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依頼完了

前回のあらすじ。

王都の貴族の屋敷に着いた。



 屋敷内を探索し終わったベルムートとアンリは、ちょうどいい時間になったところで執事に呼ばれて夕食に招待された。


 執事が扉を開けた先の食堂の中をベルムートたちが窺うと、すでにサディアスとその両親が席について待っていた。

 食事はまだ運ばれていない。

 食堂は白いテーブルクロスが敷かれた大きな長テーブルが置かれ、天井からつるされたシャンデリアによって部屋全体が煌々と照らされており、脇には使用人が数名控えている。

 王都までベルムートたちと一緒に来た護衛たちはこの場にいない。

 護衛たちは先に食事を済ませて、屋敷を警護している。

 ただベルムートが見かけた護衛たちは、王都にくるまでにいた人数より少なかったので、都市サルドと王都を往復する間だけ臨時で雇った者も中にはいたようだ。


 ベルムートたちが食堂に入ると、食堂内にいる全員の視線がベルムートとアンリに向けられた。


「来たか。ようこそ我が家へ。私はこの屋敷の主でサディアスの父親のクレイグ・ストロングウィルドという。そして、妻のマリーだ」


 クレイグと名乗った40代くらいの鋭い眼光の男が、クレイグの隣に座るゆるりと微笑みを湛える同じく40代くらいの女性を紹介した。

 サディアスはすでに紹介も済んでいるので特に何も言わずおとなしくしている。


「ベルムートだ。冒険者をしている」


「ア、アンリといいます。同じく冒険者をしています」


 ベルムートとアンリも例に倣って自己紹介をした。

 アンリはガチガチに緊張している。


「とりあえず座りなさい」


 クレイグの言葉で、メイドが椅子を引いてくれた。

 ベルムートとアンリは席に着いた。


「ではさっそく食事にしよう」


 クレイグがそう言うと、料理が運ばれてきた。

 農業大国だけあって、野菜や穀物が贅沢に使われている。


「うまいな」


 スープは、野菜の甘さと、しんなりとした野菜の柔らかな歯触りがとても良いものだった。

 キャベツで肉を巻いた料理には、玉ねぎや人参の甘さが肉を引き立てており、肉の旨味が存分に引き出されている。


 人間の生活圏で食べた料理の中で一番うまいとベルムートは思えた。

 といっても、ベルムートはあまり魔王城の外に出ていなかったので、比較する対象は少ないが。

 しかし、これだけ野菜推しなのは、この国の豊かさのアピールも含まれているのかもしれない。


「お、おいしい! です!」


 アンリはテーブルマナーが分からないなりに見様見真似で、周りの視線を気にしながらもどんどん食べ物を口の中に放り込んでいる。


「満足していただけたようで良かった」


 顔に似合わない朗らかな笑みを浮かべるクレイグ。

 サディアスとマリーも笑みを浮かべている。


「それで、貴殿らは盗賊から息子の命を救ってくれた恩人だそうだな。感謝する」


 クレイグとマリーとサディアスと使用人たちは頭を下げた。


「ああ。まあ、助けたのはアンリだがな」


 ベルムートがそう言うと顔を上げたクレイグがアンリに視線を移した。


「失礼だがアンリ、君の年齢はいくつかな?」


「15です」


 アンリが答えると食堂内がざわめいた。


「ははは。その若さで盗賊を撃退するほどの強さか。我が娘を髣髴とさせるな」


「そうですね。もしかすると、サディアスより強いかもしれませんね」


 クレイグは快活に笑い、それにマリーは賛同した。


「母上、間違いなくアンリは私よりも強いですよ」


 サディアスは苦笑して答えた。


「そ、そんなことないです! ううぅ~……」


 貴族に褒められて照れながらも、アンリは目を白黒させている。


「それで、貴殿らはどのような目的で王都へ来たのかな? よければ力になろうと思うが」


「王都へは勇者の情報を調べに来たんだ」


「勇者? 悪魔とでも戦うつもりか?」


「まあそんなところだ」


「ほう?」


 すこし驚いた表情をする面々。

 クレイグは冗談のつもりだったのだろう。

 それがベルムートに肯定されたので、驚いたようだ。


「何か知らないか?」


 ベルムートが尋ねると、クレイグはすぐに表情を戻して話し出した。


「いや、私も詳しくは知らないな。それで、調べる目途は立っているのか?」


「大図書館の本を読んで調べようと思っている」


「そうか、なら紹介文を渡そう。と言ってもサディアスから頼まれていたのですでに書き終わっているがな」


 サディアスが事前にクレイグに頼んでくれていたらしい。


「それと、この屋敷の本も読ませてもらえるとありがたい」


 ベルムートが一応ダメ元でお願いした。

 どこに情報が転がっているかわからないからだ。


「いいだろう。本は書斎にある。しかし、書斎は仕事場にしているので立ち入らせることはできない。あとで、適当にいくつか見繕って執事に客室に持って行かせよう」


「ああ、頼む」


 予想外ではあったがベルムートは了承を得ることができた。


「それと、王都に滞在している間は、この屋敷を自由に使ってくれて構わない」


「いいのか?」


 ベルムートたちは王都に滞在する間は宿に泊まるつもりだったのだが、手間が省けたことになる。

 ベルムートたちがお金を貯めた一番の目的は宿代だったので、この提案は渡りに船だった。


「もちろんだ」


「わかった。有り難く厚意にあまえるとしよう」


 ベルムートは特に悩むこともなくクレイグのお世話になることにした。


 食後のケーキと紅茶も頂いて世間話をしたあと、ベルムートとアンリは客室の大きな風呂にそれぞれ順番に入って眠りについた。




 翌朝。

 クレイグたちと朝食をとったベルムートとアンリは、場所を聞いて王都の冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルドは王都の雑多な建物の中でもひと際大きく目立っていたので、初めて王都に来たベルムートたちでも迷わずに到着することができた。

 王都の冒険者ギルドは、都市サルドにある冒険者ギルドの倍近い大きさがある。

 ベルムートたちがギルドの中を覗くと、多くの冒険者であふれていた。

 人数は都市サルドの冒険者ギルドの方が若干多いかもしれないが、それ以上の活気がある。

 何より都市サルドの冒険者よりも腕が立ちそうな者が多かった。


 ベルムートたちがギルドの中に入ると、ちらりと何人かに視線を向けられたが、気にせずベルムートたちは複数の受付の内のひとつに並んだ。

 ベルムートが辺りを見渡すと食堂が目に入った。


「都市サルドの冒険者ギルドには食堂はなかったな。王都の冒険者ギルドには、それだけ余裕があるということだろうか?」


 食堂には食事をしながら今後のことを話している者や朝から酒を飲んで談笑する者の姿が見える。


 そうこうするうちにベルムートたちの順番が回ってきた。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 受付の女性がベルムートたちに聞いてきた。


「都市サルドから素材を運んできた」


「荷物運搬の依頼を受けた方ですか? それでは依頼票と冒険者プレートを見せていだだきますね」


 ベルムートは依頼票と自分たちの冒険者プレートを受付の女性に渡した。


「確認しました。それでは荷馬車を倉庫にご案内します」


 ベルムートは受付の女性にプレートを返してもらった。


「いや、その必要はない。このまま私たちを倉庫まで案内してくれ」


「? わかりました」


 受付の女性は首を傾げたが、特に追及はせずに、席を立ってベルムートたちを倉庫まで案内してくれた。


「荷物はどこに降ろせばいいんだ?」


「そうですね、このあたりでお願いします」


「わかった」


 ベルムートは『空間倉庫アイテムボックス』から次々に荷物を出していった。


「え……」


 受付の女性は唖然としてそれを眺めている。

 倉庫にいた人々も何事かと作業の手を止めてこちらを凝視している。


「前のところも凄かったけど、ここも凄いたくさん物があるね」


 アンリは珍しい物に目移りしているらしくキョロキョロと倉庫の中を見回していた。


「それとギルドマスター宛ての手紙だ」


「……え?」


 すべての荷物を降ろし終わってベルムートが声をかけると受付の女性はようやく現実に戻ってきた。

 ベルムートが手紙を受付の女性に差し出すと、半ば反射的に受付の女性は手紙を受け取った。


「で、依頼達成の報告はどうすればいいんだ?」


「え、あ、はい、えーと、少々お待ちください」


 混乱した受付の女性は手紙を持ってどこかへと行ってしまった。


 放置されてどうすればいいのかわからなかったので、仕方なくベルムートは近くにいた男に声をかけた。


「これはどうすればいいんだ? 依頼が終わったから帰りたいんだが」


「そう言われてもな。運ばれた荷物の確認をしないといけないしな」


 そう言って男は荷物の山を見た。


 確かに、都市サルドから運ばれてきた荷物がちゃんと全部あるか確認しないと駄目だということをベルムートは認識した。


「というか、どうやって確かめるんだ?」


 ベルムートは首を捻った。

 しばらくすると、先ほどの受付の女性が、引き締まった体の長身の男を連れて倉庫に戻ってきた。

 長身の男の手には開封された手紙が握られている。


「お前たちがこの荷物を運んできた冒険者か?」


「ああ」


 ベルムートが返事をすると、男は受付の女性に顔を向けた。


「目録を渡すから荷物と照らし合わせて確認しておいてくれ」


「はい」


 長身の男が受付の女性に手紙を渡すと、受付の女性は荷物の積まれてあるところに向かい、複数の職員と協力して荷物を確認していく作業に入った。

 あの手紙には、荷物を確認するための情報が書かれていたらしい。


 すると、長身の男がベルムートたちに話しかけてきた。


「私は、ここ王都の冒険者ギルドのギルドマスターをしているダグラスと言う。お前たちの名前は?」


「ベルムートだ」


「アンリです」


「一応プレートを見せてくれ」


 ベルムートとアンリは冒険者プレートをダグラスに渡した。


「確かに。で、依頼達成の認定だが、荷物の確認が終わるまで少し待ってくれ」


「わかった」


 ベルムートたちはダグラスから冒険者プレートを返してもらった。


「それにしても、これだけの荷物を運んでくるとはな。お前の『空間鞄アイテムトランク』はすごいな」


「いや、『空間鞄アイテムトランク』ではなく『空間倉庫アイテムボックス』なんだが」


「まあ、どっちでもいいがすごいな」


 良くはないが、褒められるのは悪くないとベルムートは思った。


「よくこの量の荷物を買い取る余裕があるな」


 ベルムートはダグラスに率直な疑問をぶつけてみた。


「うーむ……そういうことではないんだがな」


 ダグラスはなんだか煮え切らない返事をした。


「どういうことなんだ?」


「王都は素材が集まりにくいからな。買い取らないと数が足らないんだ」


「なぜだ?」


「王都を出て畑を囲う壁の外に行かないと魔物がいないからな。しかも、壁の付近には魔物も寄り付かないから林や森に入らないといけない。そんな遠くにわざわざ行くのは冒険者になりたての新人くらいだ。それに、人数も少なく実力も足りない新人ではあまり素材を取ってこれないしな」


「なるほど」


 王都は魔物の被害に遭わないが、代わりに魔物の素材が得られないようだ。


「だか、ギルド内で食堂を開いているくらいなのだから、景気がいいのは事実じゃないか?」


「いや、そうでもない。あれは利益を上げることよりも、冒険者同士の情報交換の場として提供しているんだ」


「そうなのか」


「息子の提案でな。最初はどうかと思ったんだが、これがなかなか馬鹿にできない」


 ダグラスは自慢気に話し出した。


「よそから流れてくる冒険者から、この国だけでなく、他国の情報まで手に入るようになったし、ベテランと新人の交流も盛んになった」


「なるほど」


 確かな効果があったようだ。


 ベルムートはダグラスと話していると受付の女性が戻ってきた。


「終わりました」


「どうだった?」


「問題ありません」


 ダグラスが尋ねると、受付の女性が答えた。


「そうか。それじゃあ手続きするから俺についてきてくれ」


「わかった」


 ベルムートとアンリはダグラスに続いて2階に上がり部屋に入った。


「座っててくれ」


 ダグラスに言われて、ベルムートとアンリは適当に席に着いた。

 ダグラスは執務机の椅子に座った。

 すると、ギルドマスターであるダグラス自らが手続きを始めた。


「これが今回の報酬だ」


 手続きを終えたダグラスが席を立ってベルムートとアンリの目の前の机に麻袋を置いた。


「金貨10枚だ」


 ベルムートたちがオーク関係で稼いだ金額と比べると少ない気もするが、荷物を運んだだけにしてはいささか多い。

 

(まあもらえるなら別に気にすることもないか)


 ベルムートは麻袋に入れられたお金を受け取り枚数を確認して『空間倉庫アイテムボックス』に仕舞った。


「ではこれで失礼する」


「まあ、待ちなさい」


 用件も済んだので、帰るためにベルムートとアンリが席を立とうとするとダグラスに止められた。


「オークについて話を聞きたい」


 どうやらダグラスがベルムートたちをこの部屋に連れてきた本命は、オークの話を聞くことだったようだ。


「わかった」


 ベルムートはオークとの出来事を一通りダグラスに説明した。


「……なるほどな。それで、王都までの道のりで何か変わったことはなかったか?」


「盗賊が出たな」


「そうか、やはりな」


「知っていたのか?」


「今問題になっていてな。手紙にも書かれてあった」


「そうか……」


(ギルドマスターなのだから知っていて当たり前か。というか、都市サルドのギルマスのダニエルも盗賊のことを知っていたのなら、出発前に教えて欲しかったんだが……)


 ベルムートは内心でぼやいた。


「それで、盗賊と出会った場所と経緯についても教えてくれないか?」


「ああ」


 ベルムートは盗賊との遭遇についても一通りダグラスに説明した。


「貴族に手を出したか……それならもうじき潰されるな」


「討伐隊が編制されるらしいが、冒険者も参加するのか?」


「いや、今回は騎士団だけで動くだろうな」


「なぜだ?」


「貴族が襲われたんだ。それはつまり国に喧嘩を売ったのと同じ意味になる。だから討伐隊は騎士団だけになるはずだ。国や貴族にも面子があるからな。俺は逆に冒険者に手出しさせないようにしないといけないな……」


 顎に手を当ててダグラスは考えている。


「お前達のおかげで貴重な物資と情報を得ることができた。感謝する」


「いや、私はただ依頼を受けただけだ。礼を言われるほどのことはしていない」


「そうか」


 ダグラスは笑みを浮かべた。


「話は変わるが、勇者かそれに匹敵するほどの強者を知らないか?」


「そうだな……勇者は知らんが、強者なら心当たりがある」


「誰だ?」


「“二迅の炎嵐”だ」


「“二迅の炎嵐”?」


(どこかで聞いたことがあるような……ああそうだ、確か都市サルドでオークに囚われていたところを助けた商人から聞いたな)


「最近頭角を現してきた男女二人組のBランクの冒険者だ。今王都にいる」


「ほう……それはいいことを聞いた。詳しい居場所はわかるか?」


「さすがにそこまではわからないが、王都にいればそのうち会えるだろう」


「わかった。情報感謝する」


「この程度のことでいいなら安いもんだ」


 ダグラスは相好を崩した。


「それでは私たちはこれで失礼させてもらう」


「失礼します!」


「ああ。気をつけてな」


 ベルムートたちはギルドマスターの部屋を出た。


「“二迅の炎嵐”か……いったいどんなやつらなんだろうな?」


 ベルムートは少しばかり期待しながら、アンリを連れて階段を降りた。

 そこで、ベルムートは1階にある依頼ボードが目に入った。


「確か、ここでは魔物の討伐依頼よりも護衛依頼が多いと言っていたな」


 ベルムートは、ダグラスとの会話で王都の冒険者ギルドの依頼内容が少し変わっていることを思い出した。


「見に行ってみるか」


「うん」


 ベルムートたちは、依頼ボードを見に行くことにした。



ギルドマスターの手紙の内容

・荷物の目録

・盗賊について

・森のオークについて

・ベルムートについて(『空間鞄アイテムトランク』について)

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