表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/102

他人の記憶

前回のあらすじ。

人間が悪魔に勝てるわけないだろ!



 仮眠を取ってから二時間後。

 奪った記憶の整理が終わり、ベルムートは目を覚ました。


 ベルムートは仮眠を取る前に、灰色の鳥の眷属を派遣して、アスティへの報告や、攻撃の余波で荒れた土地の調査、周辺に誰かいないかを探させていた。


 アスティからは『遊んでないで早く勇者を連れてきてください』というお叱りの手紙が返ってきた。


「いや、遊んでいたわけではないのだが……」


 ベルムートとアスティとの間には認識の相違があるようだった。


 戦闘によって荒れた土地の方は、周辺直径100mほどにいた魔樹やその他の動植物などが跡形もなく消し飛んでいた。


 男が最後に使っていた光の剣での技は、ベルムートにとっては眩しいだけでたいしたことない攻撃だったが、実際にはなかなかの威力を持っていたようだった。

 ただ、男が使ったあの技は力任せに魔力を放出するだけで、まったく洗練されていなかった。

 もし、ちゃんと魔力制御を行い力を収束させていれば、先ほどベルムートが張った防御魔法『防御殻プロテクトシェル』を紙のようにあっさりと切り刻めただろう。


 それと、この周辺には誰もいないどころか、生き物の気配すらしないようだった。

 戦闘に巻きこまれないように、逃げだしたのかもしれない。


 ベルムートが得た男の記憶には、『電撃サンダー』による肉体の損傷と死んだことによる劣化で、断片的なところがあるが、概ね情報は得ることができたようだった。


 死んだ男の名前はエルク。

 年齢は26歳でブライゾル王国を拠点とする冒険者だった。


 エルクは孤児だったが、生きるために自らを鍛え、薬草採取や狩猟で食いつなぎ、騎士訓練所で開かれる公開模擬試合に参加して技術を盗み、力を付けていった。


 エルクの魔法適性は人間にしては多く、火、雷、光の3つの属性に適性があり、勉強して文字の読み書きがてきるようになると魔術本を読破して自力で魔法を身につけ、さらに他の冒険者に教えを請って次第に魔法は上達していった。


 しかし、エルクは才能があり努力も怠らない人間ではあったが、ついてこれるだけの実力のある仲間はおらず、ソロでの依頼または他のパーティへの臨時参加で活動していた。


 そして、エルクは冒険者ギルドの常時依頼である未開地調査のために単身でこの地に来ていた。


 未開地調査では地図の作成と生態系の確認を主に行い、ギルドに報告することで依頼が達成される仕組みになっているらしい。


 らしい、というのは彼はこの未開地調査の依頼というものを初めて受けたようで、詳しいことはわかっていないようだった。


 エルクは他のパーティも誘ってみたようだが、実入りが少なく危険の多い未開地調査は人気がなかったため結局人が集まらなかった。


 それからいくつかの町と村を経由してこの地に着いて調査をしていたところ、魔樹と戦闘になり、その直後にベルムートと出会ってエルクは命を落とした。


 ちなみに、エルクがベルムートに突然攻撃してきたのは、ベルムートの見た目が恐ろしかったからのようだ。


「そんなに私の見た目は恐いのか? きちんと身なりは整えたのに……地味に傷ついたんだが」


 ベルムートは項垂れた。


「まあ、エルクのおかげで、今の私の見た目で話すと人間が怖がることがわかったのは僥倖だったな。このまま大勢の人間の前に姿を現していればどうなっていたことか……」


 ベルムートは安堵した。


「話を聞いてもらうためには……エルクに見た目を寄せれば大丈夫か?」


 ベルムートは気を取り直して、さっそくエルクの姿を参考に擬態魔法で人間に化けることにした。

 

 艶のあるさらりとした灰色の髪は茶髪に、アメジストのような紫の瞳は茶色に、墨を塗りたくったような黒の肌は人間の肌色に変化させた。

 顔の形や背格好は変えず、単純に体の色を変えただけだが、普通の人間のような見た目にはなった。


「これで人間に怖がられることはないはずだ。もしこれで怖がられたら、もう完全な別人にならなくてはならないな……いくらなんでも、さすがにそこまでは必要ないよな? ないと思いたい。そうならないことを祈ろう」


 ベルムートは不安を滲ませつつも、変化した姿が人間に不審を抱かれないことを願った。


 その後、ベルムートはエルクの服と鎧と剣、それに近くに置いていたお金や食料その他の荷物もありがたく頂戴した。

 エルクが持っていた白銀色に輝く鎧と剣はミスリルで作られたものだった。

 ミスリルの剣は鋼鉄の剣よりも丈夫で切れ味も鋭く、子どもが扱っても魔物の骨を容易く切り裂くことができるほどで、かなり上等な装備だ。

 実際かなり高額だったらしく、当時のエルクは鎧と剣を買うときに、5年かけて貯めていたその時のほぼ全財産をつぎ込んでいた。


「思いがけず、いい拾い物をしたな」


 ベルムートは満足そうな笑みを浮かべた。

 それからベルムートは、エルクの着ていた服を参考に『空間倉庫アイテムボックス』から取り出した服に着替えてミスリルの鎧と剣を装備した。

 見た目は普通の冒険者だ。

 ベルムートの脱いだ礼服はエルクの服と一緒に『空間倉庫アイテムボックス』に仕舞われた。


「ふーむ……エルクの死体はどうするべきか……」


 エルクの素っ裸の死体はそのまま放置しておいても魔物が片付けてしまうので問題はないが、ベルムートの心情としてはそのままにしておくのは忍びなかった。


「せめてこれを置いておくか……」


 ベルムートは魔王と魔王軍幹部の姿を模した人形をエルクの側にそっと置いた。


「ひとりぼっちは寂しいもんな……」


 ベルムートがぽつりと呟いた。

 エルクの死体はそのうち魔物が片づけてしまうだろうが、それまで人形たちが側で見守ってくれるはずだ。


 もっともエルクを殺したのはベルムートなので、エルクが浮かばれるかと言われれば首を傾げる他ないが。


「一先ず勇者を探すなら、人間がたくさんいる場所に向かうのがいいだろうな。ブライゾル王国の王都に行けば勇者が見つかるかもしれない。ついでに途中にある村や町を巡るのもいいか」


 ベルムートは考えを巡らせた。


「ふーむ……まずは、エルクの記憶にあった近くの村に行って話を聞くとしよう」


 方針を定めたベルムートは、勇者の情報を探るべく村へと飛び立った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ