表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/102

情報交換と紹介文

前回のあらすじ。

貴族の屋敷を宿代わりにした挙句、ギルドに荷物運んだだけでぼろ儲けした。



 ベルムートはアンリに文字を教えながら依頼ボードに張られた紙を見ていた。

 ギルマスのダグラスが言っていた通り、商人などの護衛の依頼がほとんどだった。

 たまに薬草採取の依頼が紛れ込んでいたが、報酬は微々たるものだった。

 魔物の討伐依頼にいたっては常時依頼にしかなく、受付では畑の害になる小鳥型の魔物がよく持ち込まれていた。


「あまりめぼしい依頼はないな……ん?」


 ベルムートは、ひとつ気になる依頼を見つけた。


「紫ゴブリンの討伐?」


「それか? 最近問題になってるやつだな」


 ベルムートの呟きに、隣にいた冒険者の男が答えた。


「誰だ?」


「ああ、俺はザックっていうんだ」


 ザックは腕を組み飄々として言った。

 ザックは禿頭の長身でガタイがよく、人の良さそうな顔をしていた。


「で、その紫ゴブリンなんだが、新人が森で襲われてな。倒せなくはないが、新人には荷が重い魔物でな」


「そうなのか」


 ベルムートはザックの話を聞きながらも、引き続き他の依頼も見回した。

 その様子を見ていたザックが口を開いた。


「もしかしてあんたら王都は初めてか?」


「ああ」


「やっぱりな。よければ、いろいろ教えてやってもいいぜ。ただし、その代わりにあんたらが知ってる情報も教えて貰いてぇ」


(なるほど……私に話しかけてきたのは情報収集が目的だったのか。私たちにとって特に不利な取引でもないし、知りたいことを教えてくれるなら好都合だな)


 ベルムートは問題ないと判断した。


「私はベルムートだ。その提案に乗らせてもらおう」


「アンリです」


 ベルムートとアンリはザックに名乗った。


「なんでわたしたちが王都に来るのが初めてってわかったの?」


 アンリがザックに尋ねた。


「そりゃあ落ち着きなくキョロキョロ辺りを見回していたら、誰にだって王都に来たことがない田舎者だってわかるさ」


 ニヤニヤしながらザックは言った。


「えー!? わたし、そんなにキョロキョロしてないよ!」


 アンリは顔が真っ赤になって否定した。


「いや、物凄く視線が右往左往に彷徨っていたぞ」


「もう! 師匠まで!」


 アンリはさらに顔を真っ赤にして怒ったように声をあげた。


「まあそれはおいておいて。さっそくだが、護衛の依頼が多いのはなぜか教えてもらえるか?」


「いいぜ」


 ザックの話によると、王都と他の領地を行き来する商人や貴族が多くいて、私兵だけでは賄えない貴族や商人が冒険者に護衛を依頼しているらしい。

 報酬も高く、ブライゾル王国内はそれほど危険な魔物も少ないため、割のいい仕事として人気があるそうだ。

 さらに王都の冒険者ギルドでは、他の土地の冒険者ギルドよりも素材を高く買い取ってくれるため、護衛の途中で倒した魔物の素材は王都で引き取ってもらう者が多いと言う。

 そのため王都にいるほとんどの冒険者は、護衛依頼を受けられるCランク以上の冒険者しかいないそうだ。

 そう言うザックも見た目では判断できないが、Cランク以上の腕前があるようだ。


 王都出身の貴族の子どもや平民の子どもが新人として活動することもあるが、低ランクで受けられる薬草採取や常時依頼の魔物討伐は、王都の壁と畑の壁の2つの壁を越えて王都からかなり離れたところにある林や森に行かなければならないため、依頼を受ける人数は少ない。


 そこまでするくらいならば、他の都市や町に移住して魔物を狩った方が、ランクを上げるのにも経験を積むのにもマシだということで、ほとんどの新人は他の領地に行ってしまうという。

 どうせ冒険者のランクを上げたら王都に戻ってくればいいのだから、たいしたことではないのだろう。


 そのため、王都の冒険者ギルドには、他の冒険者ギルドにはない特徴がいくつかある。

 その1つがギルド内の食堂らしい。

 これについては、すでにギルドマスターのダグラスから、情報交換の場として提供していることをベルムートは聞いていた。

 そしてもう1つが、王都以外の都市の状況が分かるようになっている掲示板があることだそうだ。

 掲示板を見てみると、冒険者の人手が不足している都市や町の情報や、同じ内容の依頼でも他の都市や町と比較してどこが報酬がいいかが記載されていた。

 掲示板には地図も貼ってあり、危険な魔物や薬草の分布や、盗賊の出没地点、そこから導き出される安全なルートなど、情報は多岐に渡っている。

 非常に分かりやすい。

 これだけの情報があるのであれば、一旦王都で情報を集めてから旅に出る者もいるだろう。

 これらの情報を参考にして、冒険者たちは各々自分の実力にあった場所に向かうそうだ。

 今は都市サルドに低ランク冒険者が集中しており、Cランクに上がった冒険者が王都になだれ込んでいるらしい。


「非常に助かった。次は私の話だな」


 必要な情報は粗方聞けたので、ベルムートはザックにオークと盗賊について知っていることを教えた。


「まじか……都市サルドにオークが……それに盗賊か……こりゃそろそろ騎士団が動くな。取られる前に先に盗賊やっちまうか?」


 盗賊には懸賞金が掛けられている。

 盗賊の首を持って来れば、似顔絵と照合してくれて、合致すれば報酬が出ることになる。


「なんにせよ、情報ありがとな」


「いや、こちらこそ礼を言う」


 ベルムートとザックはお互いに感謝の言葉を交わした。


「ああ、最後にひとつ聞いてもいいか?」


「なんだ?」


「“二迅の炎嵐”の居場所を知らないか?」


「あー……そいつらならついさっき護衛の依頼で王都を離れたぜ」


「そうか」


 タイミングが悪かったようだ。


「そのうちまた戻ってくるはずだ。その時教えてやるよ」


「ああ、助かる」


(しばらくは王都にいてそいつらを待つか)


 ベルムートはとりあえずの方針を決めた。


「では、これで私たちは失礼する」


「おう! またどこかでな!」


 ザックに別れを告げて、ベルムートはアンリと冒険者ギルドを出て屋台で野菜がこぼれそうなほど挟んであるパンを買い食いしつつ、大図書館に向かった。


 ベルムートは事前にクレイグの家の執事に大図書館の場所は聞いていたが、大図書館も冒険者ギルドに負けず劣らず大きな建物で目立っていたので迷わずに来れた。

 ベルムートたちが中に入ると受付にいた司書の女性に呼び止められた。


「こんにちは。入館料は、お1人につき銀貨1枚です」


 どうやら大図書館に入るにはお金を払う必要があるらしい。

 ベルムートはお金を払おうと『空間倉庫アイテムボックス』を開こうとして思い出した。


(そういえばクレイグに紹介文を書いてもらっていたな)


 ベルムートは司書にばれないように『空間倉庫アイテムボックス』からクレイグの紹介文を取り出して、司書に見せた。


「これは……」


 紹介文を受け取った司書が真剣な表情で読み込んでいる。

 やげて読み終わった司書が顔を上げて言った。


「入館料は結構です。2階と3階の本も自由にお読みになって頂いて構いません」


「「え?」」


 ベルムートとアンリは思わず声を上げた。

 どうやら紹介文のおかげで入館料を払わなくてよくなったようだ。

 だが、それよりもベルムートには気になることがあった。


「階によって何か違うのか?」


「1階が一般に解放されているエリアで、2階が許可をもらった者や一定の身分が保証されている者が読むことができるエリア、3階は一部の有力貴族や王族のみが閲覧することができるエリアとなっています」


 淀みなく司書は答えた。

 さらさらっと書かれた紹介文にとんでもない効果があったらしい。


(クレイグは一体何者なんだ?)


 とりあえずクレイグが相当高い地位についていることはわかった。


「本を持ち出したりはできるのか?」


「貸し出しは原則禁止されています。どうしてもという場合は受付まで申し出てください。本によっては許可することもあります。それと、本を破損させた場合は弁償となるので注意して下さい」


「わかった」


 ベルムートは一応聞いてみたが、駄目らしい。

 といってもベルムートは、本の内容を頭に入れるつもりなので、借りれなくても特に問題はないが。


(せいぜい本を傷めないように気をつけるとしよう)


 受付を済ませたベルムートたちは、とりあえず適当に本を探すことにした。

 文字が読めないアンリが手持無沙汰になるかと思ったが、自分で絵本を探してきて読んでいた。

 絵があるから文字がわからなくてもなんとなく内容がわかるのだろう。


 しばらくベルムートが本に没頭していると、いつのまにか夕暮れ時になっていた。


「そろそろ閉館になります」


 司書が呼びに来た。


「ああ、わかった」


 ベルムートは隣で寝息を立てていたアンリを起こして、アンリと共に大図書館を出て屋敷に向かった。


「おかえりなさいませ。お食事の用意ができております」


「あ、ああ」


 屋敷の玄関で出迎えてくれた執事に言われてベルムートたちが食堂に向かうと、すでにクレイグとマリーとサディアスがいた。


「おお、やっと来たか。先に食事を始めるところだったぞ」


(先に食事をしていればいいのに、なぜわざわざ待っているんだ?)


 ベルムートは首を傾げた。

 ベルムートとアンリが席に着くと料理が運ばれてきた。

 昨日と違う料理だったが、今日の料理もうまかった。

 パスタにトマトのソースがかけられており、細かくなった肉の欠片がソースに絡まっている。

 兎型の魔物の肉を使っているらしいが、ただ火で炙って塩をかけただけのものとは味が段違いだ。

 昨日よりも周りの視線が気にならなくなったのか、目の前の料理に視線が固定されているアンリは黙々と食べている。

 ふとクレイグと視線が合って、ベルムートは今日の出来事を思い出した。


「大図書館の紹介文を書いてくれて助かった。礼を言う」


「そうか。役に立ったようで良かった」


 ベルムートが言葉をかけるとクレイグは上機嫌でそう言った。


(ついでにアンリのことも頼んでおくか。大図書館では暇だろうし、アンリには何か屋敷の手伝いでもしておいてもらおう)


 ベルムートはアンリが大図書館で寝ていたこと

を気にしていた。


「それで相談があるんだが、私が大図書館に行っている間、アンリにここの屋敷の手伝いをさせてやって欲しい」


「?」


 アンリが食事の手を止めてベルムートとクレイグの会話に聞き耳を立てた。


「いや、客人にそんなことはさせられない」


 真顔ですぐにクレイグに断られた。


「ふーむ……しかし……」


 悩むベルムートにクレイグが声をかけてきた。


「ようするに貴殿が外出している間、アンリを家で預かっていればいいのだろう?」


「まあ、そうだな」


 大きなくくりでいえばそういうことになる。


「それならば、サディアスと一緒にゲイルの訓練を受けるといい」


「いいのか?」


「もちろんだ。サディアスもそう思うだろう?」


「はい、私も訓練仲間ができて嬉しいです」


 否定するどころかサディアスはむしろ乗り気だ。


「アンリはどうだ?」


「うん、わたしも訓練したい!」


 アンリも元気よく答えるが、口元が汚れている。

 仕方なくベルムートはナフキンでアンリの口を拭いてやった。


「ちょ……師匠……」


 アンリは恥ずかしがっているが、汚れたままにはしておけない。

 クレイグたちは、生暖かい目でベルムートの行動を眺めている。


「よし、綺麗になったな」


「き、綺麗って……」


「ん?」


 アンリの顔が真っ赤になった。


(どうしたんだアンリは? まあいい。クレイグに返答しないとな)


「では、訓練の件。よろしくお願いしたい」


「うむ」


「お任せください」


 食事も終わり、ベルムートとアンリは客室に入った。

 アンリは風呂に入ってすぐにベッドで眠りについた。


 ベルムートは執事に頼んで書斎から本を持ってきてもらった。

 ベルムートはこの日、一晩中本を読んで過ごした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ