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初めての魔法練習

前回のあらすじ。

馬を召喚した。



「止まってくれ」


 日も高くなったので、ベルムートは馬のシェリーに止まるよう指示を出して降りた。

 今までよりも木々が減り、道が少し開けてきたが、まだまだ森の中だ。


「し、師匠、降ろして」


「ほら」


 ベルムートは降り方が分からないアンリを支えて、馬のシェリーから降ろした。


「あ、ありがとう師匠」


 地面に降り立ったアンリは、恥ずかしそうにしながらもベルムートにお礼を述べてきた。


 それから、ベルムートは朝食の余りを『空間倉庫アイテムボックス』から取り出して、ベルムートとアンリと馬のシェリーは軽く昼食を取った。


「これから何するの?」


「お前に魔法を教えようと思う」


「魔法? 剣術は教えてくれないの?」


「私は魔法特化型だからな。剣術は使えない」


「え? でも剣を使って魔物を倒してたよね?」


 アンリは、ベルムートが村で猪型の魔物を倒したときのことを指摘した。


「あれはただ剣を振っただけだ。剣術ではない」


「いや剣を振っただけって……目に見えない速度だったんだけど……」


「アンリとは違うからな」


 種族的な意味で。

 実際、悪魔の身体能力は人間よりも高い。

 魔法を使わなくても石を拳で砕くことができるし、兎型の魔物よりも速く動ける。


「何か魔法を使ってたの?」


「魔法は使っていない……いや、剣を強化してはいたが、使わなくてもあれぐらいはできる」


 あの時のベルムートは、エルクの使っていた雷閃剣を真似したくらいで、身体能力を底上げするような魔法は使っていなかった。


「あれぐらいはって……師匠っていったい何者?」


 魔王軍幹部の悪魔だ。

 とは言うはずもなく、ベルムートはアンリの言葉を無視して話を続けた。


「もしかすると、魔法を使えばお前でもあれくらいはできるようになるかもしれないな」


「本当に!?」


 アンリは掴み掛からんばかりの勢いでベルムートに迫ってきた。


「ああ。というわけで、さっそく魔法を教えようと思う」


「うん! お願い!」


「まずは魔力眼を使えるようになってもらう」


「魔力眼?」


「魔力眼を使えば、普段は見れない魔力を目で見ることができる」


「魔力が見えるようになる? それって何の役に立つの?」


「魔力が見えれば相手が何をしようとしているのかを予測することができる。例えば、私が手をお前に向けていたとしよう」


 そう言ってベルムートはアンリに手の平を向けた。


「この状態の私を見て、お前は私が何をしようとしてると思う?」


「わたしの胸を揉もうとしてる?」


「違う」


 アンリはバッ!と手で胸を隠す動作をした。

 確かにベルムートはアンリの胸のあたりに手を向けているが、それは心臓に向けているのであって、胸を揉もうとしているわけではない。

 それに、アンリの胸はそんなに揉めるほど大きくもない。


「そうじゃなくてだな……もし、戦闘中だとしたらどうだ?」


「え? うーん……手から魔法を撃とうとしてる?」


「普通ならそう考えるだろう。しかし……『地手アースハンド』」


 ベルムートが魔法を使うとアンリの足元から・・・・土の手が出てきてアンリの足首を掴んだ。


「うわっ!」


 アンリが驚いて足を引こうとするが、足首を掴んだ土の手はビクともしない。


「この魔法は土魔法の『地手アースハンド』だ。そして、この魔法は手からではなく、私の足から・・・発動させた」


「足から?」


「そうだ。魔力眼で見れば、私の足から放たれた魔力がお前の足下に集まっていくのが見えたはずだ」


 そう言ってベルムートはアンリに向けていた手を下ろす。

 だが、魔法はまだ発動したままだ。


「つまり、さっきの私は『手から魔法を撃つと見せかけて足元から不意打ちの魔法を使う』と考えていたということだ」


「普通に見ている分には何も分からなかった」


「そうだろうな。だが、魔力眼を使っていれば、手から魔法を撃つつもりがなく、足から魔法を使って不意打ちをしようとしていることがバレバレなので簡単に回避できる」


「なるほど……」


 アンリが理解したところでベルムートは魔法を解除した。

 アンリの足首を掴んでいた土の手が普通の地面に戻る。


「魔力眼は、戦況の把握や味方との連携を取るときにも重要になる。絶対に使えるようになってもらうぞ」


 敵や味方が魔法を使うタイミングを察知すれば、自分の立ち回り方も自ずと分かるようになるだろう。


「わたしにも使えるの?」


「魔力眼は適性属性に関係なく使えるから、アンリにも使えるはずだ」


「そうなんだ! わかった! わたしがんばる!」


 アンリは拳を握り、威勢のいい返事をした。


「じゃあ実際にやってみろ。魔力を目に集めるんだ」


「わかった! やってみる!」


 さっそくとばかりに、アンリは集中し始めた。

 ベルムートはアンリが魔力眼を使えるようになったか確認するために、自らの魔力眼を使用してアンリを見守ることにした。


「魔力を目に集める……」


 アンリは目を閉じたり、大きく見開いたり、半目になったり、高速で瞬きしたりといろいろ試していたが、うまくいっていないようだった。


「うーん……よくわかんない……」


 アンリはうまく魔力を扱えないようだ。

 まあ、いきなり言われてできるとはベルムートも思っていない。


「そうだな……体を流れる血液が目に集まるようなイメージだな」


 ベルムートがそうアドバイスすると、アンリは目を閉じてもう一度集中し出した。


「血が目に集まるイメージ……」


「お……?」


 ベルムートには、少しずつアンリの目に魔力が集まってきているのがわかった。


(これは……ひょっとすると……?)


 アンリに成功の兆しが見えたことに、ベルムートは驚きと期待が混じった表情を浮かべた。


「うーん……あっ……うーん……」


 目に魔力を集めきる前に何度か霧散させてしまっているが、だんだんと精度が増していっている。

 そしてついに、魔力が目に集まったところでアンリは目を開けた。


「うっ、眩しい!?」


 アンリは開けた目をすぐに閉じた。

 あたりは日の光で明るいが眩しいということはないし、アンリは日の光を直接見たわけでもない。

 だが、アンリは「眩しい」と言った。

 つまりそれは、魔力眼を使って魔力を見たということだった。


「やるな。こんなにすぐに使えるようになるとは思わなかったぞ」


 ベルムートがアンリに魔力眼を教えてまだ2時間ほどしか経っていない。

 ベルムートが魔王軍の新兵に教えたときには、魔力眼を発動させるだけでも1週間ほどかかっていたので、アンリは驚異の短時間で魔力眼を発動させたことになる。

 ベルムートとしては、だめだめで激弱なアンリが魔力眼を使えるようになるには一ヵ月、下手するともっと時間がかかると思っていたが、大きく予想を裏切られた形となった。


「し、師匠。眩しくて目が開けられない」


 目を閉じたままのアンリが困ったように言ってきた。


「空気中にも魔力はあるからな。目に集まっている魔力量を下げないとまともに見れないぞ」


「や、やりかたを教えて」


 発動はできたようだが、どうやらアンリは魔力眼をコントロールできていないようだ。


「仕方ないな。なら、目に集まった血液を目から体に流すイメージをしてみろ」


「わ、わかった、やってみる。血を目から体に流すイメージ……」


 それから数分経って、ようやくアンリは目を開けることができた。


「や、やっと見えた……」


「まあ、今見ているのは普通の景色だけどな……」


 今のアンリの目は魔力眼ではなく普通の目に戻っていた。


「だがまあ、とりあえず魔力眼を発動することはできたな」


「そ、そうだけど、あんな眩しいなんて聞いてないよ師匠!」


 アンリが少し怒って抗議してきた。


「魔力眼は魔力を見るんだ。魔力を目に集めすぎれば空気中の魔力まで見えてしまって眩しくなるのは当たり前だ」


 魔力眼は魔力しか見えないため、魔力量をコントロールしないと普通の視界が見えなくなる。


「そういうことは、最初に言って欲しかった!」


 どうやらアンリは本当に何も知らないようだった。

 ベルムートは素直に謝罪することにした。


「ああ、すまなかったな」


「うん、次からはちゃんと教えてね?」


「ああ」


 ベルムートが謝ると、アンリに笑顔が戻った。


「それで、眩しくならないようにするにはどうすればいいの?」


「目に集まる魔力を制御して、見える魔力の量を調整して視界を確保すればいい」


「なんかすごい難しそう……」


 アンリの言う通りで、魔力眼の難しいところは普通の視界と同調させることだ。

 さらに言うと、視界を維持したまま魔力眼を使用して戦闘をするとなると難易度はさらに跳ね上がる。

 基本にして最難関。

 それが魔力眼だ。


「すぐには出来ないだろう。今のところは一瞬でもまともに使えるようになってもらうのが目標だ」


「うん、わかった」


 アンリは頷いた。


「よし。魔力眼はこれから練習してもらうとして、もうひとつ魔法を教えよう」


「次は何?」


 アンリはわくわくしながらベルムートに聞いてきた。


「『身体強化ストリングゼンボディ』だ」


「?」


 アンリは分からなかったようで、わくわく顔がキョトン顔になった。


「どんな魔法なの?」


「自分の体を強くして攻撃力、防御力、敏捷性を上げる魔法だ」


 この魔法は属性に関係なく使えるため、無属性魔法に分類されている。


「すごい便利そうな魔法だね」


 アンリは鍬を振る動作をした。


「ああ……近接戦闘をするなら必須の魔法だ」


 便利そうというニュアンスが若干違うような気がしたがベルムートは頷いておいた。


「その魔法わたしにも使えるの?」


「ああ。『身体強化ストリングゼンボディ』も適性属性に関係なく使えるから、アンリにも使えるぞ」


「そうなんだ。どうやって使うの?」


「体に魔力を纏って『身体強化ストリングゼンボディ』と唱えるだけだ」


「それなら簡単そうだね」


 アンリは余裕しゃくしゃくといった様子で、目を閉じて集中し始めた。

 先程と同じように、ベルムートは魔力眼を使ってアンリを見守る。


「『身体強化ストリングゼンボディ』!」


 アンリが目を開けて叫んだ。

 しかし、何も起こらない。


「よっ! はっ! えい! やああ!」


 だが、アンリは跳んだり跳ねたり短剣を振ってみたりしている。


「あれ……?」


 しばらくして、ようやくアンリは何も変化していないことに気付いたようだ。


「師匠。私魔法使ったよね?」


「いいや、お前は魔法を使っていない」


「え?」


 アンリはわけがわからないといった顔でベルムートを見つめた。


「『身体強化ストリングゼンボディ』の魔法は体に魔力を纏わないと発動しない。お前はただ『身体強化ストリングゼンボディ』と叫んだだけだ」


「え、ええー!?」


 ベルムートが説明すると、アンリは顔を赤くして恥ずかしそうに俯いた。


「じゃ、じゃあ、その、体に魔力を纏うってどうやるの?」


「そうだな……血管に流れてる血液が全身を駆け巡って、内側から体全体を包み込む感じだ」


「わかった、やってみる」


 アンリは目を閉じてもう一度集中し出した。


「血が全身を駆け巡って……内側から包み込む……」


「お……?」


 ベルムートは、アンリの体を徐々に覆っていく魔力を見た。

 

(まさか……)


 またしてもアンリに成功の兆しが見えたことに、ベルムートは動揺した。


「うーん……あっ……うーん……」


 アンリは全身を魔力で覆う前に、何度か霧散させてしまっていたが、だんだんと形になってきている。

 そしてついに、アンリは全身を魔力で覆うことができた。

 

「『身体強化ストリングゼンボディ』!」


 目を見開いてアンリが叫ぶと魔法が発動し、アンリの体を纏う魔力が肉体に定着した。

 そして、アンリは試しに跳んでみた。


「うわぁっとと! 高ーい!」


 アンリが跳んだり跳ねたりすると、何もしていなかった時と違って地面から1m近く高いところまで届いている。


 続いてアンリは、短剣を構えた。


「あれ? なんだか軽いような……」


 短剣を持ったアンリは、さっきよりも短剣が軽く感じられたことに気づいたようだ。


「やああ!」


 そのままアンリが短剣を振ってみると、さっきよりも腕が速く動いて風切り音が聞こえた。


「やった! 師匠できたよ!」


「ああ。ちゃんとできたな」


 さっき魔力眼を練習していたからか、アンリはこの魔法を1時間半ほどで使えるようになった。

 この魔法も、魔王軍の新兵なら習得に5日はかかっていたが、アンリはあっという間に使いこなせるようになってしまった。


「やああ! あれ……力が……」


 ひとしきり体を動かして喜んでいたアンリだったが、急に力が抜けたようにバタンと倒れてしまった。


「ん? おい、どうした? ……って魔力を使いすぎたな」


 どうやら、アンリは魔力眼と『身体強化ストリングゼンボディ』の練習で魔力を使い過ぎたせいで、魔力が枯渇してしまったらしい。


「そういえば、魔力の残量を気にするように教えてなかったな……今度から気をつけるとしよう」


 ベルムートは自らの不手際に気づいて、改めた。




 それからアンリが起きるまで、ベルムートは灰色の鳥の眷属に食料の調達を頼んで待っていた。

 すると、夕方にアンリは起きた。

 馬のシェリーは草を食んでいて、ベルムートはたき火を焚いていた。


「師匠……ごめん……」


 アンリが気を落としてベルムートに謝ってきた。


「何がだ?」


「せっかく魔法教えてもらってたのに……気絶しちゃって……」


「今日初めて魔法を使ったんだ。気にするな」


「うん……ありがとう」


 ベルムートの言葉を聞いて少し安心したのか、アンリの表情が和らいだ。


「アンリにはしばらく、魔力眼と『身体強化ストリングゼンボディ』の2つの魔法を練習してもらう」


「うん、わかった」


「この2つの魔法が使えるようになるまでは魔物との戦闘は無しだ」


「えー!」


 アンリが抗議の声を上げた。


「あんな弱い魔物にボコボコにされたんだ。魔法が使えないとこの先死ぬぞ」


「ううぅ~……」


 アンリは兎型の魔物との戦闘を思い出して落ち込んだ。


「魔物と戦いたければさっさと魔法を使えるようになることだな」


「うん、わかった! わたしがんばる!」


 落ち込んでいたアンリだったが、すぐに気持ちを前向きにしたようだ。


「絶対、リベンジする!」


「そうか。とりあえず今日はもう食べたら寝るぞ」


「うん!」


 ベルムートとアンリは灰色の鳥の眷属が取ってきた食べ物を馬のシェリーと一緒に食べた。

 日が沈み、眷属に見回りを頼んだベルムートたちは眠りについた。



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