能力鑑定
前回のあらすじ。
女騎士エミリアがフィルスト村に向かった。
なお、すでに救われていたもよう。
村を出たベルムートとアンリは、森に挟まれた道と呼べるかあやしい道を連れだって歩いていた。
死んだ冒険者エルクの持っていた地図によると、アンリのいた村から王都までの間にいくつかの村と大きな都市が一つあるらしい。
アンリのいたフィルスト村では、魔物を個人で倒すような強者はいないようだった。
魔物には集団で対処していた。
そのことから、ベルムートたちは他の村には寄らずに、とりあえず王都までの道のりの途中にあるという都市サルドを目指すことにした。
人口が多いところの方が、強者がいる確立が高いとベルムートが思ったからだ。
「これだけ離れれば十分か」
フィルスト村から大分離れたところでベルムートは立ち止まった。
「よし、誰もいないようだな」
まだ日は高いが、辺りに人の気配はない。
「師匠どうしたの?」
急に立ち止まったベルムートを見てアンリは不思議そうに尋ねた。
「少し手荷物を整理しようと思ってな。これは邪魔だな」
ベルムートは持っていたお金の入った革袋を『空間倉庫』に仕舞った。
「し、師匠!? な、何してるの!?」
いきなり何もない空間が割けて、そこにお金の入った革袋を入れていくベルムートを見てアンリが訳がわからずあたふたした。
「何って……こんなにたくさんのお金を持ち運ぶのは面倒だからな。仕舞っておこうと思ったんだ」
ベルムートは落ち着いて答えた。
「……え? 仕舞う? ってどこに? それにその空中にできた裂け目は?」
アンリは混乱した。
「この裂け目は『空間倉庫』という魔法によってできた空間の入り口だ。この裂け目から向こうは魔法で作った倉庫になっている」
「……つまり、魔法で作った場所にその裂け目から荷物を置いてるってこと?」
「ああ」
「なんでも仕舞えるの?」
「なんでもかはわからないが、大抵のものは仕舞えるぞ」
「すごい! あ、でも、それって、すぐに取り出せるの?」
「もちろんだ」
そう言ってベルムートは空間の裂け目に手を入れてさっき入れたお金の入った革袋を取りだしてアンリに見せた。
「ほ、本当だ……。でも、それならなんで村にいるときに使わなかったの?」
魔法を確認して驚いた後、アンリが疑問に思ったことを口にした。
「村では魔物を数体駆除しただけで宴だと騒ぎになったからな。それに魔法を使っている人間も見かけなかったから、魔法を使うのは自重したんだ」
「ああ……そうだね……たぶん使わなくて正解だったと思う」
ベルムートが魔法を使っているところを見た村人たちが盛大に騒ぎ出す光景をアンリは幻視した。
「これで最後だな」
ベルムートが荷物を仕舞い終わって『空間倉庫』を閉じると、「ぐー」とアンリのお腹が鳴った。
「あう……!」
アンリは顔を赤くしてお腹を手で押さえている。
「……そろそろ飯にするか」
「う、うん!」
少し遅くなったが、ベルムートはアンリと昼食を取ることにした。
「あ」
しかし、ここでベルムートは気がついた。
お金はもらったが食料をもらっていないことに。
ベルムートはしばらく飲まず食わずでも問題はないが、アンリはそうはいかないということに考えが至っていなかった。
「アンリ。食べ物持ってないか?」
「うんあるよ。日持ちする硬いパンと干し肉が」
アンリはそう言って手持ちの皮袋からそれらを取り出した。
その量ではここから都市サルドまでは持たないだろう。
目的地を目指しながら食料を調達する必要がある。
『空間倉庫』に食料や調味料はあるが、長旅にはいささか心許ない量しかない。
(もしものときにはアスティにお願いしてなんとかしてもらえばいいか)
とりあえず水場は近くにないので、ベルムートはあらかじめ水を汲んでおいた水筒だけ『空間倉庫』から取り出しておいた。
「水はこの水筒から飲め。とりあえず、それを食べたら訓練がてら魔物を狩るぞ」
「うん、わかった」
水筒の水がなくなっても、水なら魔法でどうとでもなる。
それだけはよかった。
アンリは硬いパンと干し肉を水でお腹に流し込みながら食事を済ませた。
ベルムートは食べなくても平気だったが、アンリに勧められて干し肉を一欠けらだけもらった。
余った分は取っておく。
まだ2日は大丈夫な量だが、食糧の確保は次の食事までに解決しておきたい。
「よし。それじゃあまずは、おまえの能力を『能力鑑定』の魔法で調べるぞ」
「わかった」
ベルムートはアンリの手を握った。
「し、師匠。急に手を握ってどうしたの?」
「この魔法を使うには相手の体に触れる必要があるんだ」
「そ、そうなんだ」
「ああ。『能力鑑定』」
ただ手を握っただけで顔を赤くして恥ずかしそうにするアンリをよそに、ベルムートは魔法を発動させた。
魔法によって解析されたアンリの情報が、ベルムートの頭の中に流れ込んでくる。
この『能力鑑定』の魔法では相手の魔力量と適性属性、そして特殊能力が分かるようになる。
「それで……どう師匠?」
「魔力の量は少ないな」
「そうなんだ」
アンリは少し落ち込んだ。
普通の人間の魔力量がいくらなのかベルムートは知らないが、アンリの魔力量は魔王軍でいうと一般兵の2分の1くらいの魔力量があった。
ちなみに、ベルムートが殺してしまった冒険者エルクは魔王軍でいうと一般兵5人分の魔力量あった。
「それとアンリは、光と闇の2つの属性に適性があるようだな」
「へーそうなんだ」
よく分かっていない様子のアンリは生返事をした。
この世界の生き物は必ず1つは属性を持っている。
エルクの記憶によると、2つの属性を持っている人間は1000人に1人の割合らしい。
そう考えるとなかなか希少だろう。
「この世界には、火・水・風・土・雷・光・闇の7つの属性があって、個人によって適性が異なる。そして、属性に関係なく使える魔法を無属性と分類している」
ベルムートはアンリに魔法の属性について説明した。
「そうなんだ。それで……光と闇って……すごいの?」
「すごいと言えばすごいが……」
「なんだかハッキリしない答えだね……」
光魔法と闇魔法は使いこなせば強力だが、魔力消費量が他の属性に比べて馬鹿みたいに多い。
アンリの魔力量でどの程度の魔法が使えるのかわからない。
そもそもアンリが魔法を使えるのかさえもわからないのだから、ベルムートがうまく答えられるはずもなかった。
「まあ、訓練次第とだけ言っておこう」
「わかった。よくわからないけど、わたしがんばるね!」
「いやどっちなんだ……」
ベルムートは若干不安を滲ませて呟いた。
「それで師匠は何の属性に適性があるの?」
「全部だ」
「へ?」
アンリは素っ頓狂な声を上げた。
「ふぅー……師匠ってば冗談きついよ」
「いや、冗談ではなく、私は7つの属性すべてに適性がある」
「え……本当に?」
「ああ」
「……お城に仕える騎士様って……そんなにすごいんだ……」
アンリはベルムートのことを異国の騎士だと勘違いしているが、今度は城に仕えるすべての騎士に対して誤った認識を持ったようだ。
もっとも、ベルムートは訂正する気はないようだ。
「あとは、特殊能力だな………ん!?」
「どうしたの師匠?」
ベルムートはアンリの特殊能力を知って唖然とした。
(まさか……アンリが?)
アンリの特殊能力は『勇者の卵』というものだった。




