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訓練開始 その3

前回のあらすじ。

ニムリの訓練が始まった。



「あなたの担当は私よ」


 ローズがエミリアの前に立ち声をかけた。


「わかりました。何をするんですか?」


 エミリアはローズに尋ねた。


「昨日戦ってわかったのだけれど、あなたの動きは型に嵌りすぎているわ」


「それが何か悪いのですか?」


「悪いというのとは違うわ。ようは使い方の問題ね」


「使い方?」


 エミリアは首を傾げた。


「確かに型は重要だけど、状況に対応できないと実戦では通用しないわ」


「それはわかっています」


「そう? だとしたら、まだ考えが足りないわ」


「どういうことですか?」


 エミリアは少しむっとしつつローズに尋ねた。


「細剣での攻撃は、どうしても急所に集中してしまうわ。その動きを読まれた上での対策ができていないわ。それに、魔法と剣術を併用する際の戦い方がぎこちないわ。たぶんだけど、魔法の練度が足らないんじゃないかしら?」


「あっ……」


 エミリアは固まった。

 ローズに指摘されたことが図星だったからだ。


「確かに……」


 エミリアは頭を悩ませた。


「だから、私があなたの対応力を鍛えるわ」


 ローズはすぐさま口を開いた。


「どうやって鍛えるんですか?」


「そうね、とりあえずさっき言ったことを意識して軽く戦ってみましょうか」


「わかりました。魔法の使用はありですか?」


「ありよ」


 ローズとエミリアはお互い武器を構える。


「来なさい」


 ローズがエミリアに先手を譲った。


「! はあっ!」


 それを受けてエミリアはローズに攻撃を仕掛ける。


「正直すぎよ」


 エミリアの細剣はローズの剣に軽く弾かれた。


「はぁぁぁぁああっ!」


 エミリアが急所への攻撃を放つ。

 しかし、それらはローズに全て弾かれている。


「狙いがわかりやすすぎるわね」


「くっ!」


 エミリアも少しは動きを工夫しているのだが、やはり付け焼き刃ではローズには歯が立たない。


「はぁあっ!」


 エミリアはギアを上げるために特殊能力(ユニークスキル)怜悧(れいり)倍旧(ばいきゅう)』を使った。

 エミリアの思考が加速し、動きのキレが増す。


「あら? 何かしたみたいね?」


 目に見えて動きが良くなったエミリアに対して、まだまだローズは余裕でエミリアの攻撃を捌く。


「『氷球(アイスボール)』!」


 エミリアの剣を持たない方の手から氷の球が発射された。


「遅いし狙いが甘いわ!」


 氷の球の発動を先読みしていたローズが、素早く氷の球を切り刻み、氷の球はあっという間に粉々になって消滅した。


「隙だらけよ!」


「『身体強化(ストリングゼンボディ)』! ぐぅっ!」


 実は氷の球は囮で、本命の魔法をエミリアは発動させた。

 しかし、稼げた時間が足りなかったエミリアは、ローズに剣の腹での薙ぎ払いを脇腹に受けてしまう。


「どんどんいくわよ!」


 攻守交代で今度はローズがガンガンエミリアを攻めたてる。


「くっ!」


 魔法で身体能力を強化したはずのエミリアは防戦一方に陥る。


「ふっ! はあっ!」


 大きく後ろに距離をとったエミリアは、仕切り直してローズを攻める


「予備動作で丸わかりよ」


 魔法によって強さや速さの増したエミリアの攻撃を、まったく意に介することもなくローズはしっかりと捌いていく。


「はぁあっ!」


「それはもう見たわ」


 すでに披露してしまった型に嵌った攻撃など、ローズに容易く動きを見破られてしまう。

 そして、エミリアは逆に隙を晒してしまう。


「ぐうっ!」


 ローズの剣の腹がエミリアの足に打ち据えられた。


 その後もエミリアの攻撃の尽くがローズに通じず、逆にローズの攻撃を捌ききれなかったエミリアはついに膝をついた。


「ここまでにしておきましょう」


 ローズの宣言で一度目の模擬戦が終了した。


「さて、問題点を上げていくわよ」


 涼しい顔でローズが告げる。


「お、お願いします……」


 エミリアは荒い呼吸を整えつつ返事をした。


「急所だけじゃなくて、相手の動きを阻害するための攻撃を身に着けなさい」


「どうすればいいのでしょうか?」


「ひとつは、先読みをすることね。ふたつめは、動きを誘導すること。みっつめは、認識させないこと」


「それはどうすれば身につくのですか?」


「先読みに関しては相手の目線や呼吸、体や魔力の動かし方を読み取ればできるわ。動きの誘導は、自分が仕掛けた攻撃に対して、絶対に決まった動きをしなければ防げない攻撃か、自分の回避や防御で相手にして欲しい攻撃を誘発させればなんとかなるわ。認識させないことは、一番難しいのだけど、相手の対応力を上回るか、意識の外から攻撃することね。まあ全てに言えることは、多くの経験を積むことで磨かれていくわ」


「なるほど」


「あとは、剣術と魔法を使うときでそれぞれ意識が逸れているわ。どちらもきちんと意識を固めなさい」


「はい」


「魔法の発動はもっと一瞬でできた方がいいのだけど、それは要練習ね」


「そうですね」


 ローズから指摘を受けたエミリアは頷いた。


「さて、休憩はもう十分かしら?」


「はい」


「なら剣を構えなさい」


「わかりました」


 エミリアとローズは再び剣を構える。


「それじゃあ始めるわよ」


 二度目の模擬戦が開始された。


「『身体強化(ストリングゼンボディ)』! 」


 エミリアは開始早々身体能力を強化した。


「『氷球(アイスボール)』! はぁっ!」


 エミリアは氷の球と細剣による同時攻撃によって、ローズの行動を制限する腹積もりだ。


「いいわね。でも、まだまだよ!」


 しかし、ローズは氷の球を躱し、細剣を剣で受け流した。


「はぁぁぁぁああっ!」


 対応されることがわかっていたエミリアはすかさず特殊能力(ユニークスキル)怜悧(れいり)倍旧(ばいきゅう)』を発動。

 エミリアはローズと剣戟を交わしながら魔力を練り上げていく。


「『氷大球(アイスキャノンボール)』!」


 エミリアが魔法を唱え、ローズに向かって氷の大球が至近距離で放たれた。


「ダメね。もっと魔法と剣術をスムーズに使いこなさないと」


 ローズの動きには一切の淀みがなく、落ち着いて氷の大球を最低限度躱せる程度に剣で削った。


「はぁあっ!」


 しかし、それさえも躱されることを想定していたエミリアは、氷の大球を目眩ましにしてローズに細剣を突き出した。


「あら? いいじゃない!」


 それを見たローズは喜んだ。


「でも、当たってあげるほど私は優しくないわよ? 『身体強化(ストリングゼンボディ)』!」


 一瞬で魔力を練り上げたローズは魔法を発動させた。


「くっ!」


 エミリアの渾身の一撃は、あっさりとローズに躱された。


「いくわよ」


 そこからは、ローズの怒涛の攻撃が繰り出された。


「くぅっ! はぁっ!」


 エミリアはローズの攻撃を捌くのに四苦八苦しているが、なんとか食らいついている。


「うぅぅ!」


 しかし、特殊能力(ユニークスキル)怜悧(れいり)倍旧(ばいきゅう)』と『身体強化(ストリングゼンボディ)』の同時併用により、消耗したエミリアは動きに精彩を欠いてきた。


「そこ!」


 その隙を逃すはずもなく、ローズがエミリアの胴体に蹴りを放った。


「ぐあぁっ!」


 エミリアは軽く吹っ飛び、地面に倒れた。


「ここまでにしましょう」


 ローズの宣言でニ度目の模擬戦が終了した。


「さて、問題点を上げていくわよ」


 運動により多少汗を掻いているものの、ローズは涼しい顔をしている。


「さっきよりもなかなか動けていたわね。でも、まだ持久力が足らないわね」


「はい」


 それは、エミリアも前々からわかっていた問題点だった為、特に反応はない。


「読みもだいぶ意識していたわね」


「はい。ですが、ローズさんの剣は型に嵌っていない分、読みづらいです」


「確かに私の剣は型にハマっていないけど、合理的な動きになっているわ」


「合理的な動きですか?」


「相手に攻撃を通しやすく隙のない体の動かし方ね」


「なるほど」


「それに、私はあらかじめ相手の攻撃に対して、あらかじめいくつもの対応が決まっているわ。そして、その中から最善のものを選ぶだけ、だから迷いがない」


「そうだったんですか」


「あなたはいちいち攻撃するたびに考えている。それでは手間取る。あらかじめあらゆる状況を想定して対策しておく。それが最善の戦い方というものよ」


「難しいですね」


 エミリアは考えを巡らせた。


「これからじっくり教えてあげるわ」


「お願いします」


 ローズは穏やかに微笑み、エミリアは真剣な態度を示した。



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