それ使えただんだなな件について(仮)
『どうしたの? 何か問題があったのかい?』
イヤホンからはこちらの状況を心配する声がしていたが、かおるの耳にはその声がすぐには入ってきてはいなかった。
なんだあれは? あきらかに異様な雰囲気がそこには漂っている。幸い、先ほどのベルフェゴールのおかげで、まだ向こうに気づかれてはいない。
『ねえ!』
何回目かのその声で、ようやくかおるの耳に届いた。
「ああ、悪い。ちょっとびっくりして、聞こえてなかった。」
『っていうことは、何か問題が発生したんだね? 話しをできる状況かな?』
かおるは、万が一向こうがこちらに向かってきたときのことを考えて、通信を口で話すほうから、内で話す方向にシフトした。中で話しをしながら、ライオン風の生物に目を向ける。
(うん、大丈夫。今、通信をシフトしたから話をできる。今、目標の出口のところに不思議な生物が3体ほどいる。)
『ふしぎな生物? どんなものか説明できるかな?』
かおるは観察する。
(なんていうんだろうな。原型はライオンとかその辺のものなんだろうけど、尻尾は蛇みたいなものになっていて、肌の色も紫色みたいな感じだな。なんか背中から突起が出てるな。何かの動物の顔みたいなやつだ。そいつもうごいていて気持ち悪い。)
『マジか・・・。』
その一言から少しの間があく。その言葉は良太郎から初め聞いた言葉だったので、おそらく、あまりよろしくない状況なのだろう。
(どうする? 戻ったほうがいいか?)
『正直、ここで戻っても、他に突破する方法はいくつかはあるけど、時間がないんだよね。』
(じゃあ、あいつらをどうにかして行くしかないってことか。とりあえず。あのよくわからない生物は何なのか、良太郎は知っているのか?)
『うん。それは、いわゆるキメラだね。ライオンの胴体に、蛇の尻尾、と羊の首がついたもの。それは、ある組織が開発をしていたものだよ。まさか、それがそんなところに出てくるなんて、もしかしたら、この事件の黒幕はかなりの大物かもしれないよ。』
(キメラか・・・。いよいよファンタジーだな。まさか、そんなものに出会うなんて思っても見なかったよ。何か弱点とかはないのか?)
黒幕がどれほどすごい人物なのかはわからないが、今はここを突破することを考えないといけない。かおるは、やる気を出す。
『ないと思う。力でねじ伏せるしかなさそうだね。気をつけないといけないのは、多分火を吐くんじゃないかな。それはかなり強力なものだと思うから、理想としては瞬殺することかな。』
瞬殺とは簡単に言ってくれる。でもそれが理想なのは理解できる。もし変に時間がかかったりでもしたら、誰かがくるかもしれない。
(わかった。とりあえず頑張ってみるよ。)
かおるは、通信を一旦切り、自分の中に話しかける。
(あれは、俺の力で一瞬で倒すことって可能?)
しばらくして反応があった。まったくさっさと答えて欲しいものだとかおるは思ったが、これも相手には聞かれているんだと後で気が付く。
《正直、最後まで戦いたいなら。ここで力は使わないほうがいいぞ。ただでさえ、一時間しか使えないんだ。それをここで消費する必要がない。》
(だから、一瞬でやりたいんだよ。いろんな理由で、それをできるかって聞いてるんだ。)
《無理だろうな。単純な力という意味じゃできるが、お前はまだ一度もちゃんと力を使ったことがない。ただでさえ、漆黒の力は制御が大変なんだ。この下水をこなごなにしてもいいなら、一瞬は可能だが、それでは問題があるだろう? あの3体を狙って使うのは今のお前にはできない。1体を相手にしている間に他に2体にやられる。》
(マジかよ。さて、それならどうしたもんか。)
《だから、漆黒の力を使わなかったらいいんだ。正確には俺の力を使わなければいい。》
(それだと、俺ただの一般人なんですけど!? そもそもの問題だろうよそれじゃ。)
《まったく、さっきの頭を動かせ。お前が使えるのは今、俺の力だけじゃないだろう? 奪ったやつがあるはずだ。》
かおるは、一瞬ムっとしたが、とりあえず、相手の言うことを考える。自分が奪った力?
(もしかして、上野から奪ったやつか! あれって使えるのか!?)
《あれはもうお前の体の一部になっているからな。俺の力よりは扱いやすいはずだ。一度制御しているしな。それに、まがいものだから、体への負担も本物よりも低い。といっても使いすぎると流石に体にくるが、今日一日くらいなら、大丈夫だろう。》
(マジかよ。)
《意識を別にするんだ。漆黒の力を使うときとは別にする。体の中から出るんじゃなくて、体の一部から出る感じだな。》
かおるは、意識する。目をつぶり体の一部から出る力を意識する。
かおるは、目を開けた。すると、右腕の黒炎が見えた。しかし、少し心配になる。
(これって、本当に本物じゃない? 間違えて本物とか使ってないよね?)
《心配するな。俺に力はできるだけもれないようにしといてやる。》
(助かる。じゃあ、行くか!ライオン狩りに!)
「なんで、最後キメラじゃなくて、ライオンなんだよ。」
「なんでも、そのほうがかわいいと思ったらしいよ。」
「かわいくないだろうよ。」
かおると良太郎が言う。
「すみません。」




