女騎士、仕事見聞!
すみません。
やっぱり長かったので分割しました。
前回のあらすじ。
キャラ多すぎぃ!
ノーレン隊の皆は、盗賊討伐の準備を進めていた。
そしてエミリアは、避難を促したフィルスト村の人々の移住先の手配を担当することになった。
「うーん……」
しかし、エミリアはどこから手を付けようかと悩んでいた。
「とりあえず、誰かに相談してみましょうか」
ひとりで悩むのは止めて、さっそく皆のいる場所を訪ねて回ることにしたエミリア。
自分たちの隊が使っている仕事部屋を覗くと、ノーレンとソニアとモニカが書類を捌いていた。
「帰ってきて早々書類仕事ですか」
「別にいつものことじゃない」
「いやーわかってはいるんですけどね」
「なら、つべこべ言わずにちゃっちゃと終わらせて」
「仕方ないですね」
テキパキと仕事をこなすソニアとは対照的に、ノーレンはため息を吐きつつ仕事をしている。
「お茶をいれたので、ここに置いておきますね」
モニカの手からそっと差し出される2つの白いティーカップからは、あたたかな紅茶の香りが立ち上っている。
「いやー相変わらず気が利きますね」
「ありがとうございます、モニカさん」
「いえいえ」
ノーレンとソニアはモニカにお礼を言い、カップに口をつける。
モニカも自分の紅茶を一口飲む。
3人はほっと一息いれた。
「じゃあキリがいいし、休憩にしましょうか」
「何言ってるのよ、まだ全然じゃない」
「少しくらい休んだっていいと思うんですけど」
「今休んだじゃない」
「いや、さすがに短すぎますよ」
「あらそう? なら、あなたは休んでてもいいわよ。後で私からエミリア様にあなたがサボってたって報告しておいてあげるわ」
「それはやめて」
「まあまあソニア、その辺にしておきましょう?」
「はーい」
「ふぅー……助かりましたモニカさん」
「いえいえ、エミリア様への報告は私からしておきますね?」
「え?」
半泣きのノーレンをソニアがせっつくと、モニカは良い感じに2人をフォローする。
一体誰が隊長なんだかわからなくなる。
まあ、もし仮に聞かれたとしたら、この3人は間違いなく『隊長はエミリア様』と答えるだろう。
いや、エミリア以外のノーレン隊の全員がそう答えるはずだ。
というか、この騎士団詰所にいる全員がそう思っているふしがある。
この詰所の責任者であるラドルフでさえも何かあればノーレンではなくまずエミリアに話を通しに行くくらいだ。
「今は邪魔になりそうね」
エミリアは仕事中のこの3人には話しかけられそうにないと判断した。
エミリアは部屋の扉をそっと閉めて他の人を探しに別の場所へと向かった。
「いないわね」
エミリアはぶらぶらと詰所内を歩くが、ノーレン隊の皆の姿が見当たらない。
「もしかして、外かしら?」
エミリアが少し外に出て騎士団の厩舎を覗くと、ミシェルが馬車の手配をしていた。
「ミシェル、今ちょっといい?」
エミリアが声をかけると、ミシェルが振り返った。
「あ、エミリア様! どうしたんですか?」
「フィルスト村の人たちの移住について相談したいんだけど」
エミリアの話を聞いて、ミシェルは困った顔になった。
「あー……すみませんエミリア様、しばらくしたら買い出しに行った皆が帰ってくるんで、今のうちに馬車の調達を終わらせないといけないんです。なので、申し訳ないんですけど他の人を当たってもらえませんか?」
「そう……」
エミリアは少し残念な気持ちになったが、気を取り直してミシェルに質問した。
「なら、ノーレンとソニアとモニカの居場所はわかってるから、他の皆がどこにいるか知らないかしら?」
「ああそれなら、サラとシンディは物資の調達、メリッサとグレンダは食料の調達にそれぞれ出かけていてここにはいないですよ。あと、いるのはリタですけど、今は疲れて眠ってますね」
「リタはちゃんと寝てるのね。よかったわ。教えてくれてありがとう」
「いえ、お力になれずにすみません」
「気にしないで」
申し訳なさそうにするミシェルを置いて、エミリアは厩舎を後にした。
「皆忙しそうね……困ったわ……」
「エミリア様、どうかしたんですか?」
エミリアがどうしようかと考えながら詰所内をうろうろしていると、騎士団詰所の受付をしているジェシカが声をかけてきた。
「フィルスト村の人たちの移住について相談しようと思ったんだけど、手が空いている人がいなくて」
「移住ですか? それなら、付近の村の状況はこっちでまとめてあるんで、なんとかなると思いますよ!」
「本当? 見せてもらえる?」
「いいですよ!」
エミリアがジェシカについていくと、山のように紙束が積まれた部屋に案内された。
「す、すごい紙の量ね。全部運ぶとしたら馬車2台でも足りなさそうだわ」
「そうですね! まあ、私はもう慣れちゃいました!」
「そ、そう」
「はい! えーとフィルスト村の周辺は……あっ! あのあたりですね!」
ジェシカが山のように積まれた紙束の内のひとつを指し示す。
「よくわかるわね?」
「何回も崩してますからね!」
「そ、そう」
「取ってきましょうか?」
「お願いするわ。私だと崩しそうだもの」
「わかりました! ここは私の庭ですからね! パパっと取ってきますよ!」
ジェシカは紙束の山をかき分けていった。
「どっひゃー!」
途中で紙束が崩れてジェシカが紙に埋もれた。
「ジェシカ!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫です~」
よろよろと立ち上がったジェシカのその手にはしっかりとエミリアに渡す分の紙束が握られていた。
「ど、どうぞ」
「あ、ありがとう」
ジェシカに渡された紙束を受け取ったエミリアは申し訳ない気持ちになった。
「その紙……集めるの手伝うわね?」
「……お願いします」
エミリアとジェシカは散らばった紙を集めた。
「ありがとうございました!」
「いえ、どういたしまして。資料はここで読んでいいかしら?」
「はい! あ! よかったらそこの机空いてるんで使ってもいいですよ!」
「ありがとう。使わせてもらうわ」
エミリアは受け取った紙束にさっそく目を通していく。
エミリアは、ジェシカの渡してくれた資料を見ながらフィルスト村の村人たちの移住先を決めていった。
「やっと見つけた! ここにいたんですねエミリア様! 探しましたよ!」
しばらくするとミシェルがエミリアを呼びに来た。
「うひゃー!?」
ミシェルの声に驚いたジェシカがまた紙束を崩して下敷きになった。
「「あ……」」
ミシェルとエミリアは散らばった紙を集めるのを手伝った。
「あ、ありがとうございました!」
紙を集め終わり、ジェシカが礼を言ってきた。
「すみません私のせいで」
「いえいえ! 気にしないでください!」
謝るミシェルをジェシカが手で制した。
「今回のは事故みたいなものよ。仕方ないわ。それより、何か私に用があったんじゃないのかしら?」
「あ! そうでした! 王都の討伐隊の準備が終わったそうで、今から盗賊討伐の作戦会議を行うそうです」
エミリアが尋ねると、ミシェルは話した。
「そう。思ったより早かったわね」
まだエミリアたちがここに戻ってきてから1日しか経っていない。
「それで、出発はいつ?」
「明日の朝だそうです」
「明日の朝……?」
ミシェルの話を聞いて、エミリアは驚いた。
「困ったわね……まだフィルスト村の村人の移住先の手配が終わっていないのよ」
「それなら私がやっておきましょうか?」
ジェシカが思いがけない提案をエミリアにしてきた。
「え? いいのかしら?」
「はい!」
「じゃあ……お言葉に甘えさせてもらうわね」
「任せてください! んぎゃー!」
ジェシカが胸を叩く動作をすると、またしても紙束の山が崩れてジェシカが紙に埋もれた。
「「……」」
ミシェルとエミリアは呆れてものも言えなくなった。




