その輝きには逆らえない件について(仮)
キーン・コーン・カーン・コーン
五時間目の始まりを告げるチャイムがなった。
座席には顔にシップを張っているかおるが座っている。先ほど、はるかは、かおるに鉄拳を食らわした後、自分一人だけ荷物を持って戻っていってしまった。ベンチから吹っ飛び地面で伸びていたかおるは、少しして起き上がって、保健室で手当てをしてもらい今に至る。
「じゃあ、今日の予習のチェックをします。」
そういい。英語教師の杉村が座席を周ろうとしたとき教室のドアが勢いよくあけられた。そして全身が包帯だらけの人間が入ってくる。
「ここに我が同胞がいると聞いてやってきた。」
「どうしたの?」
杉村が入ってきた人物宮内 正子に言う。彼女の言葉は声が小さすぎて、ドア付近の人間にしか聞こえていない。
「ここに我が同胞がいると聞いてやってきた。」
今度は先ほどよりも大きくいう。今度の声は教室が静まりかえっていることもあり、かおるの座席までわずかであるが聞こえてきた。
しかし、杉村教師は耳が遠いことで有名だ、年は40歳であるが、なぜかいつも聞こえていない。今回も同様であった。
「何かあったの?」
もう一度聞く。流石にこんなに大衆の目に長い間触れていると恥かしくなるのだろう、耳がどんどん赤くなるのを、杉村以外が確認した。おそらく全員が、もうやめてあげてと思ったに違いない。その赤みが耳だけでなく顔中に広がっていくまで、宮内は黙っていた。あれだ。小学生の頃の音読のときに読めない漢字があるときに、何回か予想していってみるが、それが聞き取られないときに黙ってしまうやつだなと、かおるは思った。そのとき、突然大きな声が教室に広がった。
「しちゅれいしまみたああああ。」
そう叫んで、急に彼女は走り去っていってしまった。開け放たれたドアには誰もいなくなった。クラスの全員が杉村のせいであるとの共通認識で、杉村を睨むが、杉村ただ一人だけが、気がついていない様子で意に介さず「なんだったのかなあ?」といった後、予習の確認を再開した。
宮内 正子は高校一年生で学校のマスコット的な存在である。いわゆる中二病というものをこじらしていて、全身に包帯を巻いている。なんでも、ある組織との戦いの中で付いた傷のせいで、漏れ出してしまう魔力を抑えているらしい。
そんな彼女は、学校で同胞(中二病)を探していたり、学校内で敵と戦っていたりするので、江良さんとは違った意味で問題を起こしている。しかし、小柄でツインテールというディテールに加え、容姿もかわいく、さらに先ほどのように、想定外に直面すると気が動転してしまうところから、彼女の行動はみなの癒しとなっている。だからこその杉村に対してのみなの怒りの眼差しである。
キーン・コーン・カーン・コーン
六時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
かおるは、自分の荷物をまとめる。今日は掃除当番でもないから、すぐに帰れるな。確か、はるかは部活だったわけだから、ゲームを二時間はできる。なんせ、あいつがいるときはゲーム禁止だからな。そんなことを考えながら、かおるが教室の後ろのドアから出たとき何かにぶつかった。それと同時に小動物のような声がする。
「きゃっ。」
「ごめん。」
かおるはぶつかったものが人であると認識して、咄嗟に謝る。
その人物は宮内 正子であった。かおるは謝罪もしたのでいいかと思って、その場を去ろうとする。しかし、そのとき彼女に右腕をつかまれて呼び止められた。
「少し、お時間いいですか?」
相変わらずか細い声ではあったが、距離が近いので幸い聞こえる。
「俺?」
「その右手について、お話がしたいです。」
右腕? かおるは彼女が掴んでいる腕を見てやっとその意味に気が付いた。しまった。昼飯のときに、はるかに殴られた影響からかこの右腕のことはすっかり忘れていた。だから、全然気にしていなかったが、普通の人ならいざしらず。この包帯を見て、宮内は反応してしまったのだろう。だが、そんなにたいした問題じゃない。この子相手なら、やけどの話をしても納得してくれるだろう。しかし、その後の宮内の言葉でかおるは逃げ場を失う。
「なんでも、漆黒の力が宿っているとか。」
その目は光り輝いていた。いくらかおるといえども、この目に逆らうことはできない。
「場所を変えよう。」