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ブライゾル王国について

前回のあらすじ。

盗賊も紫ゴブリンもノー……エミリア隊の前には塵芥も同然よ!



 ベルムートはここ数日、大図書館とクレイグの屋敷にある本を読み耽っていた。


 本によると、ここブライゾル王国は王様をす頂点とした国家であり、昔は力のない小国にしかすぎず、城壁に囲まれた都市だけがもともとのブライゾル王国の全領土だったらしい。

だが当時、悪魔たちの戦争によって住む場所を失った者たちを、自分たちで土地を開拓して住む場所を確保することを条件に、どんどん受け入れたことで急速に発展したらしい。


 最初は、一から木を切り開き土地を耕して河から水を引いたりと苦労の連続だったらしいが、王国側も放置したりせず食料を融通していたそうだ。

 畑ができてくると金銭の代わりに収穫した作物と引き換えにして冒険者と協力して周辺の魔物を討伐したりして、ブライゾル王国は流民と良好な関係を築いていたそうだ。


 その内、畑が広くなりすぎて全体を管理できなくなったので、魔物の被害を最小限に抑えるべく、畑全部を壁で囲む一大プロジェクトが始動することになったらしい。

 そして、壁の完成によって、わざわざ魔物を討伐するために騎士を派遣しなくて良くなったので国には余裕ができ、壁の設置作業が終わって手が空いた者たちが、新たに土地を開拓して領地を増やしていったらしい。


 その流れで、新たな開拓地を支援するための小さな交易拠点としてサルド町が作られた。

 そして、サルド町に徐々に人が増えていき、今では大都市にまで発展したという経緯があるらしい。


 そうして、気がつけばいつの間にかブライゾル王国は大国になっていたそうだ。


 今でも土地の開拓を進める者はいるが、生活が安定・向上したため、前ほど積極的な開拓は行われなくなってきているらしい。


 農業が盛んなため、今では農業を担当するものが力を増し、王都だと文官が幅を利かせているらしい。

 逆に地方だと、魔物の被害が出るので、それを討伐する武官の影響力が強いそうだ。


 他には、この国独自の魔法で王国魔法というものがあるらしい。

 王国魔法についての詳細はわからなかったが、小国だった時のブライゾル王国が悪魔からの被害を最小限に食い止めることができたほどのかなり大規模な魔法だったらしい。


 勇者についてわかったことは、勇者が帝国から国境をまたいでこの国を訪れた後、悪魔を討伐し、その後行方がわからなくなったという記述があり、同時期に悪魔の戦争が終結したので、おそらく勇者が魔王の討伐に成功したが相討ちになったという見解に至ったということだけだった。


「勇者のことは帝国に行けば何か分かるかも知れないな」


 ベルムートはブライゾル王国の隣国にあたるメイガルド魔導帝国に思いを馳せた。

 勇者について調べていたはずなのに、ベルムートはなぜかこの国のことについて詳しくなってしまった。


 その間、サディアスが言っていた通り、すぐに騎士団から盗賊の討伐隊が組まれて王都を出発していった。


 そして、ベルムートが本を読んでいた間、アンリはサディアスと共にゲイルに剣術を習っていた。

 訓練では、魔法は使わず木剣を用いて行われている。


 アンリは呑み込みが早く、ゲイルからみても優秀だと言われている。

 ベルムートは剣術に関してはよくわからないが、アンリが前より構えが樣になっているようには感じていた。


 最初の頃は、幼少から剣術を習っているサディアスに対して、剣術をかじっている程度のアンリでは手も足も出なかったが、徐々に差を詰めていき、最近では勝ちを拾えるまでになっている。


 この短期間で、アンリは魔法が使えなくてもそこそこ戦えるほど強くなっているといえるだろう。


「アンリの上達が早いのは才能なのか、それとも特殊能力ユニークスキル『勇者の卵』が何か関係しているのだろうか?」


 ベルムートは今一つ確証を得られないでいた。

 今ではアンリはゲイルとも模擬戦をするようになり、少しずついい勝負ができるようになってきている。


「やああ!」


「はああ!」


「いいですよお二人とも! もっと背中の支えを意識してみてください!」


 そして今日も、屋敷の庭でアンリとサディアスがゲイルの指導のもと剣の訓練をしている。

 ベルムートは大図書館が休館日だったので屋敷の客室で本を読みながら、たまに窓からアンリたちの様子を覗いていた。


「やああ!」


「くっ! 剣が!?」


「剣なんて飾りです! 偉い人にはそれがわからないんですよ!」


「ゲイル!?」


「そこです! アンリ殿! 剣を捨てて、腰の回転を拳に伝えて解き放つのです!」


「はい!」


「ちょ」


「やあああ!」


「ぼへぁ!」


「まだですよ! アンリ殿! もう一撃サディアス様にお見舞いして差し上げてください!」


「はい!」


「いや、容赦なさすぎだぞ! ゲイル!」


「これもお二人のことを思ってのことです!」


「いや、明らかにアンリに肩入れしているではないか!?」


「そんなことはありません! さあ、アンリ殿! 思いきりやってください!」


「はい!」


「おい!」


「やあああ!」


「ちょま――ぶふぉ!」


 サディアスがアンリに殴り飛ばされた。

 

「あれではサンドバッグだな……」


 憐れみの込もった呟きがベルムートの口から漏れた。


「兄様、ご無事ですか!?」


 すると、突如中庭に女が表れた。

 見た目から冒険者と思しき女は、長い金髪を乱しながらサディアスの元へと駆けてきた。


「なんだ?」


 ベルムートは本を置いて、窓越しに成り行きを観察することにした。


「あれ? エミリア?」


「エミリア様?」


 サディアスとゲイルが首を傾げてその金髪の女の名を呼んだ。


「へ……?」


 アンリは状況が呑み込めずポカンとしている。


「に、兄様よかった無事で……ん?」


 サディアスの姿を確認して一瞬ほっとしたような表情をするエミリアだったが、よく見るとボロボロになっているサディアスを見てエミリアの眉根が寄った。


「これは……誰の仕業なの?」


 エミリアの青い目が据わった。


「え、えと、サディアス様がわたしの訓練相手をして下さったんです。それで、少し熱が入ってしまって……」


 アンリが説明をすると、エミリアの眉根に刻まれた皺がますます深くなった。


「あなた……よくも兄様を!」


 エミリアは怒りの形相で腰の細剣を抜いた。


「エミリア!? 待――」


「はぁあっ!」


 サディアスの制止の言葉も空しく、エミリアは強烈な踏み込みと共にアンリに向けて高速の突きを放った。


「えっ!? うわぁ!?」


 アンリは突然のエミリアの行動に驚き、慌てて持っていた木剣を掲げた。

 木剣を貫かれつつも、ギリギリなんとかエミリアの突きを防ぐが、続く2撃目を防ぐには間に合いそうにない。


「止めてください!」


 と、そこへゲイルが2人の間に体を滑り込ませてエミリアを止めに入った。

 ゲイルの剣とエミリアの細剣がぶつかり、つばぜり合いになった。


「どいてゲイル! そいつ殺せない!」


「この方は、サディアス様と私の恩人であり客人です! 通すわけには参りません!」


「なんですって?」


「そうだよ。だから落ち着いてくれエミリア」


「兄様、どういうことですか?」


「実はね――」


 サディアスがエミリアに事情を説明した。

 説明を受けたエミリアは、細剣を収めて恥ずかしそうにした。


「そうだったのね。てっきり兄様が少女に暴行を受けているものとばかり……」


「間違ってはいないけどね? その言い方だと、なんともいえない気持ちになるな……」


 サディアスは苦笑いをした。

 エミリアだけでなくアンリにも剣……というか拳で負けて、サディアスの男としてのプライドはもはや風前の灯だ。


「それにしても、よく私の攻撃を防いだわね」


 エミリアはアンリを褒めた。

 実際には、アンリが防いだのは1撃目だけで、2撃目は到底間に合いそうになかったが、エミリアにとってみれば1撃防いだだけでも称賛に値するらしい。

 もし、サディアスだったら防げなかっただろうから妥当と言えなくもない。


「い、いえ……その……」


 唐突にエミリアに褒められてアンリは狼狽えた。


「アンリは、私ともいい勝負ができるようになってきてるんですよ」


 ゲイルが自慢するようにエミリアに告げた。


「へー……そうなの……」


 アンリを見るエミリアの目が細められる。

 アンリの肩がビクッと震えた。


「よければ私と模擬戦しない?」


「え? えっと……」


 突然のエミリアの申し出に、アンリはどうしようかと視線を彷徨わせた。


「いいんじゃないか?」


 外に出てアンリたちに合流したベルムートは皆の会話に加わった。


「あなたは?」


「ベルムートだ。アンリの魔法の師匠をしている」


 エミリアの質問に、ベルムートは無難に答えた。


「アンリと一緒に私たちを救ってくれたんだよ」


「そうなんですか」


 サディアスの話を聞いたエミリアがベルムートを品定めするように見た。


「兄様を救ってくれたこと、感謝するわ」


 エミリアは先程までの探るような視線がなかったかのように居ずまいを正して、ベルムートにお礼を言った。


「いや、私は何もしていないのだが……」


 言い淀むベルムートを特に気にした様子もなく、エミリアはアンリに視線を戻した。


「それはそうと。模擬戦、受けてもらえる?」


「えーと……」


 エミリアに問われたアンリが視線でベルムートに訴えかけてきた。


「受けたらいいじゃないか」


 ベルムートは大きく頷き返した。

 アンリに足りない対人戦の経験を得るには打ってつけといえた。

 ベルムートの後押しを受けて、アンリは覚悟を決めたようで、エミリアの目をまっすぐ捉えた。


「わかりました。受けます」


「ありがとう」


 アンリが了承するとエミリアは、わくわくする気持ちを抑えきれず笑みを浮かべた。

 そうして、エミリアとアンリは模擬戦をすることになった。



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