3倍の輝きには、なお逆らえない件について(仮)
屋上に来たのは初めてだった。学校の屋上は高い網状の塀で囲まれていて、先のほうは内側に折れ曲がっている。誰かが上っていかないようにしているみたいだった。でも、この学校の屋上は例に及ばず立ち入り禁止だ。なので、かおるは宮内がここの鍵を持っていたときにはびっくりした。
屋上の風は気持ちよかった。
かおるが宮内の後に屋上に入ると、宮内が話しかけてくる。
「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「え? ああ、稲垣 かおるっていいます。」
「かおるさんですね。」
ずいぶん上品な物言いなのに、初対面にかかわらず下の名前で呼んでくるとは。宮内の予想外の言動にそう思って、あたりを見渡すと、屋上には二人以外にも人がいるようだった。その視線に宮内が気がつく。
「あっ、すみません。今日はかおるさんに、仲間を紹介しようかと思いまして。みんな!」
そういうと、屋上の端にいた二人がこちらにやってくる。普段学校では見せない宮内のしっかりものなところに驚いた。
「こちらは、篠原 としこさんで、こちらは、川瀬 たかこさんです。たかこさんは二年生です。」
「はあ。どうも。」
「で、こちらが稲垣 かおるさんです。」
二人をかおるに紹介した後、かおるに二人を紹介する。急な流れだったので、何も考えずに、流れに身を任せていたが、よくみると二人とも、宮内に負けないくらい変な格好をしていた。篠原と紹介された人は、明らかに制服を改造していて、背中には刀を、腕にはリストバンド、で露出の激しい服の中には本物かはわからないが、鎖帷子をしているようだった。女忍者でも意識しているみたいだ。
もう一人のほうは、片手にステッキを持ち、来ている服は白いドレスだろうか。もう片方の手には日傘を差している。
篠原が紹介の後、かおるを見て微笑む。
「へえ、こいつが今日の昼に行ってた漆黒の力を持ちしものか。冴えねえ顔してるが、それはカムフラージュってか?」
漆黒の力?
その言葉で、かおるはここに来た過程を思い出す。
そうだ。確か、あなたは漆黒に力を持っているのですね。的なことをいわれて、その目に映る期待に逆らえずにここにきたんだ。確かこの二人を仲間だといっていたということと、この状況を判断すると、今もしかして、中二病の仲間に誘われているのでは? というか。流れからして、俺も中二病だと判断されているのでは!
かおるがそんなことを思い出し、どうしようかと彼女らを見ると、彼女らの会話は続く。
「でも、私はこの方の力を感じますわ。まがまがしいというか。凛々しいというか。今にもこの胸が焼き裂けそうな圧力を感じます。」
「それは、私も思っていたのよ。」
川瀬なる人物が話した後、宮内が話すが、そのときの話し方は、学校でよくみるやつだった。中二病設定に入るときと、そうでないときがあるみたいだ。普段のしゃべり方からしていいところのお嬢様なのかもしてない。というか。川瀬が話した内容はただの恋する乙女の心境じゃないのか? まさかこの数分でモテキがきたのかもしれない。とかおるは馬鹿な思考をする。
宮内のターンは続く。
「この魔力が震える感じ! これが世界を滅ぼすを言われている力か!」
「俺は忍者だから、魔力とかはわからんが、今までの経験からこいつがただ者じゃないことだけはわかるぜ。今までのどのやつよりも強い!」
やはり、忍者だったか。だが、こんな家でゲームしかしていない人間が誰よりも強いとは世界もたいしたことはないな。それにしても、もう一人はなんだ? 魔法少女か何かかな?
三人は一通り中二病会話をした後、さあ次は君の番だよ! という視線をかおるに向けてくる。かおるはここで、自分はそんな人間ではないといいたかった。心から、でも彼女らの目が輝いているのである。先ほどとは違い、3人分だ。3倍だ。しかし、意を決する。流石にここでこの子たちの仲間に入るようなことになれば、この後の学校生活を漆黒の力を持っている人間をして生活しないといけない。それは勘弁だ。それにはるかが怖い。
「いや、俺はただの普通の人間だよ。さっきの評価通り。冴えないやつさ。」
若干自虐が入っているが、これなら退いてくれるかもしれない。だがそんなかおるの思いは見事に打ち砕かれる。
「わかってる。あなたがその力を隠さないといけないということは。」
(元からないので、隠すとかもないです。)
「でも、安心しろよな。俺たちは絶対守秘義務ってやつは守るやつだぜ!」
(君たちだとすぐに人に言いそうなんですけど。)
「もう、一人じゃない。これからは私たちと一緒に戦っていきましょう!」
(誰とも戦ったことないです。喧嘩すらしたことないです。)
まだ、3人はかおるに輝いた目を向けている。ここでかおるの悪い癖がです。早く帰りたい思いと、3人の期待に答えないといけないという思うが重なり。暴走しだすのだ。
懐かしい小学校のころ。かおるはある児童劇の脇役に選ばれた。このときにかおるの台詞は三言と少なかったが、物語の中で重要なものだった。これによる期待と緊張から、彼はそれにより暴走して、三言どころではなく、主人公よりもしゃべるという。とんでもないアドリブで劇を混乱に陥れたのである。しかし、それがよかったのか。その劇が最優秀賞に選ばれたのでお咎めは少なくてすんだ。それと同じ現象がここでも起こる。
かおるは手を押さえていった!
「俺から離れろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
その言葉に3人が目を見開く。
「俺はまだ、この力を制御しきれていない! 情けない話だが! このうずきを直すには、早く家い帰らないといけない! そこでしか直せないからだ! だから、今日はここまでだ! さらば!」
かおるはそういい残し、屋上を去った。