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Dランクの魔物

前回のあらすじ。

アスティは有能だが痴女だった。



 夜中、ベルムートは魔王城から宿の自室に戻ってきた。

 無事に、勇者の死体から記憶を読み取り、勇者の能力を把握することに成功した。


(それにしても、アスティが勝手に私の部屋を占拠していたのには面食らったな)


 見られて困るような物は置いていないし、荒らされていなければ部屋を使っても別に構わないが、部屋を使う前に一言欲しかったとベルムートは思った。


(まあ、目くじらを立てるほどのことではないが、いったい私の部屋で何をしていたのやら……)


 ベルムートは、遠く魔王城にいるアスティのことを考えながら窓の外を見た。

 一際輝く星が、まるで周りの星たちにもっと輝くように急かしているように見えた。


「日の出までまだ時間があるな。勇者の記憶を整理したいし、少し眠るか」


 ベルムートは、勇者から読み取った情報を整理するために、眠りについた。


 翌朝。

 ベルムートとアンリは宿の食堂で朝食を取っていた。

 メニューは、パンとサラダ、鳥肉の入ったスープのセットだった。

 特にスープは鳥の出汁が効いていてうまい。


「アンリ、昔いた勇者の特殊能力ユニークスキルがわかったぞ」


「え!? 本当!?」


「ああ」


「すごい! どうやって調べたの?」


「それは直接……あ」


 ベルムートは思い止まった。

 勇者の死体から直接記憶を読んだことを言ってしまえば、勇者の死体について話さないといけなくなってしまう。


「おほん……魔法を使ったんだ」


 ベルムートは誤魔化した。


「魔法? どんな魔法?」


「それは秘密だ」


「えー!?」


「そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。それより、勇者の特殊能力ユニークスキルなんだが、『勇気を力に変える』というものだった」


「あ! 勇者っぽい!」


「ぽい?」


「うん」


「ぽいもなにも勇者なんだが……」


「そうなんだけど、勇者にぴったりな特殊能力ユニークスキルだなって思って」


「なるほどな」


「その勇者って強かったのかな?」


「ああ、強かった」


 魔王が手を抜いていたとはいえ、勇者は魔王と渡り合えるくらいの強さがあった。


「え? 師匠は勇者に会ったことがあるの?」


「……いや、そうじゃないかと思っただけだ」


 ベルムートがつい断定してしまったことで、アンリが尋ねてきたが、ベルムートはあくまで想像だと言って躱した。

 ベルムートは今度から気をつけることにした。


「そうなんだ……。私もその勇者みたいに強くなれるかな?」


「それはわからないが、アンリ次第じゃないか?」


「そうだね……わたしがんばる!」


 どうやら、アンリはやる気になったようだ。


「その調子で依頼をこなして行くぞ」


「うん!」


 そして、ベルムートたちは冒険者ギルドに向かった。


 ベルムートたちは依頼の紙が貼ってあるボードまで向かった。

 ベルムートは字が読めないアンリに内容を教えながら、依頼の書かれた紙を見て回った。


「やはりEランクではいい依頼がないな」


 Eランクで受けられる依頼は薬草採取や弱い魔物の討伐、魔物の肉の調達などばかりで、あまりめぼしい依頼はなかった。


「他には……ん?」


 少し上のランクの依頼も見ようとベルムートが視線を彷徨わせたところ、気になる依頼を見つけた。

 それは、この都市の領主が出した、魔物の討伐依頼だった。

 この依頼には受けられるランクに制限はないようだった。

 内容は、この都市近辺の魔物を倒すと、通常の常時依頼よりも報酬を少し上乗せするというものだった。


「すまない。この依頼について聞きたいのだが」


 ベルムートは近くにいたギルドの職員に尋ねてみた。


「あーそれですか? 2ヵ月半程前からこの都市サルド近辺の魔物の数が急激に増えたんで、その討伐を優先してもらうために領主が出したものですよ」


「急激に魔物が増えた? どうしてそんなことが?」


「原因はまだ分かっていませんね。いかんせん、調査をしようにも魔物の数が多くてそれどころではないらしくて」


「なるほど」


「だから、事態の早期収拾を図るために、この都市の領主が国と冒険者ギルドと掛けあって、この依頼を出したんですよ。この依頼の報酬は、常時依頼分の報酬額をギルドから出して、追加報酬分をこの都市の運営費から出すっていう例外的な措置をとってるんです」


「報酬を上げて冒険者を募っているのに、まだ魔物の数は減らないのか?」


「この都市にいる冒険者と騎士団だけでは手が足りないということで、王都の騎士団本部からこの都市に応援部隊が派遣されたりもしたらしいですよ。ただ、噂を聞き付けた他の場所の駆け出し冒険者がわんさかこの都市に流れ込んできたことで、最近は魔物の数も徐々に減ってきているみたいですけどね」


「なら、今が稼ぎ時というわけか」


「そうですね。このままいけば、魔物の数も以前と同じくらいになって、事態は落ち着くと思うので、今の内ですね」


「そうか。情報感謝する」


「いえ、では私はこれで」


 ギルド職員は仕事に戻っていった。


「いいことを聞いた。これは私たちにとっても好都合だな」


 この都市近辺に出没する魔物は、アンリでも倒せるような弱い魔物ばかりだ。

 さらに、冒険者の数も多い。

 そのため、比較的安全にアンリを鍛えれるし、魔物の数が多いので相手に困らない。

 しかも、お金まで稼げる。

 まさに理想的な環境だった。


「この依頼を受けよう」


「わかった!」


 というわけで、私ベルムートたちは都市を出て魔物を狩りに向かうことにした。

 馬のシェリーは今回必要ないので、旅人用の厩舎に預けたままだ。


 都市の周りは草原になっており、少し遠くに森が見える。

 草原には兎型の魔物や小鳥型の魔物が多数見受けられた。


「やああ!」


「キュキュ!? キュ……」


「やった!」


 アンリが兎型の魔物を仕留めた。

 最初は手も足も出ないほどコテンパンにやられていたのに、今では危なげなく兎型の魔物を倒せている。


「よし、落ちたな」


 空を飛ぶ魔物は、まだアンリでは対処できないので、新開発した魔法の試し撃ちもかねて、ベルムートが落としていった。


「損傷もそれほどひどくはないな。まずまずといったところか」


 倒した魔物はまるごとベルムートが『空間倉庫アイテムボックス』に収納していった。

 討伐した証明に魔物の体の一部が必要なのと、肉や皮などは依頼とは別にギルドで買い取ってくれるからだ。


「アンリ、装備の使い勝手はどうだ?」


 今のアンリは、昨日買った長袖のシャツとショートパンツを着て、鋼鉄の剣、革の鎧、革のブーツという装備をしている。

 今まで使っていた短剣も予備としてアンリが装備している。


「うん。剣も前よりリーチが長くて力が乗りやすいし、服も動きやすいよ。防具やブーツはちょっと重いけど、踏み込みやすいし良い感じだと思う」


 アンリが上機嫌で答える。


「そうか、使い心地は上々のようだな」


「うん!」


 その後もベルムートたちは魔物を倒しながら進んでいき、だんだんと都市から離れていく。

 次第に新しい装備にも慣れてきたようで、アンリの動きは良くなってきていた。

 都市から離れて森に近づくと、山羊型の魔物がいた。

 山羊型の魔物は草をむしゃむしゃと食べている。

 見た目通り草食で温厚な魔物だ。

 ただ、敵意には敏感で、襲われるより先に攻撃を仕掛けてくる。

 依頼のボードに書かれていたランク分けだと、兎型の魔物や小鳥型の魔物がEランクで、山羊型の魔物はDランクだった。


 今のアンリの実力なら、倒せなくもないといった相手だ。


「よし、あの魔物はアンリが相手をしてみろ」


「え? 大丈夫かな。あの魔物と戦うの初めてなんだけど」


「心配ない。勝てる相手だ」


「わかった、やってみるね。……『身体強化ストリングゼンボディ』!」


 アンリは魔法で身体能力を底上げして、山羊型の魔物にとびかかっていった。


「やあああ!」


 アンリが剣を振る。

 しかし、すでにアンリの敵意に反応していた山羊型の魔物は、

食事を中断し、アンリに突進をかました。


「メエ!!」


 アンリの剣が届くよりも先に、山羊型の魔物の頭がアンリの体にぶつかった。


「ぐはっ!」


 アンリの体がぶっ飛んでいく。


「まあ、そうなるよな」


 ベルムートは言葉を漏らした。

 あんな見え見えの攻撃を真正面からしたら、そりゃ返り討ちにあう。


 山羊型の魔物は、さらに大きく跳躍してアンリから距離を取った。

 アンリと山羊型の魔物との間に結構な距離が開く。


「まだまだ!」


 アンリはすぐに立ち上がった。

 普通なら骨の1、2本は折れていても不思議じゃないほどの勢いだったが、アンリは魔法で体を強化していたため、軽傷ですんだようだ。


「いくよ!」


 山羊型の魔物との距離を詰めるために、アンリは駆け出した。


 すると、アンリの行く手を阻むように、地面から急に土の壁がせりだした。


「うわぁ!?」


 驚いて、土の壁にぶつからないように急停止したアンリ。

 そのアンリの頭上・・から、山羊型の魔物が体当たりを仕掛けてきた。


「メエエエエエ!!」


 山羊型の魔物は、土の壁を若干斜めに出すことでアンリへの牽制と踏み台としての役割を同時に持たせて、自身はその壁の上を飛び越えてアンリに攻撃してきたのだ。


「えぇ!?」


 これには面食らったアンリだが、咄嗟に剣で自分の体を庇いつつ山羊型の魔物の体当たりを受けた。


「うぐぅ!」


 大きく後ろに弾き飛ばされ、何度も地面を転がるアンリ。

 助走で勢いが増していたため、今度の体当たりは強烈だった。


「うう……いたたたた……」


 体当たりが剣に当たった直後に後ろに跳んだのが良かったのか、思ったよりもアンリは軽傷ですんでいた。

 しかし、体の痛みはそれなりに感じているようだ。

 剣で攻撃を受けたことで、手も痺れている。


「ぐっ……」


 痛みに耐えて、急いでアンリが体を起こす。

 山羊型の魔物は追い打ちとばかりに、すでにアンリに向かって迫ってきていた。

 それをアンリは待ち構えるのではなく、逆に魔物に向かって駆けだした。

 魔法の効果が切れるまであまり時間がなかったので、勝負に出たのだ。

 距離が詰まると、再びアンリの目の前に土の壁がせりだしてきた。

 アンリは動きを止めて魔力眼を使った。

 山羊型の魔物が壁の上から飛び出してくる。


 しかし、その着地点にアンリの姿はない。


「メエエエエエ?」


 そこにいるはずのアンリの姿が見えず困惑する山羊型の魔物。


「やあああああああ!!」


 そこへ飛び出したアンリが、空中で無防備な山羊型の魔物に対して、鋼鉄の剣を突き刺した。


「メエエエエエエエエエ!!」


 体を深々と剣で貫かれ、悲痛な叫び声をあげる山羊型の魔物。


 実は山羊型の魔物が土の壁から飛び出してくる直前、アンリは斜めにせりだした土の壁に密着して隠れ、山羊型の魔物が飛び出してくるのを待っていたのだ。


 山羊型の魔物が地面に接触するのと同時に、剣を山羊型の魔物の体から引き抜くアンリ。


「メエエエエエ……」


 山羊型の魔物は血を流して倒れた。

 だが、まだ息がある。

 アンリは、油断することなく、倒れた山羊型の魔物に追撃するため剣を振りかぶった


「やああ!!」


 アンリの剣が、山羊型の魔物の首筋を切り裂いた。

 さらに血が噴き出して、山羊型の魔物は息絶えた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 戦闘が終わり魔法が切れるのと同時にどっと疲れが押し寄せてきて、アンリはその場にへたり込んだ。


「やったじゃないか。それに、今回は最後まで油断しなかったな」


 今まで見守っていたベルムートは、アンリに近づいて言葉をかけた。


「ハァ……ハァ……や、やった……」


 疲れが見えるものの、アンリは達成感に満ちた嬉しそうな顔をしていた。


「しかし、今回はなんとかなったからいいものの、魔力眼をもっと使えるようにならないと奇襲に対抗できないぞ」


「ハァ……ハァ……う、うん……」


 魔力眼を常時使うことができていれば、山羊型の魔物の土の壁を使った奇襲にも対処できたはずだ。


 アンリはまだ戦闘中に魔力眼を1秒間しか使えない。

 さらに、一度使うと再度使えるようになるまでに時間がかかってしまう。

 そのため、魔力眼の使用時間を延ばす練習と、すぐに再発動できる練習をしているのだが、使い物になるまでにはまだまだ時間がかかりそうだった。


「まあ、焦ることはない」


 ベルムートは、血抜きのすんだ山羊型の魔物を『空間倉庫アイテムボックス』に収納した。


「だいぶ返り血を浴びたな。綺麗にしてやろう。『清浄クリーン』、『回復ヒール』」


 ベルムートは、アンリに付いた山羊型の魔物の血を魔法できれいにした。

 ついでに、ケガも回復魔法で癒しておいた。


「すごい! 服がきれいになった! 体も痛くない! ありがとう、師匠!」


「ああ。だが、疲れは取れていないようだな。少し休憩するか」


「うん!」


 アンリの体力の消耗が激しいので、回復するまで待つことにした。

 すると、


「ゥォォォォォォォォォォォォォォ!!」


「ん?」


 遠くで雄たけびが聞こえた。


「聞こえたか?」


「うん。なんか叫んでる声が聞こえた」


「あっちから聞こえてきたな。行ってみるか」


「うん、わかった」


 ベルムートは、ある程度回復して立ち上がったアンリと共に、声がした方へと向かった。



設定

・スプリンクルスパロウ(小鳥型の魔物)

 体長14㎝

 水属性。

 自分で飲み水を作り出せるため、餌さえあれば大抵の場所で生きていける。

 雑食。

 集団で行動する。

 危険を感じると逃げる。

 弱い。


・クロッドゴート(山羊型の魔物)

 体長120㎝、体高90㎝

 土属性。

 高いところが好き。

 よく自分の土魔法で作った小山に上っている。

 草食。

 すぐに数が増える。

 温厚な魔物だが、敵意には敏感で、襲われるより先に攻撃を仕掛けてくる。

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