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囚われた人々

前回のあらすじ。

高級豚肉ゲットだぜ!



 ベルムートたちが光の球で道を照らしながら洞窟の隠し通路を進んでいくと、扉があった。


「あっ! 扉があるよ!」


 アンリが声を上げた。

 扉はオークキングが通られるくらいの、両開きの大きな扉だった。


「ん? なぜ洞窟に扉が?」


 ベルムートは疑問の声を上げた。

 今まで普通の洞窟だと思っていたところに、明らかに人口物と思しき扉があったからだ。

 扉に近づいて確認してみると、扉は明らかに人の手が加えられた物だった。

 オークは扉を作るような器用なことは出来ないはずなので、ここに扉があるということ事態があからさまに不自然だった。


「オークが住み着く前に誰かが使っていたのか……はたまたオークと共生して住んでいるものがいるのか……」


 しかし、今考えても答えが出るわけでもない。


「よくわからないが、開けるぞ」


 ベルムートはとりあえずこの事は脇に置いて、先に進むことにした。


「うん」


「まかセル……」


 アンリとダインに確認を取ってベルムートは扉を押し開けた。

 扉を開けると中から腐ったような強烈な異臭がした。


「うっ……」


「これハ……」


 アンリは鼻をつまんで眉間にシワを寄せて呻いている。

 ダインは嫌悪感からか表情が硬い。


 光の球が扉の中を照らす。

 さっきの大広間よりは狭いが、ここも十分な広さのある場所だった。

 壁には松明が掛けてあり、部屋を薄ぼんやりと照らしている。


 壁の松明だけだと明かりが心許ないので『光源ライトソース』は使用したままにして進んで行く。


「さすがにきついな」


 腐った臭いが充満して気持ちが悪いので、ベルムートは『空気清浄エアリフレッシュ』の魔法を使った。

 空気中の嫌な臭いが一瞬で掻き消える。

 アンリとダインの表情が幾分かマシになった。

 臭いの元を断ったわけではないので、しばらくしたらまた臭いが広がるだろうが、今のところはこれで十分だろう。


 部屋を進んでいくと、地面には鎧や剣などの雑多なものや無数の骨が散らばっており、中には腐った肉がこびりついている骨もあった。


「うえー……」


 アンリは吐きそうな顔でうんざりしている。


「臭いの原因はこれか?」


「たぶン……そうだロウ……」


 ベルムートの質問にダインが返すがその声に抑揚はない。


 進むのに邪魔なそれらを適当に除けながらベルムートたちが奥へと歩いていくと鉄格子の牢屋が見えた。

 中には何人もの人間たちが囚われていた。


「なっ……」


 牢屋に入れられた人々を見たアンリは言葉を無くした。

 牢屋の中には老若男女人種問わず入れられており、ほとんどの者からやつれて生気が感じられなかった。


「待ってて! 今すぐ助けるから!」


 焦ったアンリは状況をよく見ずに突然駆け出していってしまった。


「おい待て!」


 ベルムートはアンリに呼びかけたが、アンリは止まらなかった。


「はぁ……やれやれ……」


 ベルムートは溜め息を吐いた。


 牢屋の側には見張りと思われるオークが1体おり、槍を構えて近づいてくるベルムートたちを警戒していた。

 にもかかわらず、アンリはそのオークは眼中になく後先考えずに飛び出してしまった。


「ダイン。アンリのフォローを頼めるか?」


 ベルムートは先ほど戦ったので、アンリの世話はダインに任せることにした。

 ダインならばオーク1体なんてどうということもないだろう。


「まかセロ……!」


 ベルムートの戦いぶりに感化されていたダインは、威勢よく答えてアンリに続いて飛び出して行った。

 ベルムートはしばらく2人の様子を見守ることにした。



 ◇ ◇ ◇



 ひとり飛び出したアンリは牢屋に辿りつくとガンガンと鉄格子を揺すった。


「くっ……開かないっ!」


 牢屋が開かないことにアンリが歯噛みしていると、サッとアンリに影が差した。

 アンリがバッと光を遮った方を向くとオークがアンリ目掛けて槍を振り下ろす瞬間だった。

 回避はもう手遅れ、絶対絶命。


「っ!」


 アンリは衝撃に備えて目を瞑った。


「ブゴォ!」


「ウオオオオオ!」


 ガキィン!


 しかし、痛みは襲って来ず、アンリが目を開けると、アンリに背を向けた牛頭の黒い人影が手に持った鋼鉄の槍でオークの鋼鉄の槍を防いでいた。


「ダイン!」


「だイじょウぶカ……?」


 ダインがオークとアンリの間に入って、アンリを守ってくれたことで、アンリは助かった。


「アンリ、ちゃんと周りを見てから行動しろ。牢屋を開けるならまずはそいつを倒してからだ」


 ベルムートからアンリに指示が飛ぶ。


「う、うん、わかった! ……『身体強化ストリングゼンボディ』!」


 アンリは、少しだけ戻った魔力で魔法を使った。

 ただ、あまり長くは持たないだろう。


「ブゴオオオオオオ!」


「ウオオオオオオオ!!」


 ダインとオークが攻防を繰り広げている。

 ダインの方が優勢のようだ。


 隙を見てアンリもダインに加勢して剣でオークに切りかかった。


「やああ!」


「ブガォ……!」


 アンリの持つ剣はオークの腹を切り裂き、痛みでオークの動きが鈍った。


「あれ!? よく切れる!? ……ってそういえばこれミスリルの剣だった……」


 改めて師匠の持つ剣の非常識さにアンリは驚く。

 実はそれはベルムートが偶然殺してしまった冒険者から奪ったものだとは、アンリは知る由もなかった。


「ウオオオオオオオオオオ!」


 ダインがここぞとばかりにオークに攻撃を畳みかける。


「ブゴォ……!」


 たまらずオークが体勢を崩したところで、アンリはオークの背後に回った。


「やああああああ!」


 洞窟の入口にいたオークと戦ったときと同じように、素早くアンリはオークの足の腱を切リ落とした。


「ブゴォオ!?」


 足に上手く力が入らず後ろ向きに倒れ出すオーク。


「うわあわわ!?」


 それに巻き込まれないようにアンリは慌ててその場から退避した。


 ズシン!


 オークが仰向けに倒れた。


「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 ダインは、倒れたオークの体に飛び乗り心臓目掛けて鋼鉄の槍を突き刺した。


「ブゴォオオ! ……オオォ……」


 心臓を貫かれたオークは断末魔の声を上げ、ゴポッと血を吐いて絶命した。


「倒した! これで助けに行ける!」


 それを見届けたアンリは牢屋の扉に向かった。



 ◇ ◇ ◇



「思いの外あっさりと決着がついたな」


 2対1だったことや、アンリがミスリルの剣を持っていたというのもあるが、ダインとアンリの連携がうまくいったというのも大きいだろう。


「開かない!」


 アンリはさっきと同じように鉄格子の扉をガンガン揺すっているが、鉄格子の扉はなかなか頑丈で壊れそうもない。


「あ……もう魔力が……」


 そして、魔力がなくなり、身体能力を上げる魔法が解けたことで、鉄格子の扉を揺するアンリの力が弱まった。


「待て」


 オークの死体と鋼鉄の槍を『空間倉庫アイテムボックス』に回収し終わったベルムートは、アンリの肩を掴んで扉を揺するのを止めた。


「師匠! 開かないよ!」


「そうみたいだな」


 鍵がどこかにあるはずだが、どこにあるのかベルムートたちにはわからなかった。

 牢屋を見張っていたオークや、オークキング、オークメイジたちは鍵を持っていなかった。

 もしかしたら、大広間にいたオークの誰かが鍵を持っていて、オークメイジの魔法で燃やされて鍵が熔けてしまったのかもしれない。


 ただ、鍵なんてなくてもベルムートにとっては特に支障はない。

 鍵がないなら壊せばいいだけだ。


「その剣を貸せ」


「え? あ、うん、わかった」


 キョトンとするアンリだったがベルムートの意図を察してミスリルの剣をベルムートに渡してきた。

 アンリからミスリルの剣を受け取ったベルムートは、ミスリルの剣に魔力付与エンチャントして鉄格子の扉の鍵目掛けて剣を振った。


 スッと何の抵抗もなく刃が通り、鍵を切り裂いた。


「開いたな」


 ベルムートは牢屋の扉を開けて中に入った。


 改めて牢屋に入っている人たちを見ていくと、皆やつれており、薄汚れた服を着ていて、中には靴を履いていない者もいた。

 表情に乏しいものの助けが来たことに安堵している様子の者が大半だが、心が折れているのか顔から表情が抜け落ちている者もいる。

 死体もあるようだ。

 全員で30人前後といったところだろうか。死体も入れれば50人に届くだろう。


「さあ! ここから出て!」


 アンリが叫ぶ。


 アンリの呼びかけに反応して何人かは顔を上げてこっちを向いているが、皆動こうとしない。

 その視線の先を辿るとダインを見ているようだった。


「ダインは人を食べたりしないよ! だから大丈夫!」


 牢屋の中にいる人々の視線の意味に気付いたアンリが声を上げた。


「ちょっとこっち来て!」


 それでも動こうとしない人々に業を煮やしたアンリが、近くにいた子どもの手を掴んで立たせた。


「え?」


 子どもは突然手を掴まれて驚きながらも、アンリに引っ張り上げられて、よろよろと立ち上がった。

 それからアンリは、ダインの前まで子どもを連れて行った。


「うわ……おっきい……」


 子どもはダインの迫力に圧倒されていた。


「大丈夫だから! 触ってみて!」


「えぇ……」


 アンリが促すが、子どもは何もしようとしなかった。


「もう! ほら!」


「あっ!」


 アンリが強引に子どもの手を掴んで、ダインに触れさせた。

 ダインは空気を読んで身動きせずに、子どもに触られるのを受け入れた。


「かっちかっちだぁ~」


 ぺたぺたとダインの体を触りながらそう言って子どもが微かに笑顔になった。


「ね? 恐くないでしょ?」


「うん!」


 子どもはもうダインのことが恐くなくなったようだ。


「本当に大丈夫そうだな……」


 それを見て牢屋の中の人々は、ダインが危険じゃないとわかって安心したようだった。


「外にいたオークたちはどうしたんですか?」


 牢屋にいた冒険者らしき女が質問してきた。


「ああ、すべて始末した」


「「「「え?」」」」


 ベルムートが答えると、女冒険者と何人かの声がハモった。


「まさか、さっきまでの地響きと揺れは……」


 答えに行きついたらしい女冒険者の顔色が悪くなった。

 その女冒険者の呟きを聞いた牢屋の人々がハッとした。


「で、出口までの道は、大丈夫なのでしょうか?」


 ここでオークの脅威が去っても、洞窟が崩れていて外に出れなければ意味がない、と気づいた男が尋ねてきた。


「問題ない。どこも崩れてなどいない」


 ベルムートがそう言うと、人々の間に安堵の溜め息が漏れた。


「ほら! 大丈夫だからみんな早く出て!」


 今度は皆、アンリの言葉に従って牢屋から出て来てくれた。

 ケガをして立ち上がれないものは、ベルムートが回復薬を飲ませた。

 心が壊れてしまっている者は、まわりの人々が支えて連れ出した。


「それじゃあ、わたしたちについてきて! あ、あと足元に気をつけて!」


 アンリの号令で人々は動き出した。

 光の球で洞窟内を照らしながら足元の骨や雑多な物をどかして進み、扉を開けてさらに進んでいく。

 異臭はベルムートが『空気清浄エアリフレッシュ』の魔法で散らしている。


 捕まっていた人々の中に何人か冒険者もおり、彼らは、途中で見つけた自分や他人の武器防具を拾って装備したりしていた。


 その後、オークの姿はおろか死体すら見当たらないことに人々の中から疑問の声が上がるものの、ベルムートたちはそれには答えずにそのまま出口まで向かった。


 洞窟を出ると、外はもう日が沈む前で、辺りは薄暗くなっていた。


「外だ……」


「俺たち助かったのか……」


「帰れるんだ……家に……」


「父ちゃん……母ちゃん……うう……」


 やっと実感が湧いてきたのか人々が口々に言葉を発する。

 すると、ぐぅ~っと誰かのお腹のなる音がした。


「お腹すいた……」


 アンリがお腹を押さえながらそう言った。

 他の人々の中にも同様にお腹を押さえている者がいる。


「もうじき夜になる。今日はここで休むとしよう」


 ベルムートが言うと、みんな頷いた。

 洞窟の入口近くに陣取って食事の準備をする。

 ついでにベルムートは森に灰色の鳥の眷属を飛ばしておいた。

 そしてベルムートは、兎型の魔物や小鳥型の魔物の肉をどんどん焼いて、人々に振る舞った。

 せっかくお金を稼ぐために仕留めた獲物だが、オークの素材もあることだし、これくらいは使ってもいいだろう。

 少しだけオークメイジの肉で豚しゃぶも作っておいた。

 人々には、ここから都市に自力で行けるだけの体力は回復してもらいたい。


 ちなみに、助けられた人々は、ベルムートが魔法でかまどを作り、どこからともなく調理器具や食器、食材を出したことがとても気になったようだが、助けられた手前、見て見ぬふりをしようとして……すごいガン見していた。


「うまいな……」


「ああ……うまい……」


「久しぶりに食い物を食べた……」


「おいしい……父ちゃんと母ちゃんにも食べさせてあげたかった……」


 ほとんどの者が涙を流しながらガツガツと食事をしている。

 表情に変化のない者たちも食事は取っているようだった。


 日が沈みあたりが暗くなり、皆が寝静まったのを確認してから、ベルムートは静かに立ち上がって森に向かって歩き出した。


「どコに行ク……?」


 すると、それに気づいたダインが声をかけてきた。


「少し散歩だ」


「そうカ……」


 ダインはベルムートが何をしに行くのか察したのか、それ以上は聞いてこなかった。


「すぐに戻るさ。それまでここを頼んだぞ」


「わかっタ……」


 頷くダインを見て、ベルムートはひとり暗い森の中に入っていった。


「さて、追加の豚しゃぶの材料を取りに行くとしようか」



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