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オーク蹂躙

前回のあらすじ。

洞窟には金のなる豚しゃぶ……じゃなかったオークがたくさんいた。


「今夜は豚しゃぶで決まりだな」


 洞窟の大広間にベルムートの声が響いた。

 先程までざわざわとしていたオークたちが静まり返った。


「ブゴゴ!」


「ブゴブゴ!」


 やがて、オークたちは怒りを露にして、ベルムートに襲いかかってきた。


 まず最初に、ベルムートの近くにいた数体のオークが、鋼鉄の剣でベルムートに切りかかってきた。


「ブゴォ!」


「ブゴゴォ!」


 ベルムートは魔法を唱えた。


「『防御殻プロテクトシェル』」


 ガガキィン!


 ベルムートの周りに展開された魔法の障壁によって、オークの剣が阻まれた。

 続いて先程攻撃してきたオークたちの後ろから、鋼鉄の槍を持ったオークたちが、剣を持ったオークたちの隙間を縫うように、ベルムートに向けて突きを放ってきた。


 ガガキィン!


 しかし、この攻撃もベルムートの魔法の障壁を突破できない。


「ブゴゴ!?」


「ブゴブゴ!?」


 連続で畳みかけた攻撃が通用せず、オークたちは驚きを隠せない様子だ。

 そのオークたちの方へと、ベルムートは手の平を向けた。


「『雷撃サンダー』」


 ベルムートの手から放たれた雷の軌跡が、剣を持っていた前衛のオークたちの体を駆け巡った。


「「ブギャギャギャギャギャギャギャ!」」


 魔法の直撃したオークたちの体が眩しく光り、一拍後には黒焦げになって崩れ落ちた。


「ブゴ……」


「ブゴゴ……」


 槍を持った後衛のオークたちは、一瞬で前衛のオークたちがやられてしまったことに呆然としている。


「あ……これではギルドで買い取ってもらえそうにないな」


 オークの肉も皮も黒焦げにしてしまった。

 少し威力が強すぎたらしい。


(やはり雷魔法は威力の調整が難しいな。次は別の魔法でいくか)


「『風刃ウインドカッター』」


 ベルムートが魔法を唱えると、ベルムートの手から今度は風の刃が飛び出した。

 すると、風の刃によって、槍を持った後衛のオークたちの首から上がスパッと綺麗に弾かれた。

 残された体から噴水のように血を噴き出してオークの骸は倒れた。


「ブゴ……!?」


「ブゴゴ……!?」


 戦闘に参加せず、様子見として一部始終を目撃していた他のオークたちは、何が起こったのか理解できずに混乱していた。


「え……」


「強イ……」


 アンリとダインも唖然としていた。


「ブゴゴブガ!」


「「「「「!!」」」」」


 しかし、広間の奥にいる杖を持ったオークから声がかかると、ハッとしたように前にいたオークたちが素早く道を開けた。


 奥にいた杖を持ったオークからベルムートへの道ができるのと同時に、奥にいた杖を持ったそのオークは火の球を射出した。


 オークたちが開けた道を直進してきた火の球は、ベルムートの魔法の障壁に激突した。


 ドガァン!


 しかし、ベルムートの障壁を破るにはまだまだ威力が足りない。

 火の球はベルムートを傷つけること叶わず霧散した。


 ベルムートは、オークたちが開けた道の先を見やった。


「オークメイジがいるのか」


 広間の奥にいたのは、オークの上位種で、魔法を使うオークメイジだった。


「ブ、ブゴゴ!? ブゴ!」


 そのオークメイジは、自分の魔法が私に効かないと分かってあたふたと慌てて道を閉ざすように前にいるオークたちに命じていた。


「「「「「ブゴ!」」」」」


 それに従ってオークたちは道を閉ざした。

 オークたちはオークメイジの指揮下に入っているらしい。


「ブ……ブゴ……」


 次第にオークたちに緊張と焦りが生まれ始めていた。

 剣も槍も火の球も効かない。

 一体こんな相手をどうやって倒すのかと。

 逃げ出そうにも目の前の相手が出口を塞いでいる。

 生き残るには相手を倒すか、なんとかくぐり抜けて出口に向かうしかない。


 そう判断したオークたちは、一斉にベルムートのところに押し寄せてきた。

 数でベルムートを一気に押し潰すつもりらしい。


「ふーむ……そう来たか。ならこれはどうだ。『地針アースニードル』」


 ベルムートは自分を中心にして、地面から長さ10cmほどの釘のような尖った針状の塊を無数に出現させた。


「「「「「ブゴ!?」」」」」


 それを見た最前列のオークたちは危険を感じて止まろうとしたが、後続のオークたちに押されて地面の針に倒れ込んだ。


「ブギャアアアアアアアア!」


「ブゴギャギィ!」


 オークたちは体中を針に貫かれて穴だらけになり、痛みで叫び声をあげた。

 立ち上がろうにも体を動かそうとすれば穴が広がって全身を激痛が襲い、力が入らずオークたちは立ち上がれない。


「うわぁ……」


「なント……」


 その様子を覗いていたアンリとダインの表情は盛大に引き攣っていた。


「ブ、ブゴゴ!?」


「ブ、ブゴ、ブゴ!?」


 後に続くオークたちは目の前の光景を見て、顔から血の気が引いて青ざめていた。


「ブゴブゴ!」


「ブゴゴブゴ!」


 さらに後方いるオークたちは、まだ前の状況がよくわかっていないようで、早く行けと前方にいるオークの背中を押している。

 その結果、針に刺さったままのオークを踏み台にしてオークたちは進んでいくことになった。

 一体また一体とオークたちは地面に縫い留められて踏み台になっていく。

 オークたちは仲間の体を踏み越えて徐々にベルムートへと近づいてくる。


「そいつらの上が安全とは限らないぞ? 『地針アースニードル』」


 ベルムートが再び同じ魔法を唱えると、もともと地面から飛び出ていた針がさらに倍以上に長くなり、仲間を踏み台にして進んでいたオークたちの体をも貫いた。


「ブゴギャアアァアアアアァ!?」


「ブギギャゴ!」


 急に伸びてきた針に為すすべもなく、オークたちは体を串刺しにされた。


「ほらな。だから言っただろう」


 ベルムートは、やれやれと肩を竦めた。

 しかし、オークたちはベルムートの言葉など聞いておらず、どうにか針から抜け出そうと呻き声をあげながらもがいている。


 ゴオォ!!


 すると、奥から巨大な火の球が飛んできた。

 巨大な火の球は、ベルムートではなく、針に動きを封じられたオークたちに直撃した。

 巨大な火の球は、オークたちを灰に変え、無数の土の針を砕き、地面に滴る血を一瞬で蒸発させた。


 ズガァン!


 そのすさまじい威力によって、洞窟内が振動した。

 パラパラと天井から石の欠片が降ってくる。


 ベルムートの方にも余波がきていたが、魔法の障壁によって問題なく防ぐことができていた。


 巨大な火の球が放たれてきた方を見ると、20体ほどのオークメイジたちが一ヶ所に固まっていた。

 詰まっていた道を開けるために、複数のオークメイジが協力して魔法を唱えたようだ。


「「ブゴゴゴゴゴゴ……!」」


 仲間に向かって魔法を放ったことに対して、嫌悪感からかオークメイジたちの顔が歪んでいる。

 オークメイジたちは、本当は今のような攻撃はしたくなかったのだろう。


「そんな攻撃をすると洞窟が崩れてしまうぞ?」


 そんな気持ちなどは気にせずにベルムートはオークたちに注意した。


「せっかくこっちが気を遣っているというのに、自分たちの住処が崩れるのも気にせず攻撃するとは……なんともお粗末な連中だ」


「「ブゴォ! ブゴゴォ!」」


 微塵も揺るがないベルムートの態度に、オークメイジたちはますます顔を歪めた。


「「ブゴゴゴゴゴ!!」」


 オークメイジたちは、さらに魔力を高めた一撃をベルムートに向かって放ってきた。


 ズドガアァン!!


 さらに巨大化した火の球がベルムートの魔法の障壁に直撃した。

 ベルムートのいる場所が、火で真っ赤に染まって何も見えなくなった。

 やがて、火の勢いが弱まり、火の粉が舞う中、ベルムートはオークメイジたちに感心していた。


「大した威力だ。2、3枚もっていかれたぞ」


 ベルムートは上機嫌でオークメイジたちを褒めた。


「「ブゴ……ブゴゴ……」」


 しかし、無傷なベルムートの姿を確認したオークメイジたちは、愕然とした表情をしてその場に崩れ落ちた。


 『防御殻プロテクトシェル』は薄く張った魔力障壁を何層も重ね掛けした魔法で、ベルムートが開発したものだ。


 薄く張った魔力障壁といっても、ベルムート自身が魔法の扱いに長けており、さらにはベルムート自身の魔力量も尋常ではないため、強度はかなり高く、そうやすやすと破られる代物ではない。

 だが、さっきのオークメイジたちはこの障壁を何枚か破壊した。

 ベルムートが思わず褒めてしまったのも仕方がないことだろう。


「ん? もう終わりか?」


「「…………」」


 ベルムートはオークメイジたちの様子を見て尋ねたが、答えは返ってこない。

 オークメイジたちは魔力を使い果たしたらしく、何体かは倒れており、それ以外のオークメイジたちもその場で蹲って動かない。


 そして、がらんどうになった真っ暗な洞窟の大広間。

 先ほどの攻撃で壁の松明は燃え尽き、土の針はすべて砕け散り、オークメイジたち以外のオークは、血も残さずに皆灰になってしまった。


「あ……オークの素材が……」


 ベルムートは気づいてしまった。

 素材がすべて焼失してしまったことに。

 だか、今更気付いてももう遅い。

 悠長にオークメイジの攻撃を待っていたのがいけなった。

 さらには、オークたちが持っていた武器も融解して原型をとどめていない。


「とりあえずオークメイジだけでも持って帰るか……」


 ベルムートは、『暗視ナイトヴィジョン』の魔法を使って、暗くなった洞窟での視界を確保した。

 そして、無抵抗のオークメイジたちを『風刃ウインドカッター』で仕留めて、首のない死体を次々に『空間倉庫アイテムボックス』に放り込んだ。


 ここまでアンリとダインは微動だにしていない。

 明かりが消えて状況がわからず、動けないのだろう。


「さて、帰るか」


 やることを済ませたベルムートは、『光源ライトソース』の魔法を使って辺りを照らしながら、アンリとダインの元まで戻った。


「あの数のオークを1人で倒すなんて……師匠すごすぎる!」


 開口一番にアンリがベルムートを褒めてきた。


「ベルムート……すごイナ……」


 ダインは尊敬の眼差しでベルムートを見つめてきた。


「別にたいしたことはしていない」


 いや、確かにベルムートも魔法を使って戦ったが、ほとんどオークたちの自滅に近かったので、ベルムートとしても若干称賛を受け止めづらい。

 ただ、ベルムートは褒められて嬉しくない訳ではない。


「用も済んだし、帰るぞ」


「うん!」


「そうダナ……」


 ベルムートたちが洞窟の出口へと歩き始めたその時、


 ドガアアアアアアン!!


「ブゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 洞窟全体をビリビリと震わせるほどの雄叫びと共に、洞窟の壁を破壊して巨体のオークが現れた。

 そして、その勢いのまま、巨体のオークはベルムートたちに突っ込んできた。


「危ない!」


 魔法の発動が間に合わないと判断したベルムートは、咄嗟にアンリとダインが巻き込まれないように突き飛ばした。


「きゃっ!?」


「うォ……!?」


 アンリはベルムートに突き飛ばされて、離れたところに倒れこんだが、ダインはあまり離すことができなかった。

 そして、巨体のオークは、進路上にいたベルムートとダインにぶつかった。


「ぐっ!」


「グオオォ……!!」


 ベルムートとダインは避けようとしたが、間に合わずに巨体のオークの突進によってベルムートは大広間の方に、ダインはアンリの近くにぶっ飛ばされた。


「ダイン! 師匠!」


 アンリは、突然の出来事に動揺しつつも、ベルムートとダインの安否を確かめるために声を張り上げた。


「大丈夫だ!」


 ベルムートは、アンリとダインに自分の無事を知らせるために声を上げた。

 ベルムートは巨体のオークの突進をもろにくらってしまったが、それほどのダメージは受けていない。

 アンリならぺしゃんこにされていただろう。


「ダインは無事か!?」


「暗くてわからない!」


 『光源ライトソース』の明かりが消えてしまったため、アンリには、ベルムートとダインと敵の姿が見えないどころか、状況の把握も困難なようだ。


「『光源ライトソース』」


「明るくなった! ありがとう師匠!」


 アンリはダインの側に駆け寄った。


「ダイン大丈夫!?」


「ぐうウウゥ……」


「生きてるけど、ケガで動けないみたい!」


「回復薬を使え!」


「わかった!」


 アンリは自分の持っていた回復薬をダインの体にかけて、ダインの持っていた回復薬をダインに飲ませた。

 ベルムートは暗闇の向こうにいる巨体のオークを見るために『暗視ナイトヴィジョン』の魔法をかけて、立ち上がった。


「やってくれたな……」


 ベルムートは完全に油断していた。

 そのせいで、奇襲された。

 魔法の障壁はすでに解除していたし、他の魔法を使う余裕もなかった。

 まさに一瞬の出来事だった。

 しかし、強烈な当たりではあったものの、ベルムートを殺せるだけの威力はなかったらしい。

 

「ブゴオオオオオオオオオオ!」


 巨体のオークは雄叫びを上げながら、ベルムートを睨み付けてきた。

 どうやら巨体のオークは暗闇でも目が利くらしい。


「『回復ヒール』。さて……豚しゃぶにされる覚悟はいいな?」


 ベルムートは魔法で体を癒し、巨体のオークを睨み返した。


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