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女騎士、盗賊討伐! 後編

すみません。

やっぱり長かったので分割しました。


前回のあらすじ。

盗賊を懲らしめた。



「何!?」


「みなさん注意してください!」


 尋常でない叫び声に驚き、皆が慌てて周囲を見回す中で、ミシェルが珍しく声を荒げた。


「ミシェル、何があったの!?」


 エミリアがミシェルに尋ねた。


「盗賊がゴブリンに……あ、あれです!」


 ミシェルが指し示す方を見ると、全身紫色のゴブリンがいた。

 目を凝らすと何事かを叫びながら逃げ惑う盗賊たちの姿も見える。

 その周辺には盗賊のアジトと思われる小屋が数軒建っているが、木の葉で巧妙にカモフラージュされていて、もう少し近づかなければその全体はよくわからない。


「何あれ?」


「ゴブリン?」


 ソニアとメリッサが疑問の声を上げた。


「色がおかしいっすね」


「そうね」


 シンディの呟きに、エミリアも頷いた。

 普通、ゴブリンといえば緑色のはずだが、あのゴブリンは紫色だ。

 紫色のゴブリンに始めて遭遇したノーレン隊の面々は首を傾げた。


「とりあえず、邪魔ものにはとっとと退散してもらうぜ!」


「あ! こら待ちなさいグレンダ!」


 ソニアが呼び止めるが、グレンダは紫色のゴブリンに向かって駆け出して行ってしまった。


「うらぁ!」


 グレンダが紫色のゴブリンに大剣を叩きこんだ。

 すると、紫色のゴブリンは真っ二つに裂け――


 ジュウウウウ


 ――ずにグレンダの大剣をドロドロに溶かした。


「なっ!? あ、あたしの剣が……!?」


 グレンダの大剣は鋼鉄製だ。

 その刃の部分がほとんど熔かされてほぼ柄だけの状態になってしまった。

 グレンダは己の手にあるさっきまで大剣だったものを見つめて呆然としてしまった。


「グギャギャ!」


「避けなさいグレンダ!」


「うおっ! あぶなっ!」


 エミリアの言葉に反応して、反射的に体を動かしたグレンダの鼻先を紫色のゴブリンの腕が掠めていった。


「グレンダ! 下がりなさい!」


「あ、ああ……」


 グレンダを下がらせ、エミリアたちは紫色のゴブリンから距離を取った。


「これは……ひどいわね」

 

 周りを見回したエミリアが呟いた。

 地面には融けて原型を止めていない人間の死体が散らばっていた。

 おそらく盗賊の死体だろう。

 紫ゴブリンにはものを溶かす能力があるらしい。

 不思議と植物や地面が融けていないことから、紫ゴブリンは融解する対象を選ぶことができるようだ。


「追い付いたぞ!」


 そこへエミリアたちの後を追いかけていたジェイク隊が合流した。


「なっ!? あれはっ!」


 しかし、紫色のゴブリンを見つけると、とたんにジェイクの表情が険しくなった。


「あのゴブリンについて、何か知ってるの?」


 エミリアがジェイクに質問した。


「あ、ああ。あれは最近王都の近くに出没するようになった紫ゴブリンだ」


 少し狼狽えながらもジェイクはエミリアに伝えた。


「見たところ、剣が効かないみたいだけれど」


「そうだ。剣や弓矢などによる物理攻撃は溶かされて効果が無い」


「物理攻撃が効かないのは痛いわね……何か対処法はあるの?」


「魔法で倒すしかない」


「なるほど、そういうことね。なら、こっちはなんとかするわ。あなたは盗賊の方をお願い」


「いいのか?」


「物理が効かなくても、魔法が通るならやりようはあるわ。それに、あなたの隊は魔法使いが少ないようだし」


 エミリアは、ジェイクの隊員の装備を見て、魔法使いが少ないことをなんとなく察していた。

 実際、ジェイクの隊には魔法使いは2人だけで、その内1人は回復専門だ。

 ジェイクの隊は近接戦闘に特化した隊なのだ。


「その通りだが、そっちは大丈夫なのか?」


「うちには優秀な魔法使いがいるから平気よ」


 聞きようによっては皮肉に聞こえるが、エミリアは事実のみを伝えている。

 少なくともジェイクは気にしていない。


「それに、ここで盗賊を逃がすわけにはいかないわ。ジェイクたちは逃げた盗賊たちを追ってちょうだい」


「わかった。盗賊を捕縛し終わったら加勢する」


「ええ、お願い」


 話が終わり、ジェイクは自分の隊員たちの方を向いた。


「俺たちは盗賊を探しに行くぞ! 紫ゴブリンの相手はエミリア隊に任せて交戦は避けろ!」


 ジェイク隊は盗賊を捕縛するために動き出した。


「リタ! あの紫ゴブリンを炎で燃やし尽くしなさい!」


「任せて」


 エミリアが指示を飛ばすと、リタは魔力を練り始めた。


「皆はリタを守るように陣形を組んで!」


 エミリアの指示で皆がリタを中心に取り囲む。


「グギャギャ!」


 すると、身の危険を感じたのか紫ゴブリンがリタに向かって突っ込んできた。


「させないわ! 『土壁ソイルウォール』!」


 ソニアが魔法を発動させて紫ゴブリンの行動を妨害する。

 進行方向にできた土の壁に紫ゴブリンがぶつかり、土の壁が急速に融けていく。

 どうやら正面突破するつもりのようだ。


「『氷球アイスボール』!」


 そこへ動きを止めた紫ゴブリン目掛けてエミリアの唱えた魔法が飛び、氷の球が紫ゴブリンの片足を破壊した。


「ギャギャギャ!」


 紫ゴブリンは土の壁を融かしきったが、片足となったことで前のめりに転倒した。しかしまだ、紫ゴブリンは執念深く地面を這いつくばってエミリアたちの方へにじり寄ってきている。


「これでとどめ。『大火球ファイアキャノンボール』!」


 魔力を練り終わったリタが、転倒して動きの鈍くなった紫ゴブリン目掛けて魔法を発動させた。


「グギャアアアアァァァアアァァア!!」


 巨大な火の球が紫ゴブリンに直撃し、紫ゴブリンの全身を燃やし尽くして跡形もなく消し去った。


「ふぃー……」


 リタがその場にへたり込んだ。

 盗賊との戦闘の後に、紫ゴブリン相手に強力な魔法を使用したことで、リタは魔力をほとんど使い切ってしまったようだ。


「お疲れ様」


「疲れた……」


 口ではそう言いつつも、エミリアにねぎらいの言葉をかけられたリタの顔はどこか達成感に満ちている。


「気を抜くのはまだ早いです! あと2体紫ゴブリンがいます!」


「へ?」


 ミシェルの声を聞いて、リタが間の抜けた声を出した。


「はっ!」


「っす!」


 紫ゴブリンの姿を見つけたサラとシンディが、紫ゴブリン目掛けて素早く矢を放った。

 紫ゴブリンに矢は命中したが、あっという間に矢は融かされ、紫ゴブリンにはなんのダメージも与えられなかった。


「あらら」


「やっぱりダメっすね」


 サラとシンディが肩をすくめた。


「ソニア、『土覆ソイルコーティング』を使って2人の矢を強化してあげて」


「わかりました! 『土覆ソイルコーティング』!」


 エミリアの指示でソニアが魔法を唱えると、サラとシンディの持つ矢の鏃が土魔法で覆われた。


「ありがとう」


「ありがとうっす!」


 サラとシンディがソニアにお礼を述べた。


「はっ!」


「っす!」


 サラとシンディが紫ゴブリンに向けて再び矢を放った。


「ギャ!」


「グギャ!」


 先ほどとは違い、今度は矢が融かされることなく紫ゴブリンに刺さり、紫ゴブリンが声を上げた。


「やったっす!」


「これならいける!」


 手応えを感じたシンディとサラが次々に矢を放つ。

 その悉くが紫ゴブリンに命中しダメージを与えた。

 しかし、紫ゴブリンに刺さった矢はすぐに土魔法ごと矢を融かしてしまい、決定打にはなっていない。


「グギャギャ!」


「ギャギャ!」


 そして、2体の紫ゴブリンは矢に当たりながらもこちらに近づいてきた。


「ソニア! 私の盾と剣に『土覆ソイルコーティング』を!」


「私の槍にもお願いするわね」


 近づいてくる紫ゴブリンに対抗するため、メリッサとモニカがソニアに武器の強化を求めた。


「わかりました! 『土覆ソイルコーティング』!」


 それに答えたソニアが魔法を唱えた。

 すると、メリッサの持つ盾と剣の表面と、モニカの持つ槍の柄まで含めた全体が土魔法で覆われた。


「私も……これで……打ち止めです……」


 魔力を使い果たしたソニアがその場に膝をついた。


「ありがとうソニア。後は私たちに任せて」


「ええ、ソニアは休んでいてね」


「頼んだわ」


 メリッサとモニカが声をかけ、ソニアが託した。


「矢がなくなった!」


「こっちもっす!」


 サラとシンディが報告する。

 土魔法で鏃を覆っていた矢が尽きた。


 「メリッサとモニカはあっちをお願い。私はこっちのやつを受け持つわ」


「了解です」


「了解したわ」


 エミリアの指示を受けて、メリッサとモニカが飛び出した。


「グギャ!」


「ふん!」


 殴りかかってきた紫ゴブリンの拳をメリッサが盾で弾いた。

 一瞬触れただけだが、盾の表面を覆っている土魔法が削れた。


「ふっ!」


 その隙をついて、モニカの槍が紫ゴブリンの片足を貫いた。


「グギャ!?」


 紫ゴブリンがバランスを崩してよろめいた。


「はぁっ!」


「グギャ!?」


 そこへメリッサの剣が閃き、紫ゴブリンの腕を切り飛ばした。


「思ったよりも柔らかい! けど……」


 今の一撃で剣の表面を覆っていた土魔法が融かされた。

 もうこの剣で紫ゴブリンにダメージを与えることはできないだろう。


「グギャギャ!!」


 片手を失ってなお、紫ゴブリンはまったく躊躇せずに残った腕でメリッサに殴りかかった。


「くっ!」


 メリッサは咄嗟に盾を構えたが、土魔法の覆いごと盾が融かされた。


「ふっ!」


「グギャ!」


 紫ゴブリンの拳がメリッサに届く寸前に、モニカの槍が紫ゴブリンの腕を貫いた。


「はぁっ!」


 盾を失ったメリッサは剣で切り払ってすぐに紫ゴブリンから距離を取った。

 モニカもすぐに紫ゴブリンから距離を取った。


「助かりました」


「いいのよ。あら……」


 モニカは自分の持つ槍の穂先が消え、土魔法の覆いも尽きたただの鋼鉄の棒になっていたことに気づいた。

 メリッサは先ほどの切り払いで剣が融かされてほとんど柄だけになっており、盾も失っている。


「まずいですね……」


「まずいわね……」


 紫ゴブリンに対する攻撃手段が失われてしまった。


「グギャギャ!」


 そんな2人に紫ゴブリンが迫る。


「『火球ファイアボール』!」


 そこへリタの放った火の球が紫ゴブリンに直撃した。


「「リタ!」」


 メリッサとモニカが振り返った。


「正真正銘これで終わり……」


 リタは魔力切れでその場に倒れ込んだ。

 サラとシンディがリタの体を支えて汗を拭った。


「グギャ……」


 『火球ファイアボール』が直撃した紫ゴブリンは、胴体が消し飛んでいた。

 しかし、紫ゴブリンはバラバラになってもまだ活動を続けていた。


「まだ動いてる!?」


 メリッサがぎょっとして声を上げた。

 紫ゴブリンの頭は口を開閉させ、切り飛ばされた腕は地面をもがき、足は立とうとしているのかその場でじたばたしている。


「「「「「「「「「……!」」」」」」」」」


 その様子にノーレン隊の面々は得たいの知れない恐怖を感じた。

 しかし、次の瞬間にはその恐怖はすぐに霧散した。


「『氷球アイスボール』!」


 氷の球が紫ゴブリンの頭に直撃し、消滅させた。


「「「「「「「「「エミリア様!」」」」」」」」」


 ノーレン隊の皆が声を上げた。


「こっちは片付いたわ」


 エミリアが受け持っていた紫ゴブリンは、エミリアの氷魔法によって完全に消滅していた。


「あとはこいつだけね。『氷球アイスボール』! 『氷球アイスボール』!」


 残っていた紫ゴブリンの腕と足も氷の球の直撃を受けて消滅した。


「ミシェル、まだ他に紫ゴブリンはいる?」


「もういないみたいです!」


 ミシェルの報告を聞いて、エミリアたちは胸を撫で下ろした。


「こっちは残りの盗賊を全員捕縛したぞ! そっちはどうなった!?」


 そこへジェイクが意気揚々と駆け寄ってきた。


「なんとか紫ゴブリンは倒したわ」


「おおそうか! さすがだな!」


「それほどでもないわ」


「あとは盗賊のアジトを調べるだけだな」


「手伝うわ。盗賊のアジトを探索してから戻りましょう」


 ジェイク隊とも手分けして、小屋の中の盗賊が蓄えていた金品や食糧を押収した。

 盗賊に捕まっていた約10人の女性たちを保護し終わると、皆もと来た道に引き返した。

 エミリアたちは、幾分か衰弱した女性たちを気にかけながら林の中をゆっくりと進んだ。

 魔力をほとんど使い果たしたリタはモニカとサラに肩を貸してもらい、ソニアはメリッサとシンディに肩を貸してもらって歩いている。


 皆、任務を終えることができそうだとほっとしている中で、一人だけ肩を落としている人物がいた。


「あたしの大剣……」


 ほぼ柄だけになった元大剣を見つめて落ち込むグレンダだ。


「経費で買ってもらえるようにお願いしてみるから」


「本当か!?」


 見かねたエミリアが声をかけると、グレンダが飛びついてきた。


「まあ、それくらい許してくれるでしょう」


「よっしゃあ!」


 エミリアの安請け合いに元気を取り戻したグレンダ。


「あの、私たちの分もお願いしてもいいですか?」


「お願いしたいわ」


 話を聞いていたサラとモニカがエミリアに頼んだ。


「そうね。わかったわ」


 エミリアは笑顔で頷いた。


「よかったです」


「よかったわ」


 メリッサとモニカはほっと一安心した。


「駄目だった時はノーレンに払ってもらいましょう」


「え!? なんで俺なんですか!?」


「いいっすね!」


「よくないですよ!」


「ありがとうございますノーレン隊長」


「助かったわノーレン隊長」


「何で俺が払うことが決定事項みたいになってるんですか!?」


「さすが隊長っす!」


「よっ! 王国一の隊長!」


「やっぱ隊長は頼りになるぜ!」


「ちょっと! 都合のいいときだけ隊長呼びするのやめてくれませんかね!?」


「買った盾と剣は形見だと思って大切にしますね」


「俺死んでませんよ!?」


「買った槍は隊長が仕事をサボらないようにせっつくのに使うわね」


「やめてください!」


「せっかくの私の思いやりなのに」


「うまくないですよ!?」


 一応隊長なのに隊の女性たちにいじられまくるノーレン。

 これが男1人の悲しき定めなのだ。

 そして、エミリア一行は馬車を置いてきた場所まで戻ってきた。


 そこでは討伐隊が盗賊から装備を剥ぎ取っており、王都と都市サルドから追加で後からやってきた空荷の馬車の中にその装備を積み込んでいた。


 盗賊で死んでいる者は林の中に放置され、生きている者は討伐隊によって縄で縛られ別の空荷の馬車に放り込まれていた。


 捕まっていた女性たちは、エミリアたちの乗る馬車に同乗することになった。

 その際、全員乗りきらないことを考慮して積んでいた荷物を他の馬車に預かってもらったりして整理したが、それでも行きの約2倍の人数になったことで馬車の中はだいぶ手狭になった。


 その後、念のため周囲を捜索したミシェルから『残敵なし』と報告を受けて、作業を終えたエミリアたちは無事に盗賊討伐を終えて王都へと向かった。



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