消えた件について(仮)
「は!」
正子は目が覚める。
そのとき、人生で二度目の景色が目に飛び込んできた。それで、自分がどこにいるのか正子は理解した。
(病院・・・)
おそらく、あの黒魔女との戦いで負傷した傷で入院したのだろう。
「いたっ!」
正子は体を起こそうとするが、体中が痛くてできない。
皆はどうなったのだろうかと正子は思う。情けないことに自分は途中で気を失ってしまった。そのとき、ふと孝子のことを思い出す。
そうだ。彼女が狙われていた。彼女のことが心配になる。
すぐにでもそれを聞きにいきたいが、体が動かない。
すると、ドアが開く音と共に病室に誰かが入ってくる音がする。
「すみません」
なんとか、声を振り絞る。そうすると、正子の周りにあるカーテンが開かれる。
「やあ、お嬢さん。起きたんだね」
「良太郎さん・・・・」
「あ、そのままでいいよ」
「すみません。あの・・・・」
「皆のことだろう?」
良太郎は正子のベッドの横にあった丸い椅子に座る。
「俺達が現場に到着したときには、すべてが終わっていたよ。ものすごい魔法の力を感じとったから、急いで、何名か連れていったわけだけど、そこにいたのは、お嬢さんと竹市君だけだった」
「わたしと、竹市さんだけですか?」
その事実には正子も驚きを隠せない。
「あそこには、2人以外にもいたよね?」
「はい。わたしと竹市さん以外に、かおるさん、孝子さん、としこがいました」
「そのうち、3人が今端的に言うと行方不明なんだよ」
「そんな・・・」
2人の間に少しの沈黙が流れる。
「もちろん今、3人の捜索は開始している。それで一人の居場所はわかっているんだ。居場所というか、誰といるかってことだね」
「孝子のことですね」
「うん。今彼女は、黒魔女と共にいる。これは、この土地の結界近くで確認されたことで間違いないと思うよ。流石に、お嬢さんたちとの戦闘の後に、強化された結界を抜けることはできなかったみたいだね。巨大な魔法を確認されたときに瞬時に努さんが、結界を強化した賜物だね」
「そうですか・・・、でも、かおるさんと、としこは・・・」
「わからないね。でも、おそらく、かおるはどこかで療養でもしているんじゃないかな。俺達が行く直前、もう一度、この土地を破壊しかねない力が出現したんだ。でも、それが、一瞬で消えた。おそらく、あの場でそれができるのは、かおるだけだからね。でも、かなり彼も消耗したから、どこかで休んでるんじゃないかってね。もしかしたら、他に事情があるのかもしれないけど」
あのとき、かおるは、正子が気を失っていないときですでにかなりの消耗をしていた。それに、もし上手くいっていたとしたら、かおるは孝子に力を渡したはず。それでもなお、もう一度出現した強力な魔法を止めるために、もう一度力を振り絞ったとしたら、かなりの消耗があったはずだ。
「わたしの治療にはどれくらいかかりますか?」
「そうだね。2週間ってとこかな」
2週間・・・・
「・・・・、これからはどうするんですか?」
どうするとは、孝子をどうするのかということだ。
「お嬢さんには、あまりいい話ではないね。これから、宮内家の本家、分家から選ばれた人間が、川瀬 孝子救出に向かう。けれど、これは一回きりの作戦。その人物達に無理はさせない。命まではかけさせないってわけだね」
「つまり、弱っている今なら助けだせるかもしれないから、行くけれど、もし、その力が思ったよりも強ければあきらめる。ということですね」
正子は良太郎をまっすぐに見る。
「そうだね。しかも、精鋭部隊を送りこむわけではなく、どちらかといえば中堅層かな」
今、この土地は違う意味で緊張状態だ。土地の管理者で絶対的象徴であった宮内清がなくなったことにより、周りとのバランスをとることに精一杯である。
その中でも、孝子を救出するための部隊を作ってくれることは感謝しなければならないのかもしれない。だが、そもそも、孝子がかおるから力を受け取り、上手くやっていたのなら、孝子とかおるがいなければ、もうこの土地は消滅していてもおかしくなかったのも事実だ。
しかし、それは今言ってもしかたのないことだ。
「わかりました。わたしも行きます」
「そういうと思ったよ。でも、体を動かすことすら今ままならないだろう?」
「はい、だからあなたにお願いをしているのです」
「つまり、わたしを動かせる状態にしろ、ということかな?」
「はい」
その言葉を聞いて、良太郎は正子が予想していた反応とは違う反応をする。
「そういうと思って、特別ドクターを呼んだんだよ」
笑顔で言う。
その言葉とともに、良太郎の後ろから人が入ってくる。
「名前は齋藤 亜紀先生、この先生ならなんとか一時間で、動ける体にはしてくれるはずだよ」
「よろしくね」
紹介された齋藤は、正子ににっこりと微笑んだ。
「じゃあ、後は頼みました」
「はい、わかったわ」
「それじゃあね。お嬢さん」
「ありがとうございます」
その後、齋藤により治療が始まる。
それはかなりの激痛だったが、なんとか体を動かせるまでになった。
「どこいったのさ! かおる!」
「まあ、少しな。別のところに・・・」
「ええ、そこは教えてくれないの?」
「それはそうだろ! まだだめだ!」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。




