息はしている件について(仮)
「こちら、北部隊、現在、敵からの攻撃を受けている。至急応援を頼みたい。正直、俺達では相手にできないレベルの敵だ。うわああ、くるなあああ」
そこで、北部隊の人間との通信は途絶えた。
「北部隊がやられたということは、次は西ですかね?」
竹市が言う。
「おそらく、そうなるでしょう。最後にこちら南部隊に来ると思います。部隊を分けたのが仇になりました。相手はもともと、逃げるつもりなんてなかった。部隊を分けたことで逆に各個撃破しやすくなってしまいました」
南部隊の部隊長は良太郎の手配で、竹市が任命されている。2人以外の3人はおそらく正子の護衛役だ。
「正子様、ここは一旦引きましょう。そして、後で出直すのが良いかと」
3人の中に一人が、そう言う。
もう、身分を隠すつもりはないらしい。
「戻ったところで、同じでしょう。相手は飛行ができます。撤退している後ろから攻撃されて終わりです。それならわたしは戦うほうを選びます」
「しかし、我々は努様から正子様の安全を守るようにといわれています。どうか、お戻りください。もし、攻撃を受けたときは我々が囮となります」
なんとも、自己犠牲がすぎる発言だ。この男達が正子を守ったところで特に努から褒章を受けるわけではないというのに、それほど教育が行き届いているということか。
正子は、そんな自らの家に対する皮肉を感じながら、言う。
「お三方は戻ってもらってもかまいません。父に何か言われた際は、わたしが言うことを聞かなかったとそのままお伝えください。なんなら、今言質をレコーダーか何かでとってもらってもかまいません」
正子のその依然とした態度に、流石に正子が引かないことを理解したのだろう。
「わかりました。でも、それなら我々も戦います。これでも近衛部隊の端くれですから」
「そうですか。すみません。わたしのわがままに付き合っていただいて・・・、感謝いたします」
正子が頭を下げる。
「いえ、そんな・・・、頭をお上げください」
近衛部隊、それは宮内家の中で最強の部隊だ。この前の戦いで負傷したというのは、正子の祖母の清と父の努が関与して宮内家が流した偽情報だったので、彼らの本当の力は正子にはわからない。
端くれという表現を使ったということは最近部隊に入った人間かもしれない。古くから近衛部隊にいる人間は、土地管理代理者の努の傍は離れないはずだからだ。
そのとき、新たな通信が入ってくる。
「こちら西部隊の中根、敵と遭遇した。相手は単騎で向かってきている。こちらは五人で応戦する。南部隊も合流するように」
部隊長の中根だ。
「どうしますか?」
竹市が正子に聞く。
「そうですね。向かいましょう。おそらく、孝子のことはどこかに隠しているでしょうから、彼女から直接聞くほかありませんから」
車は西部隊が交戦中だと報告してきたところに頭を向ける。
- - - -
なんでこんなことになったんだ。今回の作戦は無理はしなくていいと聞いた。もし万が一命の危険があるならば、すぐにでも撤退をしてもいいと、だが、なんだこの状況は、逃げる暇なんてない。
しかも、相手が弱っているという情報があったはずだ。なのに、相手は全然そんなことを微塵も思わせない。むしろ俺達をなぶる余裕がある。しかも笑顔にだ。
気が付けば、俺以外の人間は皆倒れてしまった。
「あら? もうあなたしか残ってないわね」
悪魔だ。こいつは悪魔だ。
「くそおお!」
右手に魔力を溜める。
それを、相手に放つ。
いわゆる魔力のビームみたなものである。
「・・・・」
そのビームは軽々と相手の防壁に防がれる。
そして、相手は何か気がついた様子になった。
「あなた。混ざってるわね」
「え?」
「自分でも気が付いていないかもしれないけど、あなたの血筋には魔法使いがいたはずよ。だから、あなたが使う力は魔法に近い」
そういえば、そういうことを過去母から聞いた気がする。
だが、それがなんだというのか・・・
「っていうことは、あなたから魔力の補給ができるってことよねえ」
悪魔はそう言い。笑顔を向けてくる。その笑顔がなんとも恐ろしい・・・
やばいやばいやばいやばい・・・・
俺は敵に背中を向けて逃げる。悪魔は俺から魔力を奪うつもりだ。魔力を奪う。つまり純粋な魔法使いではない俺にすれば命を奪うにそれは等しい。
逃げないと、逃げないと、逃げないと!
「そんなに、必死に逃げなくてもいいのに、やさしくしてあげるわよ」
その声が耳元で聞こえる。
そっと顔を声のするほうに向けると、そこには悪魔の顔が・・・・
「うわあああああああああ」
- - - -
「着きました」
運転手がそう告げる。
「ありがとうございます」
車から出ると、そこはひどい光景だった。
目の前には四人の人物が倒れている。
「大丈夫か?」
竹市がそのうちの一人の生存を確認する。なんとか息はあるようだった。だが意識はない。
そのとき、全員が圧力を感じる。
全員が上を見上げる。
「お久しぶりね」
そこには黒魔女アリスが、右手に一人抱えて飛んでいた。
それを彼女は正子たちに放る。
「もう、その男はいらないわ。いい魔力補充になったからお礼でも言っておいてもらえるかしら」
投げられた中根を近衛部隊のうちの一人が受け止める。
彼も息はしていた。
「全然、役に立たなかったね。中根って人」
「そうだな。まあ、中根だからな」
「中根だからね」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。




