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戦いを終えて親睦を深める

前回のあらすじ。

なぐりあい夢中。



 勝利宣言を聞いてエミリアはガクっと膝をついた。

 エミリアの額からは脂汗が噴き出している。


「ぐっ……さずがにきついわね……」


 アンリが予想以上に強かったため、思いがけず特殊能力ユニークスキルを長時間使ってしまったエミリアは、激しい頭痛を堪えていた。


 エミリアの特殊能力ユニークスキル怜悧れいり倍旧ばいきゅう』の『思考を加速する』能力は脳に負荷がかかるため、使用後は頭痛に見舞われる。

 そして、その痛みの程度は能力の使用時間によって変化し、アンリとの戦いの最中ほとんどずっと能力を使っていたエミリアは、アンリから受けたダメージも重なって満身創痍といっていい状態だった。


「おまえも回復が必要か?」


 アンリに回復魔法をかけ終わったベルムートは、頭を押さえて痛みを堪えるエミリアのもとに来て声をかけた。


「お願いするわ……」


「わかった。『回復ヒール』」


 つらそうな声で言うエミリアにベルムートが回復魔法をかけると、エミリアの表情がやわらいだ。


「これも返しておこう」


 そう言ってベルムートは途中で拾っておいた細木剣をエミリアに差し出した。


「ありがとう」


 お礼を言って細木剣を受け取ったエミリアは、細木剣を杖代わりにして立ち上がった。


「あの子は?」


 エミリアがアンリのいる方を見てベルムートに聞いてきた。


「ああ。大丈夫だ」


 アンリは打撲や擦過傷程度でたいしたケガはなく、ベルムートの回復魔法ですぐに完治した。

 ベルムートの魔法でみるみる傷がなくなっていくアンリを見て、そばに近寄ってきた使用人たちだけでなく、サディアスとゲイルも驚いていた。


 アンリは完治しても疲労が蓄積していたようで目覚めなかったので、見物していた使用人たちが屋敷に運んでいった。

 どうやら使用人たちはこういうときのために待機していたらしい。

 決して興味本位で集まってきて観戦していたわけじゃない。

 例え、楽しそうにおしゃべりしながら仕事に戻って行く使用人たちを見ても断言できる。

 きっと。たぶん。そうだと信じたい……。


「それにしても、随分つらそうだな」


「ええ……少し無理をしたもの。でも、アンリのおかげで楽しめたわ。あとでお礼を言わないと」


 表情に疲労が色濃くにじむもエミリアは満足げだ。


「さてと……次はあなたにお願いしようかしら?」


「まだやるのか? アンリと戦って疲れてるだろ?」


「この程度なんでもないわ」


 そう言うエミリアは足取りがおぼつかない。

 どうみてもやせ我慢だった。


「いや、まったく説得力がないぞ」


「いいじゃない少しくらい」


「そうは言っても、私は剣は使えないんだ」


「腰に下げているじゃない」


 ベルムートの腰にある剣を指さすエミリア。


「これはまあ……アンリに譲ったものを預かっているだけだ。私は戦闘であまり剣は使わない」


「そうなの……残念ね」


 落胆するエミリアだったが、ふと表情が戻った。


「そういえば……あなた確か、あの子の魔法の師匠だったわよね?」


「ああ、そうだが……?」


 ベルムートは何か嫌な予感がした。


「なら、魔法で勝負しましょう」


 ベルムートは予感が当たってしまったことに内心ため息を吐いた。


「いや、遠慮し――」


「何を言っているんだエミリア!」


 ベルムートが断る前にサディアスが会話に割って入ってきた。


「兄様……」


「さっきの模擬戦でボロボロじゃないか! とにかく屋敷に戻るぞ!」


「は、はい……」


 サディアスに手を引かれエミリアは屋敷に連れて行かれた。

 その後にベルムートも続く。


「なんですかその格好は!? 皆さんエミリア様を連れていきなさい! そして、徹底的に磨きあげるのです!」


「「「「「はい!」」」」」


「ちょ、ちょっと!? 自分で歩けるから! ああああああ!?」


 屋敷に入ると、エミリアは使用人たちにどこかへと連れ去られていった。


「……ベルムート殿とゲイルは私と一緒にこの部屋で待つといい」


「ああ」


「わかりました」


 ベルムートとゲイルはサディアスの部屋で待つことになった。


「ただいま戻りました……」


 しばらくしてエミリアが戻ってくると、戦闘で汚れた冒険者の格好から、ちゃんと体をキレイにして貴族の令嬢が着るようなドレスで着飾っていた。


「よし」


 サディアスは満足そうに頷いた。


「それにしてもエミリア、どうしてここに? 都市サルドにいたはずじゃ?」


 サディアスがエミリアに尋ねた。


「そのことなんですが実は――」


 エミリアの話によると、盗賊討伐とフィルスト村の未開地の戦闘跡の報告のために王都に戻ってきたそうだ。


「それで盗賊の討伐が終わって王都に来てみれば、兄様が盗賊に襲われたと聞いたので慌てて帰ってきたのです!」


「心配性だなエミリアは」


 そう言いつつも、エミリアの話を聞いてサディアスはどことなく嬉しそうだ。


「ゲイルがついているとはいえ、兄様は弱いですからね」


「あはは……」


 しかし、続くエミリアの発言にサディアスは乾いた笑い声を上げた。


「でも実際、危ないところでしたから。ベルムート殿には感謝してもしきれないくらいですよ」


「そうだな」


 一緒についてきていたゲイルが話すとサディアスが同意した。


「やっぱり、あの盗賊たちもう少し痛めつけておくべきだったかもしれないわね……」


 エミリアは黒いオーラを出しながら何やら呟いた。


「おほん。ところで、ベルムート殿とアンリ殿はフィルスト村から来たんでしたよね?」


「そうなのですか?」


 気を取り直してサディアスが話を変えると、エミリアが食いついた。


 ベルムートはこの屋敷に来てからサディアスたちといろいろな話をしていたので、王都に来るまでの経緯も説明していた。

 ただ、さすがに未開地での戦闘については言っていない。


「未開地のことで何か思い当たることは?」


「いや、すまないが力になれそうにない」


 案の定エミリアが質問してきたが、面倒くさいことになる気がしたのでベルムートは知らないフリをした。


 そこへ、使用人がアンリが目覚めたと伝えにきた。

 使用人の後に続いてベルムートたちはアンリの寝かされている部屋へと入った。


「あ、師匠! それにみなさんも!」


 アンリが普通に話しかけてきた。

 元気そうだ。


「大丈夫か?」


「はい! この通りケガもなく元気です! 迷惑をかけてしまってすみません!」


 アンリは頭を下げた。


「そんなことないわ。私の方こそ、手加減をする余裕がなくって申し訳なく思っているわ」


「いえ、わたしも全力でしたからお互い様ですよ」


 ふふっとアンリとエミリアはお互いに笑みを零した。


「あなたと戦えて良かったわ。ありがとう」


「わたしもです。ありがとうございます」


 アンリとエミリアはお礼を言い合った。

 お互い得るモノがあったのだろう。


「とりあえず、続きは食事の席で話そう」


 サディアスが告げた。

 食事の準備が整ったそうだ。

 先ほど使用人がさりげなくサディアスに耳打ちしていた。


 食堂に向かうと、やっぱりというか、クレイグとマリーが先に席に着いて待っていた。


「おお来たか」


 クレイグが待ちわびたように声を上げた。

 ベルムートたちはいつものように席に着こうとした。


「では、私はこれで」


 ゲイルは護衛なので、別の場所で食事をとるために離れようとした。


「待ちなさいゲイル」


 しかし、クレイグがゲイルを呼び止めた。

 ゲイルが動きを止めてクレイグを見た。


「なんでしょうか?」


「今日は一緒に食べなさい」


「「「「「え?」」」」」


 それを聞いてベルムート以外の皆が驚いた。


「よろしいのですか?」


 ゲイルが聞き返した。


「使用人たちの間では模擬戦の話でもちきりでな。お前の口から詳しく話を聞きたい」


(ああ……やっぱり使用人たちはただの娯楽として観戦していたのか……)


「わかりました」


 ベルムートの内心をよそに話は進み、ゲイルも同席することになった。


「それにしてもエミリア。帰ってきて早々挨拶もせずにいきなり模擬戦をするとはな」


「す、すみません……」


 クレイグの言葉にエミリアが冷や汗を流す。


「あなた、その辺にしておきましょう」


「そうだな。この話は後でしよう。まずは、模擬戦の話を聞こうじゃないか」


 マリーがいさめると、クレイグは話題を切り替えた。

 エミリアはほっとした。


 それからゲイルがクレイグとマリーに模擬戦の内容を話した。


「ほう、エミリアと対等か」


「この短期間にすごいわね」


 クレイグとマリーはアンリを褒めた。


「いえ、対等ではなかったです。完敗でした」


 アンリは悔しそうだ。


 アンリの方が魔法で身体能力を底上げしていたためパワーもスピードもエミリアより勝っていたが、いかんせん技術と経験に差がありすぎた。

 さらに、特殊能力ユニークスキルまで持っているというのだからアンリがエミリアに勝てなかったのも頷ける。


「私も見たかったな」


「そうねあなた。私も残念だわ」


 クレイグとマリーが肩を落とした。


「でしたら明日、ベルムート殿と模擬戦をする予定なので、よければ見にいらして下さい」


 エミリアが笑顔で明るく告げた。

 

(いきなり何を言い出すんだ!?)


 ベルムートの手が止まった。


「本当か!」


「まあ! それは素晴らしいわね!」


 それを聞いてクレイグとマリーが喜色を満面に湛える。


「ちょっと待ってくれ、そんな予定は――」


「いつも本ばかり読んでいては腕がなまりますよ?」


「そうですよベルムート殿」


 ベルムートの話を遮ってゲイルとサデイアスがそんなことを言いだした。 

 口調は涼しいが、隠しきれない好奇心がにじみ出ている。


「わたしも見たい!」


 アンリも便乗した。


「むぅー……そこまで言うのであれば……わかった」


「決まりね!」


「楽しみだな!」


「そうねあなた!」


「どちらが勝つか見ものだな」


「審判は任せてください!」


「師匠がんばって!」


 しぶしぶといった様子でのベルムートの返答に、ベルムート以外の皆は喜んだ。


(正直手加減が面倒くさいのでやりたくないのだが……仕方ない。屋敷を使わせてもらっているし、模擬戦くらいならばいいだろう)


 こうしてベルムートは、なし崩し的にエミリアと戦うことになった。



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