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オークを金に換える

前回のあらすじ。

ダインが出荷された。



 ベルムートが冒険者ギルドを出ると、すでに日が傾き始めていた。


「師匠、どこか泊まるところ探そう?」


 アンリが聞いてきた。


「それは無理だ」


「え? どうして?」


「金がないからな」


「えー!?」


 アンリは思いがけず声を上げた。


「あんなにお金もらってたのに、もうないの?」


「ああ。ほとんど、アンリの装備を買い揃えるのに使ってしまったな」


 アンリからすると大金だったのかもしれないが、実際はそれほど大金というわけでもなかった。


 ただ、アンリは少なからずショックを受けているようだった。

 しかし、アンリはすぐに気を取り直してベルムートに提案してきた。


「あ! じゃあさ、オークが使ってた槍売ったらどう?」


「そういえば、そんなの持ってたな」


 ベルムートは槍など別に必要としていないし、アンリには鋼鉄の槍は重くて、持つだけでも大変なので、そもそもアンリには武器として使えない。

 

「売るか」


 ベルムートたちは、鋼鉄の槍を売りに武器屋に行った。


「武器を売りに来た」


 ベルムートは武器屋の店主に声をかけた。


「おう、じゃあ売る物みせてくれ」


「ああ」


 武器屋の店主に言われてベルムートは『空間倉庫アイテムボックス』から槍を18本取り出した。


「な!? どこから出したんだ!? てか、なんじゃこの量は!?」


 武器屋の店主は驚いて声を上げた。


「あれ? なんか多くない?」


 アンリが疑問の声を上げた。

 ベルムートは森の中にいたオークの残党を倒したことをアンリに伝えていなかった。

 その際に、ベルムートはオークの武器も回収していたので、アンリの把握している数と齟齬が出たのだ。


 取り出した槍を見ていたベルムートはオークの大剣もあったことを思い出した。

 ベルムートは、大剣もどうせ使わないので売ることにした。


「これも追加だ」


 ベルムートは『空間倉庫アイテムボックス』から鋼鉄の大剣を10本取りだした。


「す、すげぇ数だな」


 武器屋の店主がビビッている。


「あれ? なんでこんなに大剣が?」


 アンリの視線がベルムートに突き刺さる。


「森で拾ったんだ」


「いやいやいや! 森でこんなの拾ったりしないでしょ!?」


「アンリは大袈裟だな」


「大袈裟じゃないよ!」


「ちゃんとオークを死体に変えた後で大剣を拾ったから、全部本当のことだぞ」


「え!? いつの間に……」


 アンリは驚いた後、静かに考えを巡らせた。


「それで、店主。いくらになる?」


「じゃあ、ちょっと確認させてもらうぞ」


 そう言って鋼鉄の槍を1本、武器屋の店主が手に取った。


「こ、こりゃかなり重たいな」


 武器屋の店主が鋼鉄の槍を構えた。

 鋼鉄の槍を振ると重さに引っ張られて武器屋の店主はよろけているが、刺す動作は出来ているので、かろうじて武器として扱えている。

 大剣も似たような感じで検分していた。


「それで、いくらで買い取ってくれるんだ?」


 武器の査定が終わったところで、ベルムートは武器屋の店主に声をかけた。


「そうだな……重くて取り回しがしにくいといっても鋼鉄製でかなり頑丈なようだし、多少傷があることを考慮しても槍は1本小金貨7枚、大剣は1本小金貨8枚というところだな。槍と大剣合わせて28本で金貨20枚と小金貨6枚だ」


「き、金貨20枚!?」


 アンリが驚愕して声を上げた。


 ベルムートたちがアンリの装備として鋼鉄の剣を買ったときは、1本小金貨8枚だったので、鋼鉄の槍と鋼鉄の大剣の売値が鋼鉄の剣の買値とほぼ同じ値段ということは、妥当な値段なのだろう。

 買い取りでこの値段なのだから、店に並ぶときはもう少し高い値段になっているはずだ。


「それで頼む」


 しかし、武器を売るだけでそこそこお金が得られるなら洞窟に残っていたオークの武器も全部回収できれば良かったかもしれないとベルムートは思った。

 オークメイジの攻撃で全部熔けてしまったのはもったいなかった。


「まいどあり」


 槍を売ってお金を手に入れたベルムートたちは店を出た後、宿を探して泊まった。

 宿代は1泊銀貨4枚だった。


 次の日は、日中ベルムートはアンリと共に草原の魔物を倒して、夜には宿に戻った。


 そして解体を頼んで2日後の昼。

 ベルムートたちが冒険者ギルドに行くと、先日オークの住処から助けた女冒険者と会った。


「この間はありがとうございました」


 女冒険者がベルムートたちにお礼を言ってきた。


「無事に都市に辿り着いたんだね。よかった」


「はい、おかげさまで」


 アンリが安堵したように言うと、女冒険者が笑顔で答えた。


「それで、あの後どうだったんだ?」


 ベルムートは少し気になったので女冒険者に聞いてみた。


「あなた方と別れて都市に着いた後、すぐに騎士団詰所に行っていろいろと説明してきましたよ。オークに捕らえられていたことを伝えたら、いつどこでオークに出会ったのかとか、どのくらいの期間捕まっていたのかとか、どうやって脱出したのかとか、根掘り葉掘り聞かれましたよ。私たちと一緒に行動しなくて正解だったと思います」


 女冒険者は苦笑した。


「そんなことになっていたとはな」


「はい。その後、正式に騎士団から市民と冒険者ギルドに対して、森にオークがいるので注意するようにと通達がありました。でも、誰かから報告があったみたいで、その前から冒険者ギルドでは人型の大きな魔物に注意するよう呼びかけていたみたいですね」


 オークは人肉が好きなので、警戒するのは当然といえた。

 しかし、今さら呼びかけても、もうベルムートが森のオークを全滅させたので心配するだけ無駄だった。


「あと、オークに捕まっていた村人たちは、騎士団の方々が手配して無事な村への移住などが進んでいます」


「そうか」


 元の村は壊滅しているだろうし、まだオークが潜んでいるかもしれないと警戒しているのなら、そんな危険な場所には戻りたくもないだろう。


「あなたはどうするの?」


 アンリが女冒険者に質問した。


「冒険者稼業を続けますよ。ただ近々、騎士団の調査隊が派遣されるんですけど、私がその調査隊をオークの巣穴まで案内することになったので、それが終わってから活動再開になりますね」


 オークの住処の確認は必要なことだろう。

 騎士団は、もしまだオークがそこにいたら、討伐するつもりなのかもしれない。

 まあ、何もいないわけだが。


「そうなんだ、がんばってね!」


 アンリが女冒険者を応援した。


「はい。ちゃんと役目を果たしますよ」


 女冒険者は気合の入った表情で答えた。


「それで、お二人はこれからどうするんですか?」


「私たちは王都に行こうと思っている」


「王都ですか……」


 女冒険者が思案顔になった。


「何か気になることでもあるのか?」


「い、いえ……別にそんなことは……」


 口ではそう言いつつも、女冒険者はどこか落ち着きがない。


「あ! ベルムートさん! 準備できてますよ!」


 すると、この間の受付の女性がベルムートに気づいて声をかけてきた。


「あ、長話が過ぎましたね。私は失礼しますね」


「ああ」


 どこか態度がぎこちない女冒険者は、ベルムートたちに挨拶して冒険者ギルドを去って行った。


「あ、もしかして邪魔しちゃいましたか?」


「いや」


「ならよかったです」


 受付の女性はほっとしたような様子になった。


「じゃあ、行きましょうか」


 ベルムートたちは、受付の女性の後に続いて倉庫兼解体場に行った。


「よお、兄ちゃん」


 作業をしていたキンブルが、手を止めてベルムートに声をかけてきた。


「それじゃあ、よろしくお願いしますね」


「おうまかせとけ」


 受付の女性の言葉に頷いて、キンブルが話し始めた。


「さて、じゃあさっそく査定の結果についてだが、まずは討伐報酬からいくぞ。オークが26体で金貨1枚と小金貨3枚、オークメイジが12体で金貨1枚と小金貨2枚、オークキングが1体で金貨5枚だ。次は素材の買い取りだ。オーク26体分で金貨14枚と小金貨8枚と銀貨2枚、オークメイジ12体分で金貨13枚と小金貨4枚と銀貨2枚、オークキング1体分で金貨11枚と小金貨5枚だ。オークは肉と皮と骨が素材になるんだが、皮は首以外は傷もなく肉は痛んでもなかったからかなり高く買い取らせてもらった。あとは体内から魔石が取れたからそれもだな。オークメイジからとれた小さな魔石が9個で金貨4枚と小金貨5枚、オークキングからとれた大きな魔石が1個で金貨15枚、そこから解体費用を差し引いて合計で金貨66枚と小金貨5枚と銀貨4枚と小銀貨5枚だな」


「結構な金額になったな」


「金貨66枚……?」


 アンリは開いた口が塞がらないようだ。


「というか、討伐報酬なんかもあるんだな」


「まあな。討伐報酬がなければ、素材を持ち帰れなかった冒険者は利益がまったくなくなっちまうからな。そうなれば、魔物を倒す冒険者が減っちまう」


 ベルムートの呟きを聞いたキンブルが説明してくれた。


 それにしても、まさかここまでの金額になるとはベルムートも思っていなかった。

 これなら灰になったオークたちも回収できていれば良かった。

 少し悔やまれる。


「魔石は売らずに持っていたい」


 魔石もかなり高い値段がついているが、ベルムートは『眷属召喚サモンサーバント』で魔石を使うので、売らないことにした。


「そうかい? なら……合計金貨47枚と銀貨4枚と小銀貨5枚だな」


 ちょっと驚いた様子だったキンブルだが、すぐに金額を計算し直した。


「わかった」


 ベルムートが返事をして頷くと、キンブルがお金と魔石を麻袋に入れて渡してきた。


「ほらよ」


 ベルムートはキンブルから麻袋2つを受け取った。

 ひとつはお金、もうひとつには魔石が入っている。

 受け取った時に、お金の入っている大きな袋からチャリチャリ音がした。

 中を見ると金貨がぎっしり詰まっていた。


「うわぁすごーい!!」


 横からアンリが瞳をキラキラさせながら麻袋の中を覗き込んできた。


 ベルムートは一応受け取った麻袋の中の金額を確認した。


「確かに」


 問題なかったのでベルムートは『空間倉庫アイテムボックス』にお金と魔石を仕舞った。


「終わりましたか? じゃあ次は王都に運ぶ素材に関してですね」


 受付の女性が言った。


「ギルマスに言われて、王都に運ぶ素材もまとめておいたぜ」


 キンブルが大量の木箱と樽が置いてある一角を指した。


「そういえばそれもあったな。わかった」


 ベルムートは、キンブルの指示を受けながら、大量の荷物を『空間倉庫アイテムボックス』にドンドン入れていった。


「どんだけ入るんだよ」


「本当ですよ」


 キンブルと受付の女性が呆れたように呟いた。


「これで全部か?」


 すべての荷物を『空間倉庫アイテムボックス』に詰め込み終わり、ベルムートは確認のためにキンブルに尋ねた。


「ああ」


 キンブルが頷いた。


「あ、待ってください! それと、これも持っていってください」


 ベルムートは受付の女性から手紙を手渡された。


「これは?」


「これは王都の冒険者ギルドのギルドマスターに渡す手紙です」


「わかった」


 ベルムートはその手紙も『空間倉庫アイテムボックス』に仕舞った。


「もうないか?」


「はい」


 受付の女性は頷いた。


「ではこれで失礼する」


「さようなら!」


「おう、じゃあな」


「またお願いしますね!」


 ベルムートたちは、キンブルと受付の女性に別れを告げて、倉庫を出て、冒険者ギルドを出た。


 そしてベルムートたちは、シェリーに跨がり都市サルドを出て王都へと向かった。



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