女騎士、帰還! 後編
すみません。
やっぱり長かったので分割しました。
前回のあらすじ。
ラドルフに怒られ、ついでに仕事を押し付けられた。
「「あ!」」
ラドルフの部屋を出たエミリアたちが声のした方を向くと、ここに残してきたノーレン隊のメンバーの内の2人、メリッサとシンディにばったり出くわした。
「エミリア様、帰ってきてたんですね」
メリッサが嬉しそうにエミリアに話しかけてきた。
メリッサは盾と剣を使って堅実な立ち回りをする女性騎士で、釣り目でストレートロングの髪をしている。
「ええ。ところで残りの3人は?」
「リタとモニカは書類捌いてますよ。グレンダは外で自主練してます」
「そう。後で顔を見せないとね」
「ぜひ、そうしてください」
エミリアの質問に、メリッサがテキパキと返答する。
「あんたたちは何してるのよ?」
サラが、メリッサとシンディに尋ねた。
「私たちは、仕事をしてる2人に昼食を買ってこようと思って」
「一緒に食べようって誘わなかったの?」
メリッサの返答を聞いて、ミシェルが尋ねた。
「誘ったんですけど、リタが『エミリア様が帰ってくるまでには終わらせる』と意気込んでしまって。モニカは、『リタが心配だから仕事を手伝いつつ側にいるわ』って言って部屋に残ってます」
「それで、しょうがないのでうちらが食事を買ってこようってことになったんす」
メリッサに続いてシンディが答えた。
シンディは弓使いの女性騎士で、髪型がツインテールだ。
「とりあえず立ち話もなんだから、他の3人も誘って一緒に昼食を取りながら情報交換しましょう」
「わかりました」
「シンディはグレンダを呼んできて」
「了解っす!」
エミリアの指示にメリッサが首肯し、シンディは大袈裟に敬礼をしてグレンダを呼びに向かった。
シンディと一旦別れたエミリアたちが、ノーレン隊に与えられている騎士団詰所内の仕事部屋に入ると、書類を高速で捌くリタと、出来た書類を受け取って次から次へと新しい書類をリタに渡すモニカの姿があった。
「あ」
「あら」
エミリアたちに気づいたリタとモニカが声を上げた。
「お帰りなさいエミリア様」
「ただいま。大丈夫? 無理してないわね?」
「これくらい平気」
リタが出迎えてくれるが、その眼鏡の下にはくっきりとクマができていた。
リタは、眼鏡をかけたショートボブの背の低い魔法使いの女の子だ。
「クマができてるじゃない。とりあえず手を止めて、これから一緒に食事に出かけましょう」
「あら、それはいいわね。リタも行きましょう?」
エミリアの誘いに応じて、モニカもいつも通りおっとりした雰囲気で微笑しながらリタに語りかけた。
モニカは、ゆるふわセミロングの長身のモデル体型の槍使いの女性だ。
「わかった。もとよりエミリア様の誘いを断るなんて選択肢はない」
リタが了承したところで、シンディとグレンダがやってきた。
「呼んできたっすよ」
「よっ! お帰り!」
シンディに続いて、グレンダは軽く手を上げニカッと笑いながら部屋に入ってきた。
グレンダは、くせ毛のミディアムヘアーをした大剣使いの女性騎士だ。
「ええ、ただいま」
これでノーレン隊の10人全員がそろった。
「皆揃ったわね。昼食に出掛けましょうか」
「「「「「「「はい」」」」」」」
「はいっす」
「おう!」
ノーレン隊の皆は詰所を出て、街の食堂に入った。
昼の時間帯を過ぎていたのもあって、席は空いていた。
問題なく全員着席して、各々食事の注文を済ませると、エミリアが口を開いた。
「さっそくだけど、私たちがいない間のことを教えてくれないかしら?」
「あ! そうっすよ! エミリア様がいない間、大変だったんすよ!」
「ちょっと落ち着きなさいよシンディ」
興奮したシンディをメリッサは宥める。
「うーん……眠い……」
「リタはちょっと頑張りすぎたわね」
リタは半分寝ており、そんなリタをモニカが気にかけている。
それを見て、調査でいない間仕事を手伝えなかったミシェルとサラ、ソニアは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「あ? お前らがそんな顔する必要ねぇよ。リタが無理したのが悪いんだ」
グレンダが直球で物を言った。
「む」
リタが寝ぼけ眼でグレンダを睨み付けた。
「あんたは……もうちょっと言い方を考えなさいよね」
メリッサが嗜めるようにグレンダに言った。
「あ? なんだよ? てか、そんな辛気臭い顔してたら飯が不味くなるからやめとけ」
グレンダは意に介した風もない。
「あんたは本当にもう……」
メリッサは呆れた。
「ふふっ」
そんな周りの状況に思わずクスっとエミリアは笑みを零した。
「リタはともかく、他の皆は元気そうね」
笑顔のエミリアにつられて、場の空気が弛緩した。
「それでメリッサたちは、オークの住処の調査に行ったのよね?」
気を取り直してエミリアは質問した。
「そうですね。オークに捕まっていた冒険者の方に案内を頼んで、オークがいたと思われる洞窟に行きました」
メリッサが答えた。
「どこにあったの?」
「森の奥に洞窟があって、そこを住処にしていたみたいっす」
ミシェルが聞くと、シンディが答えた。
「木が切り倒されていて、道が分かりやすかったですね」
「え? 木が切り倒されていた?」
「誰がそんなことを?」
メリッサの発言に、現場を見ていないサラとソニアが疑問の声を上げた。
「オークに捕まっていた人たちを救い出した冒険者と人みたいな牛がやったみたいです」
「冒険者と……人みたいな牛?」
「あと女の子を連れていたそうです」
「なんじゃそりゃ」
メリッサの話で、ますますサラは頭の中が混乱した。
「なんでも、紙を切るように木を切り飛ばしていたらしいぜ。その冒険者と牛に会ってみたかったな」
「それは凄いわね……」
グレンダが口を挿むと、ソニアが驚いたように言葉を漏らした。
「で、中はどんな感じだったの?」
ミシェルが話を戻した。
「薄気味悪いところでした。死体もたくさんありましたし」
「オークに食われて骨になってるやつもいたっすね」
「酷い臭いだった」
メリッサ、シンディ、リタがうんざりした顔で答えた。
「あれを外に運ぶのは大変だったわ」
「ああ、きつかったなあれは」
「洞窟という割には広かったですしね」
モニカ、グレンダがやれやれという表情で話し、メリッサが補足するように言った。
「それで運んだ死体はどうしたんだ?」
「きちんと埋葬しましたよ」
「ついでに他の魔物が居つかないように、洞窟の入口も塞いどいた」
ノーレンが聞くとメリッサが答えて、リタが追加で行ったことを教えてくれた。
「他に気になる事とかは無かった?」
会話を遮らないように、一拍置いてからエミリアが尋ねた。
「奥に変な扉があった」
「あと、熔けた武器とか、灰もあったな」
「他にも……あれ?」
リタとグレンダが答えると、メリッサが突然考え込みだした。
「何かあった気がするんだけど……なんだったっけ?」
「私も何か引っかかる」
「何かあった気はするんだけど、思い出せないわ」
「まあ、思い出せないならたいしたことじゃないっすよ」
「だな」
メリッサ、リタ、モニカが思い出そうとしているが、シンディとグレンダは諦めたようだ。
「そうですね。それより、問題はその後です」
気を取り直してメリッサが話を続ける。
「オークに捕まっていた人たちに騎士団の宿舎を貸していたんです。けど、その人たち、ふとした時にパニックに陥ってしまうようなんです」
「どういうこと?」
メリッサの話にエミリアが説明を求めた。
「太ったやつとか体のでかいやつを見ると泣いて喚いたり、青い顔をして倒れたりするんすよ」
「オークがトラウマになってるみたいなのよね」
「騎士団の男性は体が大きい人が多いから、それを見てトラウマを思い出してしまって泣き喚いたり、落ち着かせようと近づいた男性騎士の姿を見てさらにひどくなる人が続出して、大混乱でしたよ」
「おかげで私たちがフォローするはめになった」
シンディ、モニカ、メリッサ、リタが口々に答える。
「それに比べてオークの巣まで案内してくれた女性の冒険者はすごかったですね」
「ひどい目にあったはずなのに、つらい気持ちをおくびにも出さずに普通に接してたものね」
メリッサとモニカが女冒険者を称賛した。
「もし、自分が同じ体験をしていたら、とてもじゃないけど真似できませんね」
「私には無理」
「うちもっす」
メリッサに続いて、リタとシンディも同意した。
「あたしは大丈夫だと思うけどな」
「グレンダは心臓に毛が生えているから、そんなことが言える」
グレンダの発言に対して、リタは口を尖らせた。
「都市近くの魔物の様子は?」
ミシェルは質問をした。
「オークの件があったあたりから都市サルド周辺の魔物の数はだいぶ落ち着いてきましたね」
「魔物が急に増えたこととオークは何か関係があったのかしら?」
「かもしれないっすよ」
メリッサが答えて、モニカの推測にシンディが頷いた。
「それで、エミリア様たちの方はどうだったんですか?」
「ええ、実は――」
エミリアはフィルスト村を調査して分かったことを話した。
途中でウェイトレスが食事を運んできたので、食べながら話を進めた。
「ほえー未開地まで行ったんすか」
「戦闘跡地に黒雲ですか……」
「私たちもそこに?」
シンディがわざわざそんなところまでといった表情で言い、メリッサが難しい顔をして考え込み、リタが自分たちも調査に出かけるのかと聞いてきた。
「いいえ、私たちは盗賊の討伐を命じられたわ」
「「「「「盗賊?」」」」」
メリッサ、シンディ、リタ、モニカ、グレンダが揃って声を上げた。
「あなたたちはまだ知らなかったわね。ラドルフ軍団長に頼まれたのよ」
「最近、盗賊による被害が深刻な問題になっているらしくてな。王都の騎士団と協力して対処することになったんだ」
エミリアが話し、ノーレンが追加で説明した。
「「「「「なるほど」」」」」
先ほど声を上げた5人の顔に納得の表情が浮かんだ。
「盗賊の討伐が終わった後、王都に戻ることになってるから皆そのつもりでいてね」
エミリアが皆に伝えた。
「うちらはお役御免ってことっすかね」
「本部に報告に行くだけよ」
「まあ、私たち元々王都の騎士団から応援としてこの都市に派遣されてきたわけだしさ。あんま気にすることないよ」
シンディの呟きに、ソニアとサラが答えた。
「そういうわけだから、食事が終わったら準備を始めてね」
「わかりました」
「了解っす」
「わかった」
「わかったわ」
「はいよ」
エミリアの言葉にメリッサ、シンディ、リタ、モニカ、グレンダがそれぞれ返事をした。
「リタは寝なきゃダメよ?」
「え、でも……」
「盗賊と戦う前から倒れられたら困るわ」
「……わかった」
エミリアの説得にリタが折れた。
「すっかりエミリア様の隊になってんな」
「ノーレンの立場がないっすね」
「もうエミリア隊に改名していいんじゃない?」
「しっ!」
グレンダとシンディとサラが言うと、リタとミシェルとソニアがうんうんと頷き、モニカはあらあらと微笑み、メリッサが静かにするように素早く行動した。
「何を言っているの? 私は副隊長よ?」
エミリアは首を傾げていた。
「ははは……」
ノーレンは苦笑いしていたが、内心ではエミリアが隊長にならないかなと思っていた。
その後、食事を終えて騎士団詰所に戻ったノーレン隊の皆は、盗賊討伐に向けて各々準備に取り掛かった。
設定
ブライゾル王国騎士団王都所属168番隊メンバー
・エミリア・ストロングウィルド
太陽の光を反射して生命力溢れる長い金髪を持ち、サファイアのような青い瞳で、美しく引き締まった体をしている。
貴族、ストロングウィルド家長女。
両親と、兄が一人いる。
副隊長。
困っている国民を助けることに積極的。
隊の中で一番の戦闘力を誇る。
部下からの信頼は厚い。
そのため、ノーレンが隊長だが、実質エミリアの隊になっている。
水属性。
武器は細剣。
・ノーレン
隊長。
体を鍛えてはいるものの、見た目は少しひょろくて頼りなさげ。
気が利く。
戦闘もこなせるが、書類仕事の方が得意。
隊唯一の男性。
他の隊の男からはやっかみを受け、隊の女性たちからはよくからかわれている。
事情がありノーレンが隊長になっているが、本人はエミリアの方が隊長に相応しいと思っている。
闇属性。
武器は片手直剣。
・ミシェル
髪はポニーテール。
斥候を担当している。
明るく元気。
相棒の鷹のテオと視界を共有できるという特殊能力を持っている。
光属性。
常に鷹のテオと周囲を警戒しているため、基本的に戦わない。
そのため、戦闘中は隊の誰かに守ってもらっている。
回復魔法が使える。
・ソニア
髪は三つ編み。
慎重に物事を考える。
書類仕事が得意。
戦闘では土魔法を使って器用に立ち回る。
土属性。
魔法使い。
・サラ
髪はショートヘア。
飄々としている。
時々飛躍した発想をする。
身軽。
風属性。
武器は弓と短剣。
・メリッサ
つり目で髪はストレートロング。
真面目。
エミリアに憧れている。
戦闘では盾と剣を使って堅実な立ち回りをする。
雷属性。
武器は盾(ヒーターシールド)と片手直剣。
・シンディ
髪はツインテール。
語尾に「っす」をつけるのが特徴。
楽観的で隊のムードメーカー。
動体視力が良い。
水属性。
武器は弓。
・リタ
眼鏡をかけている。
髪はショートボブ。
背が低い。
子どもに間違えられてよくキレている。
書類仕事が得意。
モニカと仲が良い。
敵を殲滅する魔法が得意。
火属性。
魔法使い。
・モニカ
髪はゆるふわセミロング。
長身のモデル体型。
おっとりとした雰囲気の隊のお姉さん的存在。
隊の皆をそつなくフォローする。
リタと仲が良い。
風属性。
武器は槍。
・グレンダ
髪はくせ毛のミディアムヘアー。
男勝り。
細かいことは気にしない。
隊で一番力が強い。
戦闘では豪快に大剣を振り回して戦う。
火属性。
武器は大剣。




