女騎士、帰還! 前編
すみません。
やっぱり長かったので分割しました。
前回のあらすじ。
他人の権力を振りかざして得をした。
フィルスト村の調査を終えたエミリアたちは、行く時と同じく10日かけて都市サルドに帰還した。
今は昼頃で、町の人々が活発に動いている。
「ようやく帰って来れましたね」
「そうね」
安堵したようなミシェル言葉に、エミリアは同意を示した。
やはり魔物に対する警戒をする心配があまりなく、人が多くいる場所は安心するものだ。
エミリアたちが、騎士団詰所に入ると、慌ただしく仕事をしている騎士たちの姿が目に映った。
「なんだか、慌ただしいわね」
「そうですね」
エミリアの発言に、ノーレンが頷いた。
「それに、出ていく前と少し雰囲気が違う気がするわ」
「私も思いました。何かあったんでしょうかね?」
エミリアの所感に、ノーレンも同意した。
エミリアたちが都市サルドを出発する前は、魔物の大量発生による慌ただしさだったが、今の騎士たちはそれとは違った忙しさに追われているようにエミリアたちは感じた。
「気にはなるけど、まずはラドルフ軍団長に報告にいきましょう」
「「「「はい」」」」
詰所内の様子が気になるエミリアたちだったが、まずはラドルフへの報告を済ませることにした。
「あっ! エミリア様!」
騎士団詰所の受付をしているジェシカが、エミリアたちに気付いて近づいてきた。
「皆さん無事で良かったです!」
「ええ、幸いにもね。それでラドルフ軍団長はいる?」
「はい、自室にいらっしゃいます」
「そう、ありがとう」
ジェシカにラドルフの居場所を聞いたエミリアたちは、階段を上って2階にあるラドルフの部屋の扉をノックした。
「エミリアです。ご報告したいことがあります」
「入れ」
中にいたラドルフに促されて5人で部屋に入ると、ラドルフは執務机で書類に目を通しているところだった。
「お忙しいところ失礼します。ノーレン隊、ただいま帰って参りました」
「ご苦労」
ノーレンが言うと、ラドルフは書類を置いてこちらを向いた。
「軍団長も書類仕事するんですね」
「こらっ!」
「あいたっ!」
失言したミシェルの頭にソニアが拳骨を落とした。
サラは『あちゃー』と目を手で覆っている。
ノーレンは冷や汗を流している。
エミリアは『書類仕事くらい当然するでしょ何言ってるの?』という表情だ。
その様子を見てラドルフは苦笑いを浮かべた。
「お前たちがいない間にいろいろとあってな」
そう言うラドルフの姿からはどこか疲労がにじみ出ている。
「まあ、こっちのことは後ででいい。先に報告を聞こう」
「はい、実は――」
エミリアはラドルフに調査結果を報告した。
「フィルスト村の未開地に黒い曇? それに激しい戦闘の跡が?」
「はい」
「それで、お前達は村人に避難するように呼びかけたと?」
「はい」
「はあ……」
エミリアの返答にラドルフはため息を吐きつつこめかみを手で抑えた。
「で、どこに避難するように言ったんだ?」
「いえ、特には指定していませんが」
「……なんだと?」
エミリアの言葉を聞いて、ラドルフの声のトーンが1段低くなった。
「勝手な行動を取った上に、村の人々を放置したのか?」
「いえ、きちんと未開地の状況を村の方々に説明して、いつでも避難できるよう準備するようにと伝えただけです。急に避難と言われても村の方々も荷物をまとめるのに時間がかかりますので。その間に私たちは状況を知らせるために、ここに報告しに戻ってきたのです」
「馬鹿もんがっ! それでは、受け入れ先の手配もせずに、いたずらに不安を煽って来ただけではないかっ!」
ラドルフの怒声が室内に響き渡った。
ノーレン隊の面々は突然の怒鳴り声に震えあがった。
「そ、そんなことは……」
ありません、と言いたいエミリアだったが言葉に詰まった。
確かにラドルフ軍団長の言う通りだと思ってしまったからだ。
未開地の黒い曇や戦闘跡地を危険視するあまり、細かいところまで配慮が足りていなかった。
浅慮だったかもしれないとエミリアは反省した。
「ふぅ……やるからには最後まで責任を持て。しっかりと移住先の手配と受け入れ態勢を整えろ」
ラドルフは、一呼吸おいて一度気持ちを落ち着けてから、指示を出した。
「我々は国民の生活を守るために仕事をしているんだぞ。もっと自覚を持て」
「「「「「すみません」」」」」
ラドルフに諭され、軽率な行動を取ったことを反省するエミリアたち。
「それにしても、未開地の謎の戦闘跡か……」
「未開地の調査に来た冒険者が関わっているとみていますが、話を聞こうにも今どこにいるのかわかりません」
「探し出して詳しい状況を知りたいところだな」
「はい。それに、戦闘跡近くの奇妙な黒い雲も気になります」
ラドルフとエミリアが会話を続けている。
「もっと未開地周辺を詳しく調べる必要があると思います」
ノーレンも意見を述べた。
「わかった。本格的な調査隊を派遣してもらえるよう上に掛け合ってみよう」
「「ありがとうございます」」
ラドルフの返答に、エミリアとノーレンがお礼を述べた。
「また仕事が増えたな……」
ラドルフは頭を抱えた。
「それと、軍団長にお聞きしたいことがあるのですが」
「なんだ?」
「詰所内が何やら慌ただしい様子でしたが、何かあったのですか?」
エミリアは、ここに来る前に気になっていたことをラドルフに尋ねてみた。
「ああ。お前達がいなくなってから、こっちでもいろいろと問題が起こってな」
ラドルフは都市サルド近くの森にオークの巣があった件をエミリアたちに話した。
「オークの巣が森に……」
「幸い通りすがりの冒険者が対処してくれたので大事にならずに済んだが、オークの巣の存在に気づかずに放っておいたらその内大変な事態を招いていたかもしれない」
「「「「「!」」」」」
かなり深刻な問題だったと知らされてノーレン隊の皆に緊張が走る。
「そうですか……それで近隣の村々の被害状況は?」
「オークに囚われていた者たちから報告を受けた直後に、近隣の村々に騎士を派遣した。多少距離が開いている村は無事だったが、近くの被害に遭った村は酷い有様だったらしい」
それを聞いてノーレン隊の皆の表情が曇った。
「それで、オークに捕まっていた方々は今どうしているのですか?」
「比較的健康な者は無事な村への移住を始めているが、精神を病んでいる者は教会に預かってもらって療養している」
仕事が早い。
感心するノーレン隊の皆。
「今回はなんとかなったが、今後は持ち場を離れるのはやめてもらいたい」
「以後気を付けます」
エミリアは重々しく口を開いた。
「よろしく頼むぞ。で、帰ってきて早々悪いが、お前達には盗賊の討伐に参加してもらう」
「盗賊ですか?」
エミリアたちがフィルスト村に向けて出発する前には、盗賊が出たという報告は受けていなかった。
「最近、盗賊の活動が活発になってきてな。王都の騎士団と協力して討伐隊が組まれることになった」
どうやら忙しそうにしていた原因は、オークの件だけではなかったらしい。
王都の騎士団と協力するなんて、相当気合を入れているということだろう。
「十分以上の戦力で確実に盗賊どもを叩き潰してほしい」
ラドルフの目には力がこもっており、本気度合が窺える。
「わかりました。必ず盗賊を討伐して参ります」
「期待している」
エミリアの返答に満足そうにラドルフが頷いた。
「盗賊を討伐し終えたら、そのまま王都に向かえ。お前達が調査したフィルスト村の件を騎士団本部に直接報告してもらう」
「わかりました」
「王都の騎士団から選抜された討伐隊の編制が済み次第出発だ。それまでに準備しておけ」
「「「「「はい」」」」」
話が終わり、エミリアたちは盗賊討伐の準備をするべくラドルフの部屋から退出した。




