返事をした。


「草花が生い茂っていて歩くのも大変だし。アンリは大丈夫?」


 エミリアは少し不満を零しながらも、アンリを気遣う。


「わたしのいた村は森に囲まれていたから、これくらい平気だよ」


 言葉通りアンリは道中慣れた様子で行動していた。


「それならいいけど」


 エミリアはまだ少し心配そうにアンリを見ていたが、疲れを取るために気を緩めて休むことにしたようだ。


「2人はいつから一緒にいるの?」


「村で師匠の弟子になってからだね」


 エミリアからの問いかけにアンリが答える。


「どうして弟子になろうと思ったの?」


「村が魔物に襲われていたところを師匠が助けてくれたの。その時の師匠の姿がとってもかっこよくて、いてもたってもいられず勢いに任せて師匠に弟子入りしたの」


「そうだったのね」


 エミリアの質問に返答したアンリの瞳はキラキラと輝いていた。

 エミリアは、そんなアンリを微笑ましそうに見つめている。


「どうして王都まで来たのかしら?」


「勇者を探してるの」


「勇者? どうして?」


 てっきり冒険者の活動の流れで王都に来たと思っていたエミリアは、アンリの予想外の答えに首を捻った。


「魔王と戦うためだよ」


「ま、魔王?」


「うん」


 ますますエミリアは首を捻った。


「えーとそれで、その勇者は見つかったの?」


 とりあえず、エミリアは魔王のことは置いておくことにしたようだ。

 エミリアの質問を聞いたアンリがベルムートの方を見る。

 主に勇者のことを調べているのはベルムートだから、答えるならベルムートの口からということだろう。


「ここにはいないようだ」


「それは、そうよね」


 ベルムートが話すと、やっぱりといった表情でエミリアが声を上げた。


「見つける前に、わたしが勇者になるけどね」


「随分と大きな目標ね」


「うん」


 アンリの宣言を聞いたエミリアは呆れを含みながらも、どこか応援するような声音で言葉を発した。

 それを聞いて頷いたアンリは、やる気に満ちた明るい笑顔を見せた。


「……ん? 勇者を探している?」


 ふと、何かが引っかかったようで、エミリアは顎に手を当てて考え込んだ。

 しばらくすると、エミリアの中で何かが繋がったようで、ハッとして顔を上げてベルムートを凝視してきた。


「あなた、本当は未開地のこと何か――」


 ガサガサ。


「!」


 何かを言いかけたエミリアだったが、物音に反応して素早く細剣の柄に手をかけ辺りを警戒し始めた。


「来たか?」


 ベルムートは灰色の鳥の眷属から報告を受けてすでに知っていたので、落ち着いて様子を窺った。


「え、え?」


 エミリアとベルムートの行動を見たアンリも慌てて辺りを見回す。


 ガサガサ。


「「「…………」」」


 3人とも音のする方を見つめた。


「あっちからも聞こえる?」


「複数いるようね」


 アンリとエミリアが小声で話す。

 複数の場所から、何ものかが草を揺らす音が聞こえ、アンリとエミリアの視線が行ったり来たりする。


「来るぞ」


 警戒を強めるエミリアとアンリを横目に、ベルムートが短く告げた。


 そしてついに、音を立てていたものたちが草花をかき分けて、その姿を現した。


「ワオーーーーーーーーン!」


 顔を空に向け、狼型の魔物が発した遠吠えが森の中に反響した。



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