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オークと戦闘

前回のあらすじ。

人間より牛の方が話が分かるやつだと思った。



 翌朝。

 起床したベルムートたちは、昨日多めに作っていたスープの残りを『空間倉庫アイテムボックス』から取り出して、手早く食事を済ませた。


「おまえたちに渡しておきたい物がある」


 ベルムートは『空間倉庫アイテムボックス』から魔法の液体の入った容器を取り出して、アンリとダインに差し出した。


「これは?」


「回復薬だ。念のため持っておけ」


 アンリの質問に答えたベルムートは、アンリとダインに回復薬を渡した。


「ありがとう!」


「ありがタイ……」


 アンリは回復薬を腰のベルトに下げた。

 ダインは回復薬の容器を紐で括って、首から下げた。


 それからベルムートたちは、オークの居場所へ向かうために、ダインを先頭にして森の中を歩き出した。

 山の方へと近づいているようだ。

 しばらく歩くと、山の麓に洞窟を見つけた。


「あそコダ……」


「確かにオークがいるな」


 ベルムートたちが木の陰からこっそり様子を窺うと、洞窟の入口に槍を持ったオークの見張りが2人立っていた。

 まだ、ベルムートたちに気付いている様子はない。


「まずは、あの見張りの2体を潰すぞ」


「うん」


「わかッタ……」


 ベルムートが声をかけると、アンリとダインが頷いた。


「私がまず魔法で洞窟の入り口を塞ぐ。2人はその後、あの見張りのオークの2体に攻撃をしかけろ」


「了解シタ……」


「え!? わたしとダインがあのオークたちと戦うの!?」


 ダインは素直に頷いたが、アンリは頷かずにベルムートに聞き返してきた。


「そうだ。楽勝だろ?」


「いやいやいや! ダインはともかく、どう見てもわたしじゃ勝てそうにないよ!」


 アンリが、逞しい体をしたオークを指差しながら言った。


「大丈夫だ。アンリならいける」


「えー……」


「あんなのは雑魚だ」


「それは師匠にとってでしょ!」


「たった2体だぞ?」


「ううぅ~……やっぱりわたしには無理だよ」


「何弱気なことを言ってるんだ」


「だって~……」


「勇者になるんじゃなかったのか?」


「それはそうだけど! 今のわたしじゃオークの相手は無理だよ!」


 なおも駄々をこねるアンリ。

 あの程度の魔物が倒せないと、魔王と戦うなんて夢のまた夢だ。


(勝てない訳じゃないんだ。なんとかアンリをヤル気にさせないとな。ふーむ……仕方ない、あの手を使うか)


「わかった。そこまで言うなら、あのオークたちを排除できたら、1つだけなんでも願いを叶えてやろう」


「え? 本当に?」


「ああ」


「本当になんでも?」


「ああ。私にできることならな」


「わかった! わたしやる!」


 アンリがヤル気になった。


「早速やるぞ」


 ベルムートは、アンリの考えが変わらない内に行動に移った。


「まずは私からだ。『岩壁ロックウォール』」


 ベルムートが魔法を唱えると、洞窟の入口の地面から岩が隆起して、洞窟の入口を塞いだ。


「ブゴゴ!?」


「ブゴブゴ!?」


 それを見て見張りのオークたちは慌てた。

 見張りのオークたちは洞窟の入口を塞いだ岩をどうにかどかそうと試みているようだが、オーク程度ではどうにもできない。

 これで増援を呼ばれることはなくなった。


「『身体強化ストリングゼンボディ』!」


「行クゾ……!」


 アンリも魔法を唱え、ダインと共に木の陰から飛び出した。

 そしてアンリとダインは、それぞれ別のオークの元に向かって行った。

 どうやら1対1で戦うつもりのようだ。


「ブ、ブゴ!?」


「ブゴゴゴ!?」


 アンリとダインの登場によって、さらに動揺を大きくするオークたち。


「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 その隙にダインがオーク目掛けて木の棍棒を思いっきり振り下ろした。

 碌に武器も構えていないオークの頭上に棍棒が直撃する。


 バキッ!


「ブギャッ!」


 オークは衝撃でふらついた。

 しかし、ダメージは通ったものの、オークの頭は思ったより頑丈だったようで致命傷まではいっていない。

 そして、今の攻撃によってダインが持っていた木の棍棒にヒビが入った。

 ダインの膂力で振られた木の棍棒が、頑丈なオークに衝突し、衝撃が木の棍棒に跳ね返ってきたのだろう。

 もう一度強い衝撃を受けてしまえば、木の棍棒は折れてしまいそうだ。


「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 しかし、ダインは木の棍棒のことは気にせず、もう一度オークの頭に木の棍棒を振り下ろした。


「ブ、ブゴ」


 だが今度は、オークはふらつきながらも咄嗟に腕で頭を庇った。


 バキイィッ!


「ブゴ……!」


 木の棍棒はオークの腕に当たると、音を立ててへし折れた。

 なんとかダインの攻撃を防御したオークだが、衝撃でオークは手に持っていた槍を取り落としていた。

 すかさずダインは折れた木の棍棒を投げ捨てて、オークの体を掴んで両手で持ち上げた。


「フン! ウオオオオオオオオオオ!」


 オークは相当重いはずだが、ダインはふらつくことなくしっかりと両足に力をいれて体を支えている。


「ブゴ、ブゴゴ、ブゴォ!」


「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 そして、ダインは、じたばた暴れるオークを力任せに頭から地面に叩きつけた。


 ズガァアン!!


 激音を響かせて地面に亀裂が入った。


「!!」


 地面に勢いよく頭から叩きつけられた衝撃と、自重により、オークの首に尋常じゃないほどの負荷がかかった。

 そして、その負荷を支えきれなかったオークの首が、ボキィッ!と鈍い音を立てて折れ、オークは撃沈した。



 ◇ ◇ ◇



 一方アンリは、奇襲でオークに剣を当てることができたものの、アンリの持つ鋼鉄の剣では、オークに浅い傷しかつけられなかった。


「硬すぎだよ!」


 アンリは文句を言いながらもオークに切りかかる。


「ブゴ!」


 攻撃を受けたオークは少し冷静さを取り戻して、槍を構えた。

 オークは、洞窟の入り口を塞いでいる岩をどかすことよりも、まずは目の前にいるアンリを倒すことにしたようだった。


「ブゴゴ!」


 オークの槍がアンリに迫る。


「うわぁ!」


 アンリはその槍を間一髪避けた。

 いくら魔法で体を強化しているといっても、オークの膂力で繰り出される槍にアンリが当たれば、大ケガでは済まされない。


「えい!」


 避けた拍子にアンリは剣でオークを切りつけたが、オークの肌に掠り傷が増えただけで、特にダメージは与えられていない。


 その後もアンリはギリギリ槍の攻撃を避けながらも、必死に攻撃を繰り出しているが、決定打にかけるアンリは内心かなり焦っていた。


(こっちの攻撃が全然効かない……なんとかしないと……)


 それに、このままだといずれアンリの魔力が尽きて、アンリの身体能力を強化している魔法が解けてしまう。

 今は寸でのところでオークの槍を避け続けているアンリだが、魔法が解けてしまえば袋叩きにされることは明白だ。


(でも、たぶんそうはならない。きっと、わたしがオークにやられそうになったら師匠が助けてくれる。……助けてくれるはず……たぶん)


 アンリは少し自信なさげに考えた。


(けど、それは嫌だな)


 勇者になると決めたからには、自力でなんとかしたいとアンリは思った。


(なら魔力が残っている内に一か八かやるしかない……あれ・・を……)


 アンリは覚悟を決めた。


「ブゴゴゴ!」


「! ここだ!」


 そして、オークが槍の薙ぎ払い攻撃をした瞬間、アンリは魔力眼を使いその攻撃を剣で受けた。


 ガツーンッ!!


「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ……!!」


 重い衝撃によって、アンリは盛大に吹っ飛び森の中に消えた。



 ◇ ◇ ◇



 オークは勝利を確信していた。

 ちょこまかと動いて鬱陶しかったが、非力な人間の小娘が自分の攻撃をまともに受けたのだ。

 生きてはいないだろう。

 殺してしまったのは惜しいが、しかたない。

 食料として持って帰らなければ。

 ああでも洞窟の入口が……後ででいいか。


 オークは獲物を持ち帰るために森の中に入って行った。


 オークは森の中で人間の死体を探した。

 オークは嗅覚が鋭い。

 しかし、血の匂いを頼りに探しているが、目当てのものが見つからない。


 森の魔物に横取りでもされたか?


 だが、魔物に取られたにしては匂いが遠のいていない。

 確かにこのあたりのはずなんだが……。


 ガサガサッ。


 音が聞こえた方を向くが特に何もない。

 訝しく思って様子を窺っていたそのとき、オークの背後で大きな音がした。


 ガサッ!


 音に反応して振り向こうとしたオークはその前に、高速で迫った何かに両足の腱を切られ、体当たりされた。


「やあああああああああああ!!」


「ブゴォ!」


 切られた両足に鋭い痛みが走る。

 体当たりされて崩れたバランスをもとに戻そうとオークが両足に力を入れるが、上手く力が入らない。

 オークはゆっくりと前のめりに倒れていく。


 ドシン!


 オークはうつ伏せに倒れた。

 すると、オークの背に誰かが乗った。

 次の瞬間、


「やぁあああ!!」


「ブガァ!!!」


 オークの首に強烈な痛みが走った。

 オークの首から血が吹き出す。

 オークはしばらくもがいたが、もう手遅れだった。

 致命的な一撃を受けたオークは、やがて力尽きてぱたりと動かなくなった。

 オークの背に乗っていたのは、赤い髪の少女――オークに死んだと思われていたアンリだった。



 ◇ ◇ ◇



「ぐうぅ……」


 時は遡り、オークの攻撃を受けて森の中に吹き飛ばされたアンリは、立ち上がれないほどのダメージを受けていたが、幸いにも死んではいなかった。


「回復薬……」


 アンリは満身創痍の体を無理やり動かし、ベルムートから渡されていた回復薬を飲んだ。


「! この回復薬すごい……!」


 みるみるうちにアンリの体の傷が塞がっていく。

 それに驚いているうちに、体はほぼ完全に回復してしまった。

 アンリは、体を軽く動かしてみた。


「よし……これなら……いけそう」


 アンリは体の動きに問題がないことを確認した。


「なんとか、うまくいった……」


 アンリは、ほっとしたように笑みを浮かべた。


 あの時、アンリはあること・・・・をするための時間稼ぎとして、わざとオークの攻撃を受けて森の中に吹っ飛んだのだ。

 一か八か死ぬかもしれない賭けに勝ったアンリだったが、まだこれからが本番だ。


「はやく準備しないと」


 アンリは気を引き締めた。

 アンリは近くに転がっていた自分の剣を拾って、身を隠すのに適当な木に登って隠れた。


「ふぅー……」


 アンリは木の上で、剣に魔力を集めることに集中した。

 アンリが時間稼ぎをしたのは、剣に魔力付与エンチャントをするためだった。

 魔力付与エンチャントとは、武器に魔力を纏わせることで、武器の切れ味と耐久力を上げることができる強化魔法だ。

 無属性の魔法に分類されている。


「ブゴゴ?」


 しばらくするとオークが森の中に入ってきた。


(うそ!? どうしよう!?)


 正直アンリはオークが森の中に入ってくるとは思っていなかったが、焦ってもしかたがない。


(お願い……! こっちに気づかないで……!)


 アンリは、オークに自分の居場所がばれないようにと祈りながら、必死に魔力を剣に集めた。


(よし……!)


 そして、なんとかオークにばれずに剣に魔力付与エンチャントをする準備が整った。

 アンリはオークの気を逸らすために、空になった回復薬の容器を木の上から投げ捨てた。


 ガサガサッ。


「ブゴ?」


 オークが、容器の落ちた方に注意を向けた。

 アンリのいる場所とは反対の方向だ。


 容器の落ちた方にオークの注意が向いている間に、アンリは木から飛び降りた。


 ガサッ!


 そして、アンリはオーク目掛けて全速力で走った。


(『身体強化ストリングゼンボディ』の効果が切れるまでに勝負を決める!)


「やあああああああああああ!」


 アンリは魔力付与エンチャントした鋼鉄の剣を構えた。

 まずはオークの動きを封じるために、アンリは体を捻りオークの両足の腱にむけて横薙ぎに剣を振った。

 さきほどまでオークに掠り傷程度しかつけられなかった鋼鉄の剣が、魔力付与エンチャントによって鋭さを増したことにより、あっさりとオークの両足の腱を断ち切った。

 その勢いのまま、アンリは体ごとオークにぶつかった。


「ブゴォ!」


 アンリの体当たりはオークにとっては軽く小突かれた程度だったが、足の腱を切られたオークは自重を支えられずに、うつ伏せに倒れた。


 ズシン!


 すかさず倒れたオークの背に乗ったアンリは、魔力付与エンチャントが切れる寸前に思いっきり体重をかけて鋼鉄の剣をオークの首に突き刺した。


「やぁあああ!」


「ブガァ!!!」


 そして、オークは力尽き、アンリは辛くも勝利した。


「勝っ、た……」


 かなり無茶をしたが、アンリはなんとかオークを倒せた。


「抜け、ない……」


 『身体強化ストリングゼンボディ』の効果が切れたアンリにはもうオークの首から剣を引き抜く力は残っていなかった。

 アンリは剣を抜くことを諦めて、オークの背から降りた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 アンリはふらふらで体力も限界に達しており、もはや気力だけで立っている状態だった。


「もう、ダメ……」


 そして、糸が切れた人形のようにアンリはぶっ倒れた。



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